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将門の過去
屍山血河と
しおりを挟む将門の大声と揺れながら倒れた男二人に気がつき、顔にかかった血を拭いながら全員が刀を構え、戦闘体勢となる。
「俺らのお楽しみを邪魔するとは……余程の死にたがりだな! お前ら、やっちまえ!」
頭目の号令により、まず先に三人が将門に迫る。
「しねぇ!」
「ひゃは!」
「ぬあ!」
三人ともが気合いや奇声を上げながら、寸分の狂いもなく全くの同時に、中央の男が将門の頭へ、左右の男達がそれぞれ右肩、左肩に向けて振り下ろす――
「ふむ、成る程な」
金床に鉄を打ち付けたような音を鳴らしながら、三つの火花が散る。――将門は右手に持つ刀を水平に保ちながら、刀一本で三つの斬撃を防いでいた。
「な――ぐっ! 動かない!」
「どうなってんだコイツ!」
「片腕で、三人を――」
三人が驚愕の顔に染まりながらも両足と両腕に力を込め、振り下ろした刀を将門に届かせようと懸命に押す。
が……将門の腕と刀は、まさに樹齢が古い大木の如く、寸分の揺らぎもせずに留まり続ける。
「防がれたなら、二の撃、三の撃の用意せよ! ぬぁ!」
将門より、助言というべきか、後のない男達への手向けの言葉か……三本の刀を弾き返す。
三人が一様に衝撃によって、刀を持った両腕は万歳するように上げられ胴体が、がら空きとなる。
――絶好の好機を逃すほど将門は甘くなく、三人の胴体へと右手に持った刀と、左手に持った薙刀で、左右より交差させる様に、胴体を一尺《いっしゃく》程の幅をとりながら、滑らす様に振るう。
将門は、返す薙刀の柄の先ほど。――石突で三人の胴体を横薙ぎに殴り飛ばすと、断末魔も無く、絶命した三人の胴体が達磨落としのように飛び、一尺ほど背丈が縮む。
「かは! 次よ!」
勢いそのままに将門の左側面より迫っていた男二人に襲いかかる。
「かかって来いや!」
「まぐれがそう何度も――」
「――否! まぐれに非ず!」
まぐれ、という言葉に対して、癪に障ったのか、将門は咆哮する。
「鍛えられた肉体と――練りあげた武による一撃よ!」
将門は右腕を振りかぶり、鞭のようにしならせ、刀を全力で投擲する。
刀は強弓で放たれたように一直線に、『まぐれと言った男』の隣にいた男の腹へと向かい――臓物を撒き散らせながら、骨を砕く、白い骨と赤黒い血を纏わせ、刀は背へ抜けてゆく。
「お前には刃を使うまでも無いわ!」
薙刀の石突を前に出し、挑発しながら駆け寄る。
「舐めたこと言いやがって!」
挑発に乗り、上段に刀を構える……それは将門を迎撃する為、最速で刀を振り下ろす為の構え。
薄汚れているが、やはり素人ではなく一定の訓練をしていることが伺える。
将門は体勢を低く保ち、刀の間合いへと入る。
「とったぁ!」
将門へ目掛けて、全力で振り下ろされる白刃。
男が振り下ろす、刀の鍔への正確無比な石突による突き。ーーその白刃は届かず、血に染まることも無く、手から離れ中天を舞う。
即座に将門の右拳が男の左頬を捉え、打ち抜く。ーー幾つか飛ぶ歯と骨が折れる音。
「嘘……だろ?」
目を疑う光景、将門以外の全員がそう言っても、おかしく無い言葉を最後に、殴られた男は首が背の方を向き、目を白黒させ横に倒れる。
「此れは不味い……実に不味いじゃねぇか、おい、本隊を呼んでこい」
「良いんですかい? 計画が台無しに」
「この際、そんな事を気にしていられるか! さっさと行け!」
語気を荒げながら頭目が手下二人に指令を出し、手下は北へと一目散に駆けて行く。
駆けていく部下を見ながら、将門と対峙する頭目。
「やはり、お前らは盗賊に扮した常陸国の……いや、平國香か源護のところの私兵だな」
将門の言に対して、痛いところを突かれたのか……頭目は、にが苦しい顔をする。
「だからどうしたって言うんだ――よ!」
先に口火を切ったのは頭目……将門の喉を狙った突きを放つ。
ーーしかし、難なくと薙刀で弾かれる。
「お前らが村を襲い掠奪! 近くにいる本隊に合流し、掠奪品を受け渡す!」
将門は推察をしながら、一切の疲れを見せずに、頭目が放つ斬撃を次々に弾きながら続ける。
「本隊はその掠奪品を襲撃した村に持ち帰り、『我らが盗賊を討ち滅ぼした、安心されよ』とでも言って人心掌握!」
幾つもの斬撃を放つが悉くを将門に防がれ、滝のような汗をかきながら疲労困憊で、息も絶え絶えな頭目。
「そ……それが、ど……うした」
力なく振るわれた刀、それを手から弾き飛ばし、薙刀の刃を頭目の首筋に押し当てる。
「何、単純にこんな下衆で、下手な絵図を画策した輩を斬らねばという決心をしたまでよ……誰であろうとな」
頭目の首を押し切り、鮮血が散る、将門は大量の返り血を浴びながらも、死体から刀を集める。
少したち馬の嘶きと大量の足音を耳にする。
「うむ、此奴らの本隊が来たか……予想より、随分と早かったな」
薄汚れたなりをした男二人に呼ばれのか、やって来たるは、三十人ほどの戦支度を整えた歩兵と三騎の騎馬。
「お前ら! 誰の私兵だ!」
大気が震える……天と地に遍く様な大声で叫ぶ。
気圧されながらも、騎馬に跨り、大鎧を着た男は大声を返す。
「我ら、平國香様を私君と仰ぐ者なり! 近隣を荒らし回る盗賊の成敗に来た!」
一歩、また一歩と集団に近づく将門、その足は地響きを起こすかの様に進み……一歩進む事に陽が隠れる様に雲翳となり始める。
「そうか……ならば根切りにして問題ないな!」
将門の足の筋肉が脈動し、雷鳴の如く、一足で集団に迫る。
まさかの行動に呆気に取られ――その瞬間には薙刀の一振りで二つの首が飛ぶ。
もう一振りすれば、更に二つの首が飛ぶ。
私兵は恐慌状態に陥る。
「ぬあぁあ!」
獣の如き咆哮――
――薙刀が折れれば、刀を持ち。
――刀が折れれば、小刀を投げつけ。
――投げる物が尽きれば、腕で首を折り得物を奪う。
繰り返し進み、繰り返し進む。
屍山を積み上げ、血の大河を渡る。
「まじん……魔人だぁ!」
誰が言ったか、今の将門を形容した言葉……魔人の笑いが屍山に木霊する。
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