異聞平安怪奇譚

豚ドン

文字の大きさ
28 / 77
将門の過去

サバク

しおりを挟む
 
 頭一つを失ったにも関わらず、はやさはいささかもおとろえることなく。――暴れまわり、大地がえぐれ巨石がいくつも宙を舞う。
 将門まさかどは巨体から想像もつかない程、軽やかに降ってくる巨石と大蛇おろちの攻撃を避けながら、鉄拳を何度も叩き込んでいく。

「む……叩き潰した頭が回復し始めているのか、面倒な」

 将門は潰した頭から、黒い煙が立つのを確認しながらつ。

「あと七つを……いや、一撃で本体の千代を仕留めるのが最良か!」

 言うが早いか、将門は大蛇おろちが暴れまわり、抉れ飛んだ巨石の元へと駆け寄る。
 にやりと笑いながら将門は巨石を持ち上げる。

八塩折乃酒やしおりのさけはないが、石は大量にある……腹一杯に喰らうがいい!」

 巨石を大蛇おろちの大口へと向かって投げつける。
 巨石が口に入り、噛み砕く間に次々と投げられ多くの頭がへしゃげていく。

『マサカドドドオオ!』

 ついに怒髪天どはつてんき、中央の頭の一つが地をいながら大口を開け、将門の正面より、突進するように迫る。

「それを! 待っていた!」

 将門は熊が立ち上がった時のように、両腕を斜め上にあげ、待ち構える。

 衝突――見えない壁にぶつかったように大蛇は動きを止める。
 将門は上顎うわあごの牙二本を両手で掴み支え、下顎したあごを左脚で踏みつけ、身動き出来ないように抑えていた。

「さて……覚悟はよいか?」

 右手で掴んだ牙が将門の腕力に負け、みしりと音をたて始め。――遂にはへし折られる。
 へし折った牙をまじまじと観察する将門。

「おお、鋭い牙だ……こんなもので刺されたら、さぞ痛かろう――なっ!」

 てのひらから落とした牙。それを的確に右脚で捉え、杭を打ち込むように、大蛇おろちの下顎へと深々と突き刺す。
 黒い泥を噴出させながら、大蛇おろちは全身を使い暴れる
 ――が、将門が掴む中央の頭だけはピクリとも動かない。

「暴れるな、これから仕上げだ!」

 右手で上顎を更に押し上げながら、左手で掴んでいる牙もへし折る。
 将門は左手で、くるりと牙を回転させ先端を上顎へと突き刺す。
 黒い泥が将門の顔に吹きかかる――が、御構い無しに牙を突き刺したままに大蛇の頭へと飛び乗る。

「では、大蛇をさばくとしようか!」

 上顎から突き出た牙を両手でしっかりと握り、尻尾の先へと向かい引っ張り始める。
 苦しみの声を上げながら必死に身を捩る大蛇。
 大きく口の開く筈の大蛇の頭が、くの字に曲がり、口端が裂けはじめる。

「うオおおぉ!!」

 雄叫びを上げ、将門は一気に大蛇おろちの背を駆ける。

『ワレノ、ガカラらだ』

 大蛇の皮と身と脊椎せきつい骨が雷鳴のような音を立てながら半分に引き裂かれていく。
 途中何度も振り落とそうと大きく暴れたが全てが無駄に終わり、尻尾の先まで綺麗に剥がれる。

「こんなところか……大蛇の影法師といえども、こうなって仕舞えば暴れないようだな」

 将門は巨体の骨つき半分を遠くに投げ捨てる。
 捌かれた大蛇の半身は徐々に泥へと戻りはじめる。

「千代は……草薙剣くさなぎのつるぎの代わりに尻尾に入っていたか」

 尻尾の部分から這い出ようとする千代を見つけ、将門はゆっくりと歩み寄る。
 力を使い果たしたのか、千代は空を仰ぐように倒れる。

「ああ……お父様、千代は呪と融け合って……お父様の元にもどります」

 千代は光る一筋の涙を流し、体が泥に変わりはじめる。

「千代よ、見事なまでの呪術であった……迷わずに諏訪すわの地へと、父親の元へと戻るがいい」

 その言葉に驚いた顔をする千代。

「分かっていたなんて、なんて意地の悪い人」

 千代は狂った笑いでも無く、ただただ困ったような笑みを浮かべる。



「……あとは、いつになれば目を覚ますかだ」

 千代は完全に泥と成り果て、その横にただずむ。将門は誰もいなくなった世界でただ独りつ。

 にわかに、暗かった天が、渦巻きながら割れ、巨大な腕が降りてくる。
 それは黒い爪をもち、赤黒い肌の逞しいが、人ならざるモノの腕――
 将門が立つ大地ごと、黒い泥を大蛇の残骸を全てを掌で掴み、将門ごと天へと戻っていく腕。

「おお! これはまた面妖な!」

 体が金縛りに掛かったように動かないままに、全てをすくい上げる巨大な掌から転がり、天からこぼれ落ちる。

「今度ばかりは皆に多大な迷惑をかけてしまったかもしれんな……良乃も流石に怒るだろう」

 肌身で落下の感触を感じながらも、悠長ゆうちょうに考え事をしながら、浮遊感に身を任せる。
 何処までも落ちていくうちに良乃の声が将門の耳に届き、暖かい光が射し込んでくる。




 鼻孔が燈芯草とうしんそうの香りにくすぐられ、将門は目を覚ます。
 将門は八重畳やえだたみの上に寝させられ、幾枚かの着物がかけられていた。

「此処は何処だ?」

 ゆっくりと体を起こし、周りを確認する。
 周りには誰もおらず、見覚えのない質素な部屋であった。

「それにかけられていた、この着物は……」

 着物を手に取り、嗅ぎはじめる将門。

「この匂いは良乃――」

 俄かにふすまが開く。そこに立つのは平良乃たいらのよしの、その人であった。
 ーー沈黙と硬直、お互いに顔を見合わせたままに時が刻まれる。

「だ……誰の着物を嗅いでいるんさ!」

 わなわなと震えながら顔を赤くし、将門に近づく良乃。
 着物を引ったくろうと、伸ばした手を逆に絡めとられ将門の腕に抱き締められる。

「戻ったぞ、良乃も息災で何よりだ」

 その一言により、つつみが崩壊したように涙を流し、将門の胸を濡らす。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

【時代小説】 黄昏夫婦

蔵屋
歴史・時代
 江戸時代、東北地方の秋田藩は貧かった。  そんな中、真面目なひとりの武士がいた。同僚からは馬鹿にされていたが真面目な男であった。俸禄は低く貧しい。娘二人と実母との4人暮らし。  秋田藩での仕事は勘定方である。  仕事が終わると真っ直ぐ帰宅する。 ただひたすら日中は城中では勘定方の仕事をまじめにして、帰宅すれば論語を読んで知識を習得する。   そんな毎日であった。彼の名前は立花清左衛門。年齢は35歳。  娘は二人いて、一人はとめ15歳。もう一人は梅、8歳。  さて|黄昏《たそがれ》は、一日のうち日没直後、雲のない西の空に夕焼けの名残りの「赤さ」が残る時間帯のことを言う。「|黄昏時《たそがれどき)」。 「黄昏れる《たそがれる》」という動詞形もある。    「たそがれ」は、江戸時代になるまでは「たそかれ」といい、「たそかれどき」の略でよく知られていた。夕暮れの人の顔の識別がつかない暗さになると誰かれとなく、「そこにいるのは誰ですか」「誰そ彼(誰ですかあなたは)」とたずねる頃合いという意味で日常会話でよく使われた。  今回の私の小説のテーマはこの黄昏である。  この風習は広く日本で行われている。  「おはようさんです」「これからですか」「お晩でございます。いまお帰りですか」と尋ねられれば相手も答えざるを得ず、互いに誰であるかチェックすることでヨソ者を排除する意図があったとされている。  「たそかれ」という言葉は『万葉集』に 誰そ彼と われをな問ひそ 九月の 露に濡れつつ 君待つわれそ」 — 『万葉集』第10巻2240番 と登場するが、これは文字通り「誰ですかあなたは」という意味である。  「平安時代には『うつほ物語』に「たそかれどき」の用例が現れ、さらに『源氏物語』に 「寄りてこそ それかとも見め たそかれに ほのぼの見つる 夕顔の花」 — 『源氏物語』「夕顔」光源氏 と、現在のように「たそかれ」で時間帯を表す用例が現れる。  なおこの歌は、帖と登場人物の名「夕顔」の由来になった夕顔の歌への返歌である。  またこの言葉の比喩として、「最盛期は過ぎたが、多少は余力があり、滅亡するにはまだ早い状態」をという語句の用い方をする。 漢語「|黄昏《コウコン》」は日没後のまだ完全に暗くなっていない時刻を指す。「初昏」とも呼んでいた。十二時辰では「戌時」(午後7時から9時)に相当する。  「たそがれ」の動詞化の用法。日暮れの薄暗くなり始めるころを指して「空が黄昏れる」や、人生の盛りを過ぎ衰えるさまを表現して「黄昏た人」などのように使用されることがある。  この物語はフィクションです。登場人物、団体等実際に同じであっても一切関係ありません。  それでは、小説「黄昏夫婦」をお楽しみ下さい。  読者の皆様の何かにお役に立てれば幸いです。  作家 蔵屋日唱    

生残の秀吉

Dr. CUTE
歴史・時代
秀吉が本能寺の変の知らせを受ける。秀吉は身の危険を感じ、急ぎ光秀を討つことを決意する。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...