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4月編
16話 余命1年から始めた恋物語
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廃工場から出た後、僕ら4人はファミリーレストランに来ていた。
「あの……本当に陸さんの奢りでいいのですか?」
橘はおずおずとした調子で言った。
「全然大丈夫」
僕は金髪から奪い返した3万円をポケットから出す。
そう、代金は全部僕の奢りなのだ。
もともとは水仙さんたちが助けてくれたお礼がしたいということでここに来たわけだが、流石に女性3人から奢られるのは男としてどうであろうと思うので、僕が出すことにした。
初めは3人から凄く反対されたが、危険なことをした償いやら、盗られるはずだった3万円を理由に、無理に納得させた。
まぁ、全然納得した様子ではなかったが……。
それに、奢るからといって悪いことばかりではない。
水仙さんと橘は勿論、日光も中々レベルの高い可愛さをしていると思う。
周りから見れば、僕はハーレムの主であろう。
ん? 顔が怪我だらけで、美人3人に囲まれているから修羅場に見える?
ハハッ、黙れ黙れ。
「変な顔してどうしたんですか?」
橘は首を傾げながら聞く。
「な、なんでもない」
「本当ですか?」
「本当本当。そういえば、どうして日光も廃工場に?」
僕は逃げるために話を変えた。
「2人が昨日の男たちに手を掴まれ廃工場に連れて行かれるのが見えたから」
日光は淡々と答える。
「助ける力もないのに、助けに行くのはのは傲慢なんじゃなかったっけ?」
日光は僕から視線を逸らし、黙ったまま下を向く。
僕は自分が皮肉めいたことを言ってしまったことに気付いていた。
しかし、それは日光にも危険なことをしてもらいたくなかったから。
「な……なんてことを言うんですか⁈」
そんな意図を分からずか、橘は席を叩き、立ち上がりながら怒鳴った。
「日光さんは裸になろうとしてまで私たちを助けようとしたんですよ! 陸さんが来るタイミングが良かっただけで裸にならずに済みましたけど!」
僕は口に含んでいた烏龍茶を吹き出しそうになる。
え? 来るタイミングが遅けりゃあ僕も裸を見れて……って何考えてんだ!
僕は急いで煩悩を振り払う。
日光の方を見ると、日光は下を向いたまま、体をプルプルと震わせながら顔を赤くしていく。
「ぼ、牡丹ちゃん、声が大きいよ……」
水仙さんも顔を赤らめながら橘を嗜める。
確かに声が大きかったせいか、さっきまで騒がしかった店内が静まりかえっていた。
「す、すみません……」
橘も自分がしたことに気付き、謝りながら渋々席に座った。
「で、なんでそこまでして2人を助けようとしたんだよ?」
僕は疑問に思った事を口に出す。
昨日の日光の口ぶりから、そんな事までして助けようとするやつだとは思わなかったからだ。
ましてや、僕らは出会ってから3日しか経っていない。
親友やら大切な人たちを守るためならいざ知らず、ほぼ赤の他人にそんな事までして助けようとするのは馬鹿げている。
「瑞稀は中学校からの大切な友達だし……それに貴方には昨日の恩がある。貴方と橘さんは付き合っているから、貴方に恩を返そうと思って」
その言葉を聞き、日光以外の3人は吹き出した。
「だからなんでそうなる⁈」
晴矢といい、たったの2日間でクラスメイトからそんな関係だと思われているのはかなりマズイ。
「そそそそそうですよ! 確かに私たちは特別な関係ですけど付き合ってはないですよ!」
「そうそう! 親戚なんだよ!」
「え? そうなんですか?」
「とりあえずお前は黙れ!」
そういえば、橘に親戚という関係でいく事を話していなかったな。
「あぁ、そうだったの」
しかし、なんとか日光は納得してくれたようだ。
「でも良かった。親戚でも貴方にとって大切な人であるのには変わりない。貴方の為に行動できたもの」
「何も良くない。もし、僕が来なかったらどうなってた?」
僕の言葉に日光は困惑の色をみせる。
「私よりも、2人の方が大切でしょ? だったら私だけが」
「そうじゃない。もし僕が間に合わなかったら3人とも無事じゃなかったかもしれない」
僕は日光の言葉を遮るように言った。
「それに僕は大切な人を守るためにお前がどうなっていいとも思わない。2人よりも1人が犠牲になった方がいい? ふざけるな。3人守れた方がいいに決まってる」
日光たちはただただ僕の話を黙って聞いている。
「あと、お前は僕の大切なものを守ってくれようとしたんだ。なら、お前も守らないと駄目だろ。大切な人も、そうでない人も関係ない。僕が守りたいと思った人を守るんだ」
そう言い終わってから僕は心の中で、我ながらどんな理屈だよ、と思った。
長々と話してしまったのを急に恥ずかしくなり、一気に烏龍茶を飲み干す。
そんな僕を見て3人は笑う。
「何それ」
日光は笑いながら言った。
それは日光が初めて見せた笑顔だった。
「陸さんらしい考えです」
「うん。いい考えだと思うよ」
水仙さんたちも笑いながら頷きあう。
日光は目を擦っている。
「泣くほど面白かったか……」
それを見て、僕は更に恥ずかしくなった。
日光は一息つき、口を開く。
「いや、私もその考え方好きよ。それと……」
日光は僕を見つめる。
「昨日と今日はありがとう」
日光は優しく微笑みながらそういった。
廃工場の件から2日経った月曜日の昼休み。
僕と晴矢は屋上にいた。
僕たち以外に人はいない。
「晴矢、僕決めたよ。水仙さんに告白する」
晴矢はそれを聞き、特に驚いた顔もせず、ただただ「そうか」と返事をした。
「なんだよ。その薄い反応は」
僕は晴矢の驚く反応を期待していたが、予想を大きく裏切られた。
「いや、お前傷が増えてるしこの土日の間に何かあったんだろ? なんか色々と予想ができて……特に驚きもないな」
晴矢は淡々と言っていたが、言い終わると表情を曇らせた。
「……それと……金曜日は余計なこと言って悪かったな。ずっと謝らないと、って思ってた」
晴矢はそう続けて言ったあと、僕に頭を下げた。
「確かにお前の言葉のせいで色々な事を悩んだが……答えは見つかったし、別にいい。そういえば、あの時は助けに来てれてありがとうな」
僕はお礼を言ってなかったことに気付き、笑顔で晴矢に言う。
晴矢は「別に」と恥ずかしそうに顔をそらす。
「そういやぁ、水仙さんにはいつ告白するつもりなんだ?」
恥ずかしさのためか、晴矢はいきなり話題を変えた。
「今からここで」
晴矢は噴き出す。
「はぁ⁈ 俺がいる前で告白するのか⁈」
「そんなわけないだろ。約束の時間は5分後だから、その時には晴矢は――」
「りっくんお待たせ」
僕が全てを言い終わる前に、水仙さんが屋上のドアから入ってきた。
「……お前、今凄い顔してるぞ」
目の前にいる晴矢が悲壮感漂う目で僕を見ながら言った。
予想よりも早い到着に、心の準備はできておらず、僕は後ろにいる水仙さんの方を向けないでいる。
「ったく、ほら、さっさと行ってこい!」
そんな僕を見かねた晴矢は、僕の体を水仙さんがいる方に回し、僕の背中を強く叩いた。
僕の体は水仙さんの前へと押し出される。
水仙さんは首を傾げながら僕を見つめる。
ここまで来といて、場所を変えるのは無粋であろう……。
僕は覚悟を決める。
「水仙さんに伝えたいことが……あります……」
「な、何でしょうか?」
僕の緊張が水仙さんにも伝わっているのだろうか、お互いに変な緊張感を持ってしまう。
「す、水仙さんのことが、ずっと――」
「みんなでお昼ご飯を食べましょー!」
屋上のドアが勢いよく開き、橘が入って来た。
橘は僕らの状況を見て、私やっちゃった?といったふうな顔をする。
まぁ、大丈夫だ……。
橘と晴矢は僕の事情を知っている。
別に見られたところで問題はない。
僕は再び覚悟を決める。
「水仙さんの――」
「ごめん。購買でパン買ってたから少し遅くなったわ」
……。
「水仙さ――」
「俺を除け者にして、みんなでなにしてるんだよぅ!」
………………。
「おわっ⁈ ゆっちゃんが真っ白な灰のように⁈」
はっちゃんは、ほぼ同時に入ってきた日光に「どういう状況?」と尋ねるが、日光は「さぁ?」と両手をあげた。
みんなの視線が僕と水仙さんに集まる。
「結構、人が増えちゃったね。それで、私がどうしたの?」
水仙さんは僕に苦笑いで尋ねる。
「……もしよかったら、また今度、遊びに行かない?」
この状況で告白ができるほど、僕の心は強くなかった。
「えっ? ……どうして?」
水仙さんは不思議そうな顔をして僕に尋ねる。
「土曜日はせっかく誘ってくれたのに、色々と考え事をしていたり不良に絡まれたりで、しっかり楽しめてなかったな、と思って……。今度はしっかり楽しみたいっていう、僕の勝手なわがままなんだけど……いいかな?」
水仙さんはそれを聞き、ニコリと笑う。
「勿論! 今度は一緒に楽しもうね」
僕もその笑顔につられて笑った。
「遊びに行くのか⁈ 俺も行きたい!」
「私も行きたい」
「え、あ、私も行きたいのです!」
僕らの会話を聞いていた、はっちゃん、日光、橘が次々に言った。
いや、橘は事情を知っているんだから便乗するなよ……。
「私はいいけど……りっくんは大丈夫?」
「うん。みんなで行った方が楽しいからな」
その言葉を聞き3人は喜びの声をあげた。
本当は2人で行きたかったけどな……。
「じゃあ、お昼にしましょう! そろそろ食べないと休み時間が終わってしまいます!」
橘はそう言いながら、見晴らしのいいところに移動する。
それに続き、はっちゃんと日光が移動する。
「また、みんなといつどこに行くか決めないとね」
水仙さんは楽しそうに僕に微笑んだあと、みんなのもとに移動した。
「逃げたな……」
晴矢は僕の隣に立ち呟く。
「不甲斐ない……」
僕は晴矢から目をそらす。
「まったく……。こんなんで1年以内に告白なんか出来るのか?」
「……僕も少し不安になってきた」
僕らは互いの顔を見合わせため息を吐く。
「陸さんたちも早くー!」
そんな僕らを橘は呼びかける。
「ま、頑張れよ。 あ、俺も一緒に遊びに行くんで、そこんところよろしくな」
晴矢は笑いながらそう言うと、みんなの元に移動した。
はぁ……。神様よ、僕が水仙さんに気持ちを伝えるために寿命を延ばしてくれたなら、少しくらい良い雰囲気を作ったり、2人っきりの空間を作ったりと、協力してくれても良いんじゃないですかね?
僕はどこかで見ているであろう神にぼやき、空を見上げる。
「はーやーくー!」
そんな僕を橘は再び急かす。
そこには笑顔で弁当を食べているみんなの姿があった。
まぁ、まだ告白はしなくていいか。
今の関係も悪くない。
「はいはい、今から行きますよ」
僕はみんながいる場所に向かって歩き出す。
心に温かいものを感じながら。
これは、ある男が余命を告げられ、死ぬまでの僅か1年を描いた恋物語である。
「あの……本当に陸さんの奢りでいいのですか?」
橘はおずおずとした調子で言った。
「全然大丈夫」
僕は金髪から奪い返した3万円をポケットから出す。
そう、代金は全部僕の奢りなのだ。
もともとは水仙さんたちが助けてくれたお礼がしたいということでここに来たわけだが、流石に女性3人から奢られるのは男としてどうであろうと思うので、僕が出すことにした。
初めは3人から凄く反対されたが、危険なことをした償いやら、盗られるはずだった3万円を理由に、無理に納得させた。
まぁ、全然納得した様子ではなかったが……。
それに、奢るからといって悪いことばかりではない。
水仙さんと橘は勿論、日光も中々レベルの高い可愛さをしていると思う。
周りから見れば、僕はハーレムの主であろう。
ん? 顔が怪我だらけで、美人3人に囲まれているから修羅場に見える?
ハハッ、黙れ黙れ。
「変な顔してどうしたんですか?」
橘は首を傾げながら聞く。
「な、なんでもない」
「本当ですか?」
「本当本当。そういえば、どうして日光も廃工場に?」
僕は逃げるために話を変えた。
「2人が昨日の男たちに手を掴まれ廃工場に連れて行かれるのが見えたから」
日光は淡々と答える。
「助ける力もないのに、助けに行くのはのは傲慢なんじゃなかったっけ?」
日光は僕から視線を逸らし、黙ったまま下を向く。
僕は自分が皮肉めいたことを言ってしまったことに気付いていた。
しかし、それは日光にも危険なことをしてもらいたくなかったから。
「な……なんてことを言うんですか⁈」
そんな意図を分からずか、橘は席を叩き、立ち上がりながら怒鳴った。
「日光さんは裸になろうとしてまで私たちを助けようとしたんですよ! 陸さんが来るタイミングが良かっただけで裸にならずに済みましたけど!」
僕は口に含んでいた烏龍茶を吹き出しそうになる。
え? 来るタイミングが遅けりゃあ僕も裸を見れて……って何考えてんだ!
僕は急いで煩悩を振り払う。
日光の方を見ると、日光は下を向いたまま、体をプルプルと震わせながら顔を赤くしていく。
「ぼ、牡丹ちゃん、声が大きいよ……」
水仙さんも顔を赤らめながら橘を嗜める。
確かに声が大きかったせいか、さっきまで騒がしかった店内が静まりかえっていた。
「す、すみません……」
橘も自分がしたことに気付き、謝りながら渋々席に座った。
「で、なんでそこまでして2人を助けようとしたんだよ?」
僕は疑問に思った事を口に出す。
昨日の日光の口ぶりから、そんな事までして助けようとするやつだとは思わなかったからだ。
ましてや、僕らは出会ってから3日しか経っていない。
親友やら大切な人たちを守るためならいざ知らず、ほぼ赤の他人にそんな事までして助けようとするのは馬鹿げている。
「瑞稀は中学校からの大切な友達だし……それに貴方には昨日の恩がある。貴方と橘さんは付き合っているから、貴方に恩を返そうと思って」
その言葉を聞き、日光以外の3人は吹き出した。
「だからなんでそうなる⁈」
晴矢といい、たったの2日間でクラスメイトからそんな関係だと思われているのはかなりマズイ。
「そそそそそうですよ! 確かに私たちは特別な関係ですけど付き合ってはないですよ!」
「そうそう! 親戚なんだよ!」
「え? そうなんですか?」
「とりあえずお前は黙れ!」
そういえば、橘に親戚という関係でいく事を話していなかったな。
「あぁ、そうだったの」
しかし、なんとか日光は納得してくれたようだ。
「でも良かった。親戚でも貴方にとって大切な人であるのには変わりない。貴方の為に行動できたもの」
「何も良くない。もし、僕が来なかったらどうなってた?」
僕の言葉に日光は困惑の色をみせる。
「私よりも、2人の方が大切でしょ? だったら私だけが」
「そうじゃない。もし僕が間に合わなかったら3人とも無事じゃなかったかもしれない」
僕は日光の言葉を遮るように言った。
「それに僕は大切な人を守るためにお前がどうなっていいとも思わない。2人よりも1人が犠牲になった方がいい? ふざけるな。3人守れた方がいいに決まってる」
日光たちはただただ僕の話を黙って聞いている。
「あと、お前は僕の大切なものを守ってくれようとしたんだ。なら、お前も守らないと駄目だろ。大切な人も、そうでない人も関係ない。僕が守りたいと思った人を守るんだ」
そう言い終わってから僕は心の中で、我ながらどんな理屈だよ、と思った。
長々と話してしまったのを急に恥ずかしくなり、一気に烏龍茶を飲み干す。
そんな僕を見て3人は笑う。
「何それ」
日光は笑いながら言った。
それは日光が初めて見せた笑顔だった。
「陸さんらしい考えです」
「うん。いい考えだと思うよ」
水仙さんたちも笑いながら頷きあう。
日光は目を擦っている。
「泣くほど面白かったか……」
それを見て、僕は更に恥ずかしくなった。
日光は一息つき、口を開く。
「いや、私もその考え方好きよ。それと……」
日光は僕を見つめる。
「昨日と今日はありがとう」
日光は優しく微笑みながらそういった。
廃工場の件から2日経った月曜日の昼休み。
僕と晴矢は屋上にいた。
僕たち以外に人はいない。
「晴矢、僕決めたよ。水仙さんに告白する」
晴矢はそれを聞き、特に驚いた顔もせず、ただただ「そうか」と返事をした。
「なんだよ。その薄い反応は」
僕は晴矢の驚く反応を期待していたが、予想を大きく裏切られた。
「いや、お前傷が増えてるしこの土日の間に何かあったんだろ? なんか色々と予想ができて……特に驚きもないな」
晴矢は淡々と言っていたが、言い終わると表情を曇らせた。
「……それと……金曜日は余計なこと言って悪かったな。ずっと謝らないと、って思ってた」
晴矢はそう続けて言ったあと、僕に頭を下げた。
「確かにお前の言葉のせいで色々な事を悩んだが……答えは見つかったし、別にいい。そういえば、あの時は助けに来てれてありがとうな」
僕はお礼を言ってなかったことに気付き、笑顔で晴矢に言う。
晴矢は「別に」と恥ずかしそうに顔をそらす。
「そういやぁ、水仙さんにはいつ告白するつもりなんだ?」
恥ずかしさのためか、晴矢はいきなり話題を変えた。
「今からここで」
晴矢は噴き出す。
「はぁ⁈ 俺がいる前で告白するのか⁈」
「そんなわけないだろ。約束の時間は5分後だから、その時には晴矢は――」
「りっくんお待たせ」
僕が全てを言い終わる前に、水仙さんが屋上のドアから入ってきた。
「……お前、今凄い顔してるぞ」
目の前にいる晴矢が悲壮感漂う目で僕を見ながら言った。
予想よりも早い到着に、心の準備はできておらず、僕は後ろにいる水仙さんの方を向けないでいる。
「ったく、ほら、さっさと行ってこい!」
そんな僕を見かねた晴矢は、僕の体を水仙さんがいる方に回し、僕の背中を強く叩いた。
僕の体は水仙さんの前へと押し出される。
水仙さんは首を傾げながら僕を見つめる。
ここまで来といて、場所を変えるのは無粋であろう……。
僕は覚悟を決める。
「水仙さんに伝えたいことが……あります……」
「な、何でしょうか?」
僕の緊張が水仙さんにも伝わっているのだろうか、お互いに変な緊張感を持ってしまう。
「す、水仙さんのことが、ずっと――」
「みんなでお昼ご飯を食べましょー!」
屋上のドアが勢いよく開き、橘が入って来た。
橘は僕らの状況を見て、私やっちゃった?といったふうな顔をする。
まぁ、大丈夫だ……。
橘と晴矢は僕の事情を知っている。
別に見られたところで問題はない。
僕は再び覚悟を決める。
「水仙さんの――」
「ごめん。購買でパン買ってたから少し遅くなったわ」
……。
「水仙さ――」
「俺を除け者にして、みんなでなにしてるんだよぅ!」
………………。
「おわっ⁈ ゆっちゃんが真っ白な灰のように⁈」
はっちゃんは、ほぼ同時に入ってきた日光に「どういう状況?」と尋ねるが、日光は「さぁ?」と両手をあげた。
みんなの視線が僕と水仙さんに集まる。
「結構、人が増えちゃったね。それで、私がどうしたの?」
水仙さんは僕に苦笑いで尋ねる。
「……もしよかったら、また今度、遊びに行かない?」
この状況で告白ができるほど、僕の心は強くなかった。
「えっ? ……どうして?」
水仙さんは不思議そうな顔をして僕に尋ねる。
「土曜日はせっかく誘ってくれたのに、色々と考え事をしていたり不良に絡まれたりで、しっかり楽しめてなかったな、と思って……。今度はしっかり楽しみたいっていう、僕の勝手なわがままなんだけど……いいかな?」
水仙さんはそれを聞き、ニコリと笑う。
「勿論! 今度は一緒に楽しもうね」
僕もその笑顔につられて笑った。
「遊びに行くのか⁈ 俺も行きたい!」
「私も行きたい」
「え、あ、私も行きたいのです!」
僕らの会話を聞いていた、はっちゃん、日光、橘が次々に言った。
いや、橘は事情を知っているんだから便乗するなよ……。
「私はいいけど……りっくんは大丈夫?」
「うん。みんなで行った方が楽しいからな」
その言葉を聞き3人は喜びの声をあげた。
本当は2人で行きたかったけどな……。
「じゃあ、お昼にしましょう! そろそろ食べないと休み時間が終わってしまいます!」
橘はそう言いながら、見晴らしのいいところに移動する。
それに続き、はっちゃんと日光が移動する。
「また、みんなといつどこに行くか決めないとね」
水仙さんは楽しそうに僕に微笑んだあと、みんなのもとに移動した。
「逃げたな……」
晴矢は僕の隣に立ち呟く。
「不甲斐ない……」
僕は晴矢から目をそらす。
「まったく……。こんなんで1年以内に告白なんか出来るのか?」
「……僕も少し不安になってきた」
僕らは互いの顔を見合わせため息を吐く。
「陸さんたちも早くー!」
そんな僕らを橘は呼びかける。
「ま、頑張れよ。 あ、俺も一緒に遊びに行くんで、そこんところよろしくな」
晴矢は笑いながらそう言うと、みんなの元に移動した。
はぁ……。神様よ、僕が水仙さんに気持ちを伝えるために寿命を延ばしてくれたなら、少しくらい良い雰囲気を作ったり、2人っきりの空間を作ったりと、協力してくれても良いんじゃないですかね?
僕はどこかで見ているであろう神にぼやき、空を見上げる。
「はーやーくー!」
そんな僕を橘は再び急かす。
そこには笑顔で弁当を食べているみんなの姿があった。
まぁ、まだ告白はしなくていいか。
今の関係も悪くない。
「はいはい、今から行きますよ」
僕はみんながいる場所に向かって歩き出す。
心に温かいものを感じながら。
これは、ある男が余命を告げられ、死ぬまでの僅か1年を描いた恋物語である。
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