余命1年から始めた恋物語

米屋 四季

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6.7月編

48話 騙し合い

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 勉強会が始まってから2時間が経過した時だった。

「あー、飽きたー!」

 はっちゃんはいきなり大声を上げた。
 僕と晴矢はとうとうこの時がきたか、と溜息を吐く。
 僕と晴矢と3人で勉強をしていた時は始めて5分も保たずに娯楽へと走っていたのを考えると、今回は長いこと我慢が出来ていた方だろう。

「数分ぐらいなら休憩するのもいいかもしれないね」

 楓の言葉にはっちゃんは何度も頷く。

「そうそう、休憩は大切だよな。つーことで、ドーンッ!」

 はっちゃんは机の上に勢いよく何かを叩きつけた。
 それはトランプ。

「絶対に数分では終わらないよな……」

「あぁ、いつもの流れだ……」

 僕と晴矢は重々しく呟いた。
 今までの長い付き合いがあるため、僕たちはこれから何をするのか大方の予想が付いている。
 きっと、今日の勉強はここまでだろう。
 人は一度の楽を知ってしまえば苦に戻ることは容易では無い。
 しかも今日は3人ではなく大人数だ。
 そんなの絶対楽しいに決まっている。

「2人とも嫌そうに言ってるけど、なんだかんだで最後まで付き合ってくれるよな」

「当たり前だ。遊ぶ方がいいに決まってるだろ。でも、遊び始めたら楽しくて勉強なんかやりたくないって思ってしまうから嫌なんだよ」

「やった方がいいからやっているわけであって、俺らは好きで勉強しているわけじゃないからな」

 勉強しないといけないって気持ちはあるのだが、正直なところ遊びたいという気持ちの方が優っていた。
 今まで3人の時は殆ど遊んでいただけなので、長時間(2時間しかしてないが)の勉強には慣れておらず、疲れを感じている。

「結局、ゆっちゃん達も俺と同じ気持ちって事なんだな」

 はっちゃんはそう言いながらトランプをシャッフルし、みんなへと1枚だけ裏向きのカードを配った。

「何のゲームをするの?」

「よくゆっちゃんとはるちゃんとやるゲームなんだが、名前は知らないんだよな。でもルールは簡単、ただのカードの強さ比べだ。まぁ、やりながら説明した方が分かりやすいな」

 はっちゃんは自分の目の前のカードを手に取り、みんなにそのカードの表側が見えるように額の位置まで上げた。

「俺と同じようにその配ったカードの数は見ずに、他の人には何のカードか分かるようにデコの位置まで持ってきてくれ」

 みんなはっちゃんの言うことを聞き、額の位置までカードを上げる。
 はっちゃんは8、晴矢は3、日光は9、瑞稀さんはK、楓は10、薊は6、橘はAだ。

「そのデコにまで持ってきたカードが自分のカードだ。そのカードで強さ比べをする。カードの強さは2が1番弱くて、3、4、5と続いていき、Kの後はA、ジョーカーの順で強い」

「つまり今の状態だと晴矢君が1番弱いってこと?」

「そういうことだ、みずっちゃん」

「水仙さんが言ったってことは間違いねぇな」

 晴矢は3のカード表向きにして机の上に出し、カードの束の1番上から1枚だけ引き、先程と同じようにみんなへ見えるようにカードを額の位置へと持ってきた。
 新しい晴矢のカードはJ。

「カードは交換することができるんだね」

「あぁ。だけどカードの交換は2回までだ。つまり3枚目のカードで絶対に戦わなくちゃならねぇ」

「なるほどね……じゃあ、陸もカードを交換したらいいんじゃないかな? 今1番弱いよ」

 楓は僕のカードを見ながら言った。
 しかし、僕はカードを交換しないことを選ぶ。

「あれ? 陸さんのカードはKなので強いんじゃないですか?」

 橘が不思議そうな顔をしながら首を傾げる。

「牡丹君、今のは嘘を付いて陸のカードを交換させようとしたんだよ。まぁ、陸には気付かれていたみたいだけど」

 楓は笑いながら言った。
 やはり僕が思った通り、楓の言ったことは嘘だったのだ。
 楓は頭がいいので、このゲームについてすぐに理解し嘘を仕掛けにくる事はなんとなく分かっていた。

「あ、あと今回は罰ゲームなしだけど次からはありだぜい」

 はっちゃんは急に思い出したように言った。

「罰ゲームなんかあるのかい?」

「そりゃあもちろん。いつも俺ら3人でやる時は1位が罰ゲームを決めて2位がシャッフルしてカードを配るようにしているんだ。そっちの方が真剣味が増して面白いだろ」

「罰ゲームはなんでもありなのかい?」

「みんなが了承したならな」

 罰ゲームがあると分かり、みんなの表情が少し変わった。

「さぁ、遊び気分でやれるのは今だけだ。存分に楽しもうぜ」

 はっちゃんはそう言うと、ニヤリと笑った。





「みんな、もう交換しなくても大丈夫か?」

 はっちゃんの言葉にみんな頷く。
 あれから色々なやりとりがあり。最終的にはっちゃんはA、晴矢はJ、日光は9、瑞稀さんと楓が10、薊は6、橘は8となった。
 僕の方は1度もカードを変えていない。

「それじゃあ、カードを表向きにして出してくれ」

 みんながカードを表向きにして机の上に出す。
 僕のカードは橘が教えてくれたK……ではなく4だった。

「は……?」

 僕の思考は一瞬停止する。
 その反応を見て、楓と橘は笑い出す。

「いや~、悪いね。陸の裏をかかせてもらったよ。牡丹君もありがとうね」

「いえいえ。どうせ陸さんの事だから私が馬鹿正直に言うと思ったんでしょう。ざまぁみろです」

 ぐぬぬ……。
 このゲームの経験者として楓に騙されたのは少し悔しいが、それよりも下に見ていた橘に出し抜かれたのはとてもショックだ。

「じゃあ、今回のゲームはゆっちゃんがドベでAだった俺が1位だな。本来なら2位だったみずっちゃんがカードをシャッフルして配るんだが、今回はドベだったゆっちゃんにやってもらおう」

 僕はトランプの束を受け取りシャフルをする。

「じゃあ、ゲームルールも理解できた事だし、次からが本番! 俺が1位だったから罰ゲームを決めるぜい。ドベがスリーサイズを公開するで!」

「さあって、勉強し直すか」

 晴矢の言葉を合図に、はっちゃん以外のみんなが勉強道具を机に取り出し始める。

「嘘嘘嘘嘘嘘! 冗談だ冗談! このゲームのドベが次のゲームが終わるまで語尾に『だわさ』を付けるで!」

 はっちゃんは焦った様子で罰ゲームを違うものへと変えた。
 みんなはそれならとはっちゃんが提示した罰ゲームを了承する。

「さっきとは全くの別物になったな」

「一応俺にだってデリカシーってもんはあるんだぜ。元々語尾に何々を付けるにしようと思ってたさ。さっきのはジョークってみんな分かると思ったんだけど……」

「翔さんが言ったら本気だと思いますよ」

「普段の行いのせいね」

 女性陣はみんな苦笑いをしている。

「……俺真面目キャラにキャラ変しようかな」

「やめとけ。もう手遅れだ」

 僕が言った言葉でガクッと項垂れるはっちゃんを尻目に、僕はシャッフルを止め、みんなに1枚だけカードを配る。
 みんなはそれを手に取り額の位置まで。
 はっちゃんはK、晴矢はA、日光は8、瑞稀さんは7、楓はK、薊はQ、橘はJだ。

「にっちゃんとみずっちゃんとゆっちゃんは階段になってるな7、8、9だ」

「確かに階段だね」

「あぁ、9だ」

 はっちゃんに続いて楓と晴矢も同じ事を言った。
 楓にはさっきは騙されたが……でも、日光と瑞稀さんのカードを見るに、多分本当のことを言っているのだろう。
 日光と瑞稀さんと僕はお互いのカードを見合う。
 そして、日光と瑞稀さんは3人の言うことを信じカードを捨てた。
 新しく手に入れたカードは、日光が10で瑞稀さんはJだ。

「また階段だな」

「そうだね」

 変わったカードを見て、晴矢と楓は言う。
 僕が持っている9と日光の10、瑞稀さんのJで階段という事なのだろう。
 なら、今の状態だと僕が1番弱いという事になる。
 かといってカードを変えたからといって強いカードがくるとは限らない。
 それよりも上のやつらを落とす方が確実だ。

「橘、お前も微妙な数だが、変えなくてもいいのか?」

「むっ、そうですか? でも陸さんはさっきので私に恨みがあるはずですからね……あと日頃の恨みも……」

 橘にそう言われ、今までの散々な思い出がフラッシュバックし、さっきの恨みが更に倍増した。

「そんな事ないって」

「なぜでしょうか……笑顔なのに凄く怖いです。まぁ、でも瑞稀さんと紅葉さんがカードを捨てたのを見るに私は9以上であると思うのでノーチェンジで」

 くっ……橘の今までの行いやら順位表を見た感じで1番頭が悪いと思っていたが、さっきのゲームといい今回といい、本当は頭が良いらしい。
 しかも、僕が不利になるような事まで言いやがった。
 9以下がいれば問題はなかったが、現にみんな9以上であり今の橘の推測を聞いてカードを変える人はいないだろう。
 しかし、ダメ元で僕は橘へとカードを変える事を勧める。

「もしかしたら、そう思わせるためにあえて変えたのかもしれないぞ」

「それはないですね。8も中々強いカードです。なのにそれを捨ててまで他を下げるのはリスクが大き過ぎます」

 結局、橘はカードを変える様子はなく、他のみんなの方を見ても首を横へ振るだけでカード変えようとはしてくれない。

 このままだと負けてしまうし変えるか……。

「じゃあ、チェンジで」

 僕はカードを変えるため、机の上にカードを表向きに出す。そのカードはQ。

「お前ら騙したな!」

「おいおい、何年このゲームをやってるんだよ。これはそういうゲームだぜい」

「俺は翔と違って騙してなんかいないぞ。ただその通りに『きゅう』といっただけだ」

「ボクは牡丹君と翔君と陸のカードを見て階段と言っただけだよ。2回目も誰のカードが階段とは言ってなかったし」

 3人は見事に騙された僕を見てニヤニヤと笑う。

「くそっ……晴矢はいつもQの事をきゅうとは言わねぇじゃねぇか」

 僕は愚痴を垂れながら新しいカードを手に取る。
 いくら文句を言っても、もう捨てたものは仕方ない。
 新しいカードに賭けるしかない。

「……どうだ」

 僕はみんなに対し自分のカードが何なのか聞いたが、みんなはにこにこと僕を見るだけで何も言ってくれない。
 これ以上聞いてもきっと同じ反応が続くだけだろう。
 このカードは10以上か分からないし、交換もあと1回だけしか出来ない。
 僕は悩んだ末、勝負する事に決めた。

「これで勝負だ」

「それじゃあ、カードオープンだ」

 はっちゃんの言葉を合図にみんなはカードを机の上に出す。
 僕のカードは……5。

「ゆっちゃんの2連敗だな」

「くそぉ……今度こそ絶対に勝ってやる」

 悔しそうに呟く僕を見ながら、はっちゃんは舌をチッチッチッと鳴らし指を左右に振る。

「おいおい、違うだろゆっちゃん」

「ん?」

「ちゃんと語尾にだわさを付けないと」

 僕は罰ゲームのことを思い出し、返事をするとあの語尾を付けないといけないため、黙って頷く。

「えぇ……まさか、ゆっちゃんだんまりとかそんな面白くないことはしないだろうな? それにさっき口に出した言葉をちゃんとだわさを付けて言ってもらわないとぉ」

 はっちゃんは悪戯な笑みを浮かべてそう言った。
 今まで3人で遊んでいた時は語尾に何を付けるというのはよくあった。
 しかし、大人数で、しかも好きな人がいる中でのこの罰ゲームは来るものがある。

「くっ……今度こそ絶対に勝ってやるだわさ……」

 僕は恥ずかしくなり、顔が熱くなっていくのを感じた。
 みんなは下を向いてぷるぷる震えている。
 それを見て、僕は次の勝負に絶対に勝つ事を、1人心に強く誓うのであった。
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