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第7章 大人との恋
315 不謹慎なデート
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藤城皐月は一人でパピヨンでモーニングを食べた。その間に及川祐希は飯田線に乗って、新城へ友人の黒田美紅に会いに行った。昼前に皐月は美容院でカラーをし直し、少し髪を切ってもらった。
昼ご飯を食べた後、皐月は入屋千智に会いに出かけた。名鉄の豊川稲荷駅から豊川線に乗り、八幡駅で降りた。短い距離だけど、鉄道好きの皐月にはワクワクする時間だった。
高架になっている八幡駅のホームからは豊川市民病院がよく見える。市民病院は皐月の祖母が闘病中に入院していたところで、5年生の時によく通ったところだ。
皐月が千智をデートに誘った時、待ち合わせ場所を八幡駅に指定されて驚いた。千智の祖母が豊川市民病院で入院していると言ったからだ。前に千智の家の近くで会った時は自宅療養していたので、容態が悪化したようだ。
駅のホームから階段を降りたところで千智は待っていた。千智の置かれた深刻な状況を思うと、皐月は素直に千智に会えたことを喜べなかった。
千智は手を振っていたが、いつものように嬉しそうではないような気がした。キャップをかぶっているから表情が読みにくい。
「こんな時に会おうなんて言っちゃって、ごめん」
「いいよ。だって皐月君は家の事情なんて知らなかったんだし。……それにおばあちゃんが皐月君に会っておいでって言ってくれたの」
「そうか……」
「皐月君が気を落とさなくてもいいんだよ。とりあえずイオンに行こっ」
千智に手を引っ張られて皐月たちは八幡駅を離れた。千智の手はしっとりとして、温かかった。
「皐月君、髪の毛切ったんだ。新しい髪型、好きだよ」
「よかった。伸ばそうか切ろうか迷ってたんだけど、千智がいいって言ってくれたから、切って正解だ」
「紫のカラーもきれいになったね」
千智の顔にいつもの笑みが戻った。
病院に沿って歩いていると、ずっと手を繋いだままでは不謹慎な気がした。皐月が繋いでいた千智の手を離すと、バイザーの奥で千智が少し不満気な顔をしていた。
豊川市民病院に隣接したところにイオンモール豊川がある。皐月はイオンで修学旅行に履いていく靴を買い、千智は祐希の高校の文化祭に着ていく服を買う予定だ。
「皐月君、本当はイオンに来るつもりじゃなかったんでしょ?」
「そうだね。千智からおばあちゃんの話を聞くまでは豊橋に行くつもりだった。でもイオンでいいよ。俺、イオンって大きくて、いろいろな店が入っているから好きだ」
皐月はイオンで学校の友だちに会うことを気にしていた。イオンは豊川市民がよく買い物に行くところだ。
皐月自身は一人でイオンに来たことがなかったが、クラスメイトの間ではイオンで買い物をしたという話をよく聞いていた。だから、イオンに行けば知り合いに会う確率は高いだろう。
千智と二人でイオンにいるところを誰かに見られたら、千智と付き合っているという噂は事実になる。あっという間に学年中に知れ渡ることになるだろう。
皐月は千智との仲が同級生たちにバレることを覚悟した。だが、栗林真理はどう思うのだろうか。皐月の気がかりはこの一点だけだ。
「皐月君、髪の毛切って格好良くなっちゃったね……」
「何? その言い方。『なっちゃった』って?」
「絶対に今より女の子からモテるようになっちゃう」
「ははは。そんな心配はいらないって。俺のクラスの女子はみんな博紀に夢中だから」
「月花先輩より皐月君の方がずっと格好いいのに……」
千智は皐月よりも月花博紀の方がモテることが気に入らないようだ。これではアイドルの推し活みたいだ。千智の少しむくれたところがかわいい。
皐月は自分の犯している罪を思うと、千智の純粋な思いを受ける資格がないんじゃないかと心苦しくなってきた。だが、この苦悩を自分の心の中に収めておいて、千智と二人でいる時は幸せだと思ってもらわなればならない。
昼ご飯を食べた後、皐月は入屋千智に会いに出かけた。名鉄の豊川稲荷駅から豊川線に乗り、八幡駅で降りた。短い距離だけど、鉄道好きの皐月にはワクワクする時間だった。
高架になっている八幡駅のホームからは豊川市民病院がよく見える。市民病院は皐月の祖母が闘病中に入院していたところで、5年生の時によく通ったところだ。
皐月が千智をデートに誘った時、待ち合わせ場所を八幡駅に指定されて驚いた。千智の祖母が豊川市民病院で入院していると言ったからだ。前に千智の家の近くで会った時は自宅療養していたので、容態が悪化したようだ。
駅のホームから階段を降りたところで千智は待っていた。千智の置かれた深刻な状況を思うと、皐月は素直に千智に会えたことを喜べなかった。
千智は手を振っていたが、いつものように嬉しそうではないような気がした。キャップをかぶっているから表情が読みにくい。
「こんな時に会おうなんて言っちゃって、ごめん」
「いいよ。だって皐月君は家の事情なんて知らなかったんだし。……それにおばあちゃんが皐月君に会っておいでって言ってくれたの」
「そうか……」
「皐月君が気を落とさなくてもいいんだよ。とりあえずイオンに行こっ」
千智に手を引っ張られて皐月たちは八幡駅を離れた。千智の手はしっとりとして、温かかった。
「皐月君、髪の毛切ったんだ。新しい髪型、好きだよ」
「よかった。伸ばそうか切ろうか迷ってたんだけど、千智がいいって言ってくれたから、切って正解だ」
「紫のカラーもきれいになったね」
千智の顔にいつもの笑みが戻った。
病院に沿って歩いていると、ずっと手を繋いだままでは不謹慎な気がした。皐月が繋いでいた千智の手を離すと、バイザーの奥で千智が少し不満気な顔をしていた。
豊川市民病院に隣接したところにイオンモール豊川がある。皐月はイオンで修学旅行に履いていく靴を買い、千智は祐希の高校の文化祭に着ていく服を買う予定だ。
「皐月君、本当はイオンに来るつもりじゃなかったんでしょ?」
「そうだね。千智からおばあちゃんの話を聞くまでは豊橋に行くつもりだった。でもイオンでいいよ。俺、イオンって大きくて、いろいろな店が入っているから好きだ」
皐月はイオンで学校の友だちに会うことを気にしていた。イオンは豊川市民がよく買い物に行くところだ。
皐月自身は一人でイオンに来たことがなかったが、クラスメイトの間ではイオンで買い物をしたという話をよく聞いていた。だから、イオンに行けば知り合いに会う確率は高いだろう。
千智と二人でイオンにいるところを誰かに見られたら、千智と付き合っているという噂は事実になる。あっという間に学年中に知れ渡ることになるだろう。
皐月は千智との仲が同級生たちにバレることを覚悟した。だが、栗林真理はどう思うのだろうか。皐月の気がかりはこの一点だけだ。
「皐月君、髪の毛切って格好良くなっちゃったね……」
「何? その言い方。『なっちゃった』って?」
「絶対に今より女の子からモテるようになっちゃう」
「ははは。そんな心配はいらないって。俺のクラスの女子はみんな博紀に夢中だから」
「月花先輩より皐月君の方がずっと格好いいのに……」
千智は皐月よりも月花博紀の方がモテることが気に入らないようだ。これではアイドルの推し活みたいだ。千智の少しむくれたところがかわいい。
皐月は自分の犯している罪を思うと、千智の純粋な思いを受ける資格がないんじゃないかと心苦しくなってきた。だが、この苦悩を自分の心の中に収めておいて、千智と二人でいる時は幸せだと思ってもらわなればならない。
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