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人の想い、絆の芽生え
共に戦うべき兵
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群州北部の軍港にて水上訓練を始めて四日が経過。
民兵主体な軍構成と、森林や山での戦闘が主だった事が災いして水上戦の経験に乏しい飛刀香神衆へは輝士隊から応援を送り、一通りの水軍指揮はできる様になった。
楽瑜隊に配属された元鉉彰隊の承土軍兵二千も楽瑜が懇々と諭して回っている効果が表れ、涼周軍への恭順者が徐々に増えている。
「ふぅ……皆、頑張ってくれてる。でも、今のままではとても戦えない……」
旗艦内に設けられている浴室で、今日一日の汗を流すナイツ。
誰も居ない状況を利用して、心に思っていた事をつい吐き出した。
「……楽瑜と飛蓮は……将がそうなら兵もそう。二隊とも将兵揃って仲が悪い。涼周が気を遣って取り持とうとしてるけど……。楽瑜も懸命に飛蓮に接しているけど……何だかな……」
軍内の不和が如実に見てとれる楽瑜隊と飛蓮隊。
涼周軍がカイヨー兵主体となっている事も影響し、楽瑜隊の発言権はとても小さい。カイヨー兵はそれを良く思い、元承土軍兵は悪く思う。
「……やっぱり、どちらか片方の部隊だけで……作戦に当たらせるべきかな……」
全身を浸からせ、天井を見詰めながら呟いた。
体はほぐされるものの、心は苦慮させられっぱなしで休まらない。
「……数も多くて熱意に富んで、何より涼周に絶対の忠誠を誓っているカイヨー兵。水上戦の苦手な彼等を、作戦決行までに戦える状態まで仕上げるか。……いや、たかが十日程度の訓練で、強力な水軍を有する承土軍と互角に渡り合うようにするのは、無理だろうな」
天井の水滴が、何も考える事なくナイツの額に落ちてくる。
難しく考えずとも、落ちるべくして落ちる水は気楽で良い。疲れている彼の心は、天井に待機している後続の水滴を見て、そんな風にさえ思った。
「元々が訓練された鉉彰配下の精鋭……数は少ないけど水陸の両戦闘に高い実力を持つ彼等を……忠誠心が薄く……いつ敵の許に戻るか分からない彼等を、戦力とするか……」
涼周の身の安全と信頼性をとるなら、飛蓮率いるカイヨー兵。将兵ともに高い戦力を望むなら、楽瑜率いる元承土軍兵で構成された二千人の部隊。
「……早い内に決めないと……それこそ無駄な時間を使う事になってしまう……」
全身を浸して三分も経たずに、ナイツは起き上がる。
「……バスナやファーリムなら、どうするだろう……」
彼は二人の師を思い浮かべ、再び天井に顔を向けた。
天井の水滴達が二人の顔に似た様に見えるとか、濡れた髪が何かに閃いて直立するとかではないが、こうして迷って独り言を吐き続けるぐらいなら相談すべきだとは思った。
「ふぅ……もうそろそろ、上がろう。涼周が待ってる」
大人顔負けの筋肉ながら、あどけない色を含む裸体を浴槽から出し、水気を払うナイツ。
脱衣室へと移り、改めて全身を拭いた彼は、そこである事に気付く。
「ん……俺の下着がないぞ。……それに、何だか外が騒々しいな」
仕方なく涼周の様に腰へ布を巻いた上に軍服を纏い、甲板の様子を確認しに出る。
「パーンツ! パンツー!」
…………甲板では、涼周がナイツの下着を両手で掲げながらくるくると回っていた。
「俺のパーンツ!」
「拙者のパンツー!」
涼周に続く様に数人の兵達が自らの下着を片手に掲げ、もう片方の手は腰に当てた状態でぐるぐると回転している。
「うおぅんちゅー一気、一気! うおおぉぉー!!」
そして涼周達を囲って胡座をかく多くの兵が、八つに割れたバキバキの腹筋をポンポコ叩きながら相槌を打ち、涼周達が高速回転始めると一斉に歓声を上げ始めた。
(なぁんの儀式だぁぁーー!?)
新手の新興宗教の儀式じみた謎々感全開の行動に、ナイツは言葉が出なかった。というよりは、自分の存在に気付かれたら勧誘されそうで恐くて本能的に声を押し殺したというべきだ。
(む……でもよく見れば、ギャラリー共の中にカイヨー兵や元承土軍兵が多く混じってる)
とても楽しそうに腹を抱えて笑う兵の中には、ナイツが苦心している者達の姿もあった。
一緒になって裸踊りに興じる輝士兵や、笑い死にしそうになっているカイヨー兵を介抱する元承土軍兵、険悪な部隊の壁を越えて肩を合わせながら酒を嗜む者達も居る。
狂宴を目にしたナイツは、彼等の姿からある事に気が付いた。
(そうか、元承土軍だからといってどこか嫌っている部分があったけど、彼等も同じ人間だ)
敵軍の兵士だって楽しければ笑う。当然の事だ。
だがカイヨーの惨劇を起こした承土軍の兵士だから自分達とは楽しむ要素が異なるのでは、自分達とは相容れない存在なのでは、ナイツは心の何処かでそう感じていた。
それを涼周は簡単に……他人の下着をフリフリさせて踊るのが尊厳的に簡単かどうかは分からないが、兎に角お互いの確執を下着と一緒に振り払っている。
(まぁ、良いか。……楽しそうにやってるし)
自分には真似できない、真似したくない激励方法に、ナイツは半ば感心を示す。
何も考えずにいる様でいて、弟にもちゃんとした考えがあるのだろうと。
(ここは涼周に任せて、韓任の所へ行くとしよう)
涼周と同じく、俗に言うノーパン状態で甲板を後にするナイツ。
先ず司令塔に赴き、そこに韓任が居ないと分かるや、次は彼の私室へ向かう。
「韓任、少しだけ……。……ごめん、お休み中だった?」
扉を三回叩きはしたが、返事がない為にゆっくりと開けてみれば、韓任は寝台の上にあった。
「暫く仮眠しておりました。もう大丈夫です」
「いや、いきなり来て悪かったね。そのまま休んでくれて構わないよ」
「その内に起きようと思っていましたので、お気遣い無用です。……ナイツ様は何か用事があって参られたのではありませんか?」
寝台から巨体を起こし、応対セットを用意しだした韓任。
ナイツは示された席に腰掛け、先に出されたお茶菓子を手に取った。
二分も経たずにお茶も出され、韓任の好意に甘えたナイツは彼に先程の出来事も交えて涼周軍の事について相談する。
「……成る程、上の方から何やら声が聞こえると思えば、その様な事が起きていましたか。……では私の考えを話しましょう。私は精鋭による作戦決行を望みます。故に、涼周殿に忠誠を誓った者を楽瑜隊の中から選りすぐり、それら少数精鋭を用いるべきだと思います」
韓任は一切の遠慮も迷いもなく、はっきりと言う。
「カイヨー兵が中距離の戦闘に特化しているのは、過去の戦いを見る限り疑いようもありません。飛昭殿や侶喧殿の直下兵は職業軍人に近い為、彼等に至っては呑み込みも早く、ここ数日で水上戦に慣れてきています」
「なら彼等だけでも作戦に従事してもらえば……」
「飛刀香神衆直々の兵士は実力が高い反面、軍人特有の頭の固さがあります。飛蓮殿と同じく、楽瑜隊との協力は拒むでしょう。……私が思うに、上で行われている親睦会に参加している者はカイヨー民兵が殆どではありませんか?」
「…………」
ナイツは押し黙った。
韓任の言う事が恐らく正解だと感じた故に、返す言葉が見付からなかったのだ。
「カイヨー民兵も強者揃いではありますが、永らく平地での戦いを主とした彼等では水上戦の経験不足が否めません。……侶喧殿が言っておりましたが、飛刀香神衆の水軍戦力は殷撰が担っていた程だと。それから導き出すに、カイヨー兵を水上戦に動員させては足手まといとなり、我々まで苦戦する事態となりましょう」
ナイツ以上に輝士隊を鍛練し、真の精鋭を作り上げている軍事の玄人たる韓任からしたら、現状のカイヨー兵は実戦では半分すら力を発揮できないと見ていた。
「……もし用いるならば……我々輝士隊と楽瑜隊が前衛の全てを受け持ち、上陸後はカイヨー兵を主力にして押し進める事ですが、それでは敵の裏をかくのに時間が掛かります。……最後に、私以上に知恵のある方々にも意見を求めるべきと思います」
「うん、分かった。明日にでも軍師に書簡を送ってみる。……相談に乗ってくれてありがとう。ゆっくり休んでくれ。……因みに聞いた話だと、羊を数えると眠れるみたいだよ」
意見を聞き終えた所で、ナイツは席を立って礼を述べた。
韓任は軽く会釈して返しつつも、ちょっとした気晴らしとばかりに冗談を口にする。
「羊ですか……いえ、たまには他のものを数えてみましょう。例えば、ナイト様とか」
「父上を数えるってどんな状況だよ……何か悪夢見そうで嫌なんだけど」
返された言葉にナイツは苦笑いを浮かべて身を引くが、彼に構わず韓任は数えだした。
「ものは試しです。では……ナイト様が一匹」
ナイツの脳裏に、酒瓶片手で横たわる父の姿が浮かび上がる。
(おぅ、寝るのか? お休み里見民部)
「ナイト様が二匹」
(おぅ! 俺がもう一人居るぜ、これ凄くね!)
(おぅ、誰だお前。おぅ! 俺か! これほんと凄くね!)
酒とともに分身した。……まあ、ナイトならば案外あり得そうな話ではある。
「ナイト様がー三匹」
(おーぅ、もう一人俺が増えたぜ! 何だこれ、三匹のナイトか)
(おぅおぅ! 初っぱなから鋼鉄の家作ったぜ! 来るなら来やがれ狼野郎!)
(おぅ、俺ども! 狼狩ってきたぜおぅ! 酒盛りしようぜおぅ!)
最初のナイトが踊りだし、分身して現れた二人目のナイトが一瞬で鋼の家を建造。そこへ狼を大量に狩ってきた三人目のナイトが登場。何喰わぬ顔で宴会の準備を行う。
「ナイト様が四匹」
(おーぅ、ナイト四天王結成だぜ!)
(おぅおぅ、そうは言っても俺ばっかで花がないな!)
(おぅ、いいじゃねぇかおぅ! 戦力は大幅強化だぜおぅ!)
(おぅおぅおぅおぅ! ここは俺が奥の役をやるぜ! 見ろやこの鍛えられし胸筋を!)
宴もたけなわ、即座に結成されたナイト四天王が羽目を外して乱舞する。……地獄だ。
「ナイト様がご――」
「あぁもういいよ! おぅおぅ煩いよ! 素振りでもやってろ!」
尚も数える韓任に対し、机を思いっきり叩いて制止を促すナイツ。
これ以上の地獄は聞きたくも見たくもないのだ。
「ふふ、今さっき寝ろって……!」
「素振りでもしてろ!」
韓任は元気を取り戻したナイツの姿を見て、頬を緩めたという。
民兵主体な軍構成と、森林や山での戦闘が主だった事が災いして水上戦の経験に乏しい飛刀香神衆へは輝士隊から応援を送り、一通りの水軍指揮はできる様になった。
楽瑜隊に配属された元鉉彰隊の承土軍兵二千も楽瑜が懇々と諭して回っている効果が表れ、涼周軍への恭順者が徐々に増えている。
「ふぅ……皆、頑張ってくれてる。でも、今のままではとても戦えない……」
旗艦内に設けられている浴室で、今日一日の汗を流すナイツ。
誰も居ない状況を利用して、心に思っていた事をつい吐き出した。
「……楽瑜と飛蓮は……将がそうなら兵もそう。二隊とも将兵揃って仲が悪い。涼周が気を遣って取り持とうとしてるけど……。楽瑜も懸命に飛蓮に接しているけど……何だかな……」
軍内の不和が如実に見てとれる楽瑜隊と飛蓮隊。
涼周軍がカイヨー兵主体となっている事も影響し、楽瑜隊の発言権はとても小さい。カイヨー兵はそれを良く思い、元承土軍兵は悪く思う。
「……やっぱり、どちらか片方の部隊だけで……作戦に当たらせるべきかな……」
全身を浸からせ、天井を見詰めながら呟いた。
体はほぐされるものの、心は苦慮させられっぱなしで休まらない。
「……数も多くて熱意に富んで、何より涼周に絶対の忠誠を誓っているカイヨー兵。水上戦の苦手な彼等を、作戦決行までに戦える状態まで仕上げるか。……いや、たかが十日程度の訓練で、強力な水軍を有する承土軍と互角に渡り合うようにするのは、無理だろうな」
天井の水滴が、何も考える事なくナイツの額に落ちてくる。
難しく考えずとも、落ちるべくして落ちる水は気楽で良い。疲れている彼の心は、天井に待機している後続の水滴を見て、そんな風にさえ思った。
「元々が訓練された鉉彰配下の精鋭……数は少ないけど水陸の両戦闘に高い実力を持つ彼等を……忠誠心が薄く……いつ敵の許に戻るか分からない彼等を、戦力とするか……」
涼周の身の安全と信頼性をとるなら、飛蓮率いるカイヨー兵。将兵ともに高い戦力を望むなら、楽瑜率いる元承土軍兵で構成された二千人の部隊。
「……早い内に決めないと……それこそ無駄な時間を使う事になってしまう……」
全身を浸して三分も経たずに、ナイツは起き上がる。
「……バスナやファーリムなら、どうするだろう……」
彼は二人の師を思い浮かべ、再び天井に顔を向けた。
天井の水滴達が二人の顔に似た様に見えるとか、濡れた髪が何かに閃いて直立するとかではないが、こうして迷って独り言を吐き続けるぐらいなら相談すべきだとは思った。
「ふぅ……もうそろそろ、上がろう。涼周が待ってる」
大人顔負けの筋肉ながら、あどけない色を含む裸体を浴槽から出し、水気を払うナイツ。
脱衣室へと移り、改めて全身を拭いた彼は、そこである事に気付く。
「ん……俺の下着がないぞ。……それに、何だか外が騒々しいな」
仕方なく涼周の様に腰へ布を巻いた上に軍服を纏い、甲板の様子を確認しに出る。
「パーンツ! パンツー!」
…………甲板では、涼周がナイツの下着を両手で掲げながらくるくると回っていた。
「俺のパーンツ!」
「拙者のパンツー!」
涼周に続く様に数人の兵達が自らの下着を片手に掲げ、もう片方の手は腰に当てた状態でぐるぐると回転している。
「うおぅんちゅー一気、一気! うおおぉぉー!!」
そして涼周達を囲って胡座をかく多くの兵が、八つに割れたバキバキの腹筋をポンポコ叩きながら相槌を打ち、涼周達が高速回転始めると一斉に歓声を上げ始めた。
(なぁんの儀式だぁぁーー!?)
新手の新興宗教の儀式じみた謎々感全開の行動に、ナイツは言葉が出なかった。というよりは、自分の存在に気付かれたら勧誘されそうで恐くて本能的に声を押し殺したというべきだ。
(む……でもよく見れば、ギャラリー共の中にカイヨー兵や元承土軍兵が多く混じってる)
とても楽しそうに腹を抱えて笑う兵の中には、ナイツが苦心している者達の姿もあった。
一緒になって裸踊りに興じる輝士兵や、笑い死にしそうになっているカイヨー兵を介抱する元承土軍兵、険悪な部隊の壁を越えて肩を合わせながら酒を嗜む者達も居る。
狂宴を目にしたナイツは、彼等の姿からある事に気が付いた。
(そうか、元承土軍だからといってどこか嫌っている部分があったけど、彼等も同じ人間だ)
敵軍の兵士だって楽しければ笑う。当然の事だ。
だがカイヨーの惨劇を起こした承土軍の兵士だから自分達とは楽しむ要素が異なるのでは、自分達とは相容れない存在なのでは、ナイツは心の何処かでそう感じていた。
それを涼周は簡単に……他人の下着をフリフリさせて踊るのが尊厳的に簡単かどうかは分からないが、兎に角お互いの確執を下着と一緒に振り払っている。
(まぁ、良いか。……楽しそうにやってるし)
自分には真似できない、真似したくない激励方法に、ナイツは半ば感心を示す。
何も考えずにいる様でいて、弟にもちゃんとした考えがあるのだろうと。
(ここは涼周に任せて、韓任の所へ行くとしよう)
涼周と同じく、俗に言うノーパン状態で甲板を後にするナイツ。
先ず司令塔に赴き、そこに韓任が居ないと分かるや、次は彼の私室へ向かう。
「韓任、少しだけ……。……ごめん、お休み中だった?」
扉を三回叩きはしたが、返事がない為にゆっくりと開けてみれば、韓任は寝台の上にあった。
「暫く仮眠しておりました。もう大丈夫です」
「いや、いきなり来て悪かったね。そのまま休んでくれて構わないよ」
「その内に起きようと思っていましたので、お気遣い無用です。……ナイツ様は何か用事があって参られたのではありませんか?」
寝台から巨体を起こし、応対セットを用意しだした韓任。
ナイツは示された席に腰掛け、先に出されたお茶菓子を手に取った。
二分も経たずにお茶も出され、韓任の好意に甘えたナイツは彼に先程の出来事も交えて涼周軍の事について相談する。
「……成る程、上の方から何やら声が聞こえると思えば、その様な事が起きていましたか。……では私の考えを話しましょう。私は精鋭による作戦決行を望みます。故に、涼周殿に忠誠を誓った者を楽瑜隊の中から選りすぐり、それら少数精鋭を用いるべきだと思います」
韓任は一切の遠慮も迷いもなく、はっきりと言う。
「カイヨー兵が中距離の戦闘に特化しているのは、過去の戦いを見る限り疑いようもありません。飛昭殿や侶喧殿の直下兵は職業軍人に近い為、彼等に至っては呑み込みも早く、ここ数日で水上戦に慣れてきています」
「なら彼等だけでも作戦に従事してもらえば……」
「飛刀香神衆直々の兵士は実力が高い反面、軍人特有の頭の固さがあります。飛蓮殿と同じく、楽瑜隊との協力は拒むでしょう。……私が思うに、上で行われている親睦会に参加している者はカイヨー民兵が殆どではありませんか?」
「…………」
ナイツは押し黙った。
韓任の言う事が恐らく正解だと感じた故に、返す言葉が見付からなかったのだ。
「カイヨー民兵も強者揃いではありますが、永らく平地での戦いを主とした彼等では水上戦の経験不足が否めません。……侶喧殿が言っておりましたが、飛刀香神衆の水軍戦力は殷撰が担っていた程だと。それから導き出すに、カイヨー兵を水上戦に動員させては足手まといとなり、我々まで苦戦する事態となりましょう」
ナイツ以上に輝士隊を鍛練し、真の精鋭を作り上げている軍事の玄人たる韓任からしたら、現状のカイヨー兵は実戦では半分すら力を発揮できないと見ていた。
「……もし用いるならば……我々輝士隊と楽瑜隊が前衛の全てを受け持ち、上陸後はカイヨー兵を主力にして押し進める事ですが、それでは敵の裏をかくのに時間が掛かります。……最後に、私以上に知恵のある方々にも意見を求めるべきと思います」
「うん、分かった。明日にでも軍師に書簡を送ってみる。……相談に乗ってくれてありがとう。ゆっくり休んでくれ。……因みに聞いた話だと、羊を数えると眠れるみたいだよ」
意見を聞き終えた所で、ナイツは席を立って礼を述べた。
韓任は軽く会釈して返しつつも、ちょっとした気晴らしとばかりに冗談を口にする。
「羊ですか……いえ、たまには他のものを数えてみましょう。例えば、ナイト様とか」
「父上を数えるってどんな状況だよ……何か悪夢見そうで嫌なんだけど」
返された言葉にナイツは苦笑いを浮かべて身を引くが、彼に構わず韓任は数えだした。
「ものは試しです。では……ナイト様が一匹」
ナイツの脳裏に、酒瓶片手で横たわる父の姿が浮かび上がる。
(おぅ、寝るのか? お休み里見民部)
「ナイト様が二匹」
(おぅ! 俺がもう一人居るぜ、これ凄くね!)
(おぅ、誰だお前。おぅ! 俺か! これほんと凄くね!)
酒とともに分身した。……まあ、ナイトならば案外あり得そうな話ではある。
「ナイト様がー三匹」
(おーぅ、もう一人俺が増えたぜ! 何だこれ、三匹のナイトか)
(おぅおぅ! 初っぱなから鋼鉄の家作ったぜ! 来るなら来やがれ狼野郎!)
(おぅ、俺ども! 狼狩ってきたぜおぅ! 酒盛りしようぜおぅ!)
最初のナイトが踊りだし、分身して現れた二人目のナイトが一瞬で鋼の家を建造。そこへ狼を大量に狩ってきた三人目のナイトが登場。何喰わぬ顔で宴会の準備を行う。
「ナイト様が四匹」
(おーぅ、ナイト四天王結成だぜ!)
(おぅおぅ、そうは言っても俺ばっかで花がないな!)
(おぅ、いいじゃねぇかおぅ! 戦力は大幅強化だぜおぅ!)
(おぅおぅおぅおぅ! ここは俺が奥の役をやるぜ! 見ろやこの鍛えられし胸筋を!)
宴もたけなわ、即座に結成されたナイト四天王が羽目を外して乱舞する。……地獄だ。
「ナイト様がご――」
「あぁもういいよ! おぅおぅ煩いよ! 素振りでもやってろ!」
尚も数える韓任に対し、机を思いっきり叩いて制止を促すナイツ。
これ以上の地獄は聞きたくも見たくもないのだ。
「ふふ、今さっき寝ろって……!」
「素振りでもしてろ!」
韓任は元気を取り戻したナイツの姿を見て、頬を緩めたという。
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