魔性少女カスミちゃん～隣の刹那君は私に惚れない～

二性 ピンク色の日常

17

『次のニュースです。今日、午後二時頃、ＳＭ高等学校前駅で鬼頭生久さんが線路に落ちて死亡しました。
　近くにいた人達によると、鬼頭《きとう》さんは花柄のハンカチを線路に落とし、それを取りにホーム降り、上がる際、電車に跳ねられたということです』

　これは今日使った駅での事故らしい。人身事故はよくあることだ。よくあったらダメだけどね。
　けど、駅という場所は自殺するのにも、人を落として殺すのにも持ってこいの場所だから、毎年のように千件以上の人身事故が起きる。
　それにしても、今回は珍しいケースだ。ハンカチを拾うために自分で線路に降りて死ぬなんて……。
　それほど、そのハンカチが大切だったのだったのかな？

「う、そ……」
「かーか？　どうしたの？」

　嘘じゃないの？　夢じゃないの？　幻想じゃないの？

「ねぇー、そんな顔するなんてかーからしくないぞ～」
「……」

　汗が止まらない。鳥肌が立って寒気がする。
　それに今日の朝のことがフラッシュバックする。この感覚は……。
　信じられない、いや、信じたくない。私は絶対に信じないんだから！

「かーか？　このニュースはよくある人身事故だよ？」

　最初は私もそう思った。だから、テレビを見ないで耳だけでテレビの音を聞いていた。
　けど、「花柄のハンカチ」「笑う老人の写真」を見て思い出した。
　この老人は私が朝に助けて、花柄のハンカチを渡した老人ってことを。

「私がこの老人を殺した……」
「かーかってば、何言ってるの？」

　そのままの意味だよ、そうちゃん……。
　私が朝、駅で助けてハンカチを渡したの。
　私が助けなければ、私がハンカチを渡してなければ、この老人は亡くなっていなかった。

「私がハンカチを渡したから……」
「何で？」
「老人が転んで、それで……」
「かーかはそれが間違えだと思うの？　その行為が老人を苦しめたと思ってるの？」
「殺したんだから苦しめたんだよ……」
「けど、そのハンカチを渡した時はどうだった？　苦しんでた？」
「その時は「ありがとう」って笑ってくれたよ」
「じゃあ、その行為は正解だね！」
「え？」
「『え？』じゃなくてかーかはその老人を喜ばせるためにしたんだから、それで人が運悪く死んだとしても正解なんだよ。かーかは悪くない！」
「そ、そうちゃん！」

　何でこんな私をそうちゃんは優しくしてくれるの……何で、何で？

「『何で？』って、そらかーかは正しいことをしたからだよ！」

　そうちゃんはそう言って私の頭を撫でる。
　その手は小さくて温かかった。そして私の心を癒してくれた。

「って、私、『何で？』って声に出してた？」
「小さい声でね！　かーかもそんな顔するんだね！」

　あ、家での私のお姉さんキャラがこれでは崩れてしまう。ここは切り替えて……

「私はいつも元気モリモリだよ！　さっきのは見間違え！　忘れなさい！」

　少し無理矢理すぎたかな？

「かーかはやっぱりその顔だね！」
「そうでしょ！」

　何とかセーフ！　セーフにしとこうっと！
　それにしても、なんか今日はそうちゃんが頼りになる日だな。私が妹みたいになっちゃってるよ。おかしいな？

「お皿洗うから食べ終わったら、キッチンに持ってきてね！」
「はーい！」

　そうちゃんの食べる姿を見ると安心する。いつも見ているものだから、なんか安心感があるというか、可愛いというか。結論、可愛いのか！
　あんなにいっぱい口の中にハンバーグを入れちゃって！　あーいうところは昔から変わらないんだから！

「かーか、お皿！」
「この野菜は？」
「かーかへのプレゼントだよ！　あーん！」
「あーん！」

　ってハメられた。つい、あの表情で「あーん」とされると口が勝手に開いて……。

「こーら！　野菜も食べないと大きくなれないよ！」
「大丈夫だもんねーだ！」

　可愛すぎてこれ以上怒れない。もう反則だよ。反則、ダメ、絶対！
　まぁ、今日は甘く見とくか。あ、今日もか。
　それより今日はかなり疲れたし、パパッと洗い物を終わらせてお風呂でゆっくりしよーっと！
　お風呂のボタンをポチっと！

「フーフフン♪　フーフフン♪　フーフフフ、フフフフフ♪　フーフ、フフフフフーフフフフン♪」

　そうちゃん♪　そうちゃん♪　笑顔が可愛いね♪　そーよ、チンコも可愛いよ♪
　心の中ではこんな感じで自作曲を歌ってまーす！　いいでしょ！
　え、音程に聞き覚えあるって？　そこは気にしない、気にしない！
　それより鼻歌を歌うとなんかホッコリとした気分にならない？　なるでしょ？
　違う？　あ、もしかして、ホッコリしているから鼻歌を歌うのか！　
　けど、自分で曲を作るのは楽しいよ。みんなも暇な時に作ってみて。