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六性 笑顔がトレードマークの警察官
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「あ、あの工口翔朱未と言います」
「えっと、工口様ですね。少々お待ちください」
窓口に名前を言って椅子に腰を下ろす。
それにしても何度来ても警察署は緊張する。
この怖いほどの静寂とピリッとした空気感が、私は悪いことをして警察署に来たのではないかと錯覚してしまう。
毎回、被害者として来るんだけどね。
「お、待っていたよ!」
「こんにちは。遅くなってすみません」
「全然、さっきまでお弁当食べていたから丁度って感じだよ」
「それなら良かったです」
「じゃあ、部屋で話そうか。ついてきて」
「はい」
相変わらず、この男性警察官は元気だ。明るい笑顔だし、この空気感とは全く合わないけど。
まぁ、そこがイイところなのかもしれないね。
部屋に着き、私は誘導されるままに椅子に腰を下ろす。
「ゴメンね。汚い場所で」
「いえ、全然綺麗ですよ。ここはあの――」
「あ、僕の仕事部屋。困ったのは名前を知らないからでしょ!」
意外と察しのイイ人だな。まさか、千心理論の持ち主では……。
いや、ないね。頭の作りが千心とは違い過ぎるよ。
「はい、まだ聞いてなかったので」
「僕は下毛空瑠《しもげそる》だよ!」
「下毛さんですね。よろしくお願いします」
「そんなに改まらなくてもいいよ?」
「いえ、年上ですし、警察官としてもお世話になっているので」
「そうかい! いつでも下の名前で呼んでくれて構わないからね!」
「まぁ、考えときます」
てか、名前なんだよ。
下毛空瑠? 絶対にパイパンでしょ!
私はちゃんと生えてるよ。よくヤるから手入れはしているけどね。
「下毛さん、その……書類は?」
「そんなに急がなくても、僕は今日の仕事は終わっているし! 工口さんはコーヒーか紅茶どっちがいい?」
「あ、じゃあ、紅茶でお願いします」
結構、丁寧におもてなしをしてくれるんだな。
イイ人すぎて逆に怖いけど、警察官で弁護士だからこれぐらいは普通って感じかな?
ハイスペックだから世界観の違いが大きくて、変な感じがするよ。
「こないだは驚かしちゃってごめんね」
「いや、私的には安心したというか、なんというか……」
「震えていたもんね。あそこお化けが出るらしいから、あの時間に女の子一人は流石に怖いよね。僕もよくパトロールするんだけど、未だに怖いよ、あそこは!」
「そうですね。近道だからって通ったんですけど、意外と長くて驚きました」
「はい、紅茶」
「ありがとうございます」
綺麗に透き通った色、鼻を通る香り、紅茶のイイところを全て出している。
それにこのティ―カップは世界的有名ブランドの物。紅茶のためだけに作られた一個数万円はくだらない品だ。
やはりこの人はかなりの人かもしれない。
話してみると喋りやすくて、明るい笑顔がトレードマークだけど、そこらへんのヘラヘラした若者とは違う。
「それで紅茶はどうかな?」
「とても美味しいです」
「それはよかった。僕の好みで作ってもらったオリジナル紅茶なんだ」
この人が自分のために作った世界で一つだけの紅茶。
確かに店に売っている紅茶とは格別だ。
「紅茶をオリジナルで作るなんて凄いですね」
「親がそっち系の仕事をしているから、たまたま興味を持っただけだよ」
ティ―カップを片手に、下毛さんは書類を私の前に置く。
「これが書類だよ。書いたことある?」
「はい、痴漢は五回目なので……」
「そ、そんなにか。辛かっただろうに」
別に体を触られるだけで、慰謝料が入ってくるからそこまで辛くない。
なんて、言えるか。ここは清楚系女子らしく……
「かなり怖かったです。男の人は私のどこがいいのでしょうか?」
「……」
「下毛さん?」
「あ、そうだね。痴漢者は結構誰でも触るから運が悪かったんじゃないかな?」
「そ、そうですか……」
なんか動揺しているけど、どうしたのかな?
「あ、書類だけど――」
話を逸らされた。目は泳いでいるし、私変なこと言ったかな?
「名前、住所、電話番号、慰謝料の振込先をお願いね」
もうこれを書くのも慣れたものだな。
すらすらと手が進むよ。いいことなのか、悪いことなのか……。
「じゃあ、最後にハンコをここに」
「はい」
ハンコは一度目の慰謝料の書類を書く時に忘れたから、五度目は流石に忘れない。
失敗から私は学んだからね。ハンコは重要ってね。
「これで書類の方は終わりだね。あ、慰謝料なんだけど、今回はかなり酷い痴漢だったから五十万ほどだけど大丈夫かな?」
お主やりよるの~。いつも三十万だったのに、今回は二十万プラスか。
やっぱりこの人に私担当の警察官兼弁護士になってもらおうかな?
手際もいいし、慰謝料も増やしてくれたし、紅茶も美味しかったし。
「十分です。あ、ありがとうございます」
「いえいえ、弁護士として当たり前だよ!」
笑顔が最高だしね。
「えっと、工口様ですね。少々お待ちください」
窓口に名前を言って椅子に腰を下ろす。
それにしても何度来ても警察署は緊張する。
この怖いほどの静寂とピリッとした空気感が、私は悪いことをして警察署に来たのではないかと錯覚してしまう。
毎回、被害者として来るんだけどね。
「お、待っていたよ!」
「こんにちは。遅くなってすみません」
「全然、さっきまでお弁当食べていたから丁度って感じだよ」
「それなら良かったです」
「じゃあ、部屋で話そうか。ついてきて」
「はい」
相変わらず、この男性警察官は元気だ。明るい笑顔だし、この空気感とは全く合わないけど。
まぁ、そこがイイところなのかもしれないね。
部屋に着き、私は誘導されるままに椅子に腰を下ろす。
「ゴメンね。汚い場所で」
「いえ、全然綺麗ですよ。ここはあの――」
「あ、僕の仕事部屋。困ったのは名前を知らないからでしょ!」
意外と察しのイイ人だな。まさか、千心理論の持ち主では……。
いや、ないね。頭の作りが千心とは違い過ぎるよ。
「はい、まだ聞いてなかったので」
「僕は下毛空瑠《しもげそる》だよ!」
「下毛さんですね。よろしくお願いします」
「そんなに改まらなくてもいいよ?」
「いえ、年上ですし、警察官としてもお世話になっているので」
「そうかい! いつでも下の名前で呼んでくれて構わないからね!」
「まぁ、考えときます」
てか、名前なんだよ。
下毛空瑠? 絶対にパイパンでしょ!
私はちゃんと生えてるよ。よくヤるから手入れはしているけどね。
「下毛さん、その……書類は?」
「そんなに急がなくても、僕は今日の仕事は終わっているし! 工口さんはコーヒーか紅茶どっちがいい?」
「あ、じゃあ、紅茶でお願いします」
結構、丁寧におもてなしをしてくれるんだな。
イイ人すぎて逆に怖いけど、警察官で弁護士だからこれぐらいは普通って感じかな?
ハイスペックだから世界観の違いが大きくて、変な感じがするよ。
「こないだは驚かしちゃってごめんね」
「いや、私的には安心したというか、なんというか……」
「震えていたもんね。あそこお化けが出るらしいから、あの時間に女の子一人は流石に怖いよね。僕もよくパトロールするんだけど、未だに怖いよ、あそこは!」
「そうですね。近道だからって通ったんですけど、意外と長くて驚きました」
「はい、紅茶」
「ありがとうございます」
綺麗に透き通った色、鼻を通る香り、紅茶のイイところを全て出している。
それにこのティ―カップは世界的有名ブランドの物。紅茶のためだけに作られた一個数万円はくだらない品だ。
やはりこの人はかなりの人かもしれない。
話してみると喋りやすくて、明るい笑顔がトレードマークだけど、そこらへんのヘラヘラした若者とは違う。
「それで紅茶はどうかな?」
「とても美味しいです」
「それはよかった。僕の好みで作ってもらったオリジナル紅茶なんだ」
この人が自分のために作った世界で一つだけの紅茶。
確かに店に売っている紅茶とは格別だ。
「紅茶をオリジナルで作るなんて凄いですね」
「親がそっち系の仕事をしているから、たまたま興味を持っただけだよ」
ティ―カップを片手に、下毛さんは書類を私の前に置く。
「これが書類だよ。書いたことある?」
「はい、痴漢は五回目なので……」
「そ、そんなにか。辛かっただろうに」
別に体を触られるだけで、慰謝料が入ってくるからそこまで辛くない。
なんて、言えるか。ここは清楚系女子らしく……
「かなり怖かったです。男の人は私のどこがいいのでしょうか?」
「……」
「下毛さん?」
「あ、そうだね。痴漢者は結構誰でも触るから運が悪かったんじゃないかな?」
「そ、そうですか……」
なんか動揺しているけど、どうしたのかな?
「あ、書類だけど――」
話を逸らされた。目は泳いでいるし、私変なこと言ったかな?
「名前、住所、電話番号、慰謝料の振込先をお願いね」
もうこれを書くのも慣れたものだな。
すらすらと手が進むよ。いいことなのか、悪いことなのか……。
「じゃあ、最後にハンコをここに」
「はい」
ハンコは一度目の慰謝料の書類を書く時に忘れたから、五度目は流石に忘れない。
失敗から私は学んだからね。ハンコは重要ってね。
「これで書類の方は終わりだね。あ、慰謝料なんだけど、今回はかなり酷い痴漢だったから五十万ほどだけど大丈夫かな?」
お主やりよるの~。いつも三十万だったのに、今回は二十万プラスか。
やっぱりこの人に私担当の警察官兼弁護士になってもらおうかな?
手際もいいし、慰謝料も増やしてくれたし、紅茶も美味しかったし。
「十分です。あ、ありがとうございます」
「いえいえ、弁護士として当たり前だよ!」
笑顔が最高だしね。
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