魔性少女カスミちゃん~隣の刹那君は私に惚れない~

三一五六(サイコロ)

文字の大きさ
51 / 65
八性 終わりの始まり

50

しおりを挟む
 学校を出た私は買い物のために家とは逆方向に進む。
 買い物には自転車で行くことが多いが、月曜日だけは学校からそのまま行くことにしている。
 その理由は簡単、月曜日だけが六時間目までだからだ。
 他の日は進学校ということもあり、七時間目までが当たり前。
 だが、部活には入っていないので、他の生徒よりかはまだ楽な方である。
 高校二年になってからもう三週間が経ち、私と同じ時間に帰っていた新入生達の姿はもうない。
 この学校のほとんどの生徒が履歴書のために部活に入る。だから、私が帰る時間にはあまり生徒はいない。
 それは周りを見ればすぐに分かる。
 住宅が並ぶ道路に一人歩く私。時々、おじいさんやおばあさん、犬を散歩する人が目に入るがそれは一瞬のこと、すぐに目の前は道路一色になる。
 そんな話は置いといて、今は……

「やっと、そうちゃんにビーフストロガノフを食べてもらえるぅ~」

 小さくスキップしながら、独り言を一つ。
 私が独り言を言うのは、よくあることなので気にしないでね。
 それより今日は先週とは比べものにならないレベルで楽しい。
 だって、マナが戻ったんだよ。しかも、レベルアップして!
 あんなハイテンションのマナは初めて。可愛くて、可愛くて、もう最高~。
 それと大志君は性欲お化けにはなってなかったね。
 普通のメールだったし、明日はデートするみたいだし、本当に何かしらの家の用事があったのかな?
 まぁ、そういうことにしておこう!
 ――セックスにハマったのではないかという結論に辿り着いた。
 私はそんなことを思ったことなんてないよ? 多分……。
 チッ、忘れようと思ったことほど、なぜか頭に残るんだよな。
 大志君は純粋! 大志君は純粋!
 って、私とヤった時点で純粋ではないか。
 まぁ、マナが元気になったから純粋でも、純粋じゃなくても良しとしよう。
 それにしても、久しぶりに乙女のマナを見ると恋っていいなーって少し思っちゃったよ。
 千心も真心も恋をしているみたいだし……いいな……。
 まぁ、そんなことを思っても恋なんかできないけどね。
 私を好きになる男子は星の数ほどいるけど、それは私が魔性持ちだからだ。
 私のことなんか何も知らなくても、外見を見て、少し喋ってみるだけで、好きになってしまう。
 だから、本物じゃない気がする。
 私のことが好きなのは分かるけど、私は誰一人として好きになれない。
 それどころか、そんな男子達は人間の形をしたATMとしか私は認識できない。
 セックスという行為をすれば、お金を下ろすことができる機械。
 それが私にとっての男という存在。
 ……こんな私なんかに恋などできるのだろうか?

「……ンッ、たすけ――」

 ヤバい、このままじゃ……どうにかしないと……。
 早く、早く、早く逃げないと!
 けど、手も足も力が入らない……よ。ダメだ、もう意識が……。 
 私はそのまま気を失った。

「……ん? ここは……」

 目を覚ますとそこは真っ暗。おそらく目隠しをされているのだろう。
 口はハンカチのようなもので抑えられ、手と足はロープのようなもので縛られていて身動きが取れない。
 唯一、体に伝わってくるのはふわふわとした柔らかさだけ。
 それ以外はどこにいるのか、誰といるのか、何をされているのかなど、何も分からない状態で怖い。
 本当に怖い……。
 恐怖のあまり徐々に心拍数があがる。

「お、おはよう。かすみ」

 その声は……

「僕だよ、僕! 薫だよ!」

 それを聞いた途端、体中に寒気が走る。

「ほら、目隠しとハンカチを取ってあげるよ」

 その瞬間、視界が明るくなる。だが、息が楽になることはなかった。
 だって、ぼやけながらも目の前にいるのは『あの男――薫』なのだから。

「何でそんなに怖がってるの?」
「……こ、ここはどこ?」
「そう焦ることはない。そして怖がることもない。だって、僕がいるのだから!」
「ロープ、このロープ解いてよ」
「それは残念ながらできない。だって、解いてしまったら僕はかすみという名の夢から覚めてしまうからね」

 気持ち悪いほど、大きく変な動作で何かを表現する薫。

「意味の分からないことを言わないで! 私をどうするつもりなの?」

 震える体を丸めて威嚇するように大きな声を出す。
 けど、声音は声量とは逆で弱々しく、私は今にも泣きそうだった。

「どうってかすみとあの時の夢を見るだけさ! かすみも覚えているだろ?」
「……」
「あの日、僕らは一つになった! 僕はかすみを気持ち良くし、かすみは僕を気持ち良くした。声を出して、抱き合い、僕のここがかすみのそこに入った! 本当に素晴らしかったよ」

 薫は自分のチンコを指差し、私のマンコにも指差した。
 その目はあの時と同じで私しか見えていない。

「だから、今日! 今からあの時の快感を僕と味わおうじゃないか!」
「自分がやってること分かってる? 私を誘拐して今から無理矢理襲おうとしているのよ?」
「何を言っているんだ、かすみ! かすみは昨日、夢の中で『いいよ』と言ってくれたじゃないか! 嘘はいけないよ! 僕は、僕は! かすみのことを愛しているんだ! そしてかすみも僕のことを愛しているじゃないか!」

 もう何を言っても通じない。ただの猿だ。
 自分のことだけしか見えていなくて、現実と夢の区別もついていない。
 そして今、自分が悪いこと――犯罪をしていることにも全く気付いていない。
 こんなのは人間ではない。恋によって生まれた……バケモノ。
 残念なことに、魔性によって私はついにバケモノを作ってしまったようだ。

「ねぇ、今やめたらまだ間に合うよ? 私はこのことを誰にも言わないから、お願いだから解放してくれないかな?」
「間に合う? 解放? 言っていることが分からないんだけど。僕はかすみの望むようにしてあげただけだよ? かすみはどうしてしまったんだ!」

 どうしたってこっちのセリフだよ。
 それより今からこのバケモノをどうすればいいのだろうか?
 私の脳はまだ冷静さを失ってはいないが、体の震え、心臓の鼓動、筋肉の硬直はかなりのものになっている。
 だから、動けない。
 まず、縛られている時点で無理なんだけどね。
 やっぱり今の私には説得という道しか残ってないみたい……はぁ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...