ハロルド王子の化けの皮

神楽ゆきな

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「ナディア様……?
大丈夫ですよ、返事は今する必要はありません。
僕としても、じっくりと考えて欲しいですからね」

レナードの声に、ナディアはハッと我に返った。


いったい私は何を考えていたの!


少しでも心が揺れてしまった自分が信じられなかった。
こんな自分は、本当の自分ではないと思いたかった。


きっと自分で思っている以上に、ショックが大きすぎたんだわ……。


強く頭を振って、まとわりついてくる様々な考えを振り払うと、ナディアは真正面からレナードを見つめた。

「いいえ……レナード様。
返事は今させていただきます。
私の心は決まっておりますから」

そして、ゴクリと喉を鳴らすと、

「私は……」

と言いかけたのだったが。

「なにを2人でコソコソと話しているんだ?」

ナディアのものでも、レナードのものでもない声が唐突に飛び込んできたものだから、ナディアは口を開けたまま固まってしまった。
レナードも驚いて目を見開いている。

しかし驚きはしたものの、ナディアは振り向かなくとも、その声の主が誰なのか分かっていた。
だから、今はその顔を見たくはなくて。
うつむいたまま頑なに黙り込んでしまう。

しかしその声は

「おい、聞こえてるんだろ!
無視するなよ!」

と、ますます乱暴な口調になって迫ってくる。
そしてグイッと腕をつかまれたものだから、ナディアは反射的に顔を上げてしまった。

「どこ行ったのかと思ったら……ったく。
探したぞ」

こちらをスゴい目で睨んでくるハロルドと目が合った。
慌ててナディアは、再び顔を伏せる。

しかしハロルドの手が強引に彼女の顎をつかむと、彼の方に顔を上げさせた。

「無視すんなって言ってるだろうが!」
「……無視なんかしていません。
驚いてしまって、声が出なかっただけです」

ナディアはかすれた声で答えた。

その姿を見れば、ハロルドがシャルロッテと抱き合っていた光景が鮮やかに甦ってくる。
あまりに興奮していたせいだろうか。
湧き上がってくる涙をこらえることが出来なかった。

「……な、なに泣いてるんだ」
「泣いてなんか……」

ナディアは慌てて目元を押さえたが、そう言っている間にも、涙が指をすり抜けてこぼれ落ちていく。

動揺したらしいハロルドが手を離した隙に一歩下がると、レナードの手が優しく両肩にかかるのを感じた。

「大丈夫ですか?
息を深く吸って下さい。落ち着きますからね」
「ええ……ありがとうございます」

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