49 / 62
49
しおりを挟む
ナディアがレナードに微笑みかけるのを見て、ハロルドは眉を吊り上げた。
そして感情のままに怒鳴り声を上げようと、大きく口を開いた。
が、ナディアの悲しそうな目を見て、なんとか乱暴な言葉は飲み込むと、大きく息を吐き出した。
「はあ……ったく。
とにかく、戻るぞ。
まだ帰るには早いしな」
ハロルドはがしがしと頭をかいてから、ナディアへと手を伸ばした。
ナディアはぼんやりしながら、近づいてくるハロルドの腕を見つめていた。
考えなければならない事が、あまりに多すぎた。
けれども今は……ハロルドのこともレナードのことも考えたくなくて。
聞くともなしに彼の言葉を聞いていただけだったのだが。
「たとえ『形だけ』とはいえ、俺たちは婚約者なんだ。
とにかく周囲には、仲睦まじい様子を見せる必要がある」
そう彼が言ったのを聞いた時、ナディアは考える前に、反射的に動いていた。
彼女を苦しめている『形だけ』という言葉に、思わず反応してしまったのである。
ナディアは、伸びてくるハロルドの手を振り払い、後ずさった。
「なっ。……おい!」
怒りに顔を赤くしたハロルドが、再び手を伸ばしてくるのに気がついて、ナディアはギョッとして身をすくめた。
ところが、彼の手が腕に届くよりも早く、レナードの手がそれを妨げたのである。
「ハロルド、乱暴は良くないよ。
女性にはもっと優しくするものだ」
至って冷静にレナードが言うのを聞いて、ナディアはホッと息をついた。
しかしそれを聞いたハロルドは、大人しくなるどころか、頭に血がのぼったらしい。
しばらくの間、物凄い形相でレナードを睨みつけていたが、やがて視線をナディアへと移して呟いた。
「……そんなに優しい男が好きか」
「え?あ、あの……私は……」
ナディアはモニョモニョと言いながら、ふと、もう自分の本当の気持ちを言ってしまおうかと思いついた。
先程レナードに言いかけた、自分の本心を、である。
もちろんそれは、ハロルドのことが好きだという気持ちのことだ。
このまま自分が何も言わなければ、彼にとって自分はいつまでも『形だけ』の婚約者のままに違いないのだから。
ハロルドは一笑に付すかもしれない。
レナードは悲しむかもしれない。
それでも……素直な気持ちを、今なら言えそうな気がしたから。
ナディアはピンと背筋を伸ばして、まっすぐにハロルドを見つめた。
「あ、あの……私は……」
そして感情のままに怒鳴り声を上げようと、大きく口を開いた。
が、ナディアの悲しそうな目を見て、なんとか乱暴な言葉は飲み込むと、大きく息を吐き出した。
「はあ……ったく。
とにかく、戻るぞ。
まだ帰るには早いしな」
ハロルドはがしがしと頭をかいてから、ナディアへと手を伸ばした。
ナディアはぼんやりしながら、近づいてくるハロルドの腕を見つめていた。
考えなければならない事が、あまりに多すぎた。
けれども今は……ハロルドのこともレナードのことも考えたくなくて。
聞くともなしに彼の言葉を聞いていただけだったのだが。
「たとえ『形だけ』とはいえ、俺たちは婚約者なんだ。
とにかく周囲には、仲睦まじい様子を見せる必要がある」
そう彼が言ったのを聞いた時、ナディアは考える前に、反射的に動いていた。
彼女を苦しめている『形だけ』という言葉に、思わず反応してしまったのである。
ナディアは、伸びてくるハロルドの手を振り払い、後ずさった。
「なっ。……おい!」
怒りに顔を赤くしたハロルドが、再び手を伸ばしてくるのに気がついて、ナディアはギョッとして身をすくめた。
ところが、彼の手が腕に届くよりも早く、レナードの手がそれを妨げたのである。
「ハロルド、乱暴は良くないよ。
女性にはもっと優しくするものだ」
至って冷静にレナードが言うのを聞いて、ナディアはホッと息をついた。
しかしそれを聞いたハロルドは、大人しくなるどころか、頭に血がのぼったらしい。
しばらくの間、物凄い形相でレナードを睨みつけていたが、やがて視線をナディアへと移して呟いた。
「……そんなに優しい男が好きか」
「え?あ、あの……私は……」
ナディアはモニョモニョと言いながら、ふと、もう自分の本当の気持ちを言ってしまおうかと思いついた。
先程レナードに言いかけた、自分の本心を、である。
もちろんそれは、ハロルドのことが好きだという気持ちのことだ。
このまま自分が何も言わなければ、彼にとって自分はいつまでも『形だけ』の婚約者のままに違いないのだから。
ハロルドは一笑に付すかもしれない。
レナードは悲しむかもしれない。
それでも……素直な気持ちを、今なら言えそうな気がしたから。
ナディアはピンと背筋を伸ばして、まっすぐにハロルドを見つめた。
「あ、あの……私は……」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
163
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる