私は今日、好きな人の弟と婚約致しました

ゆきな

文字の大きさ
9 / 41

しおりを挟む
キャンディスは、チラリとセオドアの隣の女性に目を向けた。
すると彼女も、こちらを見てにっこりと微笑んだ。

その表情の美しいこと。
セオドアの笑顔は眩しいほどだと常々思っていたキャンディスだが、彼女の微笑みにも全く同じ感想を抱いたほどである。

艶々とした栗色の髪。
髪と同じ色の大きな瞳。
陶器のような白い肌。

全てが完璧に思えて、思わず気後れしてしまったキャンディスに、セオドアが彼女を紹介してくれた。

「こちらはグレース・ローガン侯爵令嬢。
僕の婚約者だ」
「こんにちは、キャンディス様。
どうぞよろしくお願い致します」

グレースに頭を下げられて動揺したキャンディスは、すっかり早口になりながらもなんとか答えた。

「こ、こちらこそ、よろしくお願い致します!」

こんなに美しい女性に見つめられていると思うだけで、変な汗が浮かんでくる。
しかしそんな中でも、隣に立つセオドアがさりげなくグレースの腰に手を当てるのを、キャンディスは見逃さなかった。
そしてグレースが嬉しそうに微笑みながら、チラリとセオドアに顔を向けたのも。

なんてお似合いな2人だろう。
キャンディスは、セオドアの隣に立つ自分の姿を想像しただけで、居た堪れなくなってしまった。

セオドアは自分の憧れだ。
しかし隣に立つことを夢には見ても、実際に立てば不釣り合いだということくらい分かっている。
それを改めて実感させられた気がして、キャンディスはどんよりとした気分になってしまった。

「じゃあ、僕らはそろそろ行くよ。
キャンディス、ドミニクと仲良くしてやってね」
「は、はい!もちろんです」

セオドアとグレースが連れ立って行ってしまうのを、キャンディスはいつまでも、うっとりと眺めていた。
まるで絵に描いたよう、というのは、この2人の為につくられた言葉ではないか、とさえ思える美しさだ。
あまりにお似合いで、悔しいと思うことすら出来ない。

完全に目をハートマークにして彼らの背中を見つめていたキャンディス。
しかし背後でボソリと

「だから、見すぎなんだよ。
まったく、いつもいつも」

と声がしたものだから、ビクリと肩を揺らした。

振り向くまで、完全に忘れていたのである。
ドミニクが隣にいたことを。
ドミニクはそれを知ってか知らずか、わざとらしく大きなため息をついてから言った。

「本当に飽きないなあ、お前も。
あんな奴のどこがそんなに良いわけ?」
「あんな奴だなんて!
セオドア様の良いところなんて、数えきれないくらいあるじゃないですか!
まず……」

と人差し指をピンと立て、意気揚々と言葉を続けようとする。
ところがドミニクが、しかめ面で手をヒラヒラと振り、それを遮った。

「あーあーあー!
分かったよ!そんなの聞きたくないから。
ストップ、ストップ!」
「質問してきたのはそっちでしょう!?」

キャンディスは呆れて、肩をすくめた。
が、ピンときてニヤリとすると、俯き加減の彼の顔を覗き込むようにしながら言ったのである。

「だったら聞きますけど、ドミニク様はどんな女性がお好きなのですか?
やっぱりグレース様みたいに素敵な方に憧れたりして?」

こんな質問をしても、ひねくれもののドミニクが素直に答えるとは思えなかった。
それでも、少しでも彼に、いつも意地悪ばかりされているお返しをしてやりたかったのである。

だから、グッと顔を寄せて、彼の表情のほんの些細な変化も見逃さぬように努めたのだったが……

「え?は?」

思いがけず彼が、目をぱちぱちっとさせながら、妙な声を上げたものだから、キャンディスの方が驚いてしまった。
ドミニクは慌てて後ずさると、再びそっぽを向いた。

「え……なんでそんなに動揺するんですか?
もしかして、本当にグレース様のこと……」
「そんなわけないだろう!」

ドミニクが強い口調で言うのを聞いて、キャンディスは黙り込んだ。
しかし素直に納得したわけではない。
明らかに怪しい。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

私、お母様の言うとおりにお見合いをしただけですわ。

いさき遊雨
恋愛
お母様にお見合いの定石?を教わり、初めてのお見合いに臨んだ私にその方は言いました。 「僕には想い合う相手いる!」 初めてのお見合いのお相手には、真実に愛する人がいるそうです。 小説家になろうさまにも登録しています。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに対して、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載しております。

どうやら貴方の隣は私の場所でなくなってしまったようなので、夜逃げします

皇 翼
恋愛
侯爵令嬢という何でも買ってもらえてどんな教育でも施してもらえる恵まれた立場、王太子という立場に恥じない、童話の王子様のように顔の整った婚約者。そして自分自身は最高の教育を施され、侯爵令嬢としてどこに出されても恥ずかしくない教養を身につけていて、顔が綺麗な両親に似たのだろう容姿は綺麗な方だと思う。 完璧……そう、完璧だと思っていた。自身の婚約者が、中庭で公爵令嬢とキスをしているのを見てしまうまでは――。

結婚して5年、初めて口を利きました

宮野 楓
恋愛
―――出会って、結婚して5年。一度も口を聞いたことがない。 ミリエルと旦那様であるロイスの政略結婚が他と違う点を挙げよ、と言えばこれに尽きるだろう。 その二人が5年の月日を経て邂逅するとき

絵姿

金峯蓮華
恋愛
お飾りの妻になるなんて思わなかった。貴族の娘なのだから政略結婚は仕方ないと思っていた。でも、きっと、お互いに歩み寄り、母のように幸せになれると信じていた。 それなのに……。 独自の異世界の緩いお話です。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

王子と令嬢の別れ話

朱音ゆうひ@『桜の嫁入り』発売中です
恋愛
「婚約破棄しようと思うのです」 そんなありきたりなテンプレ台詞から、王子と令嬢の会話は始まった。 なろう版:https://ncode.syosetu.com/n8666iz/

処理中です...