私は今日、好きな人の弟と婚約致しました

ゆきな

文字の大きさ
10 / 41

10

しおりを挟む
思わず

「えー、本当ですか?
だって……」

と畳み掛けようとしたキャンディスだったが、不意にあることに気がついて、口を薄く開いたまま固まってしまった。

「セオドア様……」

少し離れたところから、セオドアがこちらに向かって手を振っているのが見えたのである。
大きく左右に揺れる手と、弾けんばかりの無邪気な笑顔を見た途端、ドミニクの怪しい行動などどうでも良いことに変わってしまった。

嬉しさのあまり、反射的に手を振りかけたが、すんでのところで踏みとどまった。

すぐに気がついたのだ。
彼が手を振っている相手は自分ではない。
ドミニクだろうということに。

まさか自分に手を振ってくれるはずなどないではないか。
キャンディスは少しでも期待してしまった自分を情けなく思いながらも、急いでドミニクの腕をつついた。

「ほら、セオドア様が手を振ってますよ」
「だから?」
「だからって……手を振り返してあげなくてよろしいのですか?」
「いいんだよ。そんなことする必要はない。
……それに俺に振ってるわけじゃないだろうさ」
「え?すみません、聞き取れなくて。
なんですか?」

最後の方はほとんど聞こえないくらいの小声だったものだから、キャンディスは思わず聞き返した。
が、ドミニクは答える気などないらしい。
固く唇を結んだまま目を閉じてしまった。

「ほら、ぶつぶつ言ってないで振り返してあげてくださいよ。
そうすればセオドア様もお喜びになりますよ、絶対」
「……いちいち、うるさいやつだな」

と、不機嫌な顔で腕組みまでし始めたドミニクだったが、急に何を思ったか、キャンディスの腰に手を回すと強引に抱き寄せてきたのである。

「きゃっ……な、なにするんですか!」
「ああだこうだと、うるさいから悪いんだろう。
こうすれば、さすがに黙り込むかと思ってさ」
「わ、分かりました!
静かにします!静かにしますから、離して下さいっ。
誰かに見られでもしたら……」
「それがうるさいっていうんだ。
それに、ここにいれば意外と目につかないから大丈夫だろ。
静かにさえしてれば、だけどな」

確かに2人が立っているのは、部屋の隅。
しかも大きな柱の影なものだから、騒ぎさえしなければ人目にはつきにくい。
しかし……

「ほ、他の誰かが気づかなくたって、セオドア様が気づきますよ!
だって今もこちらを見て……」

キャンディスがチラリと見れば、セオドアはまだ手を上げたままこちらに顔を向けていた。
が、何か不穏な空気を感じたのだろうか。
表情こそ笑顔のままではあったが、そのまま固まってしまっている。

「本当に見られてますよ!
ちょ、ちょっと!それ以上触らないで!」
「どうしてだ?婚約者なんだから構わないだろう。
いいから、もっと近くに来いよ。
セオドアに見せつけてやろう」
「け、結婚前にそんなことはしてはいけません!」

焦るキャンディスは、もうタジタジだ。
しかしそれが面白くてたまらない、という様子のドミニクは、彼女の腰に回した手を離すどころか、ますます力強く抱き寄せてくる。

その上、反対の手でキャンディスの髪をサラリと耳にかけると、その耳元で囁いた。

「バカ真面目だな、キャンディスは。
でも皆言わないだけで、影では結構好き勝手やってるものだぞ?
キスなんて当たり前。
その先だって……」

ドミニクの熱っぽい声に、キャンディスは耳が真っ赤になってしまった。
今すぐ逃げ出したいのに、足が震えて言うことを聞かない。
その上ガッチリとドミニクに抱き止められているものだから、逃げ出しようがないのである。

ドミニクの唇が、キャンディスの耳から首元にゆっくり下りてくる。
直接唇が触れてはいないというのに、その熱い吐息を感じるせいで、体が勝手に跳ね上がってしまう。

どうすることも出来ぬまま、キャンディスはただただ、きつく目を閉じていることしか出来なかった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

私、お母様の言うとおりにお見合いをしただけですわ。

いさき遊雨
恋愛
お母様にお見合いの定石?を教わり、初めてのお見合いに臨んだ私にその方は言いました。 「僕には想い合う相手いる!」 初めてのお見合いのお相手には、真実に愛する人がいるそうです。 小説家になろうさまにも登録しています。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに対して、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載しております。

どうやら貴方の隣は私の場所でなくなってしまったようなので、夜逃げします

皇 翼
恋愛
侯爵令嬢という何でも買ってもらえてどんな教育でも施してもらえる恵まれた立場、王太子という立場に恥じない、童話の王子様のように顔の整った婚約者。そして自分自身は最高の教育を施され、侯爵令嬢としてどこに出されても恥ずかしくない教養を身につけていて、顔が綺麗な両親に似たのだろう容姿は綺麗な方だと思う。 完璧……そう、完璧だと思っていた。自身の婚約者が、中庭で公爵令嬢とキスをしているのを見てしまうまでは――。

結婚して5年、初めて口を利きました

宮野 楓
恋愛
―――出会って、結婚して5年。一度も口を聞いたことがない。 ミリエルと旦那様であるロイスの政略結婚が他と違う点を挙げよ、と言えばこれに尽きるだろう。 その二人が5年の月日を経て邂逅するとき

絵姿

金峯蓮華
恋愛
お飾りの妻になるなんて思わなかった。貴族の娘なのだから政略結婚は仕方ないと思っていた。でも、きっと、お互いに歩み寄り、母のように幸せになれると信じていた。 それなのに……。 独自の異世界の緩いお話です。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

王子と令嬢の別れ話

朱音ゆうひ@『桜の嫁入り』発売中です
恋愛
「婚約破棄しようと思うのです」 そんなありきたりなテンプレ台詞から、王子と令嬢の会話は始まった。 なろう版:https://ncode.syosetu.com/n8666iz/

処理中です...