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思わず
「えー、本当ですか?
だって……」
と畳み掛けようとしたキャンディスだったが、不意にあることに気がついて、口を薄く開いたまま固まってしまった。
「セオドア様……」
少し離れたところから、セオドアがこちらに向かって手を振っているのが見えたのである。
大きく左右に揺れる手と、弾けんばかりの無邪気な笑顔を見た途端、ドミニクの怪しい行動などどうでも良いことに変わってしまった。
嬉しさのあまり、反射的に手を振りかけたが、すんでのところで踏みとどまった。
すぐに気がついたのだ。
彼が手を振っている相手は自分ではない。
ドミニクだろうということに。
まさか自分に手を振ってくれるはずなどないではないか。
キャンディスは少しでも期待してしまった自分を情けなく思いながらも、急いでドミニクの腕をつついた。
「ほら、セオドア様が手を振ってますよ」
「だから?」
「だからって……手を振り返してあげなくてよろしいのですか?」
「いいんだよ。そんなことする必要はない。
……それに俺に振ってるわけじゃないだろうさ」
「え?すみません、聞き取れなくて。
なんですか?」
最後の方はほとんど聞こえないくらいの小声だったものだから、キャンディスは思わず聞き返した。
が、ドミニクは答える気などないらしい。
固く唇を結んだまま目を閉じてしまった。
「ほら、ぶつぶつ言ってないで振り返してあげてくださいよ。
そうすればセオドア様もお喜びになりますよ、絶対」
「……いちいち、うるさいやつだな」
と、不機嫌な顔で腕組みまでし始めたドミニクだったが、急に何を思ったか、キャンディスの腰に手を回すと強引に抱き寄せてきたのである。
「きゃっ……な、なにするんですか!」
「ああだこうだと、うるさいから悪いんだろう。
こうすれば、さすがに黙り込むかと思ってさ」
「わ、分かりました!
静かにします!静かにしますから、離して下さいっ。
誰かに見られでもしたら……」
「それがうるさいっていうんだ。
それに、ここにいれば意外と目につかないから大丈夫だろ。
静かにさえしてれば、だけどな」
確かに2人が立っているのは、部屋の隅。
しかも大きな柱の影なものだから、騒ぎさえしなければ人目にはつきにくい。
しかし……
「ほ、他の誰かが気づかなくたって、セオドア様が気づきますよ!
だって今もこちらを見て……」
キャンディスがチラリと見れば、セオドアはまだ手を上げたままこちらに顔を向けていた。
が、何か不穏な空気を感じたのだろうか。
表情こそ笑顔のままではあったが、そのまま固まってしまっている。
「本当に見られてますよ!
ちょ、ちょっと!それ以上触らないで!」
「どうしてだ?婚約者なんだから構わないだろう。
いいから、もっと近くに来いよ。
セオドアに見せつけてやろう」
「け、結婚前にそんなことはしてはいけません!」
焦るキャンディスは、もうタジタジだ。
しかしそれが面白くてたまらない、という様子のドミニクは、彼女の腰に回した手を離すどころか、ますます力強く抱き寄せてくる。
その上、反対の手でキャンディスの髪をサラリと耳にかけると、その耳元で囁いた。
「バカ真面目だな、キャンディスは。
でも皆言わないだけで、影では結構好き勝手やってるものだぞ?
キスなんて当たり前。
その先だって……」
ドミニクの熱っぽい声に、キャンディスは耳が真っ赤になってしまった。
今すぐ逃げ出したいのに、足が震えて言うことを聞かない。
その上ガッチリとドミニクに抱き止められているものだから、逃げ出しようがないのである。
ドミニクの唇が、キャンディスの耳から首元にゆっくり下りてくる。
直接唇が触れてはいないというのに、その熱い吐息を感じるせいで、体が勝手に跳ね上がってしまう。
どうすることも出来ぬまま、キャンディスはただただ、きつく目を閉じていることしか出来なかった。
「えー、本当ですか?
だって……」
と畳み掛けようとしたキャンディスだったが、不意にあることに気がついて、口を薄く開いたまま固まってしまった。
「セオドア様……」
少し離れたところから、セオドアがこちらに向かって手を振っているのが見えたのである。
大きく左右に揺れる手と、弾けんばかりの無邪気な笑顔を見た途端、ドミニクの怪しい行動などどうでも良いことに変わってしまった。
嬉しさのあまり、反射的に手を振りかけたが、すんでのところで踏みとどまった。
すぐに気がついたのだ。
彼が手を振っている相手は自分ではない。
ドミニクだろうということに。
まさか自分に手を振ってくれるはずなどないではないか。
キャンディスは少しでも期待してしまった自分を情けなく思いながらも、急いでドミニクの腕をつついた。
「ほら、セオドア様が手を振ってますよ」
「だから?」
「だからって……手を振り返してあげなくてよろしいのですか?」
「いいんだよ。そんなことする必要はない。
……それに俺に振ってるわけじゃないだろうさ」
「え?すみません、聞き取れなくて。
なんですか?」
最後の方はほとんど聞こえないくらいの小声だったものだから、キャンディスは思わず聞き返した。
が、ドミニクは答える気などないらしい。
固く唇を結んだまま目を閉じてしまった。
「ほら、ぶつぶつ言ってないで振り返してあげてくださいよ。
そうすればセオドア様もお喜びになりますよ、絶対」
「……いちいち、うるさいやつだな」
と、不機嫌な顔で腕組みまでし始めたドミニクだったが、急に何を思ったか、キャンディスの腰に手を回すと強引に抱き寄せてきたのである。
「きゃっ……な、なにするんですか!」
「ああだこうだと、うるさいから悪いんだろう。
こうすれば、さすがに黙り込むかと思ってさ」
「わ、分かりました!
静かにします!静かにしますから、離して下さいっ。
誰かに見られでもしたら……」
「それがうるさいっていうんだ。
それに、ここにいれば意外と目につかないから大丈夫だろ。
静かにさえしてれば、だけどな」
確かに2人が立っているのは、部屋の隅。
しかも大きな柱の影なものだから、騒ぎさえしなければ人目にはつきにくい。
しかし……
「ほ、他の誰かが気づかなくたって、セオドア様が気づきますよ!
だって今もこちらを見て……」
キャンディスがチラリと見れば、セオドアはまだ手を上げたままこちらに顔を向けていた。
が、何か不穏な空気を感じたのだろうか。
表情こそ笑顔のままではあったが、そのまま固まってしまっている。
「本当に見られてますよ!
ちょ、ちょっと!それ以上触らないで!」
「どうしてだ?婚約者なんだから構わないだろう。
いいから、もっと近くに来いよ。
セオドアに見せつけてやろう」
「け、結婚前にそんなことはしてはいけません!」
焦るキャンディスは、もうタジタジだ。
しかしそれが面白くてたまらない、という様子のドミニクは、彼女の腰に回した手を離すどころか、ますます力強く抱き寄せてくる。
その上、反対の手でキャンディスの髪をサラリと耳にかけると、その耳元で囁いた。
「バカ真面目だな、キャンディスは。
でも皆言わないだけで、影では結構好き勝手やってるものだぞ?
キスなんて当たり前。
その先だって……」
ドミニクの熱っぽい声に、キャンディスは耳が真っ赤になってしまった。
今すぐ逃げ出したいのに、足が震えて言うことを聞かない。
その上ガッチリとドミニクに抱き止められているものだから、逃げ出しようがないのである。
ドミニクの唇が、キャンディスの耳から首元にゆっくり下りてくる。
直接唇が触れてはいないというのに、その熱い吐息を感じるせいで、体が勝手に跳ね上がってしまう。
どうすることも出来ぬまま、キャンディスはただただ、きつく目を閉じていることしか出来なかった。
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