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「また気持ち悪い顔してるな……。
口、開いてるぞ」
うっとりとセオドアを見送っていたキャンディスは、突然背後で声がしたものだから、思わず飛び上がった。
驚いて振り返ると、冷ややかな目で見下ろしていたのはドミニクだ。
嫌味なほど大袈裟にため息をついてから、彼は言った。
「本当に分かりやすいやつだな。
そんなに、あいつが良いか?」
「もちろんですとも!
それに、セオドア様に憧れるのは私ばかりではありません。
あの方は気品があって、優しくて……もう完璧ですもの。
女性ならみんな夢中になってしまいますわ!」
「よくもまあ……仮にも婚約者の前で、よくそんなに他の男を褒められたもんだな」
「そんなこと言われましても。
セオドア様は美点が数えきれないほどにあるのですもの。
それにさっきだって素早く助けてくれて!
なんて紳士的なんでしょう!」
キャンディスは目を輝かせて訴えたが、いつも通りドミニクの耳には届かない。
彼は聞いているのか、いないのか。
頭をゆるゆると振って、肩をすくめるばかり。
これにはキャンディスも
「聞く気なさすぎですよ!
自分から聞いてきたんじゃないですか!」
と鼻息荒く言いながら、腰に手を当てた。
「そもそも、どうしてそんなにセオドア様を嫌っているのですか?
兄弟じゃないですか」
「血の繋がった兄弟だからって、全員が仲良しなわけじゃないんだよ。
俺たちみたいな兄弟だっているさ」
「それはそうでしょうけど……。
セオドア様みたいな優しい方がお兄様なのに、そこまで仲が悪くなるというのが、どうにも不思議です。
何か理由があるのですか?
もしかして……喧嘩しているとか?」
キャンディスは思いつくままに言葉を連ねていく。
しかしドミニクの表情は晴れるどころか、ますます険しくなるばかりで。
仕舞いには俯いて黙り込んでしまったものだから、さすがのキャンディスもそれ以上何も言えなくなってしまった。
そこで大人しく口を閉ざして、行き来する人々をぼんやりと眺めていたのだったが、不意にドミニクが呟いたのである。
「あいつとは……幼い頃からずっと、事あるごとに比べられてきたんだよ。
勉強にスポーツはもちろん、マナーや姿形まで!
しかも、いつだって優秀なのはセオドアの方だった。
みんな口を揃えて、セオドア、セオドアって言うんだからな。
もう、うんざりだよ。
嫌いにもなるさ」
ボソボソと、低く囁くような声。
いつも強気なドミニクからは想像もできないような声に、キャンディスは思わず目を丸くしてしまった。
なんだか、聞いてはいけないことを聞いてしまったのかもしれない。
そう思うと、まるで鉛でも飲み込んでしまったかのように、途端に体が重くなったように感じた。
「ご、ごめんなさい……。
変なことを聞いてしまいましたね」
咄嗟に謝ったものの、ドミニクからの返事は
「……別に」
の一言だけだった。
それからキャンディスは、なんとなく彼に話しかけるのもはばかれて、口を閉ざしたまま静かに辺りを眺めていたのである。
しかし結局この日は最後まで、彼が口を開くことはなかった。
口、開いてるぞ」
うっとりとセオドアを見送っていたキャンディスは、突然背後で声がしたものだから、思わず飛び上がった。
驚いて振り返ると、冷ややかな目で見下ろしていたのはドミニクだ。
嫌味なほど大袈裟にため息をついてから、彼は言った。
「本当に分かりやすいやつだな。
そんなに、あいつが良いか?」
「もちろんですとも!
それに、セオドア様に憧れるのは私ばかりではありません。
あの方は気品があって、優しくて……もう完璧ですもの。
女性ならみんな夢中になってしまいますわ!」
「よくもまあ……仮にも婚約者の前で、よくそんなに他の男を褒められたもんだな」
「そんなこと言われましても。
セオドア様は美点が数えきれないほどにあるのですもの。
それにさっきだって素早く助けてくれて!
なんて紳士的なんでしょう!」
キャンディスは目を輝かせて訴えたが、いつも通りドミニクの耳には届かない。
彼は聞いているのか、いないのか。
頭をゆるゆると振って、肩をすくめるばかり。
これにはキャンディスも
「聞く気なさすぎですよ!
自分から聞いてきたんじゃないですか!」
と鼻息荒く言いながら、腰に手を当てた。
「そもそも、どうしてそんなにセオドア様を嫌っているのですか?
兄弟じゃないですか」
「血の繋がった兄弟だからって、全員が仲良しなわけじゃないんだよ。
俺たちみたいな兄弟だっているさ」
「それはそうでしょうけど……。
セオドア様みたいな優しい方がお兄様なのに、そこまで仲が悪くなるというのが、どうにも不思議です。
何か理由があるのですか?
もしかして……喧嘩しているとか?」
キャンディスは思いつくままに言葉を連ねていく。
しかしドミニクの表情は晴れるどころか、ますます険しくなるばかりで。
仕舞いには俯いて黙り込んでしまったものだから、さすがのキャンディスもそれ以上何も言えなくなってしまった。
そこで大人しく口を閉ざして、行き来する人々をぼんやりと眺めていたのだったが、不意にドミニクが呟いたのである。
「あいつとは……幼い頃からずっと、事あるごとに比べられてきたんだよ。
勉強にスポーツはもちろん、マナーや姿形まで!
しかも、いつだって優秀なのはセオドアの方だった。
みんな口を揃えて、セオドア、セオドアって言うんだからな。
もう、うんざりだよ。
嫌いにもなるさ」
ボソボソと、低く囁くような声。
いつも強気なドミニクからは想像もできないような声に、キャンディスは思わず目を丸くしてしまった。
なんだか、聞いてはいけないことを聞いてしまったのかもしれない。
そう思うと、まるで鉛でも飲み込んでしまったかのように、途端に体が重くなったように感じた。
「ご、ごめんなさい……。
変なことを聞いてしまいましたね」
咄嗟に謝ったものの、ドミニクからの返事は
「……別に」
の一言だけだった。
それからキャンディスは、なんとなく彼に話しかけるのもはばかれて、口を閉ざしたまま静かに辺りを眺めていたのである。
しかし結局この日は最後まで、彼が口を開くことはなかった。
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