私は今日、好きな人の弟と婚約致しました

ゆきな

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さてその翌週のことである。

「よ、ようこそいらっしゃいました……」

キャンディスは引きつった笑顔で、突然の訪問客を出迎えていた。
彼女にはとても予想出来なかった、その相手とは……

「良い顔するじゃないか。
そんなに俺に会えて嬉しいか」

と皮肉たっぷりに言いながらケラケラと笑う青年。
もちろんドミニクだった。

「遊びにいらっしゃるなんて聞いておりませんでしたもので……」
「ああ、事前に手紙を送ろうと思ったんだが、時間がかかるからやめたんだ。
直接来た方が早いだろ?」
「まあ……それはそうでしょうけれど」

キャンディスは渋々頷くしかなかった。

「それで、一体なんのご用でしょう?」
「婚約者に会いに来たんだぞ?
用が無くたって構わないだろう」
「……そうですね」

そう言いながら、チラリと横目で、窓の向こうに広がる透き通るような青い空を見た。

ここのところ何日もの間、雨が続いていたのだが、今日は久しぶりに雲の間から太陽がのぞいている。
こんな日にはドミニクの憎まれ口なんか聞くよりも、庭園に出て木陰でのんびりと読書をしたいものだ。

時折ページをめくる手を休めて、カリカリのクッキーとミルクたっぷりの紅茶を堪能するのだ。
そして顔を上げれば、暖かな日差しを受けて、頭上を覆う葉が透き通って見えて……。
ああ、ドミニクなどという邪魔者さえいなければ。

うっとりと想像していたキャンディスは、ドミニクが

「せっかく天気が良いんだ。
庭に出よう」

というのを聞いて、目を見張った。
考えていたことを、知らず知らずのうちに口に出していたのかと思ったのである。

しかしどうやらドミニクは、単に自分がそうしたかっただけらしい。
彼も同じように窓の外を見ながら、目を輝かせていた。

「そうなれば、何か食べる物が欲しいな。
軽くつまめるものと……あとは菓子と」

と、やけにウキウキした声を出している。
キャンディスは好き放題に言っているドミニクの横顔を眺めながら、使用人を呼ぶ為に紐を引いた。

「はいはい、準備してもらいますよ」

そして使用人達の奮闘により、ほんの15分後にはテキパキと準備が整った。

芝生に広げた敷布の上には、たくさんの食べ物や飲み物が並んでいる。
そのど真ん中に、我が物顔に腰を下ろしているドミニク。
そしてその隣に、ちょこんと座るキャンディス。

それは良い。
それは良いのだが……。

「よし、完璧だ!
あとは自分たちで適当にやるから、大丈夫」

と、ドミニクが上機嫌で使用人達を下がらせるのを、キャンディスは怪訝な顔で見つめていた。
しかも彼はその視線に気がついて、こちらに顔を向けると、ニヤリと笑ったものだから、悪い意味でドキリとしてしまった。

「さて、これでようやく2人きりだな」

ドミニクは独り言のように呟いて、敷布に手をつくと、ゆっくりと顔を近づけてくる。

「え!?」

驚いたキャンディスは食べ物をひっくり返さぬよう注意しながら、じりじりと後ずさった。

結婚前の男女が2人きりになるとはいえ、ここは屋外だから、人払いをしてもそれほど不自然なことではない。
それに彼は、自分なんかと2人きりになって、どうしたいというわけでもないだろうと、たかをくくっていたのである。

しかしこうして、実際ににじり寄られてみれば、さすがのキャンディスも背筋がゾクリとした。

「ド、ドミニク様……?」
「良い加減、『様』はやめろよ。
婚約者なんだぞ?」
「は、はい。では……ドミニク?」
「なんだい?キャンディス。
そうだ。せっかくだし、敬語も無しにしようじゃないか」

なんとか距離をとろうと、のけ反った所で背中に硬いものを感じて青ざめた。
振り返らずとも、すぐに分かった。
背後に木があるのだ。
そのせいで、これ以上ドミニクから離れることが出来ないのである。

「わ、分かりま……。
いえ、分かったわ」

キャンディスはピッタリと背中を木に付けながらも、決して目をそらそうとはしなかった。
そうすれば、彼はますます楽しそうに笑うだろうことは予想がついていたのである。

「それからさ」
「……まだあるの?」
「これで最後だ」

ドミニクは意地悪く目を輝かせた。

「目を閉じろ」

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