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数分が経っても頬が熱いままだったから、キャンディスは慌てていた。
そろそろドミニクが戻ってくる頃だろう。
それなのにまだ赤い顔をしているのを見られたら、なんと言ってからかわれるか分からない。
しかしそう考えてしまった瞬間、唇に触れたドミニクの体温を思い出してしまって。
頬は赤みが消えるどころか、さらに赤く染まってしまう。
鏡を見て焦りに焦ったキャンディスは、ちょうどその時ノックの音がしたものだからギクリとした。
ところが、顔を覗かせたのはドミニクではなくセオドアだったものだから、自然とキャンディスの顔から血の気が引いて行った。
「セオドア……さま」
「やあ、キャンディス。
そろそろ来ているかなと思って、顔を出してみたんだ。
最近なかなか話す機会が無かったからさ」
キャンディスは思わず身構えた。
しかしセオドアは扉を閉めようとはしなかったし、2人きりになるのを警戒するにしても、ドミニクがすぐに戻ってくるはずだ。
そう思えばそこまで心配する必要はないように思えた。
それに何より彼女の警戒心を緩ませたのは、セオドアの表情だった。
いつも通り爽やかな笑顔を浮かべてはいるものの、その瞳はどこか虚ろで。
常に輝いていたはずの透き通った水色が、濁って見える。
なんと言っていいか分からず口をモゴモゴとさせていると、セオドアは困ったように小さく笑った。
「ドミニクには前から嫌われていたけど、とうとうキャンディスにまで嫌われちゃったみたいだね」
「あ……ええと」
否定するのも違う気がして、キャンディスは意味のない言葉をぶつぶつと口にする。
しかしセオドアの寂しげな様子に耐えられず、ついつい口を開いてしまった。
「なにか……あったんですか?
なんだか今日は様子がおかしいように見えますが……」
「ああ、分かる?
随分僕も参ってしまっていてね。
ほら、ドミニクのことだよ。
とうとう完全に嫌われちゃったみたいでさ、僕。
最近は何を話しかけても、すっかり無視されるようになっちゃった。
しかもあいつ、なんだか清々しい顔さえしてるもんだから……悲しくなってきちゃったよ」
淡々と言うセオドアの視線は、力無く床に向けられたままだった。
口元は笑っているけれど、それはわずかばかりの強がりなのだろう。
太ももの横にダラリと垂れた両手がかすかに震えているのを見ると、キャンディスは胸が痛んでしまって。
考えるよりも先に言葉が口から飛び出していた。
「仲直りしたいんですか?ドミニクと」
するとセオドアがガバリと顔を上げた。
「うん、もちろん。
たった一人の弟だもの。
グレースの事で仲違いしたと思っていたけど、それが誤解だったのなら、仲直りできると思うんだ。
今ならもう他に争いの種になるようなこともないしね」
そう言ってキャンディスの方へと一歩踏み出してきたものだから、彼女は反射的に後ずさった。
するとセオドアはすぐその意味に気がついたらしい。
降参の意を示すかのように両手を上げて、苦笑いを浮かべた。
「ごめんごめん。
そんなに身構えないで。
君たちがあんまりにも仲良しだったから羨ましくて……キャンディスにも意地悪しちゃったよね。
でも全部冗談だから。
悪意はないんだ」
セオドアは両手を下ろすと、不意に真面目な顔になってキャンディスを見つめた。
「なんとかしてドミニクと、もう一度上手くやっていきたいんだ。
……協力してくれる?」
キャンディスは彼の目を見つめ返した。
期待の光を見出したせいだろうか。
先程までどんよりと濁っていた彼の瞳は、僅かに光が灯っているように見える。
そこに嘘の色は混じっていないように、彼女には思えて。
キャンディスはゆっくりと頷いた。
「……分かりました。
じゃあ、セオドア様が仲直りしたがっていると、ドミニクに話してみますね。
上手くいくかどうかは分からないですけど」
「ありがとう!
すぐには上手くいかないだろうと思ってるよ。
でもキミが協力してくれれば、ゆっくりとでも元に戻って行ける気がするんだ」
そう言って笑ったセオドアの横顔は、まるで子どものようだった。
誰かに似ている、と思ったキャンディスは、すぐにそれが誰なのか気がついた。
ドミニクだ。
やはり兄弟なんだな、と思うとなんだかおかしくて。
「なに?なんで笑ってるの?」
不思議そうに首を傾げるセオドアに、黙って首を横に降ったけれど、彼女の口元はしばらくニヤニヤ笑いがとれなくなってしまったのだった。
そろそろドミニクが戻ってくる頃だろう。
それなのにまだ赤い顔をしているのを見られたら、なんと言ってからかわれるか分からない。
しかしそう考えてしまった瞬間、唇に触れたドミニクの体温を思い出してしまって。
頬は赤みが消えるどころか、さらに赤く染まってしまう。
鏡を見て焦りに焦ったキャンディスは、ちょうどその時ノックの音がしたものだからギクリとした。
ところが、顔を覗かせたのはドミニクではなくセオドアだったものだから、自然とキャンディスの顔から血の気が引いて行った。
「セオドア……さま」
「やあ、キャンディス。
そろそろ来ているかなと思って、顔を出してみたんだ。
最近なかなか話す機会が無かったからさ」
キャンディスは思わず身構えた。
しかしセオドアは扉を閉めようとはしなかったし、2人きりになるのを警戒するにしても、ドミニクがすぐに戻ってくるはずだ。
そう思えばそこまで心配する必要はないように思えた。
それに何より彼女の警戒心を緩ませたのは、セオドアの表情だった。
いつも通り爽やかな笑顔を浮かべてはいるものの、その瞳はどこか虚ろで。
常に輝いていたはずの透き通った水色が、濁って見える。
なんと言っていいか分からず口をモゴモゴとさせていると、セオドアは困ったように小さく笑った。
「ドミニクには前から嫌われていたけど、とうとうキャンディスにまで嫌われちゃったみたいだね」
「あ……ええと」
否定するのも違う気がして、キャンディスは意味のない言葉をぶつぶつと口にする。
しかしセオドアの寂しげな様子に耐えられず、ついつい口を開いてしまった。
「なにか……あったんですか?
なんだか今日は様子がおかしいように見えますが……」
「ああ、分かる?
随分僕も参ってしまっていてね。
ほら、ドミニクのことだよ。
とうとう完全に嫌われちゃったみたいでさ、僕。
最近は何を話しかけても、すっかり無視されるようになっちゃった。
しかもあいつ、なんだか清々しい顔さえしてるもんだから……悲しくなってきちゃったよ」
淡々と言うセオドアの視線は、力無く床に向けられたままだった。
口元は笑っているけれど、それはわずかばかりの強がりなのだろう。
太ももの横にダラリと垂れた両手がかすかに震えているのを見ると、キャンディスは胸が痛んでしまって。
考えるよりも先に言葉が口から飛び出していた。
「仲直りしたいんですか?ドミニクと」
するとセオドアがガバリと顔を上げた。
「うん、もちろん。
たった一人の弟だもの。
グレースの事で仲違いしたと思っていたけど、それが誤解だったのなら、仲直りできると思うんだ。
今ならもう他に争いの種になるようなこともないしね」
そう言ってキャンディスの方へと一歩踏み出してきたものだから、彼女は反射的に後ずさった。
するとセオドアはすぐその意味に気がついたらしい。
降参の意を示すかのように両手を上げて、苦笑いを浮かべた。
「ごめんごめん。
そんなに身構えないで。
君たちがあんまりにも仲良しだったから羨ましくて……キャンディスにも意地悪しちゃったよね。
でも全部冗談だから。
悪意はないんだ」
セオドアは両手を下ろすと、不意に真面目な顔になってキャンディスを見つめた。
「なんとかしてドミニクと、もう一度上手くやっていきたいんだ。
……協力してくれる?」
キャンディスは彼の目を見つめ返した。
期待の光を見出したせいだろうか。
先程までどんよりと濁っていた彼の瞳は、僅かに光が灯っているように見える。
そこに嘘の色は混じっていないように、彼女には思えて。
キャンディスはゆっくりと頷いた。
「……分かりました。
じゃあ、セオドア様が仲直りしたがっていると、ドミニクに話してみますね。
上手くいくかどうかは分からないですけど」
「ありがとう!
すぐには上手くいかないだろうと思ってるよ。
でもキミが協力してくれれば、ゆっくりとでも元に戻って行ける気がするんだ」
そう言って笑ったセオドアの横顔は、まるで子どものようだった。
誰かに似ている、と思ったキャンディスは、すぐにそれが誰なのか気がついた。
ドミニクだ。
やはり兄弟なんだな、と思うとなんだかおかしくて。
「なに?なんで笑ってるの?」
不思議そうに首を傾げるセオドアに、黙って首を横に降ったけれど、彼女の口元はしばらくニヤニヤ笑いがとれなくなってしまったのだった。
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