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「もちろん大丈夫です」

ウォーレンは頷くと、小さくお辞儀をしてから部屋を出た。

「お父様ったら!」

シェリナは真っ赤になりながらも、トーマスをひと睨みしてから、慌ててその後を追う。
トーマスは

「今度こそ幸せになれると良いのだが」

と呟いて、深く椅子に腰をかけると、メイドに声を掛けた。

「さあ、すまないがウイスキーを持って来ておくれ」



さて、部屋を出たシェリナとウォーレンは、妙な気まずさを感じながら、しばらく無言のまま歩き続けていた。
が、入り口の扉を出たところで、ようやくウォーレンが口を開いた。

「先程お話ししたことは、全て本当のことですからね」
「え?」
「なんだか疑っていらっしゃるような顔つきでしたから」

ウォーレンは立ち止まると、シェリナの顔を覗き込んでくる。
その視線から逃れるように、そっぽを向いて、シェリナは答えた。

「疑ってなんかいませんわ。ただ、驚いただけです。
いつもたくさんの女性に囲まれているウォーレン様が、突然あんなことを言い出すのですもの。
それに今日だって、マルティーヌ様とご一緒だったのでしょう」
「それは……確かにそうかもしれません。ですが、どれもこれも私の意志ではありません。
マルティーヌ嬢も同じことです。
誓って、私が愛しているのは、あなただけです」

彼は言い終わるなり、シェリナの前に跪くと

「ああ……この時をずっと待っていました」

と、そっと彼女の手を取った。

「お、驚きすぎて、言葉もありませんわ」
「そうでしょうね。あなたはずっと、モーリス様しか目に入っていなかったのですから。
そんなに美しい瞳で見つめられている彼を、私がどんなに羨ましく思っていたか、あなたにはとても想像がつきますまい」

彼の言う通り、モーリスのことしか見ていなかったシェリナは、他の男性のことなど気にしたことはなかった。
もちろん全く関わらなかったわけではない。
話しかけられれば、そつなく言葉を交わしたし、ダンスに誘われれば笑顔で頷いた。

しかし、何をしていても、頭に浮かぶのはモーリスのことばかりだった。
目の前の男性を瞳にうつして笑顔を浮かべながらも、考えていることはといえば、

モーリスなら、そんなことは言わないのに。
モーリスなら、ここで微笑んでくれるのに。

と、そんなことばかり。

だから正直に言えば、ウォーレンと過ごした記憶がシェリナには全くなかった。
ところがウォーレンは違うらしい。

「覚えていますか。たった一度だけ、ダンスをしたことがありましたね」

と、目を細めているものだから、シェリナは困ってしまった。
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