何度でも君に

まるきゅー

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4月8日

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 春休みが終わり、また週休2日の地獄に戻らなくてはならないことで愁いに沈みながら僕は登校していた。今日が木曜日だから今日と明日行けば土日なのはまだ救いかと思いつつ用意を済ませて玄関へ

「いってらっしゃい、忘れ物はない?」

 毎日家を出る度に忘れ物はないかと聞く母に今日も若干の苛立ちを覚えながらも軽く応えて家を出る。
 
 家から学校までは片道約1時間程度。家から駅まで自転車で行き、そこから20分ほど電車に揺られ、またそこから20分ほど歩くと僕の通う高校、県立桜山高校がある。
 
 学校に着くと今日から新クラスになるため、多くの生徒が張り出されたクラス表を見ていた。特に同じクラスになりたい友達もいないため自分の名前が2年4組であることだけを確認し、すぐさま校舎に入っていく。
 
 2年生のクラスは去年より1階下の3階であることに少しありがたさを感じながら階段を登っていく。帰宅部の僕に毎日4階までの往復は苦行でしかなかった。
 
 クラスに入ると半分ぐらいの生徒はもう来ており、中々にぎわっている。特に話す相手もいない僕はさっきと同様自分の名前のみを確認して席に着く、が運の悪いことに1番前。しかも教卓の真ん前だった。今朝の占いでは1位だったのに騙されたと思いつつ静かに席につく。
 
 これと言ってすることもないためスマホをいじっているとちらほら周りの会話が聞こえてくる。

「理紗、武井くんと同じクラスだって羨ましいわあ」

「担任の先生誰だと思う?」

「うわ、またお前と同じクラスかよ!」

新学期のテンプレのような会話を聞きつつ、特に興味もないTwitterに目を落としているとふいに左肩をトントンと叩かれる。そちらを向くと世間的にはだいぶ美人とされるであろう顔を持つ女の子がいた。

「君は周りの人と話さないの?」

僕は初対面で大きなお世話だと思いながらも

「特に友達とかいないから」

と返すと、キョトンとした顔で

「友達がいないから周りの人に話しかけるんでしょ?」

至極当たり前のように言ってくる。たぶんこの人の中には友達がいないという世界はあり得ないのだろう。だから僕は親切に教えてあげた。

「僕は友達がいないだけでなく特にいらないんだ。色々とめんどくさいから。」

すると彼女は満面の笑みで

「せっかく隣の席になったし私が友達になってあげるよ!私の名前は田村遥香!今日から友達ね!よろしく!早速だけど君の名前は??」

この人は人の話を聞いていないんだろうか、それとも話を聞いても理解できないんだろうか。どちらにしても勘弁してほしい。

「人の話聞いてた?」

「聞いてたよ?友達いないしいらないなんてもったいないから、私が友達になって友達の良さを教えてあげようと思って!そっちこそ私の話聞いてた?私は君の名前を聞いたんだけど?」

どうやら後者の話を聞いても理解できないタイプの人間らしい。そしてこのタイプは、聞いた上で理解できない残念な頭の持ち主であるため、こちらには打つ手がない。初対面となればなおさらだ。

どうしようかと思ったがさすがに礼儀として、そして何よりこの場を穏便に済ますために名前を名乗って置いたほうがよさそうだ。

「黒川祐希だよ」

「なるほど、黒川くんね!本当はあだ名でもつけてあげたいところだけどどうやらそこまですると友達になるどころか、嫌われちゃいそうだからやめておいてあげるよ。とにかくよろしくね!」
 
それは察することが出来るのかよというツッコミを胸の奥にしまい、これまた穏便に済ませるために「よろしく」とだけ返してまたスマホの画面に目を移そうとした。

真っ暗な画面に映る僕の顔はとても不機嫌そうで、これならどうやら頭の悪い田村さんでも察することができるか、と思いつつ電源を入れてまた興味もないTwitterに目を落とした。
 
 その日はそれ以降、始業式やら担任の先生の自己紹介やらクラスメイトの自己紹介やらで彼女が話しかけてくることも無く1日が終わったと思ったのだが、帰り際

「じゃあね!黒川くん!また明日ね!」

と手をブンブン振りながら言われ、いくらおバカの田村さんでも女子にそんな挨拶をされたことがない僕は、勢いに押されて「またね」と手を振り返してしまった。
 
友達になったと思われていたら迷惑だと思いつつ、イヤホンを耳に差し込み1人家路につく。
 
 自宅に着き、母親に今日のことをとやかく聞かれるのが面倒なため短く「ただいま」とだけ告げて自分の部屋に籠もる。
 
 自分の部屋でベッドにダイブすると一気に疲れが襲ってくる。こんなに原因が明らかな疲れがあるのかと言いたいぐらい今日の疲労は田村さんのせいだろう。あの短いやり取りでこれほど僕を疲れさせるなんて彼女ぐらいじゃないかと思いながら目を瞑ると一瞬で眠りに落ちていった。
 
 
 これが僕と彼女の出会いだった。
 


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