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4月9日
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2年生になって2日目。昨日よりもだいぶ学校に向かう足取りが重い。自称進学校である桜山高校では新学期2日目は決まって休み明けのテストが行われる。僕は別にテスト自体は嫌いではないがさすがに春休みにだらけきった体にはいささかしんどいものではある。
しかし、そんなことで足取りが重くなっているわけではない。理由は明白、田村さんの存在だ。昨日はあれほどの会話であんなに消耗したんだ。これ以上話しかけられたら俺の体力が持たない。
しかも、女性に疎い僕でもわかるぐらい彼女は絶対に可愛い。男子に目をつけられようもんならここから卒業まで地獄行きだ。そんな面倒だけは避けたい。
いっそ昨日に戻ってやり直し、田村さんに話しかけられないルートを選ぶか?などとぼんやり考えていると学校に着く。
上履きに履き替えて教室に向かって歩いていると僕の悩みの種が友達と談笑しているのが目に入る。気づかれないようにそさくさとその横を通る。
「おはよう!」
そんな声が聞こえてきたような気がしたが、僕に向けられたものではないだろうと勝手に解釈し、無視して教室に入る。
自分の席に着くと特にやることもないが今日がテストだったことを思い出し、春休みの課題に目を通す。別に高得点を取りたいわけではないが点数が低すぎて補修なんてやらされても嫌なだけだ。
5分ほどプリントとにらめっこをしていると またも左隣から声をかけられる。
「さっき私のこと無視したでしょ?挨拶したんだけど??」
半分怒ったような声色で僕に話しかけてくる。これなら挨拶しといたほうがよかっただろうか。
「気づかなかった。ごめん。」
とてもわかりやすい嘘な気もするが田村さん相手ならこの程度で十分だろう。
「そっか。気づかなかったならしょうがないね!じゃあ改めておはよう」
ほら、やっぱりだ。おバカでよかった。「おはよう」と素っ気なく返し、それ以上は話しかけるなという雰囲気を出す。
しかし、そんなもの彼女には通用しない。
「あ!テストの勉強してるの??黒川君は真面目なんだね!得意教科は何??1日何時間ぐらい勉強するの??」
さっきはおバカでよかったと言ったが前言撤回。なぜこんなにも彼女はバカなんだ。相手の雰囲気を読み取るとかないのか。そして一度にいくつ質問をする気なんだ。
「僕は別に真面目なわけじゃない。得意教科は強いて言えば国語。1日の勉強は日によるけど平均すれば1時間ぐらい。」
これ以上の質問の余地を残さないため、そしておバカの田村さんにもわかるように短く端的に答えて会話を終わらせにかかる。
「へ~、国語が得意なんだ!確かになんかわかる気がする!うん、わかるな~!」
たかだか会って2日、しかも大した会話もしていないのに僕の何がわかるんだと言いたかったがこれは彼女の独り言だと思い、スルーする。
「え!?それで終わり??田村さんの得意教科は何?とかないの?もう私聞かれる気満々で準備してたけど!?」
なぜ僕が彼女の得意教科なんて聞かなければならないのか。百歩譲って彼女が僕の友達だとしたって別に得意教科なんか興味がない。 と口には出さないものの興味なさそうな顔をしていると
「本当に私の得意教科興味ないの?今聞かないともう聞けないよ?いいの?5…4…3…2…1…0!…もう!こんなサービスないよ!私の得意教科は数学!リケジョってやつだね!どう?ギャップでしょ?」
本当に何を言っているのか。ずっと1人で喋っているじゃないか。なぜそんなに自分の得意教科を言いたいのか。頭がついていかなすぎて後半に関してはもはや聞いてなかった。
どんなに頭をフル回転させても「そうですか。」以外の言葉が思いつかない。どう返すのが正解なんだ?と思考を巡らせていると
キーンコーンカーンコーン
タイミング良くチャイムが鳴り、先生が入って来て朝のホームルームが始まる。
こんなに待ち望んだホームルームは後にも先にもこの1回きりであろう。チラッと田村さんの方に視線を動かすとまだ何か言いたそうな顔をしていたが、いかんせん僕らの席は教卓の真ん前、先生の真ん前だ。いくらおバカの田村さんでもここで騒ぐようなことはしない。
朝のホームルームが終わると同時に僕はトイレに行くために席を立つ。教室の外で5分も時間を潰せばすぐに1時間目の授業が始まる。授業が始まればこちらのもんだ。
思惑通りこれ以上の彼女との会話を繰り広げることなくテストが始まる。そんな調子でその後の休み時間も上手く田村さんをかわし、午前中で全てのテストを終えてついに昼休みを迎える。さすがに彼女も昼休みは友達と昼食を取るらしく、友達数名と学食へと移動するところを目撃した。
僕はというとみんなが1階にある学食に向かっていく中、その反対に上へと階段を上っていく。漫画やアニメならこの足は屋上へと向かうんだろうけどうちの高校はふつうに屋上は立入禁止だ。
じゃあどこに向かうのかというと5階の誰も使っていない小さな教室。
昔は外国語の少人数授業で使ってたらしいんだけど数年前に3階に新しい教室が出来てからはそっちのほうが使いやすいし綺麗だからみんなそっちを使ってる。一応教室ってことで毎日どこかのクラスが掃除をしているらしくらこちらもそこそこ綺麗ではある。
1年生の3学期も終わりかけの時期にこの教室を見つけ、それ以降昼ご飯はここで食べるようにしている。それまでは教室で1人で食べていたのだが、いい加減可哀想に思ったのから一緒に食べる?などと聞かれることが相次いだため場所を移すことにした。
そして、1人で弁当を食べたいのにはある明確な理由が1つある。それがこれ、母親が毎日のように作るデコ弁である。息子が高校2年生にもなってなぜデコ弁を作るのか。
高校生になってはじめは久々のお弁当作りに張り切っているのかと思っていたが、何週間経ってもデコ弁地獄が続くためこれが母親の通常運転なのだと気付かされた。
それからというもの弁当をひた隠しに生きてきた1年であった。こんなもの周りに見られたらいい笑いものだ。母親にデコ弁をやめるよう言ったこともあるが「最近の楽しみはこれぐらいなのよう」と言われあっさり却下されてしまった。
最近はもうイライラを通り越して、何も感じなくなったと思っていたが、春休みを経て久々にデコ弁を見るととても嫌な感じがした。母親への嫌悪感とともに弁当を流し込んで昼食を終える。
ふとスマホの時計を確認するとまだ1時10分、5時間目の始まる1時40分まではあと30分もある。鞄の中に読みかけの小説を入れたままにしていたことを思い出したが、取りに戻るのも面倒なため、スマホを見て適当に時間を潰すことにした。
5時間目はクラスでの委員会決め。先生の少し長い説明を聞いたあとに委員会を決めていく。早々にホームルーム委員が決まり、場を仕切りる役が先生からホームルーム委員に引き継がれる。
僕の希望は図書委員だ。特に他人と事務的な会話以外をする必要がなく、人気もあまりないため被りにくいから。
次々と委員が決まっていき、僕も希望通りの図書委員になることができた。田村さんはというと放送委員に立候補したもののジャンケンで負けて落選。1人1つは前期後期どちらかで何かしらの委員会には入らなくてはならないため、残っている委員会の中から次を選ばなくてはならない。
とても嫌な予感がする。図書委員は男女1名ずつで後期は男女ともに決まっていたが、前期は男子が僕に決まったものの女子はまだ決まっていない。
「決まっていない人は残っているところに入ってもらうことになりますが、まずは前期の図書委員女子でやりたい人いますか?」
「はい!」
言わんこっちゃない。やはり田村さんは元気よく手を挙げた。あーあ、おしまいだ。僕には反対することはできない。田村さんで決まりか。
「はい、じゃあ田村さんと遠藤さんでジャンケンしてください。」
なんてこった。慌てて教室を見渡すと教室の右後ろの方で遠藤さんと呼ばれたであろう人が控えめに手を挙げている。まだ神様は僕を見放していなかった。頑張れ遠藤さん。
ホームルーム委員の掛け声でジャンケンが行われる。
「最初はグー、ジャンケンポン!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ジャンケンの結果、前期図書委員は遠藤さんに決まりました。」
やったー!心の中でガッツポーズをしながら遠藤さんを褒め称える。初対面の人のジャンケンの勝利を今ほど願ったことはない。遠藤さんは明らかに大人しそうな人だし、平穏な図書委員生活を送れるだろう。
隣の席では明らかに不機嫌な人がいるがこればっかりはしょうがない。なぜならジャンケンの結果だからだ。そんなに恨めしそうにこちらを見ても僕は何もしていないし何もできない。まあ、何か出来たとしても君を負けさせるのは間違いないが。
その後も順調に進み、全員の委員会が決まったところでちょうど5時間目の終わりを告げるチャイムがなる。今日はこれでおしまい。やっと帰宅だ。
帰りのホームルームを終え、帰り支度をしていると田村さんが昨日同様、声をかけてくる。
「じゃあね!黒川君!また来週ね!」
彼女の言葉で今日が金曜日であったことを思い出し、短く「また」と返す。一応挨拶に返事があったことに満足した彼女はそのまま教室を出ていった。
僕も昨日と同様イヤホンを耳に差し込み、帰路に着く。昨日と違うのは明日が土曜日とわかって軽くなった、この足取りだけだ。
しかし、そんなことで足取りが重くなっているわけではない。理由は明白、田村さんの存在だ。昨日はあれほどの会話であんなに消耗したんだ。これ以上話しかけられたら俺の体力が持たない。
しかも、女性に疎い僕でもわかるぐらい彼女は絶対に可愛い。男子に目をつけられようもんならここから卒業まで地獄行きだ。そんな面倒だけは避けたい。
いっそ昨日に戻ってやり直し、田村さんに話しかけられないルートを選ぶか?などとぼんやり考えていると学校に着く。
上履きに履き替えて教室に向かって歩いていると僕の悩みの種が友達と談笑しているのが目に入る。気づかれないようにそさくさとその横を通る。
「おはよう!」
そんな声が聞こえてきたような気がしたが、僕に向けられたものではないだろうと勝手に解釈し、無視して教室に入る。
自分の席に着くと特にやることもないが今日がテストだったことを思い出し、春休みの課題に目を通す。別に高得点を取りたいわけではないが点数が低すぎて補修なんてやらされても嫌なだけだ。
5分ほどプリントとにらめっこをしていると またも左隣から声をかけられる。
「さっき私のこと無視したでしょ?挨拶したんだけど??」
半分怒ったような声色で僕に話しかけてくる。これなら挨拶しといたほうがよかっただろうか。
「気づかなかった。ごめん。」
とてもわかりやすい嘘な気もするが田村さん相手ならこの程度で十分だろう。
「そっか。気づかなかったならしょうがないね!じゃあ改めておはよう」
ほら、やっぱりだ。おバカでよかった。「おはよう」と素っ気なく返し、それ以上は話しかけるなという雰囲気を出す。
しかし、そんなもの彼女には通用しない。
「あ!テストの勉強してるの??黒川君は真面目なんだね!得意教科は何??1日何時間ぐらい勉強するの??」
さっきはおバカでよかったと言ったが前言撤回。なぜこんなにも彼女はバカなんだ。相手の雰囲気を読み取るとかないのか。そして一度にいくつ質問をする気なんだ。
「僕は別に真面目なわけじゃない。得意教科は強いて言えば国語。1日の勉強は日によるけど平均すれば1時間ぐらい。」
これ以上の質問の余地を残さないため、そしておバカの田村さんにもわかるように短く端的に答えて会話を終わらせにかかる。
「へ~、国語が得意なんだ!確かになんかわかる気がする!うん、わかるな~!」
たかだか会って2日、しかも大した会話もしていないのに僕の何がわかるんだと言いたかったがこれは彼女の独り言だと思い、スルーする。
「え!?それで終わり??田村さんの得意教科は何?とかないの?もう私聞かれる気満々で準備してたけど!?」
なぜ僕が彼女の得意教科なんて聞かなければならないのか。百歩譲って彼女が僕の友達だとしたって別に得意教科なんか興味がない。 と口には出さないものの興味なさそうな顔をしていると
「本当に私の得意教科興味ないの?今聞かないともう聞けないよ?いいの?5…4…3…2…1…0!…もう!こんなサービスないよ!私の得意教科は数学!リケジョってやつだね!どう?ギャップでしょ?」
本当に何を言っているのか。ずっと1人で喋っているじゃないか。なぜそんなに自分の得意教科を言いたいのか。頭がついていかなすぎて後半に関してはもはや聞いてなかった。
どんなに頭をフル回転させても「そうですか。」以外の言葉が思いつかない。どう返すのが正解なんだ?と思考を巡らせていると
キーンコーンカーンコーン
タイミング良くチャイムが鳴り、先生が入って来て朝のホームルームが始まる。
こんなに待ち望んだホームルームは後にも先にもこの1回きりであろう。チラッと田村さんの方に視線を動かすとまだ何か言いたそうな顔をしていたが、いかんせん僕らの席は教卓の真ん前、先生の真ん前だ。いくらおバカの田村さんでもここで騒ぐようなことはしない。
朝のホームルームが終わると同時に僕はトイレに行くために席を立つ。教室の外で5分も時間を潰せばすぐに1時間目の授業が始まる。授業が始まればこちらのもんだ。
思惑通りこれ以上の彼女との会話を繰り広げることなくテストが始まる。そんな調子でその後の休み時間も上手く田村さんをかわし、午前中で全てのテストを終えてついに昼休みを迎える。さすがに彼女も昼休みは友達と昼食を取るらしく、友達数名と学食へと移動するところを目撃した。
僕はというとみんなが1階にある学食に向かっていく中、その反対に上へと階段を上っていく。漫画やアニメならこの足は屋上へと向かうんだろうけどうちの高校はふつうに屋上は立入禁止だ。
じゃあどこに向かうのかというと5階の誰も使っていない小さな教室。
昔は外国語の少人数授業で使ってたらしいんだけど数年前に3階に新しい教室が出来てからはそっちのほうが使いやすいし綺麗だからみんなそっちを使ってる。一応教室ってことで毎日どこかのクラスが掃除をしているらしくらこちらもそこそこ綺麗ではある。
1年生の3学期も終わりかけの時期にこの教室を見つけ、それ以降昼ご飯はここで食べるようにしている。それまでは教室で1人で食べていたのだが、いい加減可哀想に思ったのから一緒に食べる?などと聞かれることが相次いだため場所を移すことにした。
そして、1人で弁当を食べたいのにはある明確な理由が1つある。それがこれ、母親が毎日のように作るデコ弁である。息子が高校2年生にもなってなぜデコ弁を作るのか。
高校生になってはじめは久々のお弁当作りに張り切っているのかと思っていたが、何週間経ってもデコ弁地獄が続くためこれが母親の通常運転なのだと気付かされた。
それからというもの弁当をひた隠しに生きてきた1年であった。こんなもの周りに見られたらいい笑いものだ。母親にデコ弁をやめるよう言ったこともあるが「最近の楽しみはこれぐらいなのよう」と言われあっさり却下されてしまった。
最近はもうイライラを通り越して、何も感じなくなったと思っていたが、春休みを経て久々にデコ弁を見るととても嫌な感じがした。母親への嫌悪感とともに弁当を流し込んで昼食を終える。
ふとスマホの時計を確認するとまだ1時10分、5時間目の始まる1時40分まではあと30分もある。鞄の中に読みかけの小説を入れたままにしていたことを思い出したが、取りに戻るのも面倒なため、スマホを見て適当に時間を潰すことにした。
5時間目はクラスでの委員会決め。先生の少し長い説明を聞いたあとに委員会を決めていく。早々にホームルーム委員が決まり、場を仕切りる役が先生からホームルーム委員に引き継がれる。
僕の希望は図書委員だ。特に他人と事務的な会話以外をする必要がなく、人気もあまりないため被りにくいから。
次々と委員が決まっていき、僕も希望通りの図書委員になることができた。田村さんはというと放送委員に立候補したもののジャンケンで負けて落選。1人1つは前期後期どちらかで何かしらの委員会には入らなくてはならないため、残っている委員会の中から次を選ばなくてはならない。
とても嫌な予感がする。図書委員は男女1名ずつで後期は男女ともに決まっていたが、前期は男子が僕に決まったものの女子はまだ決まっていない。
「決まっていない人は残っているところに入ってもらうことになりますが、まずは前期の図書委員女子でやりたい人いますか?」
「はい!」
言わんこっちゃない。やはり田村さんは元気よく手を挙げた。あーあ、おしまいだ。僕には反対することはできない。田村さんで決まりか。
「はい、じゃあ田村さんと遠藤さんでジャンケンしてください。」
なんてこった。慌てて教室を見渡すと教室の右後ろの方で遠藤さんと呼ばれたであろう人が控えめに手を挙げている。まだ神様は僕を見放していなかった。頑張れ遠藤さん。
ホームルーム委員の掛け声でジャンケンが行われる。
「最初はグー、ジャンケンポン!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ジャンケンの結果、前期図書委員は遠藤さんに決まりました。」
やったー!心の中でガッツポーズをしながら遠藤さんを褒め称える。初対面の人のジャンケンの勝利を今ほど願ったことはない。遠藤さんは明らかに大人しそうな人だし、平穏な図書委員生活を送れるだろう。
隣の席では明らかに不機嫌な人がいるがこればっかりはしょうがない。なぜならジャンケンの結果だからだ。そんなに恨めしそうにこちらを見ても僕は何もしていないし何もできない。まあ、何か出来たとしても君を負けさせるのは間違いないが。
その後も順調に進み、全員の委員会が決まったところでちょうど5時間目の終わりを告げるチャイムがなる。今日はこれでおしまい。やっと帰宅だ。
帰りのホームルームを終え、帰り支度をしていると田村さんが昨日同様、声をかけてくる。
「じゃあね!黒川君!また来週ね!」
彼女の言葉で今日が金曜日であったことを思い出し、短く「また」と返す。一応挨拶に返事があったことに満足した彼女はそのまま教室を出ていった。
僕も昨日と同様イヤホンを耳に差し込み、帰路に着く。昨日と違うのは明日が土曜日とわかって軽くなった、この足取りだけだ。
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