キツネの嫁入り

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「……アルファのにおいがする」

清順は憎々しげに呟くと三宜を睨め付けてきて、その瞳の奥にちらちらと見える怒りの炎の強さに三宜は身を強張らせながら俯く

清順がすごく怒っている。どうして?衣装からアルファのにおいがすると言っている。誤解されている?

ふと思い当たり、皇帝の妃候補がアルファの匂いをつけていたら、それは誤解もされ、不敬と取られても仕方がないことかもしれない

「も、申し訳ありません。家族の…父か兄の匂いがついているかもしれません。その…過保護なもので…」

拝礼し、頭を下げる三宜を清順がどのような目で見ていたのかはわからない。ただ、ちりちりと燃えるような怒りだけは頭を下げていても感じる

「父か兄の匂いがついているかもしれないと曖昧なのは何故だ?」

吐き捨てるように言う清順に三宜も参ってしまう

清順は何でこんなにこだわるんだろうか?

「あ…その、抑制剤を飲んでいるもので…匂いが解らないんです。申し訳ありません。しかし、やましいことは何もありません」

「……抑制剤?三宜が、なぜそんなものを…発情は未だ起こした事がないのだろう?」

身を焼くような怒りを皮膚が焼くようなアルファ性の威圧の痛みを、清順の言葉の端に捉えながら、三宜は身を縮こませる

脂汗まで背中や額に浮かぶようだ

「このような尊い場所で発情したりしないようにの配慮でございますので、お許しを…」

美しい清順の顔が怒りに染まる

「まだ未熟な身に強い薬を飲ませて、蕭家は何を考えているんだ!?どうりで…匂いを感知しないはずだ…まだ未熟なだけかと…」

肘を掴まれ三宜が顔を上げると、清順に心配そうに焦りを湛えた目で覗き込まれ心臓が跳ねた

「は、発情を迎えてしまいますと、選定の儀に参加出来ません。蕭家も万全を期して臨んでおります。清順様、どうか手を、手をお放しください…」

触れている部分が熱を孕み、まるで自分に対して想いがあるかのような清順の表情に三宜は焦る

そんなはずはない、こんな魅惑的な男が、後宮に美姫を揃えている男が自分に懸想するなぞあるはずがない

「それで?本当に覚えてないの?僕のこと、忘れたの?本当に選定の儀で皇帝に選ばれるつもりなのか?三宜はそれでいいのか?」

それでも言い募る清順に、三宜は唇を戦慄かせて口を噤んだ

清順の言葉に答えたい、答えてしまいたい。でも答えてしまったら身の破滅だ

それに清順が自分を求めているなんて、勘違いかもしれない

体を震わせて俯く三宜に、清順は肩を優しく撫でた

「…黙らないで…ずっとそんなふうに避けられたら…やっと会えたのに…」

泣きそうな清順に三宜が顔を上げると、清順は辛そうに顔を歪ませる
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