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第二章(謎解きのおわり)
最終話
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あの日、僕たちは、割とあっさりと別れた。
次の日、やたら大人しいスマホを開いてみると、デジャヴさんはツイッターのアカウントを削除していた。
間宮の電話番号に電話を掛けると、「現在使用されていません」とアナウンスで告げられた。
ダメ元でL◯NEを送ってみるも、やはり既読は付かないままだった。
「……」
本屋へ行ってみようかとも思ったが、思わぬ予定が入ったために、クリスマスにやりそこねた仕事が、年末の慌ただしさを伴って、そこそこ首を締めてきていた。
このタイミングで無職になることだけは、避けたかったので、否応なく僕は仕事に集中した。
そして、29日の仕事納めには、どうにか年内やるべきことに片を付けることができたのだった。
僕は、スマホをチノパンツの後ろポケットに突っ込むと、部屋を出た。でももう、スマホは、開かなかった。
クリスマス本番は、あんなにも天気が良かったのに、今日は、どんより曇り空だ。今さら、雪がパラつくかもしれない。
僕は、ゆっくりと駅まで歩いた。
本屋の入口に着くと、すぐさまレジの中を確認した。
見覚えのある背の高い男は、今日は髪の毛を結ばずに下ろしていた。その後ろ姿を見て、僕はハッとして立ち止まる。
太郎さんは、腰まで長かった黒髪を肩までバッサリと切っていたのだ。
僕は、ほんの少しだけ、心に立った波が静まるのを待ってから、本屋の中へと入って行った。
レジの前を通るときに、太郎さんの顔を見て軽く頭を下げる。太郎さんは、顎だけコクンと頷いた。相変わらず、愛想の悪い店員さんだ。
「……髪、切ったんですね」
「……ヘアドネーションしてきました」
太郎さんが敬語を話すことに、もはや違和感しかない。僕は思わず、まじまじと顔を見てしまう。
「……ヘア……?」
「髪の毛を寄付することです」
「……そうだったんですか」
「……ハイ、願掛けしてたことが叶ったので」
そう答えると、太郎さんは、前髪を直す仕草で顔を隠した。うつむいたその顔は、ほんのり赤くなっている。見えなくても分かる。
「取り寄せをお願いしていた雑誌があるのですが……」
「……ああ、はい」
「それと、もう1冊購入したい本があるので取ってきてもいいですか?」
「ええ、ハイ、どうぞ……」
太郎さんは、まだ前髪を直し続けている。
僕は笑いをこらえながら、目的の本を探しに行った。
太郎さんが、アカウントを消していると知ったとき、不思議とネガティブな印象は受けなかった。
ツイッターのアカウントなんぞ、ビジネスで使用してない限り、消したいときに消せばいいのだ。
別に誰に何の気兼ねをする必要もない。
したいときに自由にツイートして、嫌ならブロックして、必要がなくなったときに、いつだって削除したらいいのだ。
だって、そもそも自分のアカウントは、自分だけのものだ。著作権侵害や規約違反にだけは十分注意しながら、法律の範囲内で都合よく使えばいい。
僕が手にした本は、想像の倍以上の重たさで、持った瞬間から思わず買うことを辞めたくなるほどだった。
でも、僕は両手で抱えるようにして、その本を大事そうにレジへと運んだ。これぞ「真の大人買い」という感じがする。
僕が、その本を、レジで重ねられたBL雑誌のバックナンバーの一番上に置くと、太郎さんは目を丸くした。
「……これ、本屋で買って帰るヤツ……初めて見た」
「……僕も、重さと厚みに若干引きました……」
「……この程度の重さ持って帰る覚悟が無いなら、結婚すんなってことなんかな?」
それは、「結婚するなら」のコピーでお馴染みの結婚情報誌だった。
テレビCMでしかお目にかけたことが無いから、実物の重さがかなり衝撃的だった。(広◯苑かと……)
「……あー」
太郎さんが、ふと何かを思いついたように言った。
「今なら、こちらご購入すると、もれなく“山田太郎と年越しできる券”をプレゼントしてるんですけど、いりますか?」
太郎さんは、そう一気に笑顔で言い切った直後に、ボッ! と顔を赤くした。
「……じゃあ、あと49冊買わないと……」
「……え?」
「その券、50年分くらい欲しいので」
「……あほ」
それから太郎さんは、照れたように、はにかみながら笑った。
なんだコレ。
ただのラブラブじゃねーか。
「……で、どーするよ、コレ」
しかし現実の僕たちの目の前には、軽く3キロを超えるであろう雑誌が山を成していた。
「……あー」
僕は、ポリポリ頭をかいて、幸せの重みよの、と持ち上げようとした。すると、太郎さんが本の上に、バンッと手を置いて、それを止めに入ってきた。
「……わっ! ビックリした……」
「あのさ、俺んち、こっから歩いて1分くらいのとこなんだけど……アレじゃない?」
「へえ、めっちゃ近いですね。アレって何ですか?」
太郎さんは、また前髪いじりタイムに突入しながら呟いた。
「大吉くん……重かったらコレ、ウチに置いとけばいいんじゃない?」
「えっ!? いーんですか?」
「いいよ、いいよ。そのまま泊まってもいいよ」
「ええっ!?」
「あと、俺そろそろ上がれるから、外でちょっと待っててくれたらすぐ行くから」
「えええええっ!?」
「大丈夫、さっき親衛隊にグループラインしたら、すぐ来てくれるって」
って、L◯NEしてんじゃねーかああああ!(ねーかあああ、ねーかあああ)←エコー
そんなわけで、太郎さんの粋な(?)はからいにより、僕は重い荷物を手に食い込ませて家に帰らずに済んだのだった。
それにしても……。
僕のすぐ隣を、3キロ超えの雑誌を事もなげに持ちながら、ウキウキと歩く太郎さんは、とても先ほどまでモジモジと顔を赤らめていた人と同一人物とは思えない。
「俺んち、かなり狭くてボロアパートなんだけど、ごめんねー」
……男なんだよなあー。
今さらながらに、ふとそんなことを思う。
この人は男で、硬い尻をしていて、胸はぺたんこで、感じすぎると野太い声で喘ぐ……。
「狭い方が、くっつけますよ」
「……んふふ、もうこのまま住んじゃえば?」
「……それは、プロポーズが成功したら、ですかね」
「今すれば?」
僕は、そっと太郎さんの耳元でささやいた。
「このあと、セックスを成功させるのが先です」
ほらね、本で手が塞がっているから、もう真っ赤な顔は隠せないね。
あなたは情けないくらいに、僕の好きな男だ。
完
次の日、やたら大人しいスマホを開いてみると、デジャヴさんはツイッターのアカウントを削除していた。
間宮の電話番号に電話を掛けると、「現在使用されていません」とアナウンスで告げられた。
ダメ元でL◯NEを送ってみるも、やはり既読は付かないままだった。
「……」
本屋へ行ってみようかとも思ったが、思わぬ予定が入ったために、クリスマスにやりそこねた仕事が、年末の慌ただしさを伴って、そこそこ首を締めてきていた。
このタイミングで無職になることだけは、避けたかったので、否応なく僕は仕事に集中した。
そして、29日の仕事納めには、どうにか年内やるべきことに片を付けることができたのだった。
僕は、スマホをチノパンツの後ろポケットに突っ込むと、部屋を出た。でももう、スマホは、開かなかった。
クリスマス本番は、あんなにも天気が良かったのに、今日は、どんより曇り空だ。今さら、雪がパラつくかもしれない。
僕は、ゆっくりと駅まで歩いた。
本屋の入口に着くと、すぐさまレジの中を確認した。
見覚えのある背の高い男は、今日は髪の毛を結ばずに下ろしていた。その後ろ姿を見て、僕はハッとして立ち止まる。
太郎さんは、腰まで長かった黒髪を肩までバッサリと切っていたのだ。
僕は、ほんの少しだけ、心に立った波が静まるのを待ってから、本屋の中へと入って行った。
レジの前を通るときに、太郎さんの顔を見て軽く頭を下げる。太郎さんは、顎だけコクンと頷いた。相変わらず、愛想の悪い店員さんだ。
「……髪、切ったんですね」
「……ヘアドネーションしてきました」
太郎さんが敬語を話すことに、もはや違和感しかない。僕は思わず、まじまじと顔を見てしまう。
「……ヘア……?」
「髪の毛を寄付することです」
「……そうだったんですか」
「……ハイ、願掛けしてたことが叶ったので」
そう答えると、太郎さんは、前髪を直す仕草で顔を隠した。うつむいたその顔は、ほんのり赤くなっている。見えなくても分かる。
「取り寄せをお願いしていた雑誌があるのですが……」
「……ああ、はい」
「それと、もう1冊購入したい本があるので取ってきてもいいですか?」
「ええ、ハイ、どうぞ……」
太郎さんは、まだ前髪を直し続けている。
僕は笑いをこらえながら、目的の本を探しに行った。
太郎さんが、アカウントを消していると知ったとき、不思議とネガティブな印象は受けなかった。
ツイッターのアカウントなんぞ、ビジネスで使用してない限り、消したいときに消せばいいのだ。
別に誰に何の気兼ねをする必要もない。
したいときに自由にツイートして、嫌ならブロックして、必要がなくなったときに、いつだって削除したらいいのだ。
だって、そもそも自分のアカウントは、自分だけのものだ。著作権侵害や規約違反にだけは十分注意しながら、法律の範囲内で都合よく使えばいい。
僕が手にした本は、想像の倍以上の重たさで、持った瞬間から思わず買うことを辞めたくなるほどだった。
でも、僕は両手で抱えるようにして、その本を大事そうにレジへと運んだ。これぞ「真の大人買い」という感じがする。
僕が、その本を、レジで重ねられたBL雑誌のバックナンバーの一番上に置くと、太郎さんは目を丸くした。
「……これ、本屋で買って帰るヤツ……初めて見た」
「……僕も、重さと厚みに若干引きました……」
「……この程度の重さ持って帰る覚悟が無いなら、結婚すんなってことなんかな?」
それは、「結婚するなら」のコピーでお馴染みの結婚情報誌だった。
テレビCMでしかお目にかけたことが無いから、実物の重さがかなり衝撃的だった。(広◯苑かと……)
「……あー」
太郎さんが、ふと何かを思いついたように言った。
「今なら、こちらご購入すると、もれなく“山田太郎と年越しできる券”をプレゼントしてるんですけど、いりますか?」
太郎さんは、そう一気に笑顔で言い切った直後に、ボッ! と顔を赤くした。
「……じゃあ、あと49冊買わないと……」
「……え?」
「その券、50年分くらい欲しいので」
「……あほ」
それから太郎さんは、照れたように、はにかみながら笑った。
なんだコレ。
ただのラブラブじゃねーか。
「……で、どーするよ、コレ」
しかし現実の僕たちの目の前には、軽く3キロを超えるであろう雑誌が山を成していた。
「……あー」
僕は、ポリポリ頭をかいて、幸せの重みよの、と持ち上げようとした。すると、太郎さんが本の上に、バンッと手を置いて、それを止めに入ってきた。
「……わっ! ビックリした……」
「あのさ、俺んち、こっから歩いて1分くらいのとこなんだけど……アレじゃない?」
「へえ、めっちゃ近いですね。アレって何ですか?」
太郎さんは、また前髪いじりタイムに突入しながら呟いた。
「大吉くん……重かったらコレ、ウチに置いとけばいいんじゃない?」
「えっ!? いーんですか?」
「いいよ、いいよ。そのまま泊まってもいいよ」
「ええっ!?」
「あと、俺そろそろ上がれるから、外でちょっと待っててくれたらすぐ行くから」
「えええええっ!?」
「大丈夫、さっき親衛隊にグループラインしたら、すぐ来てくれるって」
って、L◯NEしてんじゃねーかああああ!(ねーかあああ、ねーかあああ)←エコー
そんなわけで、太郎さんの粋な(?)はからいにより、僕は重い荷物を手に食い込ませて家に帰らずに済んだのだった。
それにしても……。
僕のすぐ隣を、3キロ超えの雑誌を事もなげに持ちながら、ウキウキと歩く太郎さんは、とても先ほどまでモジモジと顔を赤らめていた人と同一人物とは思えない。
「俺んち、かなり狭くてボロアパートなんだけど、ごめんねー」
……男なんだよなあー。
今さらながらに、ふとそんなことを思う。
この人は男で、硬い尻をしていて、胸はぺたんこで、感じすぎると野太い声で喘ぐ……。
「狭い方が、くっつけますよ」
「……んふふ、もうこのまま住んじゃえば?」
「……それは、プロポーズが成功したら、ですかね」
「今すれば?」
僕は、そっと太郎さんの耳元でささやいた。
「このあと、セックスを成功させるのが先です」
ほらね、本で手が塞がっているから、もう真っ赤な顔は隠せないね。
あなたは情けないくらいに、僕の好きな男だ。
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