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第一章 別れの後に、出会いがある。
タワマン、勝ち組の景色。
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俺は、生まれて初めて目にするタワーマンションのエレベーターから見える夜景に、心を奪われていた。
そのことに気がついたのか、男が、俺の背中越しに、そっと声をかけてきた。
「初めて目にすると、驚かれるかもしれないですけど、どうです? お気に召してもらえました?」
そりゃー、まぁ……ね。一般人が見れる景色じゃねーからな……。すげえな……、これが勝ち組の景色ってヤツか……。
俺は、感動半分、嫉妬半分で、もう二度と見ることなど無いであろう眺めを、必死に目に焼き付けた。
「少しでも、気分が晴れたらいいんですけどね……」
またもや自分の状況をうっかり忘れかけていた俺は、男の意味深な言葉で一気に現実に呼び戻された。
……なるほどね、こういう男と付き合える女は、こんな気分が味わえるわけですか。
でも、そんなステイタス、山田のケツばっか追っかけてた俺に……いや、違うか、山田にシッポばっか振り続けてた俺に、刺さるわけがない。
それでも確かに、こんな非現実な場所に立っていると、山田の存在が小さくなっていくような気がする。
この東京の夜景の光、その一つ一つが誰かの生活の明かりだということ。まばゆいほどの無数の輝きを見ていると、心細くなってきてしまう。
このうちの一つが、山田の光だとして、それを探し出すことなど、もちろん不可能だ。
山田が、より一層、俺の手が届かない場所に行ってしまったみたいで、たまらなく寂しくなる。
男の部屋はなんと、最上階にあった。他にも部屋のドアはあるようだったが、男と俺以外に、住人は誰一人として見当たらない。
壁も床も白い通路を、男の部屋に向かって歩いていくと、やはり白いドアの前で男は立ち止まった。
何もかも白い空間の中に現れた白いドアは、まるで診察室のドアを思わせる。
カードキーで男がドアを開けて中に入ると、俺にも入るよう促してきた。
玄関の中に入ると、真っ直ぐな廊下が続いていて、その両側に部屋があるタイプの間取りのようだった。
男は、1番手前にある左手のドアを開けると、自動で部屋の明かりが点いた。中に入るよう、手で示されたので、靴を脱ぎ、俺は部屋の中へと向かった。
部屋には、大きなベッドが一つ置かれたきりで、他には家具など何も見当たらなかった。ミニマリストもひっくり返るようなシンプルな寝室に、思わず目を丸くしてしまう。
それにしても、玄関に1番近い部屋を寝室にしているなんて、変わった男だなぁ……。
まさかヤリ部屋とかじゃねぇだろうな……。
男の風貌からしても、一般的な仕事をしているようには、とても見えない。
たろさんが言ってた男の「特殊な仕事」と、この部屋と、何か関係があるのかもしれない。
あのあけすけな性格の、たろさんが、濁してたってことは、よっぽどヤバい仕事なんじゃないだろうか。
俺は、思いっきり警戒していた。
しかし、そんな俺の心中なぞ、どこ吹く風で、男は涼しい顔のままで言ったのだ。
「では、セーフワードを決めておきましょう」
……ん?
男が、まるで天気でも確認するかのように、何気ない顔で、えげつないことをサラッと言ってきたので、一瞬で時が止まってしまった。
いや、セーフワードって……!?
Dom/Subじゃねーんだから!
(Dom/Subとは、BL漫画における特殊設定のことで、通称Dom/Subユニバースとも言う。)
バカバカしいとは思いつつも、念のため、俺は予防線を張っておくことにした。
「えっと……あなた、ゲイなんですか?」
「分かりました、それでいいです」
……え? な、何が??? ……は!? いや、そーじゃなくて! なんか、いつの間にかセーフワードが決まっちゃってるんですけど。フツーにヤベーじゃん、この男。ちょっと、たろさん、……ど、どーなっちゃってんの~!?
俺は、すでに心の中で半泣き状態だった。
そのことに気がついたのか、男が、俺の背中越しに、そっと声をかけてきた。
「初めて目にすると、驚かれるかもしれないですけど、どうです? お気に召してもらえました?」
そりゃー、まぁ……ね。一般人が見れる景色じゃねーからな……。すげえな……、これが勝ち組の景色ってヤツか……。
俺は、感動半分、嫉妬半分で、もう二度と見ることなど無いであろう眺めを、必死に目に焼き付けた。
「少しでも、気分が晴れたらいいんですけどね……」
またもや自分の状況をうっかり忘れかけていた俺は、男の意味深な言葉で一気に現実に呼び戻された。
……なるほどね、こういう男と付き合える女は、こんな気分が味わえるわけですか。
でも、そんなステイタス、山田のケツばっか追っかけてた俺に……いや、違うか、山田にシッポばっか振り続けてた俺に、刺さるわけがない。
それでも確かに、こんな非現実な場所に立っていると、山田の存在が小さくなっていくような気がする。
この東京の夜景の光、その一つ一つが誰かの生活の明かりだということ。まばゆいほどの無数の輝きを見ていると、心細くなってきてしまう。
このうちの一つが、山田の光だとして、それを探し出すことなど、もちろん不可能だ。
山田が、より一層、俺の手が届かない場所に行ってしまったみたいで、たまらなく寂しくなる。
男の部屋はなんと、最上階にあった。他にも部屋のドアはあるようだったが、男と俺以外に、住人は誰一人として見当たらない。
壁も床も白い通路を、男の部屋に向かって歩いていくと、やはり白いドアの前で男は立ち止まった。
何もかも白い空間の中に現れた白いドアは、まるで診察室のドアを思わせる。
カードキーで男がドアを開けて中に入ると、俺にも入るよう促してきた。
玄関の中に入ると、真っ直ぐな廊下が続いていて、その両側に部屋があるタイプの間取りのようだった。
男は、1番手前にある左手のドアを開けると、自動で部屋の明かりが点いた。中に入るよう、手で示されたので、靴を脱ぎ、俺は部屋の中へと向かった。
部屋には、大きなベッドが一つ置かれたきりで、他には家具など何も見当たらなかった。ミニマリストもひっくり返るようなシンプルな寝室に、思わず目を丸くしてしまう。
それにしても、玄関に1番近い部屋を寝室にしているなんて、変わった男だなぁ……。
まさかヤリ部屋とかじゃねぇだろうな……。
男の風貌からしても、一般的な仕事をしているようには、とても見えない。
たろさんが言ってた男の「特殊な仕事」と、この部屋と、何か関係があるのかもしれない。
あのあけすけな性格の、たろさんが、濁してたってことは、よっぽどヤバい仕事なんじゃないだろうか。
俺は、思いっきり警戒していた。
しかし、そんな俺の心中なぞ、どこ吹く風で、男は涼しい顔のままで言ったのだ。
「では、セーフワードを決めておきましょう」
……ん?
男が、まるで天気でも確認するかのように、何気ない顔で、えげつないことをサラッと言ってきたので、一瞬で時が止まってしまった。
いや、セーフワードって……!?
Dom/Subじゃねーんだから!
(Dom/Subとは、BL漫画における特殊設定のことで、通称Dom/Subユニバースとも言う。)
バカバカしいとは思いつつも、念のため、俺は予防線を張っておくことにした。
「えっと……あなた、ゲイなんですか?」
「分かりました、それでいいです」
……え? な、何が??? ……は!? いや、そーじゃなくて! なんか、いつの間にかセーフワードが決まっちゃってるんですけど。フツーにヤベーじゃん、この男。ちょっと、たろさん、……ど、どーなっちゃってんの~!?
俺は、すでに心の中で半泣き状態だった。
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