私のリビングアーマー

福々 ゆき

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7 お嬢様と静かな森の狼

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 ふわふわとした尻尾を嬉しそうに揺らし、小さな牙が並んでいる口をくぁ、と大きく開けた。アリシアがその毛並みを優しく撫でると気持ち良さそうに目を閉じる。
 バルトがその様子を苦々しそうに見ていたため、アリシアは苦笑する。
 
 屋敷に訪ねてくるようになったこの『小さな狼』は、先日の子供の『本来の姿』だった。
 
 
 
 
 
 
 あの出来事があった次の日、跳ねるように庭を走りぬけアリシアの元に飛びつこうとした――実際はバルトに止められた――この小さな狼は、瞬き一つで昨日の子供の姿に変わると、にかっとした笑顔でまたあそびに来た、と言った。
 
 どうやら本来は狼で、正式なところは不明だが子供の姿は『なりたいと思ったものに姿が変わる』という加護でそうなったようだ。人が好きでこの姿でたまに町にいっている、と子供は楽しそうに話す。アリシアの噂話もそこで聞いたらしい。
 
 それで森と屋敷の魔術が効かない上に、森の中を子供の足で歩けるのか、とそれを聞いたアリシアは疑問が解けた。
 
 森にすむ生き物たちのために魔術の対象は人やそれに近い種族に限定しているのて、狼であるこの子供にそれが効く筈が無いし、狼の足なら森の中も歩けない訳が無い。
 
「オレさいきん、この森にきたんだ。いいところだよな」
「あら、そうだったの……狼が住めるような所があったかしら?」
 子狼の言葉にアリシアは少し首を傾げた。
 
 この屋敷の周りが静かな森と言われるのは理由がある。生息する生き物が極端に少ないのだ。
 それは森が悪いということではなく、森に溜まる魔力のせいだ。この辺りの土地は魔石が多くあるので元々魔力が溜まりやすい。
 それだけなら珍しくもない事で問題無い。
 
 しかし、この森にはアリシアが来た時から守護の魔術を掛け続けている為、魔力が少しずつ溜まり空気中にも溢れ出てしまっている。
 
 それがどうやら一部の森の生き物に不快らしく、違う森に移ってしまうのだ。
 魔力で満ちている森自体は元気だが、寂しい場所となっている。
 
「大丈夫? 魔力が多すぎてここは住みにくいみたいなのだけど」
「えっ! あんなにうまいのに?」
 驚く子狼のまるで魔力を食べているかのような発言に、自分は何か思い違いをしているのでは、と不安になり確認をする。
「あの、貴方は狼なのよね?」
 
「んん? おおかみってゆーか『フェンリル』ってゆうらしいな。かっこいいだろ!」
  
 フェンリル、とアリシアは小さく復唱してこの子には何度も驚かされるなと若干の現実逃避をしていると、それまでじっと話を聞いていたバルトが動き子狼を持ち上げた。
 
「わっ! また、あのオバケかよ!」
「バルト!? 何をしているの!」
 バルトはアリシアに『危険です』と首を振って子狼から遠ざける。
 バルトに危険認定されてしまったようだ。
 
 しかし、その認識は過剰なものではない。フェンリルは子供のうちはおとなしいが大きくなるにつれて凶暴化していく。
 その最大の大きさは天にも届くほど、とされている種族だ。数が少ないため確かな事はわかっていないのだが。
 
「まだ子供なのよ? 離してあげて」
 アリシアの言葉に首を振り、この子狼をどうするかバルトは考える。森に住むのはいいがアリシアに危害を加えないようにしなくてはいけない。
 バルトの対応に子狼はむっとすると口を開いた。
 
「なんか、これ言うといっつも、かんちがいされんだけどさあ、オレ別に人たべたりしないからな!」
 
 言われ慣れているのであろう言葉へ先走って答える。
 人が好きだと言うこの子狼には一番言われたくないことだったのだろう。
 バルトはさすがに食べるとまでは思っていなかったが、危害を加える想像をしてしまった事に気まずそうにしている。
 
「……そうね。貴方は人になるくらい人が好きなんだもの」
「ああ、好きだ! もちろんあんたも好きだぞ!」
 笑顔でそう言った子狼を、バルトはそっとソファにおろし謝ろうとすると、
 
 
 「まぁ、このオバケはキライだけどな! 何か暗いし。あんたもいやになったらすぐオレのところに来いよ、嫁にしてやるからさ!」
 
 
 聞こえた言葉に、即座に謝罪を却下して子狼の肩を抑えた。
 少し強いがフェンリルなら軽いものだろう。
 
 焦るアリシアと抜け出そうとする子狼の声を聞きながら、バルトは自分の心が狭いことを知った。
 
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