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8 『家族』からの手紙
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バルトが意外な大人げなさを見せてから数日、よく晴れた空から一羽の大きな白い鳥が屋敷に舞い降りた。
この鳥は人がたどり着けないこの屋敷に、手紙や軽い荷物を届けてくれる大事な存在だ。
キュルキュルと鳴くその鳥は、持っていた手紙をバルトの手に落とすと、すぐに飛び立ち空の向こうへ消えていった。
「あら? いつもは返事を書くまで待っていてくれるのに」
バルトが念の為手紙の安全を確認し、それを受け取ったアリシアは、届けてくれた鳥の普段とは違う行動に違和感を覚えるも、返信不用のものなのかしらと適当な理由を想像して、手元の手紙に視線を移す。
「フェリックスからだわ」
手紙の差出人はアリシアの家族――生まれた家の子孫――であるフェリックスだった。
アリシアが受けとる手紙の八割は彼で、残りの二割はほぼ彼の妹なので、実質アリシアは手紙のやり取りを『家族』としかしていない。
「珍しいわね、フェリックスが便せん一枚の短い手紙を書くなんて」
フェリックスの普段の手紙はかなり長い。
一度、手紙を運ぶ鳥が重さでふらふらしなから飛んで来たので、短くまとめてほしいとアリシアがお願いしたくらいだ。
此方を気づかう言葉や褒め言葉、自分の近況をこと細かに書くことはまだマメなだけですむのだが、手紙はだいたい途中から彼の妹の自慢話と、それに関係する相談事にかわり枚数がどんどん増していく。妹が大好きで仕方ないらしい。
ちなみに彼の妹からの手紙には兄をどうにかしてくれと書いてあるので、フェリックスの片思いだ。
「えぇと『親愛なる僕の妖精アリシアへ』ちょっと待って、何か最近聞いた言葉が……まさかね。思い違いよね」
何となく引っかかる言葉があったものの、そういう気分だったのだろうとその思考を打ち切り続きを読む。
「『君に紹介したい人がいるんだ。三日くらいでそっちに行くよ』……え?」
慌てて手紙を出した日付を確認すると二日前だった。
「明日? 来るならもっと前もって言ってくれないかしら……!」
動揺するアリシアをバルトが宥めた。
フェリックスは行動力がありすぎるせいでたまにこういう事をする。手紙と同時に訪ねて来たこともあったので、それよりは良いのかもしれない。
少し落ち着いたアリシアは一行しかない手紙をテーブルに置いてため息をつく。
「そうよね、いつものことよね。……バルト、そのアップルパイは出さなくていいわ。お昼に食べるから」
そっとアップルパイを用意していたバルトは、その言葉に『落ち着いたのか、良かった』と言っているように、ほっとしてアップルパイを下げた。
「フェリックスが家族以外の誰かと来るなんて初めてよね」
状況が特殊な為、家族の友人とも会って来なかったアリシアは不思議に思う。紹介したい人とはどんな人なのだろうか。
「もしかして……恋人かしら! それとも婚約者かもしれないわね」
若干、瞳をきらきらとさせながらアリシアは一緒に来る人物を想像する。
バルトはなるほど婚約者の可能性はあるな、と思った。
フェリックスは十七才だ。恋人も婚約者も十分あり得る、十二、十三で婚約者がいるこの世の中ではむしろ遅いくらいの年齢だ。
彼は妹が一番大事だと言い続けていたせいか、相手がなかなか現れなかったのだが、遂にいずれ『家族』になる人が出来たのだろうか。
想像でしかないが。
そう考えたアリシアとバルトは少し明日が楽しみになった。
この鳥は人がたどり着けないこの屋敷に、手紙や軽い荷物を届けてくれる大事な存在だ。
キュルキュルと鳴くその鳥は、持っていた手紙をバルトの手に落とすと、すぐに飛び立ち空の向こうへ消えていった。
「あら? いつもは返事を書くまで待っていてくれるのに」
バルトが念の為手紙の安全を確認し、それを受け取ったアリシアは、届けてくれた鳥の普段とは違う行動に違和感を覚えるも、返信不用のものなのかしらと適当な理由を想像して、手元の手紙に視線を移す。
「フェリックスからだわ」
手紙の差出人はアリシアの家族――生まれた家の子孫――であるフェリックスだった。
アリシアが受けとる手紙の八割は彼で、残りの二割はほぼ彼の妹なので、実質アリシアは手紙のやり取りを『家族』としかしていない。
「珍しいわね、フェリックスが便せん一枚の短い手紙を書くなんて」
フェリックスの普段の手紙はかなり長い。
一度、手紙を運ぶ鳥が重さでふらふらしなから飛んで来たので、短くまとめてほしいとアリシアがお願いしたくらいだ。
此方を気づかう言葉や褒め言葉、自分の近況をこと細かに書くことはまだマメなだけですむのだが、手紙はだいたい途中から彼の妹の自慢話と、それに関係する相談事にかわり枚数がどんどん増していく。妹が大好きで仕方ないらしい。
ちなみに彼の妹からの手紙には兄をどうにかしてくれと書いてあるので、フェリックスの片思いだ。
「えぇと『親愛なる僕の妖精アリシアへ』ちょっと待って、何か最近聞いた言葉が……まさかね。思い違いよね」
何となく引っかかる言葉があったものの、そういう気分だったのだろうとその思考を打ち切り続きを読む。
「『君に紹介したい人がいるんだ。三日くらいでそっちに行くよ』……え?」
慌てて手紙を出した日付を確認すると二日前だった。
「明日? 来るならもっと前もって言ってくれないかしら……!」
動揺するアリシアをバルトが宥めた。
フェリックスは行動力がありすぎるせいでたまにこういう事をする。手紙と同時に訪ねて来たこともあったので、それよりは良いのかもしれない。
少し落ち着いたアリシアは一行しかない手紙をテーブルに置いてため息をつく。
「そうよね、いつものことよね。……バルト、そのアップルパイは出さなくていいわ。お昼に食べるから」
そっとアップルパイを用意していたバルトは、その言葉に『落ち着いたのか、良かった』と言っているように、ほっとしてアップルパイを下げた。
「フェリックスが家族以外の誰かと来るなんて初めてよね」
状況が特殊な為、家族の友人とも会って来なかったアリシアは不思議に思う。紹介したい人とはどんな人なのだろうか。
「もしかして……恋人かしら! それとも婚約者かもしれないわね」
若干、瞳をきらきらとさせながらアリシアは一緒に来る人物を想像する。
バルトはなるほど婚約者の可能性はあるな、と思った。
フェリックスは十七才だ。恋人も婚約者も十分あり得る、十二、十三で婚約者がいるこの世の中ではむしろ遅いくらいの年齢だ。
彼は妹が一番大事だと言い続けていたせいか、相手がなかなか現れなかったのだが、遂にいずれ『家族』になる人が出来たのだろうか。
想像でしかないが。
そう考えたアリシアとバルトは少し明日が楽しみになった。
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