私のリビングアーマー

福々 ゆき

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9 『家族』の訪問(前)

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 屋敷にお客様が来る。
 そんな、いつもと違う今日に静かな森でさえさわさわと賑わっているような気がする。
 恋というものに縁遠かった『家族』に春が来たのかもしれない。そうアリシアは浮き立った気持ちで出迎えたのだが……。

「俺はシュテル……あ? なんだその目は」
 
 柔和に微笑むフェリックスの隣に立っていたのは、学校で仲がいいという、目つきが鋭く顔は整っているがそこはかとなくガラの悪い大柄な男性だった。
  
 婚約者じゃなかった、と出迎え用の笑顔が瞬時に残念そうな顔に変わり、それをシュテルと名乗った青年が指摘する。
 視線の鋭さに固まったままのアリシアを守るようにバルトが前に出て警戒すると、フェリックスが朗らかに口を挟んだ。
 
「ああ、気にしなくていいよ。シュテルはこんな目つきで、誰に対しても喧嘩腰だけど悪い奴ではないから」
 
 確かにフェリックスが悪いものを連れてくるはずがない、とバルトは思ったが、誰に対しても喧嘩腰というのが気になったので、いつもよりアリシアの近くに待機し警戒を少し残す。
 
 シュテルはフェリックスの言葉に機嫌を悪くしたように悪態をつくだけで、手は出ないので少なくとも暴力的な人物ではなさそうだ。
 
「あ、そうだシュテル。此方が僕の妹のような姉のような……もう一人の『家族』で僕の愛しい妖精アリシアだよ」
「初めまして……ところでフェリックス、その妖精というのあちこちに言ってないわよね?」
 
 嬉しそうにマイペースな紹介を進める、フェリックスの言葉の一部に不安を覚えたアリシアは、自分の思い過ごしでありますようにと願いながら気になっていた事を聞いた。
 
「え? アリシアの事を聞かれるたびに僕の妖精だって言ってるけど、どうかした?」
 こいつだ。絶対あの噂の妖精部分はこいつのせいだ 、とアリシアは微妙な気持ちで確信した。
 
 きょとんと何故そんなことを聞くのかわからない、という顔をする彼に悪気は全くなく、彼なりの家族に対する愛情表現なのでアリシアにフェリックスを責める気はないが、そのせいで噂話が違和感のあるものになったのは確かだった。
 
「なんでもないわ。すみません、シュテルさん。話を変えてしまって」
 そう? と納得したのかしてないのかわからない顔をしたフェリックスは置いて、紹介の途中で遮ってしまったことをシュテルに詫びる。
 
「はぁ? 別にいいけどよ。何であんた敬語なんだよ俺は年下だろ、気持ち悪いから呼び捨てにしろ」
 
 睨みつけるように、尊大な口調で控えめな態度をとるシュテルのちぐはぐさに、脳が言葉の意味を理解するのに時間がかかった。
 フェリックスが言った誰に対しても喧嘩腰とはこういうことだろうか。
「……ええ、わかったわシュテル」
「おぉ、わかれば良いんだよ」
 
 頷くシュテルを見て、フェリックスと友人になるくらいだから彼も変わっているんだろう、と自分を納得させているアリシアは、少し後ろでシュテルを黙らせるかどうかで迷っているバルトを視線を送って宥め――ようとしたが逆に黙らせろの合図だと思ったバルトを、慌てて止めた。
 
 それを見ていたフェリックスは、
「ごめんねアリシア。怖いかもしれないけど、シュテルは相手になめられないように少し言葉がキツいだけだから」
「お前は余計なことしゃべんな!」
 
 なめられないように言葉がキツいというが、シュテルは見た目に十分すぎる迫力があるのでそのままで良かったのではないか、とアリシアは思った。
 しかし、余計なことは言わないように言葉をのみ込む。
 
「見た目だけで十分だと思った?」
 
 アリシアが敢えて言わなかった言葉を、フェリックスが楽しげに言う。
「最初は普通にしてたよね、シュテル」
「うるせぇ、お前らが問題児過ぎるからこうなったんだろうが」
 
 ふふっと思い出したように笑うフェリックスに、シュテルが苦虫を噛み潰したような顔をした。
「話が見えないのだけど、シュテルは生徒会長か何かなの?」
 問題児、と言うからには彼は何か責任のある立場なのだろうとアリシアは思う。
 
 
「あ、言い忘れてた。僕の通ってる学校の最年少教師・・・・・、シュテル先生だよ」
「普段呼ばねえクセに、こういう時だけ先生って言うんじゃねぇ!」
 
 チッと舌打ちをしながら言った言葉の衝撃に、これは三者面談か何かなのかとアリシアは呆けた頭でぼんやりと考えながら、そういう事は先に言ってほしいと強く思った。
 
 このことを日記に書くならこうだろうか、婚約者を連れてくると思ったら先生が来た。
 
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