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10 『家族』の訪問(後)
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不機嫌そうに顔を顰めたシュテルと、対照的な笑顔で話すフェリックスは、確かに紹介する時『仲がいい』とは言っても『クラスメイト』だとは言っていなかった。
「そう、先生だったの。優秀なのね」
社交辞令のような言葉を返すことしか出来なかったが、それ以外思いつかなかったのだ。
アリシアはフェリックスは肝心なところで言葉がたりない、と何となく八つ当たり気味に考えていた。
因みに、小さい言い合いをしているフェリックスとシュテルは聞いていないのが、アリシアを更に微妙な気持ちにさせている。
シュテルが不機嫌そうなのは変わらないが、言いたいことは言い終わったのか諦めたのか、フェリックスが話を紹介に戻す。
「アリシアが手紙に書いてた本の中に、シュテルが書いた本の名前があったから紹介するのに丁度いい機会かなって思って……」
シュテルもアリシアが作った魔術式に興味あるみたいだったし、と続けたフェリックスの言葉にアリシアは重ねるように質問した。
「え、どの本の事かしら?」
読んだ本の中にシュテルという作者の本があっただろうかと頭を悩ませる。
「長い題名で、魔術式の効率化みたいな事書いてある本」
「《古代魔術式と現代魔術式の違いから効率化を読み解く》!?」
アリシアが水を零して購入し直した本だ。買う時に自分が醜態をさらしてしまった事は記憶に新しい。
無意識にちらりと視線をバルトに向けると、静かに警戒を続けていたバルトは少し不思議そうに首を傾げた。
「あ、それだ。それ書いたのシュテル」
参考にするために読んだ本の作者が、フェリックスと親しい、しかも今目の前にいる人物だったことに、アリシアは気分が高揚したのを感じる。
話を聞いていたシュテルは、僅かに驚いた表情をすると幾分か雰囲気が和らぐ。
「へえ、本当にあの本読んでたのか」
「貴方があの本の作者……!」
本と魔術式の話題からポンポンと話しが弾む二人を見て蚊帳の外となったフェリックスは、大好きな『家族』と友人が仲よくなって嬉しそうに微笑むと、アリシアの後ろでどことなく機嫌の悪そうな空気を振りまいているバルトに近づいた。
「心配しなくても大丈夫だよ。バルト」
そう話しかけられた鎧は、別に自分はもうシュテルが危害を加える人物だと認識していない、大丈夫なのはわかっていると首を振る。
その様子にフェリックスは伝わらなかったかと苦笑する。
「僕は君の言葉はわからないけど、君の思いはわかっているよ」
何の話だとバルトはガチャンと音をたてフェリックスの方を向く。アリシアとシュテルはまだ楽しそうに話していた。
「鎧の姿で何でも出来るくらい器用なのに、心は不器用だよね君は」
バルトにはフェリックスが何を言おうとしているかわからないが、話を聞こうとじっと待つ。
「僕とアリシアは血の繋がった『家族』だけど、ずっと側に居ることは出来ない」
フェリックスはあっさり過ぎるほどはっきりと、自分とアリシアの流れる時間が違うことを話す。
それはアリシアの側で今まで続いている『家族』を見てきたバルトもわかっている事だ。
たまに『家族』を見て寂しそうに笑うアリシアを見るたびに痛む筈の無い胸が痛み、無力な自分を情けなく思う。
「でも君は違う。長い時もリビングアーマーなら関係ない。アリシアの心を支えている一番の家族、それは君だよバルト」
元人間ではあるがリビングアーマーという人外のものを、フェリックスは家族だと言いきった。
自分はアリシアに仕えている身だと思ったバルトだったが『アリシアの一番の家族』と言われた事に、ほんのりと喜びを感じた事は隠しようのない事実だ。
それと同時になんとも言えないもやもやしたものがあったが、それにはそっと蓋をした。
「だから、心配しなくても『大丈夫』だよ」
自分より百年以上も年下のフェリックスに、嫉妬深い内面を見透かされた事にバルトは居心地の悪さを感じつつ、それを誤魔化すようにガシャガシャと体を揺らした。
言っている言葉は聞こえないがバルトとフェリックスが話しているのを見て、アリシアは苛々していたバルトをフェリックスが宥めたのであろう事を察する。
バルトが漂わせていた不機嫌な空気は大分和らいでいた。
「フェリックスは中々大変な所がある子だけどいい子だからよろしくね」
「……知ってる」
そう答えたシュテルの言葉に、フェリックスはいい関係を築いているのだなとアリシアは安心したように笑った。
それからアリシアの文通相手にシュテルが増えた。
バルトは手紙の相手を見るたび複雑そうな雰囲気になるが、アリシアが魔術式のことを聞けて楽しそうなのでいいと思うことにする。
しかし、魔術式のことを書くシュテルもフェリックスに劣らず手紙の量が多い為、鳥の負担も増えてしまっていた。
アリシアはせめて、返事はゆっくり書いて屋敷にいる時は労ろうと、疲れた様子の鳥を見ながらお疲れ様と声をかけた。
「そう、先生だったの。優秀なのね」
社交辞令のような言葉を返すことしか出来なかったが、それ以外思いつかなかったのだ。
アリシアはフェリックスは肝心なところで言葉がたりない、と何となく八つ当たり気味に考えていた。
因みに、小さい言い合いをしているフェリックスとシュテルは聞いていないのが、アリシアを更に微妙な気持ちにさせている。
シュテルが不機嫌そうなのは変わらないが、言いたいことは言い終わったのか諦めたのか、フェリックスが話を紹介に戻す。
「アリシアが手紙に書いてた本の中に、シュテルが書いた本の名前があったから紹介するのに丁度いい機会かなって思って……」
シュテルもアリシアが作った魔術式に興味あるみたいだったし、と続けたフェリックスの言葉にアリシアは重ねるように質問した。
「え、どの本の事かしら?」
読んだ本の中にシュテルという作者の本があっただろうかと頭を悩ませる。
「長い題名で、魔術式の効率化みたいな事書いてある本」
「《古代魔術式と現代魔術式の違いから効率化を読み解く》!?」
アリシアが水を零して購入し直した本だ。買う時に自分が醜態をさらしてしまった事は記憶に新しい。
無意識にちらりと視線をバルトに向けると、静かに警戒を続けていたバルトは少し不思議そうに首を傾げた。
「あ、それだ。それ書いたのシュテル」
参考にするために読んだ本の作者が、フェリックスと親しい、しかも今目の前にいる人物だったことに、アリシアは気分が高揚したのを感じる。
話を聞いていたシュテルは、僅かに驚いた表情をすると幾分か雰囲気が和らぐ。
「へえ、本当にあの本読んでたのか」
「貴方があの本の作者……!」
本と魔術式の話題からポンポンと話しが弾む二人を見て蚊帳の外となったフェリックスは、大好きな『家族』と友人が仲よくなって嬉しそうに微笑むと、アリシアの後ろでどことなく機嫌の悪そうな空気を振りまいているバルトに近づいた。
「心配しなくても大丈夫だよ。バルト」
そう話しかけられた鎧は、別に自分はもうシュテルが危害を加える人物だと認識していない、大丈夫なのはわかっていると首を振る。
その様子にフェリックスは伝わらなかったかと苦笑する。
「僕は君の言葉はわからないけど、君の思いはわかっているよ」
何の話だとバルトはガチャンと音をたてフェリックスの方を向く。アリシアとシュテルはまだ楽しそうに話していた。
「鎧の姿で何でも出来るくらい器用なのに、心は不器用だよね君は」
バルトにはフェリックスが何を言おうとしているかわからないが、話を聞こうとじっと待つ。
「僕とアリシアは血の繋がった『家族』だけど、ずっと側に居ることは出来ない」
フェリックスはあっさり過ぎるほどはっきりと、自分とアリシアの流れる時間が違うことを話す。
それはアリシアの側で今まで続いている『家族』を見てきたバルトもわかっている事だ。
たまに『家族』を見て寂しそうに笑うアリシアを見るたびに痛む筈の無い胸が痛み、無力な自分を情けなく思う。
「でも君は違う。長い時もリビングアーマーなら関係ない。アリシアの心を支えている一番の家族、それは君だよバルト」
元人間ではあるがリビングアーマーという人外のものを、フェリックスは家族だと言いきった。
自分はアリシアに仕えている身だと思ったバルトだったが『アリシアの一番の家族』と言われた事に、ほんのりと喜びを感じた事は隠しようのない事実だ。
それと同時になんとも言えないもやもやしたものがあったが、それにはそっと蓋をした。
「だから、心配しなくても『大丈夫』だよ」
自分より百年以上も年下のフェリックスに、嫉妬深い内面を見透かされた事にバルトは居心地の悪さを感じつつ、それを誤魔化すようにガシャガシャと体を揺らした。
言っている言葉は聞こえないがバルトとフェリックスが話しているのを見て、アリシアは苛々していたバルトをフェリックスが宥めたのであろう事を察する。
バルトが漂わせていた不機嫌な空気は大分和らいでいた。
「フェリックスは中々大変な所がある子だけどいい子だからよろしくね」
「……知ってる」
そう答えたシュテルの言葉に、フェリックスはいい関係を築いているのだなとアリシアは安心したように笑った。
それからアリシアの文通相手にシュテルが増えた。
バルトは手紙の相手を見るたび複雑そうな雰囲気になるが、アリシアが魔術式のことを聞けて楽しそうなのでいいと思うことにする。
しかし、魔術式のことを書くシュテルもフェリックスに劣らず手紙の量が多い為、鳥の負担も増えてしまっていた。
アリシアはせめて、返事はゆっくり書いて屋敷にいる時は労ろうと、疲れた様子の鳥を見ながらお疲れ様と声をかけた。
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