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1章-エルファッタの想いは伝わらない-
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正門につく。周りを見渡し、馬車を探す。
「お嬢様、こちらです」
御者が私を呼ぶ。
「ええ、ありがとう」
馬車に乗るとお屋敷に戻るまで暇なので、先程までのことを目を瞑り思い出す。
さっきまで大丈夫だった心が今になって泣き出した。
(……痛い。何かが壊れそうなこの感じ、嫌いだわ)
泣くのは我慢とエルファッタは思う。それはなぜか。きっとエルファッタはこう言う。
だって淑女らしくないから。あなたのために頑張ってきたのが無駄になりそうで、私は泣かない。……と。
こんなに好きなのにわかってもらえないなんて、悲しいわね。
エルファッタはこう心の中で言った。
***
アオイは苛ついていた。それはエルファッタが後ろに向くときの姿が美しかったからだ。
「綺麗だった……エルファッタをますます地獄に落としたいな」
思わず呟いてしまった言葉にはっとする。そして周りに人がいないか確認する。
「良かった、いない」
少し俯き、目が吊り上がっていくのがわかる。きっと今は嫉妬で醜く、汚い顔になっていると思う。アオイは親指の爪を噛む。
(エルファッタ……! あんなに綺麗なら、美しいなら、美しいならこの世界に来なきゃ良かった)
アオイは転移者だ。そのアオイが元々住んでいた世界にある“ゲーム”というものの世界がこの、アルテウツァ帝国だ。その中のエルファッタのイラストというものは醜く描かれている。
(あの男! 少し違うとか言ってたくせに少しどころか、全然違うじゃない!)
手に力が入り、爪が食い込んでいく。
そして、いつの間にかアルファスの部屋の前についていた。気を取り直してコンコンと扉を叩く。アルファスからの了承を得て、部屋に入った。
アオイは顔を上げた。
「ご機嫌よう」
ふわりと小動物のような可愛らしい笑顔をアルファスに向けた。さっきまでの醜い顔と違って。
「アオイ……!ご機嫌よう」
だが、アルファスの機嫌は次のアオイの一言でなくなった。
「アルファス、聞いてください。エルファッタが____」
アルファスは目を見開く。禍々しい気配を出しながら、慎重に言葉を選ぶ。
「それは……本当か?」
「はい」
うるっとした目でアルファスを見た。アオイは口角を少しだけあげ、アルファスに見られないように上げた。
きっと、アオイの元々の世界の友達がいたら、こう言っていた。「腹黒」だと。
アオイは元々の世界ではぶりっ子と呼ばれる類だった。
男子に媚び、女子を見下し、典型的なぶりっ子だった。だが、女子の反感をずっと買っていた。
二学期が始まって少し経った日、上履きがなかった。すぐ近くにあるゴミ箱を覗いてみると、そこにはアオイという丸文字の可愛いらしい文字が書かれてあった。
「ひどい!」
アオイは叫んだが、反応してくれるのはただアオイの好みの顔じゃない男子だけだった。
それからずっといじめと呼べるような、呼べないような曖昧な嫌がらせが続いた。先生に言っても先生の信頼のある人物から「気づかなかった」、「間違えてた」と言われるだけだった。
そんな時、服が黒一色の男が現れた。その男はアオイに手を差し伸べてくれた。甘い言葉をいっぱいかけてくれた。
そんなある日、男が
「あんたのやっているゲームの世界に入るか?」
と聞いてきた。アオイは「勿論……入るよ!」と言った。
そして、この世界に来たのだった。
アルファスと、他の攻略者と幸せになるために。
……エルファッタを見下すために。
「お嬢様、こちらです」
御者が私を呼ぶ。
「ええ、ありがとう」
馬車に乗るとお屋敷に戻るまで暇なので、先程までのことを目を瞑り思い出す。
さっきまで大丈夫だった心が今になって泣き出した。
(……痛い。何かが壊れそうなこの感じ、嫌いだわ)
泣くのは我慢とエルファッタは思う。それはなぜか。きっとエルファッタはこう言う。
だって淑女らしくないから。あなたのために頑張ってきたのが無駄になりそうで、私は泣かない。……と。
こんなに好きなのにわかってもらえないなんて、悲しいわね。
エルファッタはこう心の中で言った。
***
アオイは苛ついていた。それはエルファッタが後ろに向くときの姿が美しかったからだ。
「綺麗だった……エルファッタをますます地獄に落としたいな」
思わず呟いてしまった言葉にはっとする。そして周りに人がいないか確認する。
「良かった、いない」
少し俯き、目が吊り上がっていくのがわかる。きっと今は嫉妬で醜く、汚い顔になっていると思う。アオイは親指の爪を噛む。
(エルファッタ……! あんなに綺麗なら、美しいなら、美しいならこの世界に来なきゃ良かった)
アオイは転移者だ。そのアオイが元々住んでいた世界にある“ゲーム”というものの世界がこの、アルテウツァ帝国だ。その中のエルファッタのイラストというものは醜く描かれている。
(あの男! 少し違うとか言ってたくせに少しどころか、全然違うじゃない!)
手に力が入り、爪が食い込んでいく。
そして、いつの間にかアルファスの部屋の前についていた。気を取り直してコンコンと扉を叩く。アルファスからの了承を得て、部屋に入った。
アオイは顔を上げた。
「ご機嫌よう」
ふわりと小動物のような可愛らしい笑顔をアルファスに向けた。さっきまでの醜い顔と違って。
「アオイ……!ご機嫌よう」
だが、アルファスの機嫌は次のアオイの一言でなくなった。
「アルファス、聞いてください。エルファッタが____」
アルファスは目を見開く。禍々しい気配を出しながら、慎重に言葉を選ぶ。
「それは……本当か?」
「はい」
うるっとした目でアルファスを見た。アオイは口角を少しだけあげ、アルファスに見られないように上げた。
きっと、アオイの元々の世界の友達がいたら、こう言っていた。「腹黒」だと。
アオイは元々の世界ではぶりっ子と呼ばれる類だった。
男子に媚び、女子を見下し、典型的なぶりっ子だった。だが、女子の反感をずっと買っていた。
二学期が始まって少し経った日、上履きがなかった。すぐ近くにあるゴミ箱を覗いてみると、そこにはアオイという丸文字の可愛いらしい文字が書かれてあった。
「ひどい!」
アオイは叫んだが、反応してくれるのはただアオイの好みの顔じゃない男子だけだった。
それからずっといじめと呼べるような、呼べないような曖昧な嫌がらせが続いた。先生に言っても先生の信頼のある人物から「気づかなかった」、「間違えてた」と言われるだけだった。
そんな時、服が黒一色の男が現れた。その男はアオイに手を差し伸べてくれた。甘い言葉をいっぱいかけてくれた。
そんなある日、男が
「あんたのやっているゲームの世界に入るか?」
と聞いてきた。アオイは「勿論……入るよ!」と言った。
そして、この世界に来たのだった。
アルファスと、他の攻略者と幸せになるために。
……エルファッタを見下すために。
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