異世界からの送り者

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1章-エルファッタの想いは伝わらない-

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「エルファッタ、ただいま戻りました」
 静まり返った大広間にエルファッタの声だけが響く。それがなんとなく寂しい。
「……イロハ」
 エルファッタは専属メイドを呼んだ。
「はい、お嬢様なんでしょう?」
 そこに現れたのは赤茶色のお団子の髪に黒色の目で黒いワンピースの上に白いエプロンを着たメイド……イロハが現れた。幼い時イロハは一緒に遊ぶ友達だったが、いつしかメイドと変わってしまった。
 主従関係ができたのは悲しかった。


「殿下に笑顔が気味が悪いって言われたの……」


 静かだった。イロハもエルファッタも声を出さなかった。1分くらいしただろうか?エルファッタは声を出す。
「……暫く部屋の周りに人を近づかせないで」
 イロハは目を見開く。
「承知致しました。……イロハは相談にのりますからね」
 それは友達としてなのだろう。
「ありがとう」
 その言葉が悲しく聞こえたのだろう。イロハは眉を下げた微笑みを見せた。
(早く忘れたい)
 早足で部屋に向かう。コツコツという足音だけが廊下に響いている。全ての音が悲しく聞こえた。

 エルファッタの部屋のドアをイロハが開ける。エルファッタの目が潤んでいた。見ていたイロハは胸が苦しくなった。
「アルファス殿下、それだけでも傷ついてしまいますわ……」
 ボソッと聞こえたその声が震えていた。それにいつもなら殿下だけだったのに、とイロハは思った。

 エルファッタが部屋入った後はイロハの目から涙が溢れでていた。アルファスを許せない気持ちが涙に混じっていた。
「……エルファッタ、っうっ……」
 想いがわかってもらえないのは、なんて悲しいことでしょう。
 イロハはその場に崩れ落ちた。その時はメイドでもなく、友達だった。


 ドアの向こうからイロハの泣いている声が聞こえた。
「イロハ……」
 私がイロハを悲しませていると考えるだけで胸が苦しく、罪悪感が押し寄せてくる。
 頭を冷やそうとよろけながらもベッドに向かう。
「イロハ……ごめんなさい、ごめんなさい」
 泣き終わった後、ぐっすりと眠っていた。
 涙を流しながら。


 コンコンと何回も扉を叩く音で目を覚ました。
「どなた?」
「私だエルファッタ」
 それは父、ロイアスファル・ル・サヴァイオの声だった。
「お、お父様っ!? お入りくださいませ」
 ガチャと入ってきたのは深刻な表情をしたロイアスファルだった。何かあったのだろうか。
「唐突に言う。エルファッタ、お前転移者に何をした」
 話の意味がわからなかった。
「はい……? どういうことでしょうか」
「お前転移者に何をしたと言っているのだ!」
 肩を抑えられる。ロイアスファルはピリピリしている。
「何もしていませんっ……!」
 さらに力が入った。指が食い込んでくる。怖い。
「痛っ……」
 思わず呟いた言葉にロイアスファルは自分がしたことにはっとした。
「すまない……エルファッタ」
「大丈夫です、お父様。どうしたんですか?」
 ロイアスファルの口が重い。だから、一音一音ゆっくりと発せられた。
「転移者様がエルファッタに侮辱された……と言っておられる噂が流れているのだ」

 頭が真っ白になった。意味がわからない。もちろん侮辱などしていない。なのに、なぜそんなことを言われているのだろう。

 エルファッタは常に淑女として、何事も完璧にしてきた。侮辱はやらないし、やるとしても友達に話す程度で終わるはずだ。これが貴族としての初歩中の初歩なのに。

「……お父様、私皇帝陛下に手紙を書きますわ。真実を伝えるために」
 ロイアスファルは頷いた。手紙を書く作業に取り掛かる。手紙を書き終えたら、室内用ドレスに着替える。

 私、殿下のために助けたり色々やりましたのに。それさえも報われないのですね。

 少し頭がスッキリした。けれど、悲しみが癒えなかった。
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