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1章-エルファッタの想いは伝わらない-
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エルファッタの手紙の内容は簡潔に言うとこういう事を書いていた。
噂は事実ではない事と、誰が言ったのか調査を開始する事だ。
その手紙をロイアスファルに預けた。これから皇帝陛下に渡されるのだろう。
「イロハ、殿下や私達これからどうしたら良いんですかね」
手を口に当て、ふふと笑う。
夕食までには時間がある。かと言ってどこかに出かけれるほど時間はない。だからイロハにこれからのことを相談することにした。
「メイド、従者としてでしょうか」
「いいえ友人として」
メイド、いえ従者ではなく友人として、話してほしかった。イロハが言うたびに、エルファッタとイロハは主従関係だということが思い知らされる。
「エルファッタには失礼ですが……もう殿下の御心はエルファッタじゃなく、あの転移者様に……」
エルファッタは少し俯く。これから続く言葉を悟った。
「そうね……そうよね」
辺りが静まり返った。沈黙が重苦しい。その雰囲気を壊したのはエルファッタだった。
「だからね私、もう婚約破棄しようと思うの」
「はっ……!?」
それは、勇気ある判断だった。もう愛してくれなくて、さらに蔑まれるのなら耐えられないからだ。それはイロハもわかっていた。
エルファッタは夢見る女の子だった。恋に恋して、いつかエルファッタを愛してくれる相手がいると思っていた。だけど、それは叶わない。世界は中世ヨーロッパに似ていて、ましてや乙女ゲームの中。ヒロインは別にいる。恋愛結婚など親から、貴族から、世界から許されるはずがない。互いの利益になるようになっているからだ。それは年を重ねていくと徐々にわかっていった。
だが11歳に入った少し後、婚約者ができると言われた。そして顔合わせの時、淑女の礼…カーテシーをしてから顔をみる。暗い気持ちだったのが一気に吹き飛んでいった。
あどけなさが残る顔は整っていて、金髪碧眼に今もそうだが髪を後ろで一つに纏めていた。それが今のアルファスだ。政略結婚でもいいことはあると今初めて実感した。だが、アルファスはエルファッタと同じ気持ちでは無かった。地味な顔に碌に挨拶もしない。そう思っていた。最初から好意は持っていなかった。
だからか、どんどんと気持ちがこもっていなくて、上辺だけの微笑みは気味が悪くなっていった。ついぽろっと本音を出してしまった。「気味が悪い笑みだな」……と。恋は盲目と言うが、その通りだと思った。その言葉を言われて、急激に頭が冷めていった。
……だから、婚約破棄という判断をしようと思ったのだ。もちろんそれに伴う代償はわかっている。婚約者ができにくいこととか、生涯を一人で歩んでいくことになるとか…わかっている。
「……イロハ。私ね、幼い頃のエルファッタを大事にしたいと思ったのよ」
イロハもエルファッタが夢見る女の子だった頃から友達として、従者として一緒にいた。だからわかる。
「そうでございますか……私の出る幕ではございませんね」
目を瞑り、優しい微笑みを見せる。
「うん、ありがとう」
そうして、夕食会に呼び出された。この夕食会でロイアスファルにも言うつもりだ。
「イロハ、行くわよ」
「はい、行きましょう」
勇気を持って、不安を持って広間に向かった。アルファスと別れを受け入れれるように。もしかしたら無理かもしれないけれど……。だけど、出来る限り頑張れるようにしたい。
報われないなら、いっそ……。
------
時は少し遡る。
エルファッタとすれ違って話した後、殿下に告げた。
「アルファス、聞いてください。エルファッタが……」
握り拳を作って可愛さを残しながら、一生懸命話している姿を演じた。
「私を侮辱してきたんです」
とても傷ついたように泣き顔を作って、眉を下げる。
「私、悲しくって……!」
顔を手で覆う。その中にある顔は、笑っていた。
こんな嘘は当然通る訳ない。でも、アルファスなら有り得た。
「それは……本当か?」
アルファスは予想通りの反応をした。
「はい」
覆っていた手を取りアルファスの目を見つめる。
アオイは口元の口角をあげる。アルファスにバレないように。
……アオイの嘘はバレなかった。それにエルファッタの嫌がらせとしても使えると、アオイが考えていた。
「アルファス、私ねあなたのお嫁さんになりたいわ」
元の世界でも願っていたことだった。成人したらいつかしてみたいとアオイは考えていた。でも、この世界は結婚は14歳以上なら結婚しても良い。
そうしてアルファスを堕としていった。
何でも従うような可愛いアオイのタイプに仕上げていく。
(可愛い……次は手段さえ選ばないようにしていきたい。私を全てでもかけて守ってくれるような存在にしたい。あ、アルファスに何でも注ぎ込ませなくてもいいよね。他の攻略者がいるんだった)
アオイはアルファスを自分のタイプにしていっているようだ。ついでに他の攻略者がいるようで、その男にも悪く言ったら洗脳をしていくらしい。
次の攻略者は誰だったけと思い出す。
……確か、シリズール伯爵の息子だった。とアルファスの言っていることは聞き流してしまっていた。
それが仇となってしまう。
噂は事実ではない事と、誰が言ったのか調査を開始する事だ。
その手紙をロイアスファルに預けた。これから皇帝陛下に渡されるのだろう。
「イロハ、殿下や私達これからどうしたら良いんですかね」
手を口に当て、ふふと笑う。
夕食までには時間がある。かと言ってどこかに出かけれるほど時間はない。だからイロハにこれからのことを相談することにした。
「メイド、従者としてでしょうか」
「いいえ友人として」
メイド、いえ従者ではなく友人として、話してほしかった。イロハが言うたびに、エルファッタとイロハは主従関係だということが思い知らされる。
「エルファッタには失礼ですが……もう殿下の御心はエルファッタじゃなく、あの転移者様に……」
エルファッタは少し俯く。これから続く言葉を悟った。
「そうね……そうよね」
辺りが静まり返った。沈黙が重苦しい。その雰囲気を壊したのはエルファッタだった。
「だからね私、もう婚約破棄しようと思うの」
「はっ……!?」
それは、勇気ある判断だった。もう愛してくれなくて、さらに蔑まれるのなら耐えられないからだ。それはイロハもわかっていた。
エルファッタは夢見る女の子だった。恋に恋して、いつかエルファッタを愛してくれる相手がいると思っていた。だけど、それは叶わない。世界は中世ヨーロッパに似ていて、ましてや乙女ゲームの中。ヒロインは別にいる。恋愛結婚など親から、貴族から、世界から許されるはずがない。互いの利益になるようになっているからだ。それは年を重ねていくと徐々にわかっていった。
だが11歳に入った少し後、婚約者ができると言われた。そして顔合わせの時、淑女の礼…カーテシーをしてから顔をみる。暗い気持ちだったのが一気に吹き飛んでいった。
あどけなさが残る顔は整っていて、金髪碧眼に今もそうだが髪を後ろで一つに纏めていた。それが今のアルファスだ。政略結婚でもいいことはあると今初めて実感した。だが、アルファスはエルファッタと同じ気持ちでは無かった。地味な顔に碌に挨拶もしない。そう思っていた。最初から好意は持っていなかった。
だからか、どんどんと気持ちがこもっていなくて、上辺だけの微笑みは気味が悪くなっていった。ついぽろっと本音を出してしまった。「気味が悪い笑みだな」……と。恋は盲目と言うが、その通りだと思った。その言葉を言われて、急激に頭が冷めていった。
……だから、婚約破棄という判断をしようと思ったのだ。もちろんそれに伴う代償はわかっている。婚約者ができにくいこととか、生涯を一人で歩んでいくことになるとか…わかっている。
「……イロハ。私ね、幼い頃のエルファッタを大事にしたいと思ったのよ」
イロハもエルファッタが夢見る女の子だった頃から友達として、従者として一緒にいた。だからわかる。
「そうでございますか……私の出る幕ではございませんね」
目を瞑り、優しい微笑みを見せる。
「うん、ありがとう」
そうして、夕食会に呼び出された。この夕食会でロイアスファルにも言うつもりだ。
「イロハ、行くわよ」
「はい、行きましょう」
勇気を持って、不安を持って広間に向かった。アルファスと別れを受け入れれるように。もしかしたら無理かもしれないけれど……。だけど、出来る限り頑張れるようにしたい。
報われないなら、いっそ……。
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時は少し遡る。
エルファッタとすれ違って話した後、殿下に告げた。
「アルファス、聞いてください。エルファッタが……」
握り拳を作って可愛さを残しながら、一生懸命話している姿を演じた。
「私を侮辱してきたんです」
とても傷ついたように泣き顔を作って、眉を下げる。
「私、悲しくって……!」
顔を手で覆う。その中にある顔は、笑っていた。
こんな嘘は当然通る訳ない。でも、アルファスなら有り得た。
「それは……本当か?」
アルファスは予想通りの反応をした。
「はい」
覆っていた手を取りアルファスの目を見つめる。
アオイは口元の口角をあげる。アルファスにバレないように。
……アオイの嘘はバレなかった。それにエルファッタの嫌がらせとしても使えると、アオイが考えていた。
「アルファス、私ねあなたのお嫁さんになりたいわ」
元の世界でも願っていたことだった。成人したらいつかしてみたいとアオイは考えていた。でも、この世界は結婚は14歳以上なら結婚しても良い。
そうしてアルファスを堕としていった。
何でも従うような可愛いアオイのタイプに仕上げていく。
(可愛い……次は手段さえ選ばないようにしていきたい。私を全てでもかけて守ってくれるような存在にしたい。あ、アルファスに何でも注ぎ込ませなくてもいいよね。他の攻略者がいるんだった)
アオイはアルファスを自分のタイプにしていっているようだ。ついでに他の攻略者がいるようで、その男にも悪く言ったら洗脳をしていくらしい。
次の攻略者は誰だったけと思い出す。
……確か、シリズール伯爵の息子だった。とアルファスの言っていることは聞き流してしまっていた。
それが仇となってしまう。
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