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1章-エルファッタの想いは伝わらない-
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「…………」
エルファッタの口からは何も発せられない。まるで屍のようだ。静かな室内で、カリアたちはエルファッタを注目していた。エルファッタの呼吸が響く。
「……エルファッタはどうしたんだ?」
カリアが呟いた。エルファッタだけを考えていた。アオイのことなんか一切考えてはいない。頭の中でずっと、エルファッタが起きるのを願っていた。
ナーリットとハフイは暗い顔をしていた。なぜあの二人が連れ去られたのかを、なぜエルファッタだけが戻ってきたかを必死に考えていた。
アルファスはアオイの心配だけをしていた。エルファッタを目の前にして、なぜこいつだけが……! と思っていた。エルファッタが戻ってきたのは良いことなのに、アオイじゃないと喜べなかった。
ウィアルアとロイアスファルは悔やんでいた。もっと早くに来なかった事を、だ。だが、今更悔やんでも過去には戻れない。その事は重々承知していたはずだが、こんなにも動揺するなんてと思った。
「ん? あれー。まだ起きてないの」
そこには黒い髪をした男、カラスがいた。エルファッタを除いて、皆が驚いた。いち早く反応したのは、カリアだった。
剣を抜き取り、カラスの首の前で止める。
「何しにきた」
殺意がわかる。眼光を開いている。怒っているのだろうか。そう感じさせるくらい怖い。でも、そんな時でもヘラヘラしていた。
「あっはは~! 起こしに来ただけだよ」
カラスはこんな時でも笑っていた。黒い髪を揺らし、剣を握りしめる。血が溢れ出てくる。ここに居る全員が息をのんだ。
「エルファッタ嬢は今ね、い」
「アオイは! アオイはどうなんだ!」
アルファスは叫んだ。エルファッタを起こすという話題が終わるまで待ちきれなかったみたいだ。
ここに居る皆から蔑む目で見られる。そんなことも気にせずに夢中になっている。カラスはあー、と考えるふりをする。
「アオイ嬢は暴走したよ」
ただ一言を言って、その話題は興味ないとアルファスから目線を逸らす。
「でね、エルファッタ嬢は」
「暴走ってどういう……!」
そんなに興味ないのに何回も聞かれるので気に障ったのか、笑うことなくだんだんと兄の目に似てくる。そう、冷酷な目に。
「κλείσε το στόμα」
「~~~~~~っ!」
アルファスの口が閉じて、静かになる。唖然とした。
「エルファッタ嬢はね、隠蔽魔法があるんだけど」
「魔法を隠す魔法ですか?」
ウィアルアが恐る恐る聞く。
「はい! そうです。その隠蔽魔法を使って、仮死状態にさせてるんだ。まあ隠蔽魔法は高度な技術だから、知らない人も居るよ」
そう言われて納得した。揺らしても起きない訳だ。
カラスはエルファッタに手を当て何かを言おうとした時、アルファスがカラスの方に向かってきた。頭に血がのぼっている。
「うるせぇよ、皇子。κοιμάμαι」
カクンと膝が床につく。微睡んできた。
「ということで邪魔したら、殺す」
殺すという言葉が急に重く聞こえた。目が本当だった。カリアたちはこくんと頷くしかなかった。
「Ξυπνήστε, δεσποινίς Ελφάττα. Απελευθερωθείτε από τη μαγεία του προσωρινού θανάτου και ξυπνήστε.」
バチン! とエルファッタが起きるのを拒否する。青い光が天井に向かって飛んでいく。あれは魔法を具現化したものなのだろう。
「もしかして、違う言語とか……」
ロイアスファルが言う。カラスが振り向き、ぱっと明るい笑顔を見せる。
「そうだ! 兄は違う言語だ」
魔法には様々な言語が使われている。主に使われているのは地球でいうと、ギリシャ語やキルギス語などの言語が使われている。だから、魔法使いは全ての言語を習得しなければならない。
カラスは再度言った。同じ内容を。
「Ойгонгула, мисс Эльфатта. Убактылуу өлүмдүн сыйкырынан бошонуп, ойгонгула.」
またしても青い光が天井へ跳ね返る。
「なんでだ? 兄と同じ言語なのに……」
「……精神……」
誰かが言った。
「そうか、精神的に拒否をしているのか……! 仮死でも辛くないように、幸せな夢を見せ続けているから……」
きっと、そうであるという望みを持った。
***
「エルファッタ……」
その人は赤く頬を染めていた。そして、手を握られる。
「あ……っ! うん……」
恋人繋ぎをする。エルファッタは男性に免疫はないからか、顔を真っ赤にする。
「なんか、こういうの照れるね。アルファス」
二人は恋人のようだった。
エルファッタは叶うはずのない夢を見ていた。エルファッタもどこかでわかっていた。これは夢だという事を。でも、現実では叶わない事を願ってしまった。だから、夢から目覚める手も払ってしまった。
「エルファッタ……なんて、怖いんだ」
「え?」
甘い言葉が続いていたのに、急に厳しい事を言われた。
「エルファッタは怖い。可愛い笑顔も見えないし、表情が読めない」
「あ、え?」
エルファッタは戸惑う。何言ってるのと縋るような目をアルファスに見せるが、冷たかった。
アルファスはどんどん怪物になっていく。どろどろと黒いものを纏った怪物に。エルファッタは飲み込まれていく。
「助けて……」
エルファッタは手を前に出した。
エルファッタの口からは何も発せられない。まるで屍のようだ。静かな室内で、カリアたちはエルファッタを注目していた。エルファッタの呼吸が響く。
「……エルファッタはどうしたんだ?」
カリアが呟いた。エルファッタだけを考えていた。アオイのことなんか一切考えてはいない。頭の中でずっと、エルファッタが起きるのを願っていた。
ナーリットとハフイは暗い顔をしていた。なぜあの二人が連れ去られたのかを、なぜエルファッタだけが戻ってきたかを必死に考えていた。
アルファスはアオイの心配だけをしていた。エルファッタを目の前にして、なぜこいつだけが……! と思っていた。エルファッタが戻ってきたのは良いことなのに、アオイじゃないと喜べなかった。
ウィアルアとロイアスファルは悔やんでいた。もっと早くに来なかった事を、だ。だが、今更悔やんでも過去には戻れない。その事は重々承知していたはずだが、こんなにも動揺するなんてと思った。
「ん? あれー。まだ起きてないの」
そこには黒い髪をした男、カラスがいた。エルファッタを除いて、皆が驚いた。いち早く反応したのは、カリアだった。
剣を抜き取り、カラスの首の前で止める。
「何しにきた」
殺意がわかる。眼光を開いている。怒っているのだろうか。そう感じさせるくらい怖い。でも、そんな時でもヘラヘラしていた。
「あっはは~! 起こしに来ただけだよ」
カラスはこんな時でも笑っていた。黒い髪を揺らし、剣を握りしめる。血が溢れ出てくる。ここに居る全員が息をのんだ。
「エルファッタ嬢は今ね、い」
「アオイは! アオイはどうなんだ!」
アルファスは叫んだ。エルファッタを起こすという話題が終わるまで待ちきれなかったみたいだ。
ここに居る皆から蔑む目で見られる。そんなことも気にせずに夢中になっている。カラスはあー、と考えるふりをする。
「アオイ嬢は暴走したよ」
ただ一言を言って、その話題は興味ないとアルファスから目線を逸らす。
「でね、エルファッタ嬢は」
「暴走ってどういう……!」
そんなに興味ないのに何回も聞かれるので気に障ったのか、笑うことなくだんだんと兄の目に似てくる。そう、冷酷な目に。
「κλείσε το στόμα」
「~~~~~~っ!」
アルファスの口が閉じて、静かになる。唖然とした。
「エルファッタ嬢はね、隠蔽魔法があるんだけど」
「魔法を隠す魔法ですか?」
ウィアルアが恐る恐る聞く。
「はい! そうです。その隠蔽魔法を使って、仮死状態にさせてるんだ。まあ隠蔽魔法は高度な技術だから、知らない人も居るよ」
そう言われて納得した。揺らしても起きない訳だ。
カラスはエルファッタに手を当て何かを言おうとした時、アルファスがカラスの方に向かってきた。頭に血がのぼっている。
「うるせぇよ、皇子。κοιμάμαι」
カクンと膝が床につく。微睡んできた。
「ということで邪魔したら、殺す」
殺すという言葉が急に重く聞こえた。目が本当だった。カリアたちはこくんと頷くしかなかった。
「Ξυπνήστε, δεσποινίς Ελφάττα. Απελευθερωθείτε από τη μαγεία του προσωρινού θανάτου και ξυπνήστε.」
バチン! とエルファッタが起きるのを拒否する。青い光が天井に向かって飛んでいく。あれは魔法を具現化したものなのだろう。
「もしかして、違う言語とか……」
ロイアスファルが言う。カラスが振り向き、ぱっと明るい笑顔を見せる。
「そうだ! 兄は違う言語だ」
魔法には様々な言語が使われている。主に使われているのは地球でいうと、ギリシャ語やキルギス語などの言語が使われている。だから、魔法使いは全ての言語を習得しなければならない。
カラスは再度言った。同じ内容を。
「Ойгонгула, мисс Эльфатта. Убактылуу өлүмдүн сыйкырынан бошонуп, ойгонгула.」
またしても青い光が天井へ跳ね返る。
「なんでだ? 兄と同じ言語なのに……」
「……精神……」
誰かが言った。
「そうか、精神的に拒否をしているのか……! 仮死でも辛くないように、幸せな夢を見せ続けているから……」
きっと、そうであるという望みを持った。
***
「エルファッタ……」
その人は赤く頬を染めていた。そして、手を握られる。
「あ……っ! うん……」
恋人繋ぎをする。エルファッタは男性に免疫はないからか、顔を真っ赤にする。
「なんか、こういうの照れるね。アルファス」
二人は恋人のようだった。
エルファッタは叶うはずのない夢を見ていた。エルファッタもどこかでわかっていた。これは夢だという事を。でも、現実では叶わない事を願ってしまった。だから、夢から目覚める手も払ってしまった。
「エルファッタ……なんて、怖いんだ」
「え?」
甘い言葉が続いていたのに、急に厳しい事を言われた。
「エルファッタは怖い。可愛い笑顔も見えないし、表情が読めない」
「あ、え?」
エルファッタは戸惑う。何言ってるのと縋るような目をアルファスに見せるが、冷たかった。
アルファスはどんどん怪物になっていく。どろどろと黒いものを纏った怪物に。エルファッタは飲み込まれていく。
「助けて……」
エルファッタは手を前に出した。
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