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1章-エルファッタの想いは伝わらない-
019
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片方だけ出ている褐返色の髪が揺れる。よく似た容姿の双子はクロの体に手を入れた。痛みは感じないし、血も出ていない。貫通はしていないみたいだ。
「あ…………っ……」
褐返色の双子はクロを体から出す。手には黒いモヤがあった。
「大丈夫? エルファッタ」
エルファッタが起きた。クロがいなくなって、抑える相手がいなくなったからだ。
「……何で、名前を……っ!」
褐返色の双子はモヤを持ったままエルファッタに向けてにっこりと笑う。それ以上詮索するなという意味なのだろう。エルファッタは空気を読み、何も言わなかった。静かになって少し経つと、褐返色の双子の片割れが口を開く。若干つり目なので、もう一人とは違い気が強そうだ。
「自己紹介した方がいい?」
「あ、ええ……お願いしますわ」
そういえば、名前さえも知らなかったなとエルファッタは思う。
「俺はヴァロレ。右に髪が出てるのが俺な。こいつは俺の片割れ」
そう言って、ヴァロレの片割れを前に出す。ヴァロレとは正反対で気が弱そうだ。
「ぼ、僕がヴィラレ。左に出てるのが……あ、髪が僕だよ」
「ありがとうございます。宜しくお願いします」
エルファッタはお淑やかに笑う。ヴァロレとヴィラレは笑い返す。だが、目は笑っていなかった。エルファッタはそのことに気がついたが、何も言わなかった。
「……あの、少し気になったことを聞いていいですか」
エルファッタは少し手を挙げる。
「うん、どうぞ。何でも聞いて!」
「言えないこともあるけどね……」
ヴィラレは意味深な言葉を残した。
「えっと、あなた達って、他国の王子様なんですか?」
ヴァロレとヴィラレは高貴な服を着ていたので、気になっていた。
「そんな所だよ」
ヴァロレが返す。ヴィラレはこくこくと頷いていた。
「そうなんですね……」
少し驚きながらも受け入れる。ヴィラレはエルファッタをじっと見つめていた。何を思っているのかわからないが、とにかく冷たかった。
「兄さん。エルファッタを帰さなきゃ」
「あともう少しで終わるから……」
小声で話していたのだが、エルファッタにも聞こえていた。
エルファッタが気づいたように言う。
「私、帰らなきゃ」
ーーパリン
空間が割れていく。三角形になって、ひらひらと舞い落ちてきた。触ろうとしても手が透ける。
「あ…………」
綺麗だった。青系の色が混ざり合っている。ヴァロレとヴィラレに背中を向けて、見入ってしまう。
感嘆して、油断していた。
「エルファッタを返すな」
とても低いヴァロレの声が聞こえた気がして振り向こうとした時、誰かの手がエルファッタの腕を掴む。誰かの手……それは、ヴィラレの手だった。
「きゃ……っ!」
「エルファッタ、抵抗したらもっと痛めつけてしまうから、どうか動かないでね」
そんなヴィラレの忠告も聞かずに抵抗する。一応、王妃になる未来もあるのだから護身術は身につけておいた。まさか、それが役に立つなんて。
「エルファッタ、静かにね」
エルファッタは深い眠りに落ちる。遠くで聞いたことのある声が聞こえていた。
助けて…………
「あ…………っ……」
褐返色の双子はクロを体から出す。手には黒いモヤがあった。
「大丈夫? エルファッタ」
エルファッタが起きた。クロがいなくなって、抑える相手がいなくなったからだ。
「……何で、名前を……っ!」
褐返色の双子はモヤを持ったままエルファッタに向けてにっこりと笑う。それ以上詮索するなという意味なのだろう。エルファッタは空気を読み、何も言わなかった。静かになって少し経つと、褐返色の双子の片割れが口を開く。若干つり目なので、もう一人とは違い気が強そうだ。
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「あ、ええ……お願いしますわ」
そういえば、名前さえも知らなかったなとエルファッタは思う。
「俺はヴァロレ。右に髪が出てるのが俺な。こいつは俺の片割れ」
そう言って、ヴァロレの片割れを前に出す。ヴァロレとは正反対で気が弱そうだ。
「ぼ、僕がヴィラレ。左に出てるのが……あ、髪が僕だよ」
「ありがとうございます。宜しくお願いします」
エルファッタはお淑やかに笑う。ヴァロレとヴィラレは笑い返す。だが、目は笑っていなかった。エルファッタはそのことに気がついたが、何も言わなかった。
「……あの、少し気になったことを聞いていいですか」
エルファッタは少し手を挙げる。
「うん、どうぞ。何でも聞いて!」
「言えないこともあるけどね……」
ヴィラレは意味深な言葉を残した。
「えっと、あなた達って、他国の王子様なんですか?」
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「そんな所だよ」
ヴァロレが返す。ヴィラレはこくこくと頷いていた。
「そうなんですね……」
少し驚きながらも受け入れる。ヴィラレはエルファッタをじっと見つめていた。何を思っているのかわからないが、とにかく冷たかった。
「兄さん。エルファッタを帰さなきゃ」
「あともう少しで終わるから……」
小声で話していたのだが、エルファッタにも聞こえていた。
エルファッタが気づいたように言う。
「私、帰らなきゃ」
ーーパリン
空間が割れていく。三角形になって、ひらひらと舞い落ちてきた。触ろうとしても手が透ける。
「あ…………」
綺麗だった。青系の色が混ざり合っている。ヴァロレとヴィラレに背中を向けて、見入ってしまう。
感嘆して、油断していた。
「エルファッタを返すな」
とても低いヴァロレの声が聞こえた気がして振り向こうとした時、誰かの手がエルファッタの腕を掴む。誰かの手……それは、ヴィラレの手だった。
「きゃ……っ!」
「エルファッタ、抵抗したらもっと痛めつけてしまうから、どうか動かないでね」
そんなヴィラレの忠告も聞かずに抵抗する。一応、王妃になる未来もあるのだから護身術は身につけておいた。まさか、それが役に立つなんて。
「エルファッタ、静かにね」
エルファッタは深い眠りに落ちる。遠くで聞いたことのある声が聞こえていた。
助けて…………
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