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転生司祭は逃げだしたい(勇者パーティ視点)8
しおりを挟む□アーサー視点
あの時、躊躇いさえしなければ……。
そんなことをいまさら思ってももう遅い。
あれからどれだけ経っただろう。実際はそれほどの日数が経っていないのだろうことはわかっているが、気が狂いそうな程の感覚は幾年にも等しい。
あの時、振りかぶった聖剣を振り下ろしてさえいれば。
あの愚王の首と胴体を泣き別れにして、全員蹴散らしてさえいれば司祭様を探しに行けたのに……。
「司祭様に会わせろ」
その言葉に、日々焦りと恐れを浮かべながらも必死に時間を稼ごうとする男たち。
危険を感じたのかあの王は途中で姿も見せなくなった。
きっと今頃、必死に司祭様を探しているのだろう。
ジャンやシルフィーナの言った通り、王の言葉はただの脅しだった。
だけど俺は……その脅しに屈した。
もしも、本当だったら?
万が一、司祭様が本当に囚われていたら……傷つけられることがあったら……その可能性を考えるだけで駄目だった。
連れて行かれた先は教会だった。
月光が、バラ窓のステンドグラス越しに色を纏って降り注ぐ。
そこには、座り込み剣を突きつけられるユリアの姿もあった。
憔悴しきっているが、壊れたように涙を流し続ける大きな瞳には微かな喜びも混じっている。
俺と同じ。
怒りと不安と、そして……ようやく会える喜び。
わざわざ場所を移され連れて来られたのは……要はそういうことなのだろう。
はやく、はやく、司祭様の無事を確認したい。
そうすればようやく、この狂いそうな焦燥から解き放たれる。
ジャンやシルフィーナが「力が……」とか何やら言っていたが気にもならなかった。
「余計なことだけはすんなよ!」というウルフの声や「殺しちゃダメですよ」というヨハンの声も同じく黙殺しようとしたが、「ミシェル様が哀しみますよ!」と言われれば気に留めざるを得ない。
ちっ……皆殺しはダメか。
半殺しなら平気だろうか?
大柄な男に担がれた司祭様の姿。
ズタ袋で顔は見えないが、俺やユリアがあの方を見間違えるわけもない。
「「司祭様っっ!!」
乱雑に床に落とされた身体に悲鳴染みた声が漏れた。
お怪我はないだろうかっ?
あの男……あいつはあとで殺す。
何日かぶりに見たお姿と声に……涙が頬を伝った。
無事だ、ご無事だった。
深い安堵に全身の力が抜け、駆け寄ることさえも思いつかぬままに俺は腑抜けたようにただ司祭様のお姿を目に焼き付けていた。
何やら騒がしくなり、小芝居がはじまっても呆然としたままだった俺を司祭様が呼んだ。
真っ直ぐに俺に向けられた清廉な瞳。
「アーサー、ユリアを」
司祭様からの指示にようやく思考と感情を取り戻した俺は跳び上がるように立ち上がり、ユリアを背に庇う。
ジャラジャラと拘束が邪魔だが、この程度のハンデはわけもない。
ウルフと共に向かってきた男たちを打倒し、言いつけを果たした俺が見たものは……。
冷ややかに首を傾げた司祭様と、
飛び散った 鮮やかな鮮血。
驚愕に目を見張ることしか出来ない俺らを他所に、残る男たちを大人しくさせた司祭様を彩る、赤い、赤い色。
俺が……、
俺の、所為だ。
俺が馬鹿だったから、無能だったから……司祭様が巻き込まれた。
腑抜けた俺が動けなくて、司祭様の指示があるまで木偶の坊だったから。
司祭様に……剣を、握らせた。
だけど……自分の情けなさと、犯した取り返しのつかない罪に、またしても腑抜けて動けないままの俺を癒し、触れてくれた司祭様はいつも通りの優しい司祭様で、堪え切れない感情に強く強く抱きしめた。
司祭様、司祭様、司祭様っ。
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