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◆ 弐拾参 ◆
しおりを挟む「火事の理由を知らねぇんだな?」
問われ、はいと顎を引いて頷く。
「わたしはお嬢さまにお使いを頼まれて外出しておりましたので」
「その話は耳にしてらぁ。幼い頃の友人っつたか」
「はい。おえんさんという方なのですが……結局その方は見つかりませんでした」
「預かった文はいまあるか?」
預かった文も贈りものも持っていた。
懐に手を入れつつ、弥生の脳裏には美桜の言葉が蘇っていた。
二通の文。
一通はおえんの名が書かれたもの。
もう一通は宛名のないもの。
どうして美桜は「宛名のない方は絶対に誰にも見せては駄目」などと言ったのだろう。わざわざ念を押してまで彼女は確かにそう言った。
まるで________宛名のある方は誰かに見せることを想定してように。
そう考えることは考えすぎだろうか。
二通の文の内、胸の外側にある方がおえんの名の書かれたもの。
懐を覗き込むこともせず、自然な動作で弥生はそちらの文だけを取り出した。
「こちらがその文になります」
すっと親分へと差し出し、おえんの住処が書かれた紙きれと贈り物の包みもそっと置く。
「ちょっと失礼するぜ」一言かけて清七親分は文を開いた。
読み進めるにつれ親分の表情はどんどん険しくなっていく。
弥生は出されたままとっくに冷めた湯のみに口をつける気にもなれず、じっと前を見る。その内容が自分にも見えればいいのに、そんな想いで薄っすらと墨の透けるそれを見つめるも読めるわけがない。
「おい」
「あの」
親分が顔を上げた瞬間にかけた声は相手のそれと被った。
口を結んで促すとじっと探る視線を感じた。
「おめぇはこれを読んでないんだな?」
「はい。あのなにが……?」
十秒ほどだろうか、弥生の表情をひとつも見逃すまいと眺めた親分は文をたたむと懐にしまった。
あっ、と小さな声を漏らす弥生にほんの小さく首を振る。
「これはおえんに宛てた文じゃねぇ。そもそもそんな女は居ねぇんだ」
「え?」
ぽかんと口を開けて驚きながら、一方で納得もしていた。
薄々そんな気はしていたじゃないか。
わからないのは、ならばどうして美桜があんな頼みごとをしてきたのかということだった。
だけどその疑問を口に出す前に答えは目の前に投げ出された。
「火付けをしたのはお嬢さんだ」
親分の言葉にひゅっと息を飲む。
火付け……火事ではなく火付けと言った。
しかもそれをしたのは美桜だと。
太い眉の下にある目が、幾多の嘘や隠し事を見抜いてきたであろうその視線が眼力を強め向けられた。身体が強張る。
「ただ驚いた、って感じじゃねぇな。心当たりがあんのかい?」
一瞬の動揺は完全に見抜かれていた。
ぎゅっと拳を握って俯くも旋毛のあたりに視線を感じた。我慢比べはそう長くはなく、音を上げたのは弥生の方だった。
のろのろと顔を上げる。
あの文にはなにが書かれていたのだろう。
美桜はなにかを告白したのだろうか。
「お嬢さまは………………佐助さんに逢いたくて、火事を……起こしたんでしょうか?」
自分自身でも肯定と否定、どちらの答えを求めていたのかわからない。
泣き出しそうな顔で縋るように問いかければ親分の目が丸くなる。
そして険を強めていた眼差しが和らぎ、哀れむような労わるような目を向けられた。
「いや、あんたはなにも知らねぇんだな」
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