ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

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ドキドキ初体験 2

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 リフにそっと降ろされた少女の足首に手を翳してカトリーナ嬢が瞳を閉じる。

 片方を自分の胸へ、もう片方の手を傷口に翳したまま祈るように暫し。淡く優しい光が漏れて患部を包む。その光景はまるで敬虔な聖女のごとく。

「もう、大丈夫だと思いますわ」

 垂れ眼がちの翠の瞳が甘く溶けて。
 リフが丁寧に包帯を外せば、そこには傷一つない小さな足。

「凄いな」

 思わずつぶやいたのは誰の声か。

「全然痛くない。有難う御座いますっ!カトリーナ様!他の皆様もご迷惑お掛けして本当に申し訳ありませんでした!!有難う御座いました!」

 立ち上がった少女と友人がぺこぺこと頭を下げる横で。

「有難う、カトリーナ嬢。お蔭で助かった」

 手を差し出してカトリーナ嬢を立ち上がらせるガーネストと、

「そんなっ、とんでもありませんわ。お役に立てたなら光栄です」

 頬を愛らしく色づけてその手に震える指を重ねるカトリーナ嬢の姿があったとかなかったとか。



 風が吹き抜けて樹々を揺らす。

 森の変化は早い。
 あれ程強かった日差しが無くなれば、周囲は途端に様相を変える。

 生徒たちは本格的に日が暮れる前に引き返し今夜の宿泊先へと向かっているだろう。だけどそれに逆流するように森の奥へ、奥へ。

「何故こんな森の奥へ…?」

 訝し気にリフが問う。

 大きな懐中時計のような機械に灯る幾つかの点。
 それはブレスレットに組み込まれた発信機の所在地だ。前世の電子機器とも違う魔道具的なそれの仕組みは全くわからないが、無駄に高価なかつ高性能な学園の支給品も今回ばかりは無駄でなかったというわけだ。

 それなりの速さをもって移動する点。それは、

「逃げているのか、追っているのか」


 悪路を進めば、倒れ伏した数人の男達。

 フードを深くかぶった男達の躰には剣による傷や焦げたような跡。恐らくシリウスやアレクサンドラによるものだろう。

 そして何より_______。

 鋭く切り裂かれた首元や、口元に着いた泡。
 彼らを絶命に至らしめたそれらは、仲間によるとどめか、はたまた自ら命を絶ったのか。

 前世とは違い、剣を握ることもあれば、魔獣を逐駆くちくすることもある。
 人を傷つけることだって、最悪な場合誰かを斬り捨てる覚悟だってある。

 だけどそれでも、慣れることは出来ない人の死に腰の剣を強く握りしめたまま、駆ける脚に力を込めた。

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