魔族の便利屋

レテ

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一冊目 魔王軍は個性的

一話 臆病者の魔王様(1)

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 魔界歴六千三百五十二年五月五日、黒い曇天。
 今日も黒魔術師達のおかげで私達魔族にとって最高の日和である。
 寒い日が無くなり先日火鉢を片付けた(私は霊体なので、暑さ寒さは感じないのですが)今日の起床時刻は朝の八時。
 霊専用の布団(霊体でも触れる大手死霊向け家具屋『彼岸』の最高級品である霊鳥羽毛布団)を畳み、ご飯を貰うために約束していた魔王様の執務室へと向かいます。
 魔王城は霊体でも壁をすり抜けられないよう結界も貼ってあるけれど、私はその結界作りにも関与しているため特別に無視出来るようにしています。
 けれど私の部屋から魔王様の執務室まですり抜けていくと大変驚かれるので、緊急時を除いてはいつも廊下を通って向かう事にしています。
 今日はなんとなく気分が良かったのでフワフワと高く天井まで浮かぶ私ですが、勿論下から覗かれないよう魔法で着物の中は黒くしているので下着を見られることはありません。
 そうして魔王様の執務室室へ辿り着いた時、今日のお仕事が待っていました。


 私は執務室の黒い木の扉をコンコンとノックする。
「魔王様、レイコでございます」
 執務室の扉は豊穣の神の力が宿る霊木を加工して作られており、素材自体に強い魔力が込められている為私もすり抜ける事が出来ない。
 その為ノックをして中に呼び掛けると少し間を開けてから声が返ってくる。
「どうぞ」
 それは低く恐怖を煽るような声であり、親切丁寧に話していても初めて会う方は「怒っているのではないか」と疑われることが多々ある。
「失礼します」
 私はそうお辞儀をしながら返して扉を開けて中に入る。

 そうして入った執務室の奥にある黒い机の向こうには、私の仕えるべき魔王様が強烈な威圧感を放ちながら私を睨みつけていた。

 などと言えばいかにも魔王という雰囲気なのですが、現魔王様である『レキアルム』様は巨人族とエルフの混合種であり、先代魔王とエルフの女王の一目惚れ同士の結婚の末、魔界歴六千百五十ニ年九月七日に生まれた百九十九歳の青年です。
 今年で二百を迎える魔王様の体はとても大きく筋骨隆々であり、ドス黒い肌を空気に晒した上半身には数多くの傷跡があり、丸太のように太い腕から繰り出される一撃は世界で最も硬いアダマンタイトの分厚い板でさえ大きく歪ませる事が出来ます。
 そんな魔王様のお顔はこれまた鬼のように険しく、四代前の魔王様(女性)の夫である山羊族の方の曲がった角を二本生やし、いつも不機嫌そうに睨んでいるように見えます。

「おはようございます、レイコさん」
「魔王様、おはようございます。早速で失礼しますが魔力をいただいてよろしいでしょうか?」
「そういう約束ですからね、こちらへどうぞ」

 とても厳つい顔つきと合った腹の底に響くような重々しい重低音の声で丁寧な言葉遣いをする魔王様。
 いつもの事ながらあまりにも合ってなさ過ぎるその姿勢に笑いそうになるのを堪え、私は魔王様の上を通って後ろに降りると早速その両肩に手を乗せる。
 そうして魔王様の他人とは比べ物にならない程濃厚で猛々しい魔力をゆったり味わいながら取り込む。
 霊体である私の主な食事は魔力であり、普段は使用人などから少しずつ分けてもらうのだけれど今日は魔王様のご厚意で特別にいただいています。
「レイコさん、そんなよそよそしい話し方しなくていいですよ」
「では昔のようにレキ坊と呼びましょうか?」
「ははは、レイコさんから見た僕はやっぱり小さいでしょうか」
「ええ。とっても若々しくて羨ましいわ」
 私が魔王軍に仕えたのは六代前の魔王様であり、つまりは現魔王様の祖父母の祖父母の親の時代から存在しているので孫を見るのと似た感覚です。

「それはそれとしてレキ坊、この間人間との戦いから逃げたと聞いたのですが、それは本当ですか?」
 そう魔力をいただきながら優しく聞いてみると、わかりやくビクッと反応した。
「れ、レイコさん、そそそれをどこから……」
「一昨日ブラッドリィさんが私の部屋に来ましたよ、俺の出る幕では~って言い訳をして押し付けて後ろに下がって行ったと」
「うっ……」

 それを聞いて観念したのか魔王様は項垂れると「だって」と言い始める。
「怪我すると痛いし、下手したら死んじゃうし、それに痛くて嫌な事を幾ら人間とはいえするのは気が引けるし……」
「私に言い訳をしなくてもいいですよ。私はその事を責めるつもりはありませんが、強い強いレキ坊の代わりに前に出た方が何人か亡くなっています、ということだけ伝えて欲しいと」
「そっ、それは、それは!」
「もちろん私達魔族は跡取り居ない魔王様が亡くなれば魔王の座を巡って内戦を始めるでしょうが、そもそも魔王は世襲制ではなく完全実力主義。レキ坊の強さは魔界で一番です」
「それは、そうだけど」
「この前の戦いには『勇者』も交ざっておりましたが、だからこそレキ坊が呼ばれたと言う事を忘れないで下さいね。魔力、ご馳走様でした」
「は、はい……」
「では魔王様、私の力が必要であれば何時でもお呼びください」

 そう言って魔王様の上を越えて扉の前に立つと、魔王様の泣き言が聞こえた気がしましたが無視して部屋を出ました。
 魔王様の濃厚な魔力をたっぷりいただけたのでニ、三日はもう魔力の補給は要らなさそうです。
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