魔族の便利屋

レテ

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一冊目 魔王軍は個性的

二話 仲間思いのヴァンパイア(1)

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 魔界歴同年五月七日、今日も良き曇天。
 一昨日の魔力補給で後三日は持ちそうな私は、午前中は私のお布団を大手死霊向け家具屋『彼岸』の元締めである『死神の大鎌』系列、霊体用衣服等のクリーニング屋『トリカブト』に出しました。
 その後死神の大鎌系列のデパート『ヘル』にて数時間の買い物をして、夕方頃にお布団を受け取ってお城へ帰宅します。
 普通であればこのクリーニングには数日かかるのだけど、特別料金を払って最優先でクリーニングをしてもらいました。
 霊鳥『八咫烏』の羽をスライム製の強酸に長期間漬けて柔らかくした羽毛を使用した特注のお布団なのでお値段が張り、代わりの布団が無いので出費は増えるけど快眠の為になら渋りません。
 そうしてまたふわふわになったお布団を持ち帰って、まだ早いけど就寝しようと寝転がったその時に、私の部屋の戸がノックされました。


「このような時間にすみませんが、ブラッドリィです」
「どうぞお入り下さい」
「失礼いたします」
 そう礼儀正しく入室して来たのは、少し前に魔王様の事をお話ししたヴァンパイアの『ブラッドリィ・ヘードリッジ・ヴォルテック・ヴァンパイア』と言う魔王軍四天王、不死者・死霊部隊を統括する私の直属の上司に当たる御方です。
 名前の最後にヴァンパイアとつけるのはヴァンパイア族の王族のみであり、彼は前ヴァンパイア族の王であり、今ではヴァンパイアの王は退いているもののその実力は魔王様に一歩劣るといった所です。

「おはようございます。良き夜ですね」
「ホッホッホ、儂などに合わせた挨拶はせんでいい。今の姿を見るに邪魔をしたようじゃな」
「私はやる事があまりありませんから、暇を持て余して早く寝るつもりでしたのでお話し相手になっていただければ私も助かります」
「そうかそうか、それではお言葉に甘えるとしましょう」
 ゆっくりと腰を下ろすブラッドリィさんに、大分歳をとったのだと感じる。
「つい先日の戦いで体に大分ガタが来ておりましてな、今日は一日休みを貰っているのです」
「貴方様も歳を取りましたね。ついこの間まではもっと若々しかった気がするのですが」
「ハッハッハ、確かに歳はとりましたがまだまだ現役ですぞ……と言いたい所じゃが、幾ら勇者とその仲間達を相手にしたとはいえ、彼らの誰も奴隷に出来なかったのは痛かったの」
「それはまた……私の不死性が貴方様にあげられたら良いのですけどねぇ」
「もしそうであったのならば、儂は今四天王をしておらんよ。レイコ殿が居られたからこそ魔王軍は今も規律正しく行動する事が出来ておるのです」
「そんな事はありませんよ。私はただ無駄に長生きなだけですから」
「そうご謙遜されなさるな。今魔王軍の各軍部同士が衝突する事がないのはどの部隊にも口を出せるレイコ殿がおるからこそ」
「そうでしょうか?」
「そうですじゃ」

 人間より寿命が長い者が多い魔王軍の中でも、特に長生きな私とブラッドリィさんの長話はまだまだ続く。

「それにしても魔王様の臆病には困ったものです」
「ええ。レキ坊の臆病を何とかできれば良いのですけど」
「レキ坊とはまた懐かしい呼び方をしてますな。ここ百五十年程聞いてない気がします」
「つい先日よそよそしい話し方は嫌だと言うので」
「なら儂もレキ坊っちゃんとお呼びしてみましょうかね」
「貴方が言えば苦笑いしそうな気がしますね」
「そうですな」

 そうして長話を続ける事数時間、魔王城に夜十時の鐘が鳴り響いた時にブラッドリィさんは「よっこいしょ」という掛け声と共に立ち上がる。
「随分長々とお時間をいただき申し訳ない」
「いえ、凄く楽しかったですよ」
「そうであれば良かった。ああそうだ、お土産を渡すのをすっかり失念してました」
「お土産ですか?」
「はい。勇者達は取り逃がしましたが、その代わり武器に付いていた魔石は奪えたのですが、聖剣と呼ばれた剣の魔石程の物はレイコ殿がよく使っていただけると思いましてな」
 魔石とは魔物や私達魔族の死後に現れる魔力の集合体であり、保有魔力量の多い物だと単体で魔力を生成し続ける魔石が取れたりもする。
「まあ!その虹色の魔石が聖剣に付いていた魔石ですか?」
「凄い魔力保有量でしょう?」
「そうですね」
「これで前線を押し上げられるような物をお作りになられれば助かりますが、気に入ったのであればそのままお部屋に飾っても構いません」
「いえいえ、これ程の魔石を飾るだけなんて勿体無いことこの上ないです」
 本当に私などには勿体無い程の品物におどろきつつも、これを戦利品として飾らずに渡してくれるブラッドリィさんはやっぱり優しい御方です。

「ではこれで失礼いたしますね」
「はい、またいつでもいらして下さいね。良い夜を」
「良い夢を」
 そう挨拶をしてブラッドリィさんが部屋を出たあと、私は欠伸を一つすると布団に潜る。
 彼との長話のおかげで良い時間になり、クリーニングしたふかふかのお布団に包まれた私はすぐに幸せな夢の世界に旅立ちました。
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