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一冊目 魔王軍は個性的
三話 人間好きのリッチ(1)
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魔界歴同年五月八日、今日の天気は灰色気味の曇天。
ブラッドリィさんが訪ねてきた翌朝、私は昨夜いただいた魔石を使う為に魔王軍魔導具開発部、通称『リッチの研究室』へと向かう。
正直私はあまりこの方を好いてはいないのですが、しかし魔道具のことなら彼に相談しないわけにはいきません。
私自身の持つ力はそこらのゴーストよりは強いけれど、それでもとても戦場で活躍するには圧倒的な実力不足にしかなりません。
そんな私でも出来ることを考えた末、魔法式を利用した新魔術の開発やゴーレム生成の知識を学んでいます。
今回は理屈では完成していたゴーレムに耐えうる魔石が無く断念していた物の作成に取り掛かろうと思っています。
魔王城の敷地内には幾らか他の建物があり、その中の一つの塔が魔王軍魔導具開発部が全フロアを使っているためそこへ虹色の魔石と紙を持って向かう。
この塔は艶のない黒い金属であるアダマンタイト製であり、中で何が起きても外へ影響が出ないよう、また盗みにも入られないよう超積層魔法陣により魔王城よりも堅固な結界を張って維持している。
ここは魔王城の武器庫でもあり、地下深くには誰も扱えないような魔剣なども収められているため最も侵入を許されない塔です。
そんな塔の結界は魔王からの個人識別機能付きの侵入許可証を身につけることでは入ることが出来る。
そうして塔の地下一階にある研究室に向かいながら私は一つため息をつく。
あの狂った男に今から会うのかと思うだけで頭が痛い(私に痛覚はないのだけれど)。
なんて思っている内に研究室に着いてしまったので私は戸を叩く。
「フォール様、レイコです。今入ってもよろしいでしょうか」
「ああ入ってきたまえ」
そんな偉そうな(実際偉いのですが)言葉が聞こえたので入室する。
そして戸を開けて目に入ったものは、深紫色のローブを身に纏った喋る人間の白骨であった。
「やあやあやあレイコ様、今日はどのような御用で?」
「以前お話したゴーレムについて、魔法式に耐えうる魔石がありましたので貴方様にご協力をいただきたく参りました」
「ほうほう以前のゴーレムと言えば完全な人型のゴーレム生成の話ですかなぁ?」
「そう。これが魔法式と必要な素体の材料の資料と、魔王様に認可頂いた資材の使用許可証です」
「では少々ご拝見させていただきますねぇ」
ハキハキねっとりとした口調の入り交じる白骨の言葉は聞くだけで不快だ。
そんな白骨とその他の研究員が私の持ってきた紙と魔石を眺め、どこにも問題がないか確認をする。
彼らの方がこういったことに詳しいというわけではないのだけど、一人、それも発案者一人だけの確認ではどうしても気づかない不具合が見つかる事があるため複数人による多重チェックは必須です。
そうして少しばかり彼らが議論の後に黙り込み、白骨が話し始める。
「ふぅむ、加工したドラゴンの硬骨を利用したスピード重視のゴーレムですか」
「ええ。この式ならエラー無く作動すると思うのですが、どうでしょうか?」
「自分達が口を出す必要は無さそうですから、魔法式を刻むのに必要な魔力はそこの奴隷から死なない程度にお願いしますね。あんなのでも実験動物にはなりますから」
「はい」
そう言って指差した先に居るのは既に廃人となった元異世界から来たと言う勇者の成れの果てであり、目の前のリッチが捕らえて様々な実験を繰り返した末に精神に異常をきた物だ。
「自分はドワーフと共に骨格を作って来るのでな、その間は研究員を貴方の好きに使ってくれて構わない。最高の仕上がりにしてみなさい」
「言われなくても最高の仕上がりにするわ」
そう言い残して研究室を去った白骨、その部下達が私の元に集まる。
「やはり彼は狂ったままなのね」
「そうですね。日頃人間が好きと言いながら研究のために暴力、拷問、薬漬け……恐ろしいです」
「あれも、元は人間であったはずなんですよね」
「それも虐めや迫害にあっていない、ただの凡夫だったそうよ」
「僕達にはとても信じられませんね。僕ら魔族が幾ら人間を憎んでいるとはいえ、あそこまで非道な事を平気でするなんて……」
「貴方達も大変ですね」
「ですが彼の発想と技術力は確かなものですから、非道な実験からまた兵器を作っていますので研究者としては……彼のようにあるべきなのかもしれませんが……」
「いいえ、貴方達は魔の道を踏み違えてはいけませんよ。あの残酷さは人間由来のものですから、私達魔族の誇りを失ってはいけません。人間のように欲の為に他者を貶める真似は赦されません」
「レイコ様……」
「さぁ、無駄話はここまでにして作業に取り掛かりましょう。まずこの各パーツの接続確認術式から組み込むわ」
「「「はい!」」」
人間好きのリッチ『フォール』、彼は『人間という種』を好いている。
だが彼が愛するのは種であり個ではなく、種を理解するため個を苦しめる事に躊躇がない。
過酷な運命を辿っていた訳でもない元平凡な人間であった彼がなぜこのような狂った思想を持ったのかは魔界歴六千二百十七年九月十八日の諜報記録に記録しています。
今年百三十六歳を迎える彼がいつか正気に返る日が来る事を一魔族として願いつつ、今は魔王軍のために働きましょう。
ブラッドリィさんが訪ねてきた翌朝、私は昨夜いただいた魔石を使う為に魔王軍魔導具開発部、通称『リッチの研究室』へと向かう。
正直私はあまりこの方を好いてはいないのですが、しかし魔道具のことなら彼に相談しないわけにはいきません。
私自身の持つ力はそこらのゴーストよりは強いけれど、それでもとても戦場で活躍するには圧倒的な実力不足にしかなりません。
そんな私でも出来ることを考えた末、魔法式を利用した新魔術の開発やゴーレム生成の知識を学んでいます。
今回は理屈では完成していたゴーレムに耐えうる魔石が無く断念していた物の作成に取り掛かろうと思っています。
魔王城の敷地内には幾らか他の建物があり、その中の一つの塔が魔王軍魔導具開発部が全フロアを使っているためそこへ虹色の魔石と紙を持って向かう。
この塔は艶のない黒い金属であるアダマンタイト製であり、中で何が起きても外へ影響が出ないよう、また盗みにも入られないよう超積層魔法陣により魔王城よりも堅固な結界を張って維持している。
ここは魔王城の武器庫でもあり、地下深くには誰も扱えないような魔剣なども収められているため最も侵入を許されない塔です。
そんな塔の結界は魔王からの個人識別機能付きの侵入許可証を身につけることでは入ることが出来る。
そうして塔の地下一階にある研究室に向かいながら私は一つため息をつく。
あの狂った男に今から会うのかと思うだけで頭が痛い(私に痛覚はないのだけれど)。
なんて思っている内に研究室に着いてしまったので私は戸を叩く。
「フォール様、レイコです。今入ってもよろしいでしょうか」
「ああ入ってきたまえ」
そんな偉そうな(実際偉いのですが)言葉が聞こえたので入室する。
そして戸を開けて目に入ったものは、深紫色のローブを身に纏った喋る人間の白骨であった。
「やあやあやあレイコ様、今日はどのような御用で?」
「以前お話したゴーレムについて、魔法式に耐えうる魔石がありましたので貴方様にご協力をいただきたく参りました」
「ほうほう以前のゴーレムと言えば完全な人型のゴーレム生成の話ですかなぁ?」
「そう。これが魔法式と必要な素体の材料の資料と、魔王様に認可頂いた資材の使用許可証です」
「では少々ご拝見させていただきますねぇ」
ハキハキねっとりとした口調の入り交じる白骨の言葉は聞くだけで不快だ。
そんな白骨とその他の研究員が私の持ってきた紙と魔石を眺め、どこにも問題がないか確認をする。
彼らの方がこういったことに詳しいというわけではないのだけど、一人、それも発案者一人だけの確認ではどうしても気づかない不具合が見つかる事があるため複数人による多重チェックは必須です。
そうして少しばかり彼らが議論の後に黙り込み、白骨が話し始める。
「ふぅむ、加工したドラゴンの硬骨を利用したスピード重視のゴーレムですか」
「ええ。この式ならエラー無く作動すると思うのですが、どうでしょうか?」
「自分達が口を出す必要は無さそうですから、魔法式を刻むのに必要な魔力はそこの奴隷から死なない程度にお願いしますね。あんなのでも実験動物にはなりますから」
「はい」
そう言って指差した先に居るのは既に廃人となった元異世界から来たと言う勇者の成れの果てであり、目の前のリッチが捕らえて様々な実験を繰り返した末に精神に異常をきた物だ。
「自分はドワーフと共に骨格を作って来るのでな、その間は研究員を貴方の好きに使ってくれて構わない。最高の仕上がりにしてみなさい」
「言われなくても最高の仕上がりにするわ」
そう言い残して研究室を去った白骨、その部下達が私の元に集まる。
「やはり彼は狂ったままなのね」
「そうですね。日頃人間が好きと言いながら研究のために暴力、拷問、薬漬け……恐ろしいです」
「あれも、元は人間であったはずなんですよね」
「それも虐めや迫害にあっていない、ただの凡夫だったそうよ」
「僕達にはとても信じられませんね。僕ら魔族が幾ら人間を憎んでいるとはいえ、あそこまで非道な事を平気でするなんて……」
「貴方達も大変ですね」
「ですが彼の発想と技術力は確かなものですから、非道な実験からまた兵器を作っていますので研究者としては……彼のようにあるべきなのかもしれませんが……」
「いいえ、貴方達は魔の道を踏み違えてはいけませんよ。あの残酷さは人間由来のものですから、私達魔族の誇りを失ってはいけません。人間のように欲の為に他者を貶める真似は赦されません」
「レイコ様……」
「さぁ、無駄話はここまでにして作業に取り掛かりましょう。まずこの各パーツの接続確認術式から組み込むわ」
「「「はい!」」」
人間好きのリッチ『フォール』、彼は『人間という種』を好いている。
だが彼が愛するのは種であり個ではなく、種を理解するため個を苦しめる事に躊躇がない。
過酷な運命を辿っていた訳でもない元平凡な人間であった彼がなぜこのような狂った思想を持ったのかは魔界歴六千二百十七年九月十八日の諜報記録に記録しています。
今年百三十六歳を迎える彼がいつか正気に返る日が来る事を一魔族として願いつつ、今は魔王軍のために働きましょう。
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