魔族の便利屋

レテ

文字の大きさ
4 / 6
一冊目 魔王軍は個性的

三話 人間好きのリッチ(1)

しおりを挟む
 魔界歴同年五月八日、今日の天気は灰色気味の曇天。
 ブラッドリィさんが訪ねてきた翌朝、私は昨夜いただいた魔石を使う為に魔王軍魔導具開発部、通称『リッチの研究室』へと向かう。
 正直私はあまりこの方を好いてはいないのですが、しかし魔道具のことなら彼に相談しないわけにはいきません。
 私自身の持つ力はそこらのゴーストよりは強いけれど、それでもとても戦場で活躍するには圧倒的な実力不足にしかなりません。
 そんな私でも出来ることを考えた末、魔法式を利用した新魔術の開発やゴーレム生成の知識を学んでいます。
 今回は理屈では完成していたゴーレムに耐えうる魔石が無く断念していた物の作成に取り掛かろうと思っています。


 魔王城の敷地内には幾らか他の建物があり、その中の一つの塔が魔王軍魔導具開発部が全フロアを使っているためそこへ虹色の魔石と紙を持って向かう。
 この塔は艶のない黒い金属であるアダマンタイト製であり、中で何が起きても外へ影響が出ないよう、また盗みにも入られないよう超積層魔法陣により魔王城よりも堅固な結界を張って維持している。
 ここは魔王城の武器庫でもあり、地下深くには誰も扱えないような魔剣なども収められているため最も侵入を許されない塔です。
 そんな塔の結界は魔王からの個人識別機能付きの侵入許可証を身につけることでは入ることが出来る。
 そうして塔の地下一階にある研究室に向かいながら私は一つため息をつく。
 あの狂った男に今から会うのかと思うだけで頭が痛い(私に痛覚はないのだけれど)。
 なんて思っている内に研究室に着いてしまったので私は戸を叩く。
「フォール様、レイコです。今入ってもよろしいでしょうか」
「ああ入ってきたまえ」
 そんな偉そうな(実際偉いのですが)言葉が聞こえたので入室する。

 そして戸を開けて目に入ったものは、深紫色のローブを身に纏った喋る人間の白骨であった。

「やあやあやあレイコ様、今日はどのような御用で?」
「以前お話したゴーレムについて、魔法式に耐えうる魔石がありましたので貴方様にご協力をいただきたく参りました」
「ほうほう以前のゴーレムと言えば完全な人型のゴーレム生成の話ですかなぁ?」
「そう。これが魔法式と必要な素体の材料の資料と、魔王様に認可頂いた資材の使用許可証です」
「では少々ご拝見させていただきますねぇ」
 ハキハキねっとりとした口調の入り交じる白骨の言葉は聞くだけで不快だ。
 そんな白骨とその他の研究員が私の持ってきた紙と魔石を眺め、どこにも問題がないか確認をする。
 彼らの方がこういったことに詳しいというわけではないのだけど、一人、それも発案者一人だけの確認ではどうしても気づかない不具合が見つかる事があるため複数人による多重チェックは必須です。
 そうして少しばかり彼らが議論の後に黙り込み、白骨が話し始める。

「ふぅむ、加工したドラゴンの硬骨を利用したスピード重視のゴーレムですか」
「ええ。この式ならエラー無く作動すると思うのですが、どうでしょうか?」
「自分達が口を出す必要は無さそうですから、魔法式を刻むのに必要な魔力はそこの奴隷から死なない程度にお願いしますね。あんなのでも実験動物にはなりますから」
「はい」
 そう言って指差した先に居るのは既に廃人となった元異世界から来たと言う勇者の成れの果てであり、目の前のリッチが捕らえて様々な実験を繰り返した末に精神に異常をきた物だ。
「自分はドワーフと共に骨格を作って来るのでな、その間は研究員を貴方の好きに使ってくれて構わない。最高の仕上がりにしてみなさい」
「言われなくても最高の仕上がりにするわ」
 そう言い残して研究室を去った白骨、その部下達が私の元に集まる。

「やはり彼は狂ったままなのね」
「そうですね。日頃人間が好きと言いながら研究のために暴力、拷問、薬漬け……恐ろしいです」
「あれも、元は人間であったはずなんですよね」
「それも虐めや迫害にあっていない、ただの凡夫だったそうよ」
「僕達にはとても信じられませんね。僕ら魔族が幾ら人間を憎んでいるとはいえ、あそこまで非道な事を平気でするなんて……」
「貴方達も大変ですね」
「ですが彼の発想と技術力は確かなものですから、非道な実験からまた兵器を作っていますので研究者としては……彼のようにあるべきなのかもしれませんが……」
「いいえ、貴方達は魔の道を踏み違えてはいけませんよ。あの残酷さは人間由来のものですから、私達魔族の誇りを失ってはいけません。人間のように欲の為に他者を貶める真似は赦されません」
「レイコ様……」
「さぁ、無駄話はここまでにして作業に取り掛かりましょう。まずこの各パーツの接続確認術式から組み込むわ」
「「「はい!」」」

 人間好きのリッチ『フォール』、彼は『人間という種』を好いている。
 だが彼が愛するのは種であり個ではなく、種を理解するため個を苦しめる事に躊躇がない。
 過酷な運命を辿っていた訳でもない元平凡な人間であった彼がなぜこのような狂った思想を持ったのかは魔界歴六千二百十七年九月十八日の諜報記録に記録しています。
 今年百三十六歳を迎える彼がいつか正気に返る日が来る事を一魔族として願いつつ、今は魔王軍のために働きましょう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~

ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。 そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。 自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。 マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――   ※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。    ※第二章まで完結してます。現在、最終章について考え中です(第二章が考えていた話から離れてしまいました(^_^;))  書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m    ※小説家になろう様にも投稿しています。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

真実の愛のおつりたち

毒島醜女
ファンタジー
ある公国。 不幸な身の上の平民女に恋をした公子は彼女を虐げた公爵令嬢を婚約破棄する。 その騒動は大きな波を起こし、大勢の人間を巻き込んでいった。 真実の愛に踊らされるのは当人だけではない。 そんな群像劇。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...