悪魔憑きの少年

レテ

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悪魔憑きの少年の一日

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「それでね、今日もお兄ちゃんがあんなやつの所に行くなーって言うんだよ?酷いよね!」
「そうかな。スゥの事を心配しているから言うんだろう?」
「そ、そうだろうけど、でもファー君をあんなやつって、その……一応!こ、婚約者、だし……って、黙って頭を撫でないでよぉ」
「……」
「笑って誤魔化さないでよ!……い、嫌じゃないけど、イキナリはズルいよ」

 朝ご飯は乳粥で、一般的な朝食である。
 そんな朝食を食べながらの他愛も無いお話中、顔を赤くして婚約者と言うスゥがあまりにも可愛くて可愛くて、気が付くとつい頭を撫でていた。
「朝っぱらからお熱いことですねぇ」
 ほんと、水を差す悪魔が居なければ最高の朝だというのに。
「今俺と契約してよ、無理矢理にでも犯してしまえばいいじゃねぇか!精力剤が無くとも一日中子作りし続けられるぜ?」
 この野郎、僕が人前だから何も言えない事をいい事に好き勝手言っている。

 その後もしつこい悪魔を無視して、スゥとの楽しい食事を終える。
「それじゃあ僕は狩りに行くから、日が暮れるまでには戻るよ」
「行ってらっしゃい、六つの鐘頃にまた来るね」
「もし帰ってなかったら勝手に上がっていいからね?」
「わかった」
「それじゃあ行ってきます」
 スゥが居ると本当に日々の生活が楽しくなる。
「そして夜にはベットに連れ込んでよ~」
 ほんっとうに無粋な事ばかり言うこの悪魔さえ居なければ、最高だと思う。
「フルブズ、今日はコキ使うから覚悟してね」
「うげ、やる気かよ」
「せめて犯すとか言わなければ、やるつもり無かったけど」
「うへぇ……」
 いつも僕に憑き纏うんだから、その宿代と迷惑料くらいは貰おう。

 僕は背中に弓と矢筒、左腰に長剣、右腰に必要な物資の詰まった袋をぶら下げて、村の北にあるそこそこ大きな森に着く。
 この森は比較的危険度の低い魔物が森の浅瀬を徘徊していて、普段村人はその危険度の低い魔物を狙って狩りをする。
 でも奥へと行けば中位クラスの魔物も居るので中々危険な森である。
「宿代、払ってよね」
「いーやーだー!」
「嫌って言ってもやるけどね」
「この悪魔!」
「悪魔は君でしょ」
 フルブズとの下らないやりとり。
 彼は普段はうっとおしいだけだけど、実は彼と魂ではなく魔力を与える契約を結んでいるので少しだけ力を借りる事ができる。
 魂を代償としていないので借りられる力は少ないし、時間にも限度はあるけれど、ローリスクハイリターンで僕の意志で制御出来る事からとても重宝している。

「『悪魔の腕デモン・ハンド』『悪魔の脚デモン・レッグ』」

 そう静かに呟くと、僕の右腕と両足に黒い粒子が纏わり付く。
 その粒子は手と足を包む禍々しい黒い装備へと早変わりし、力が湧いてくる事を実感する。
「これだけは、ありがたいよ」
「このやろう無理矢理使いやがって……魂なら全部の力使わせてやるぜぇ」
「もうこれで十分だから」
「チクショウ!」
 今から五年前、僕が十の時に(僕とスゥは今一五歳)フルブズを欺いて手に入れたこの力はとても便利である。
 身に纏うだけで力が増強し、耐久力も格段に上がるため中位の魔物相手でも武器を持つことなく戦うことができる程である。
「さぁ、今日はちょっと豪華に火鳥ファイアバード……いや、岩熊ロックベアを狩ろうか」
「よりにもよってそいつかよ!」
「さっきの罰も含めてね」
 僕は下位、中位関係殆ど関係なく同じ力で戦える感覚だけど、引き出す力の強さは変わるので悪魔に掛かる負担はかなり変わるらしい。
 まあ取り憑いている分の宿代代わりなので、悪魔の負担なんて知った事ではないのだけど。

 夕方、僕は森の入り口まで全身が強固な岩の鎧で覆われた熊、岩熊を悪魔の力を借りたまま背負って運ぶ。
「もう無理そうかな?」
 流石にこの姿のまま森を出る訳にはいかず、岩熊を降ろして力を切る。
「あーつっっっかれた!」
「これを運び終えるまで休みじゃないよ」
「うげ!?」
 別に篭手なんかを出さずとも身体能力を上げることは出来る。
 戦闘をするのにそのままでは辛いだけであり、重い岩熊を背負っていくだけならそれだけでなんの問題もなかったりする。
「鬼ー!悪魔ー!」
「だから悪魔は君じゃないか」

「ファー坊、おめぇまたとんでもねぇの狩って来たな……」
 そして村の門まで来ると、丁度村の自警団団長であるレイさんが出入りの管理をしていた。
「レイさん、解体をお願いできますか?僕、もうヘトヘトで……」
「ああ。こんな大物を一人で狩るなんておめぇ以外出来ないんだ、そりゃあ疲れても仕方がないよな」
 実は嘘である。
 疲れているのは本当だけれど、解体を人任せにしなければならない程ではない。
 けれどこんな大物を狩って尚更余裕であると言うのは異常に過ぎるから、一匹狩って引きずって来るだけで精一杯に見せている。
 まあ、これだけでも異常なのだけど。

 レイさんと他自警団の方々が解体し終わる頃にはほぼ日が沈み、袋に入れたたくさんの岩熊の肉を持ってくれているレイさんと共に帰宅する。
 岩熊はその丈夫な岩と皮はとても優秀な武具に変わるが、その肉は煮込めばとても柔らかになり味もとても美味しい。
 今日は少しだけ焼いて食べて後は保管して、明日は家族とスゥの一家も呼んで盛大に熊鍋にしようと考えたらお腹が鳴る。
「ハッハッハ、やっぱり楽しみなんだろ?」
「ええもう、考えただけでお腹が空いて空いて」
「だよなぁ!ほんと俺もお前のおこぼれに預かれていい思いしてるわ」
「日頃村を守って下さっている事への心ばかりのお返しですから」
「にしてもありゃ豪勢だわ」

 そんな雑談をしつつ家に帰る。
「ただいま」
「あ!ファー君おかえりなさ……」
「おっと彼女が居たんなら俺はお邪魔虫か!」
「え!?いえいえそんな事」
「いいっていいって。それじゃこれ、肉渡すぞ」
「はい。今日はありがとうございました」
「こちらこそだ。んじゃ皮とかの代金はまた今度持ってくるわ」
 レイさんはそう言うと、笑いながら門へと戻っていく。
「今日は何を狩ったの?火鳥?」
「いや、岩熊だよ」
「また一人で狩ったの?」
「うん」
「あんまり危ない事しないでよ?」
 今になっても岩熊を一人で狩って来たら心配してくれるのは、村で唯一彼女だけだ。
 もう村の誰も僕が一人で狩りをすることに慣れていて喜ぶ中、彼女だけが僕の心配を一番に考えてくれてるのがとても嬉しく感じる。
 ……この間中レイさんやスゥに何か言っている悪魔構ってちゃんが居たけれど、気にしない事にしよう。

 この後は美味しい熊肉の焼肉を二人で食べて、少しばかりお話してから帰っていった。
 少しだけ寂しく感じるけれど、明日は賑やかになると思えば楽しみだ。
 夜、九つの鐘が鳴る頃には風呂を終え、軽くマッサージなんかをしたりしてから眠りにつく。
 これで一週間は狩りをする必要は無いだろう。
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