10 / 10
第4話:共鳴の境界線 ―八千キロのアンサンブル―
しおりを挟む
モロッコ、カサブランカ。 かつて鴉(カラス)がゼインとリンゴの半分を分け合い、束の間の「家族」を演じたあの灯台は、今や見る影もなく破壊されていた。 夜の海から吹き付ける風は、もはや塩の匂いではなく、電子回路が焼き切れる死の異臭と、人々の絶望が蒸発したような、重苦しい静寂を運んでくる。
「……はぁ、……っ、あ……」
鴉の口から溢れるのは、言葉ではなく、どろりとした赤黒い血の塊だった。 彼の身体は、とっくに限界を越えていた。アッシュの放つ『葬送の旋律』は、鴉の首筋に残る管理局時代のチップの残骸を媒介にし、彼の神経系を内側から文字通り「焼き尽くして」いたのだ。 一歩歩くたびに、脳内で何かが弾ける音がする。一本、また一本と、自分を自分たらしめる記憶の糸が、熱線で焼き切られていく。
目の前では、アッシュが狂ったように漆黒のピアノの鍵盤を叩きつけていた。 その指先からは、黒い泥のようなノイズが溢れ出し、周囲の瓦礫を飲み込んでいる。
「どうした、死神……! 兄さんのためにすべてを捨てた男が、こんなところで果てるのか!? あんたが守りたかった平和なんて、僕のこの一音で、全部灰にしてやる!!」
アッシュの叫びは、もはや少年のそれではない。三年間、窓のない実験室の暗闇で煮詰められ、カイの「幸福な脳波」を無理やり転送され続けた反動――「世界への呪い」そのものだった。
薄れゆく意識の中で、鴉は思い出した。 数時間前、港でゼインを船に押し込む直前、少年が自分のコートのポケットに何かをねじ込んだ感触を。
鴉は震える手で、ポケットを探った。 そこにあったのは、ゼインが街のゴミ捨て場から拾い集めた、錆びた金属の破片で作った不恰好な「お守り」だった。
(……おじさん、これ持っていて。僕、東京で必ず『光』を捕まえてくるから。だから、……それまで絶対に、心臓を止めないで)
ゼインの泣きじゃくる声が、幻聴のように耳の奥で鳴り響く。 その不恰好な金属片には、鴉から受け継いだ「夜をハックするための、あの激しい鼓動」が、少年の拙い手つきで刻まれていた。
「……ふっ、……本当に、……お節介なガキだ……」
その瞬間、鴉の心臓が、停止しかけていたエンジンが爆発するように再起動した。 自責の念――あの日、火災の中でカイだけを救い、アッシュを見捨てたという罪悪感が、少年の無垢な「祈り」によって、生きるための「執念」へと変換されたのだ。
「……まだだ。……まだ、あいつの……カイの音を聞くまでは……死ねないんだよ」
その時だった。 絶望に塗り潰されたはずのカサブランカの夜空に、「亀裂」が入った。
――ドクン!!
巨大な、天を衝くような鼓動。 それは鴉の心臓ではない。 八千キロ離れた東京、渋谷。そこにある何万、何十万という「生きた人間」たちの心拍数が、一つの巨大な「うねり」となって、時空を越えてこの死の街へと受肉したのだ。
鴉の視界が、突如として鮮やかな「青」に染まる。 それは、あの日渋谷で見た、ヒカリの放つ光と同じ色。
「……っ、……これは……。東京の、……ネットワークが、逆流しているのか!?」 アッシュが驚愕し、演奏を止めて空を仰ぐ。
空から降り注ぐのは、光の雨ではない。 「想い」という名のエネルギーの奔流だ。
東京、渋谷スクランブル交差点。 カイは、全神経を指先に集中させ、鴉の端末と同期した仮想鍵盤を叩き続けていた。 その隣で、ゼインが踊っている。 足裏から噴き出す鮮血が、アスファルトを真っ赤に染め上げ、それでもなお、彼は鴉に教わった「夜の静寂を粉砕する、あの閃光のステップ」を刻み続けていた。。 渋谷に集まった人々が、少年の血まみれのステップを見て、涙を流しながら自分たちの心臓を叩き、リズムを合わせる。
「おじさん……!! 聞こえてるんでしょ!! 答えてよ!!」 ゼインの絶叫が、電子の波に乗って鴉の脳内に直接流れ込む。
鴉は、折れかけたチェロを、万力の力で抱え込んだ。 一本足りない弦。だが、今の彼には見える。 東京でゼインが、自分の代わりに「存在しない弦」を、その心臓で鳴らしている姿が。 鴉が、渾身の力で弓を引いた。
心拍数108%――Overdrive Heart。
『ピカリパラダンス - Night City Jump!』。 それは、攻撃のための音ではない。 絶望のどん底で、自分の存在を消そうとしているアッシュの「手」を、無理やり掴み、引き摺り上げるための、泥臭い救済のアンサンブルだった。
アッシュの黒いノイズと、鴉・カイ・ゼインが作り出す三位一体の光が、カサブランカの港で正面から激突した。 凄まじい衝撃波が走り、巨大なコンテナが紙細工のように吹き飛ぶ。
「やめろ!! 来るな!! 光なんていらない!! 僕は影でいい、暗闇でいいんだ!! 僕を愛してくれる人なんて、誰もいなかったじゃないか!!」 アッシュは絶叫し、ピアノの鍵盤が砕けるほどの力で叩きつける。
だが、鴉は止まらない。 演奏しながら、一歩、また一歩と、アッシュへと近づいていく。 鴉の指からは血が噴き出し、チェロのボディを赤く塗り替えていく。
「アッシュ……聴け。……俺も、ずっと、お前と同じ影の中にいた」 鴉の意識が、音楽を通じてアッシュの精神世界――あの窓のない冷たい実験室へとダイブする。
鴉は、その精神世界の中で、泣きじゃくる幼いアッシュを抱きしめた。 「……すまなかった。……あの日、お前を見つけられなくて。……でもな、アッシュ。……お前を捨てた世界を、俺は許さなかった。……だから俺は、世界をハックし、管理局を壊した。……すべては、お前を……お前という『もう一人の光』を見つけるためだったんだ」
「……う、……ぁぁ……」
「嘘じゃない。……このリズムを聴け。……東京で、お前のために踊っている少年を見ろ。……世界は、もう、お前を無視なんてさせない!!」
東京、渋谷。 カイのピアノが、ついに物理的な限界を超え、スピーカーが火花を散らす。 「アッシュ!! ……僕は、お前を絶対に離さない!! 影も光も、絶望も喜びも、全部まとめて、僕らの『パレード』にするんだ!!」
カイの叫びと共に、渋谷にいた何万人という群衆が、一斉に天に向かって拳を突き上げた。 その瞬間、ゼインの踊りが、鴉のチェロが、カイのピアノが、完璧な一つの「命の波」として重なった。
「刹那に全てを賭けた疾走」と「永遠を誓った旋律」――二つの鼓動がひとつの波紋となり、不可能なはずの『完全なる調和(ハーモニー)』をカサブランカの空に描き出す。
カサブランカの夜空に、巨大な「ピカリ」の柱が立った。 それは、アッシュの負の感情を破壊するのではなく、その悲しみを、優しく、温かく包み込み、昇華させていく。
「……あ、……あぁぁぁ……。……温かい、……なんだ、この音……」 アッシュのピアノが、音を失って砕け散った。 彼の中にあった真っ黒な怨念が、虹色の粒子となって、夜の海へと溶けていく。
アッシュは、膝から崩れ落ちた。 その小さな身体を、鴉が最後の一音を引き終え、力尽きながら抱きとめた。
静寂が、訪れた。 カサブランカの港に、青白い、本当の夜明けの光が差し込む。
鴉は、地面に横たわり、アッシュをその腕の中にしっかりと収めていた。 鴉の首元の端末から、ノイズ混じりに、けれど最高に明るいゼインの声が聞こえる。
『……おじさん……、……ねぇ、……おじさん……!! 届いたんだよね!? みんな、踊ってるよ!! 世界中が、おじさんの音で笑ってるよ!!』
「……ふっ、……うるさい……ガキ、だ……」 鴉は、弱々しく、けれど確かに答えた。 隣では、アッシュが子供のように声を上げて泣いていた。 憎しみではなく、ようやく「誰かに触れてもらえた」ことへの、魂の安堵。
「……鴉、……僕、……僕は、生きてていいの……?」 「……当たり前だ。……お前は、もう……『予備』じゃない。……俺の大事な、……『家族』だ」
鴉は、震える手でアッシュの銀髪を撫でた。 そして、空を見上げた。 八千キロ先の東京でも、カイとゼインが同じ空を見ている。 間違いだらけだったはずの夜は、今、五人の命を一つの「108%の鼓動」として繋ぎ合わせ、本物の夜明けを連れてきた。
鴉の心拍数は、ゆっくりと、穏やかに、108%から解放されていく。 それは死へのカウントダウンではなく、共に歩む「明日」へのリズムだった。
(最終話へ続く)
【スピンオフ第4話:あとがき】
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます! 八千キロの距離を埋めたのは、完璧な技術ではありませんでした。 傷だらけの指で、血まみれの足で、それでも「誰かを救いたい」と願った、泥臭い108%の熱量。 鴉(カラス)がゼインから受け取った「不恰好なお守り」が、最後に彼の心臓を動かした。それは、愛が形を変えて奇跡を起こした瞬間です。
▼『心拍数108%』と共に、物語を体感する
①『ピカリパラダンス – Glow Up Parade』 ――カサブランカの空に立つ、巨大な「ピカリ」の柱。アッシュの絶望を優しく包み込むこの旋律は、もはや一人の救済ではなく、世界が「影」を受け入れた祝福の合図です。虹色の粒子が海へ溶けていく情景と共に。
②『ピカリパラダンス - Night City Jump!』 ――「一曲の命を燃やし尽くす、あの疾走のステップ」。ゼインが渋谷で踏み続け、鴉を死の淵から引き戻した命の鼓動。このビートは今、二つの街を一つに繋ぎ、不可能だった「6分25秒の奇跡」を現実のものにしました。
③『不条理な夜をかき鳴らせ』 ――アッシュが流した、魂の安堵の涙。漆黒のピアノが砕け散り、孤独な呪いが解けていく瞬間。激しかったこの曲の慟哭は、物語の幕が閉じる時、静かな「許し」の余韻へと変わっていきます。
④『キミ色ハック・まじっく』 ――「お前はもう、家族だ」。鴉がアッシュに告げた言葉こそ、世界に対する最後の、そして最大のハッキングでした。未来を塗り替える魔法は、端末の中ではなく、互いを想う心拍数の中に宿っています。
交錯する、光と影の四重奏(カルテット)
夜は明けました。 全ての呪いが解け、三つの鼓動が重なり合った時、彼らが見つける「最後の音」とは。
最終話:『心拍数108% ―世界が笑う、最後の一小節―』。 この物語の終幕を、共に見届けてくださいますか?
【物語とシンクロする公式リンク】
Music (Suno): https://suno.com/song/@108sund
TikTok: @108sund
X (Official): @108Sund
あなたの拍手(スキ)や【感想】、【お気に入り登録】が、夜明けを迎えた彼らの明日を照らす光になります。
「……はぁ、……っ、あ……」
鴉の口から溢れるのは、言葉ではなく、どろりとした赤黒い血の塊だった。 彼の身体は、とっくに限界を越えていた。アッシュの放つ『葬送の旋律』は、鴉の首筋に残る管理局時代のチップの残骸を媒介にし、彼の神経系を内側から文字通り「焼き尽くして」いたのだ。 一歩歩くたびに、脳内で何かが弾ける音がする。一本、また一本と、自分を自分たらしめる記憶の糸が、熱線で焼き切られていく。
目の前では、アッシュが狂ったように漆黒のピアノの鍵盤を叩きつけていた。 その指先からは、黒い泥のようなノイズが溢れ出し、周囲の瓦礫を飲み込んでいる。
「どうした、死神……! 兄さんのためにすべてを捨てた男が、こんなところで果てるのか!? あんたが守りたかった平和なんて、僕のこの一音で、全部灰にしてやる!!」
アッシュの叫びは、もはや少年のそれではない。三年間、窓のない実験室の暗闇で煮詰められ、カイの「幸福な脳波」を無理やり転送され続けた反動――「世界への呪い」そのものだった。
薄れゆく意識の中で、鴉は思い出した。 数時間前、港でゼインを船に押し込む直前、少年が自分のコートのポケットに何かをねじ込んだ感触を。
鴉は震える手で、ポケットを探った。 そこにあったのは、ゼインが街のゴミ捨て場から拾い集めた、錆びた金属の破片で作った不恰好な「お守り」だった。
(……おじさん、これ持っていて。僕、東京で必ず『光』を捕まえてくるから。だから、……それまで絶対に、心臓を止めないで)
ゼインの泣きじゃくる声が、幻聴のように耳の奥で鳴り響く。 その不恰好な金属片には、鴉から受け継いだ「夜をハックするための、あの激しい鼓動」が、少年の拙い手つきで刻まれていた。
「……ふっ、……本当に、……お節介なガキだ……」
その瞬間、鴉の心臓が、停止しかけていたエンジンが爆発するように再起動した。 自責の念――あの日、火災の中でカイだけを救い、アッシュを見捨てたという罪悪感が、少年の無垢な「祈り」によって、生きるための「執念」へと変換されたのだ。
「……まだだ。……まだ、あいつの……カイの音を聞くまでは……死ねないんだよ」
その時だった。 絶望に塗り潰されたはずのカサブランカの夜空に、「亀裂」が入った。
――ドクン!!
巨大な、天を衝くような鼓動。 それは鴉の心臓ではない。 八千キロ離れた東京、渋谷。そこにある何万、何十万という「生きた人間」たちの心拍数が、一つの巨大な「うねり」となって、時空を越えてこの死の街へと受肉したのだ。
鴉の視界が、突如として鮮やかな「青」に染まる。 それは、あの日渋谷で見た、ヒカリの放つ光と同じ色。
「……っ、……これは……。東京の、……ネットワークが、逆流しているのか!?」 アッシュが驚愕し、演奏を止めて空を仰ぐ。
空から降り注ぐのは、光の雨ではない。 「想い」という名のエネルギーの奔流だ。
東京、渋谷スクランブル交差点。 カイは、全神経を指先に集中させ、鴉の端末と同期した仮想鍵盤を叩き続けていた。 その隣で、ゼインが踊っている。 足裏から噴き出す鮮血が、アスファルトを真っ赤に染め上げ、それでもなお、彼は鴉に教わった「夜の静寂を粉砕する、あの閃光のステップ」を刻み続けていた。。 渋谷に集まった人々が、少年の血まみれのステップを見て、涙を流しながら自分たちの心臓を叩き、リズムを合わせる。
「おじさん……!! 聞こえてるんでしょ!! 答えてよ!!」 ゼインの絶叫が、電子の波に乗って鴉の脳内に直接流れ込む。
鴉は、折れかけたチェロを、万力の力で抱え込んだ。 一本足りない弦。だが、今の彼には見える。 東京でゼインが、自分の代わりに「存在しない弦」を、その心臓で鳴らしている姿が。 鴉が、渾身の力で弓を引いた。
心拍数108%――Overdrive Heart。
『ピカリパラダンス - Night City Jump!』。 それは、攻撃のための音ではない。 絶望のどん底で、自分の存在を消そうとしているアッシュの「手」を、無理やり掴み、引き摺り上げるための、泥臭い救済のアンサンブルだった。
アッシュの黒いノイズと、鴉・カイ・ゼインが作り出す三位一体の光が、カサブランカの港で正面から激突した。 凄まじい衝撃波が走り、巨大なコンテナが紙細工のように吹き飛ぶ。
「やめろ!! 来るな!! 光なんていらない!! 僕は影でいい、暗闇でいいんだ!! 僕を愛してくれる人なんて、誰もいなかったじゃないか!!」 アッシュは絶叫し、ピアノの鍵盤が砕けるほどの力で叩きつける。
だが、鴉は止まらない。 演奏しながら、一歩、また一歩と、アッシュへと近づいていく。 鴉の指からは血が噴き出し、チェロのボディを赤く塗り替えていく。
「アッシュ……聴け。……俺も、ずっと、お前と同じ影の中にいた」 鴉の意識が、音楽を通じてアッシュの精神世界――あの窓のない冷たい実験室へとダイブする。
鴉は、その精神世界の中で、泣きじゃくる幼いアッシュを抱きしめた。 「……すまなかった。……あの日、お前を見つけられなくて。……でもな、アッシュ。……お前を捨てた世界を、俺は許さなかった。……だから俺は、世界をハックし、管理局を壊した。……すべては、お前を……お前という『もう一人の光』を見つけるためだったんだ」
「……う、……ぁぁ……」
「嘘じゃない。……このリズムを聴け。……東京で、お前のために踊っている少年を見ろ。……世界は、もう、お前を無視なんてさせない!!」
東京、渋谷。 カイのピアノが、ついに物理的な限界を超え、スピーカーが火花を散らす。 「アッシュ!! ……僕は、お前を絶対に離さない!! 影も光も、絶望も喜びも、全部まとめて、僕らの『パレード』にするんだ!!」
カイの叫びと共に、渋谷にいた何万人という群衆が、一斉に天に向かって拳を突き上げた。 その瞬間、ゼインの踊りが、鴉のチェロが、カイのピアノが、完璧な一つの「命の波」として重なった。
「刹那に全てを賭けた疾走」と「永遠を誓った旋律」――二つの鼓動がひとつの波紋となり、不可能なはずの『完全なる調和(ハーモニー)』をカサブランカの空に描き出す。
カサブランカの夜空に、巨大な「ピカリ」の柱が立った。 それは、アッシュの負の感情を破壊するのではなく、その悲しみを、優しく、温かく包み込み、昇華させていく。
「……あ、……あぁぁぁ……。……温かい、……なんだ、この音……」 アッシュのピアノが、音を失って砕け散った。 彼の中にあった真っ黒な怨念が、虹色の粒子となって、夜の海へと溶けていく。
アッシュは、膝から崩れ落ちた。 その小さな身体を、鴉が最後の一音を引き終え、力尽きながら抱きとめた。
静寂が、訪れた。 カサブランカの港に、青白い、本当の夜明けの光が差し込む。
鴉は、地面に横たわり、アッシュをその腕の中にしっかりと収めていた。 鴉の首元の端末から、ノイズ混じりに、けれど最高に明るいゼインの声が聞こえる。
『……おじさん……、……ねぇ、……おじさん……!! 届いたんだよね!? みんな、踊ってるよ!! 世界中が、おじさんの音で笑ってるよ!!』
「……ふっ、……うるさい……ガキ、だ……」 鴉は、弱々しく、けれど確かに答えた。 隣では、アッシュが子供のように声を上げて泣いていた。 憎しみではなく、ようやく「誰かに触れてもらえた」ことへの、魂の安堵。
「……鴉、……僕、……僕は、生きてていいの……?」 「……当たり前だ。……お前は、もう……『予備』じゃない。……俺の大事な、……『家族』だ」
鴉は、震える手でアッシュの銀髪を撫でた。 そして、空を見上げた。 八千キロ先の東京でも、カイとゼインが同じ空を見ている。 間違いだらけだったはずの夜は、今、五人の命を一つの「108%の鼓動」として繋ぎ合わせ、本物の夜明けを連れてきた。
鴉の心拍数は、ゆっくりと、穏やかに、108%から解放されていく。 それは死へのカウントダウンではなく、共に歩む「明日」へのリズムだった。
(最終話へ続く)
【スピンオフ第4話:あとがき】
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます! 八千キロの距離を埋めたのは、完璧な技術ではありませんでした。 傷だらけの指で、血まみれの足で、それでも「誰かを救いたい」と願った、泥臭い108%の熱量。 鴉(カラス)がゼインから受け取った「不恰好なお守り」が、最後に彼の心臓を動かした。それは、愛が形を変えて奇跡を起こした瞬間です。
▼『心拍数108%』と共に、物語を体感する
①『ピカリパラダンス – Glow Up Parade』 ――カサブランカの空に立つ、巨大な「ピカリ」の柱。アッシュの絶望を優しく包み込むこの旋律は、もはや一人の救済ではなく、世界が「影」を受け入れた祝福の合図です。虹色の粒子が海へ溶けていく情景と共に。
②『ピカリパラダンス - Night City Jump!』 ――「一曲の命を燃やし尽くす、あの疾走のステップ」。ゼインが渋谷で踏み続け、鴉を死の淵から引き戻した命の鼓動。このビートは今、二つの街を一つに繋ぎ、不可能だった「6分25秒の奇跡」を現実のものにしました。
③『不条理な夜をかき鳴らせ』 ――アッシュが流した、魂の安堵の涙。漆黒のピアノが砕け散り、孤独な呪いが解けていく瞬間。激しかったこの曲の慟哭は、物語の幕が閉じる時、静かな「許し」の余韻へと変わっていきます。
④『キミ色ハック・まじっく』 ――「お前はもう、家族だ」。鴉がアッシュに告げた言葉こそ、世界に対する最後の、そして最大のハッキングでした。未来を塗り替える魔法は、端末の中ではなく、互いを想う心拍数の中に宿っています。
交錯する、光と影の四重奏(カルテット)
夜は明けました。 全ての呪いが解け、三つの鼓動が重なり合った時、彼らが見つける「最後の音」とは。
最終話:『心拍数108% ―世界が笑う、最後の一小節―』。 この物語の終幕を、共に見届けてくださいますか?
【物語とシンクロする公式リンク】
Music (Suno): https://suno.com/song/@108sund
TikTok: @108sund
X (Official): @108Sund
あなたの拍手(スキ)や【感想】、【お気に入り登録】が、夜明けを迎えた彼らの明日を照らす光になります。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎
倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。
栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。
「責任、取って?」
噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。
手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。
けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。
看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。
それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる