冷徹御曹司の執愛婚〜契約で始まった夜、氷の社長が甘すぎるケダモノに変わるまで〜

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第21話:空の上のハネムーン

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 羽田空港の、限られた特権階級のみが足を踏み入れることを許されるプライベート専用ターミナル。  そこには、九条ホールディングスの象徴である「鳳凰」のエンブレムを尾翼に戴いた最新鋭のプライベートジェットが、澄み渡った陽光を浴びて白銀に輝いていた。周囲には厳重な警備が敷かれ、一国の首脳の移動をも凌ぐほどの、静謐でいて圧倒的な緊張感が漂っている。

 「……湊さん、本当に世界一周するつもりなんですか? 会社のこと、そんなに放っておいて大丈夫なの?」

 タラップを一段ずつ登りながら、陽葵は隣を歩く湊に、呆れと苦笑が混ざった問いを投げかけた。  全世界を震撼させた結婚発表からわずか数日。湊は九条ホールディングスの全業務を、右腕である加納と選び抜かれた精鋭の役員たちに「一ヶ月の期限付き」で力技で丸投げし、自らはこの豪華絢爛な空の旅を独断で企画したのだ。

 湊は陽葵の腰を、まるで自分の身体の一部であるかのように力強く引き寄せると、当然の真理を述べるかのような平坦な声で答えた。

「一ヶ月でも、僕にとっては瞬きほどの短さだ。本来なら、このまま一生、君と二人きりでこの空を漂っていたい。地上に降りれば、また君を汚れた瞳で狙う不埒な輩や、君を僕から引き剥がそうとする『社会』という名の不快な雑音が入り込むからな。雲の上こそが、今の僕たちにふさわしい聖域だ」

「もう、相変わらず極端なんだから……」

 機内へ一歩足を踏み入れた瞬間、陽葵は言葉を失い、息を呑んだ。  そこは「飛行機」という概念を遥かに超越した、至高のラグジュアリー空間だった。エルメス製の本革が贅沢に張られた広大なソファ、最高級のカシミアを用いた特注の寝具、そして陽葵の好みに合わせて世界中から厳選された、季節の花々が優雅な香りをキャビン全体に漂わせている。しかし、それ以上に驚くべきは、本来なら控えているはずの客室乗務員の姿が一人も見当たらないことだった。

「湊さん、スタッフの方は? お見かけしないけれど……」

「離陸後のサービスはすべてオートメーション、あるいは僕が自分で行う。不慣れな他人に君の世話を焼かせるつもりはない。スタッフは機体後方の、完全に遮断された別室に待機させてある。緊急時以外、このメインキャビンに僕ら以外の人間が一歩でも入ることは、僕が許可していない」

「……どこまでも二人きりにこだわるんですね。本当に、徹底しているというか」

 陽葵は、湊の病的なまでに徹底した独占欲に、今さらながらに圧倒される。けれど、以前の監禁生活のような息苦しさは不思議となかった。むしろ、その異常なまでの執着が、今の陽葵には心地よい重みとして感じられたのだ。  ジェット機が静かに、滑走路を滑り出す。加速と共に重力から解放され、白銀の機体は青い空へと溶け込んでいく。その高揚感と共に、陽葵は窓の外に広がる、模型のように小さくなっていく東京の街並みを見つめた。

 かつて、あの雨の日の狭い路地裏で、必死に泥を啜るように生きていた孤独な少女と少年。一人は親の借金に追われ、一人は孤独の中で復讐の牙を研いでいた。そんな報われない二人が今、世界の誰よりも高い場所で、誰にも邪魔されない真の自由を謳歌している。この事実に、陽葵の胸は熱くなった。

 機体が安定すると、湊はヴィンテージのシャンパンを音もなく開け、最高級クリスタルのグラスを陽葵に差し出した。

「陽葵。……足元、冷えてはいないか?」

 湊はソファに座る陽葵の足元に、流れるような動作で跪いた。彼はかつて、彼女の足首にあの金のアンクレットを無慈悲に嵌めた時と同じ体勢で、今度はこの世の何よりも尊いものに触れる手つきで、陽葵の素足を自分の膝の上に載せた。

 数日前、湊自身の手によって解錠された、GPS付きの重い金の鎖。そこにはもう、彼女を縛り付ける物理的な枷は何もない。ただ、長期間にわたって嵌められていた名残で、彼女の透き通るような白い肌には、薄く、消え入りそうなほど淡い紅い跡が残っていた。

「……あんな無粋なものを、長い間嵌めていたからな。すまなかった、陽葵。僕の臆病さが、君に傷を負わせた」

 湊が、その紅い跡に慈しみを込めた贖罪の口づけを落とす。陽葵は、湊の柔らかな黒髪に指を差し込み、優しく、宥めるように撫でた。

「いいのよ、湊さん。あれがあったから、私はあなたの不器用で必死な想いを知ることができたんだもの。……それにね、もうGPSなんていらないわ。私はどこにも行かない、行けないから」

 陽葵は、湊の琥珀色の瞳を真っ直ぐに見つめ、柔らかな微笑みを向けた。

「私の居場所は、あなたが腕を広げているここだけ。あなたが世界のどこへ行こうと、私はあなたの影になって永遠についていくわ。……だから、もう私がいなくなるなんて不安に、ならないで」

 陽葵の言葉は、湊の魂の最奥に深く、鋭く刻まれた。物理的な拘束よりもはるかに強く、逃げ場のない「絶対的な信頼」という名の鎖。湊は、感極まったように陽葵の足首を両手で包み込むと、彼女の膝に顔を埋めた。その肩が微かに震えているのを、陽葵は見逃さなかった。

「……君は、本当に残酷な女だ。そんなことを言われたら、僕はますます君を離せなくなる。一生、僕という深い愛の沼の底で、僕と共に沈んでいってほしいと、魂の底から願ってしまう」

「ええ。喜んで一緒に沈んであげる。……だって、私たちはもう、一生解けない運命の共犯者なんでしょう?」

 陽葵は湊を抱き上げるように促し、広大なソファに並んで座らせた。雲海を燃えるようなオレンジ色に染める夕陽が機内に差し込み、二人の影を一つの大きな影へと変えていく。湊は陽葵を自分の膝の上に跨らせると、細い指先で彼女のブラウスのボタンを、確かめるようにゆっくりと弄んだ。

「陽葵。……世界一周の最初の目的地は、南太平洋にある僕のプライベートアイランドだ。そこには、僕ら以外、鳥一羽として存在しない完全なる密室だ。……これからの一週間、誰の視線も、何者の中傷も気にせず、君のすべてを、魂の形さえも僕に刻み込ませてもらう」

「ふふ、お手柔らかにお願いしますね、私の旦那様」

 陽葵が甘えるように湊の首に腕を回すと、湊の理性が静かに、けれど決定的に崩壊する音がした。  かつての「傲慢な皇帝」と「囚われの身」という関係は、今、極上の「溺愛」という名の至高の旋律へと昇華された。地上一万メートルの、空に浮かぶ密室。そこには、十年前のあの雨の日に始まった長い、長い孤独な旅の、一つの完璧な到達点があった。

 湊は陽葵の白い首筋に深く、熱い歯を立て、彼女の肌に自分が唯一の主であることを示す証を刻んでいく。陽葵はその微かな痛みさえも愛おしく感じ、彼を強く、より強く抱きしめ返した。

「陽葵……。愛している。君を愛し、君に跪くために、僕は生まれてきたんだ」

「私も……私もよ、湊さん。あなたの愛だけが、私の呼吸なの」

 二人の声は、ジェットエンジンの低い唸りに溶け、どこまでも続く成層圏の闇へと消えていった。足首に鎖はない。けれど、繋ぎ合わされた心は、ダイヤモンドよりも硬く、宇宙よりも深い絆で永遠に結ばれていた。

 ハネムーンの幕開けは、これ以上ないほど甘く、独占的な熱情に彩られていた。  世界一周。それは、二人だけの新しい伝説、そして終わることのない「執愛」の物語を綴るための、最初のプロローグに過ぎなかった。


(つづく)


【第21話:あとがき】  
 本日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございます! 第21話、成層圏でのハネムーン。いかがでしたでしょうか。

「私の居場所は、あなたが腕を広げているここだけ」

 物理的な鎖を外した先に待っていたのは、誰にも邪魔されない、二人だけの自由な空でした。アンクレットの跡に贖罪の口づけを落とす湊と、それを慈しみをもって受け入れる陽葵。10年前のあの雨の日の路地裏で出会った二人が、今、世界の頂(いただき)で愛を誓い合う姿は、書きながら私自身も震えるほどの感動を覚えました。

▼『執愛の譜(スコア)』全曲公開中(第21話推奨曲:『アイソレーション』・『蜜』)  地上1万メートルの密室で、二人の魂が完全に「孤立(アイソレーション)」し、溶け合う。私108が紡いだ旋律が、この逃げ場のない愛の旅路を激しく煽ります。

 ①『アイソレーション (Isolation) ―不純物なき隔離―』  ――「地上」という名の雑音を捨て、二人だけの成層圏へ。  スタッフさえも遠ざけ、愛する陽葵を自分だけの聖域に隔離した湊。ハイトーンの絶唱が、ついに誰にも邪魔されない「完全な独占」を手に入れた湊の、狂おしいまでの歓喜を叫びます。

 ②『蜜 (MITSU) ―Karmic Addiction―』  ――10年前の救済が、一生解けない甘美な「業」へと変わるテーマ。  鎖がなくても「どこへも行かない」と誓った陽葵。官能的なピアノの調べが、もはや支配を超越し、互いの存在なしでは呼吸さえままならない二人の、深すぎる共依存を浮き彫りにします。

 ③『擬態 ―The Masked Emperor―』  ――皇帝としての威厳と、陽葵にだけ見せる執念深い「執愛」の共鳴。  世界一周という壮大なスケールで陽葵を囲い込む湊。重厚なビートは、彼が手に入れた強大な権力のすべてが、ただ一人の女性を愛でるためだけに存在していることを象徴しています。

 目的地は「二人以外、鳥一羽として存在しない」プライベートアイランド。湊の独占欲が、解き放たれた自由の中でどのような「熱情」へと変わっていくのか……。

【次回の更新について】  
 物語はいよいよ、2月末のグランドフィナーレに向けた最終章へと突入します。次回の第22話は、3日後の「2月22日(日)20:00」に投稿いたします!

 島に到着した二人を待ち受ける、あまりにも甘美で、夜が明けることさえ忘れてしまうような「新婚生活」。湊が陽葵に注ぐ、狂おしいほどの愛の深淵をじっくりとお届けします。

【物語とシンクロする公式リンク】  
 Music (Suno): https://suno.com/song/@108sund  

 TikTok: @108sund  

 X (Official): @108Sund

【投票期間・終盤戦!ラストスパートの応援をお願いします!】  
 現在、第19回恋愛小説大賞に参加しております。「二人の幸せな姿に癒やされた!」「湊の重すぎる愛をもっと見届けたい!」と思ってくださった皆様。

 完結まで残りわずか。ぜひ作品ページからの【投票(応援ポイント)】で、二人をゴールまで押し上げていただけませんか?皆様が毎日届けてくださる「1ポチ」が、ランキングを支え、この物語を最高の結末へと導く唯一の力になります!

 2月22日(日)20:00、第22話。  青い海に囲まれた、二人だけの楽園でお会いしましょう。
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