歴代で一番有能だったのに捨て石にされた戦士、魔王になって逆侵攻し勇者を裁く ~そして勇者パーティは全滅した~

いらないひと

文字の大きさ
2 / 21

1:復讐の狼煙

しおりを挟む
赤、青、緑。 

様々な色の魔法式ランプが明滅する夜の街を、ユーニという男は歩いていた。



通り過ぎていく人々は予定があるのか急ぎ足が多いが、対照的に彼の歩みは遅い。



別にどうということはない。

独り身の中年らしく、仕事終わりに一杯ひっかけて帰ろうというだけだ。



王国治安隊の人間であることを示す制服。

それを着ておけば、変な連中に絡まれる心配もない。



なんならこれも治安維持のパトロールだと言ってしまってもいいくらいだ。

実際に行きつけの店には感謝されているし、それで少しサービスまでして貰えるのだから、ウィンウィンの関係というものだろう。



いつも通りの道を進んでいくと、彼はホームレスらしき老人から声を掛けられた。



「兄ちゃん、ちょっと助けてくれんかのう?」



「……見慣れない顔だな?」



ホームレス達は犯罪の加害者にも被害者にもなりやすい。

必然的に、治安隊員であるユーニは彼らの顔をよく知っていた。



だから”新顔”はすぐにわかるのである。



「別の街から来たんじゃ。死ぬ前に”タワー”を見てみたいと思ってのう」



老人が指差した先には純白の塔が立っていた。



通称”タワー”。

現代の技術で可能な水準の三倍以上の高さを誇る建築物である。



失われた古代技術で建てられたと言われるその頂点には、魔族が入り込めない領域を生成する虹色の宝玉が設置されている。

これがあることによって、魔族は”境界線”を超えて人間の住む土地に近づくことができないのだ。



故にそれは平和の象徴であり、人間が神に選ばれた存在であるという根拠でもあった。



「なんだ、観光か。だがタワーの近くは”上級国民”しか行けないぞ?」



塔があるのは街の中心。

そこは身分の高い者達しか入ることを許されないエリアとなっていて、平民が無断で立ち入れば即刻死刑だ。



しかし老人はそのことを知らなかったらしく、目を丸くしていた。

一般常識レベルの知識ではあるのだが、全体的に教育レベルの低いホームレス、それも他の街から来たとなれば知らないこともあるだろう。



「なんじゃ、そうなのか?」



「ああ。代わりに俺がタワーのよく見える場所を教えてやる。そこで我慢しな」



「おお! そうかそうか、そいつはありがたい」



ユーニは老人を近くにある公園まで連れて行った。

ここは彼が定期的に訪れている場所でもある。



ここならばタワーとの間に視界を遮る障害物はないし、屋根代わりになるオブジェが大量に配置されているので、ホームレス同士の縄張りを知らない新参でも寝床を確保することができる。



それに……。



「おお! ここはいい! ここで”最後の光景”を見物するしようかの」



ユーニはその言葉にあえて反応しなかった。

普段から出入りしているこの公園ならば、孤独死した老人の遺体を見つけるのも容易い。



「そうじゃ。お前さんにはこれをやろう。……礼じゃ!」



老人は公園から見える景色に満足したようで、背負った大きな荷物袋に差してあった鞘を取り出した。

どうやら剣の鞘のようだが、完全に錆付いている。



「なんだこれは?」



「聞いて驚け! これこそは伝説の剣フェノーメノの鞘じゃ!」



「伝説の剣の……、鞘?」



ユーニは胡散臭いものを見る目で鞘と老人を見比べた。

伝説の剣というならまだしも、差し出されたのは鞘だけである。



剣を抜き身で持っているのかと思えば、老人の荷物には他にそんな長物は見当たらなかった。 

つまり本当に鞘だけということだ。



「そう! 真の魔王だけが握ることのできる剣フェノーメノ。その力を封じる鞘じゃ!」



伝説の剣フェノーメノ。

ユーニも割とそういうのは好きな方だが、そんな名前はもちろん聞いたこともない。



「ちなみに剣の方はあるのか?」



「ない!」



老人は大笑いした。



「じゃあどうやって本物か確認するんだよ……」



ユーニは大きな溜息をついた。

こうしてガセネタが出回るのは別に珍しい話ではない。



これで金を取ろうとしていたら、さっそく治安隊の詰め所に連行するところなのだが、どうやら老人にその気はないらしい。



「まあ……、ありがたく貰っておくよ」



結局、ユーニは眉唾度合い最高水準の鞘を受け取ることにした。

最近は肩こりが酷いから、ちょうど肩叩き棒が欲しいと思っていたところだ。

 

ユーニは老人と別れると、貰った鞘で早速肩をトントンと叩きながら再び帰路についた。

いつもとは違う出来事が再び起きたのは、彼が飲み屋が並んでいるエリアに入り、改めてどこかで一杯飲んでから帰ろうかと考えた矢先である。



(……ん?)



彼の背後で鳥達の群れが一斉に飛び立った。



釣られるように立ち止まったユーニ。

肩を叩く鞘の動きも一緒に止まった。



集団で行動している鳥達が一斉に飛び立つのは別に不思議なことではない。

しかし、彼が足の位置をそのままにして上体だけ振り返った先にいた鳥の数は尋常ではなかった。



何かの引き金があったことを推測させるのには十分な数だ。



(酔っ払いが派手にグラスを落としたか? いや……)



それらしい音は何も聞こえなかったから、誰かが人の耳には聞こえない周波数の音爆弾でも使ったのかもしれない。



鳥達の動きを観察して見ると、ちょうど近くにある魔法研究所から逃げるようにして飛んでいくように見える。

あそこは発掘された古代のマジックアイテムを保管している他に、新しい魔法技術の開発もやっているはずだから、そういう類のマジックアイテムがあっても不思議はない。



……が、しかし、だからどうだということもない。

というわけで、ユーニは再び飲み屋に向かって歩き始めた。



――本当の異常事態はそこで起こった。



一歩、二歩、そして三歩目。

それと同時に、ユーニの目は強力な紫の光を捉えた。



「――?!」



光源は間違いなく背後。

彼は思わず全身で振り返り、そして見た。



赤と青、そしてそれらの入り混じった紫の光が、魔法研究所を中心に円環となって広がったのを。

次の瞬間、轟音と共に紫の光が柱となって立ち上がった。



目を閉じても突き抜けてくるほどの圧倒的な光量が周囲を、そしてユーニを包み込む。



「なんだ?!」



ユーニはそれが恐らくは魔法によって発生した光であろうと直感した。

だとすれば発光現象だけで終わるとは思えない。



十秒か、あるいは二十秒か。

実際にはもっと短かったのかもしれないが、彼の体感ではそれぐらいだった。



そして光が収まってユーニが再び目を開いた時、視界の先にあった建物は既に瓦礫と化していた。

どうやら研究所の近くにいた人々は爆風の直撃で一人残らず薙ぎ倒されたらしく、街の喧騒が数瞬の静寂を挟んで悲鳴と叫び声へと変わった。



「爆発事故か?」



疑問に答える者はいない。

代わりに火災の赤い光が空を照らし始めた。



続いて黒煙が次々と立ち上がった。




――後世の歴史書において、それはこう綴られている。



『世界の傲慢な正義に対する、反逆の狼煙だった』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...