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第五話 北斗の星 2/4
しおりを挟む虎南が感極まったように
「つ、遂にこれで俺の長い旅が……報われる。
常に限界まで自らを追い込み、筋肉が肥大する喜び、確かにそれはあった!
しかし、決してヒーローには届かないという現実、それは大いなる壁として、我が眼前に……」
ムラマサ「おい!虎南!長旅の終着駅で感動してるとこ悪りぃけどよ、それさっきビミョーに聞いたし。
そこは、早ぇえとこ始めてもらっていーか?」
イライラを噛みしめ、旅人を指差した。
虎南「おぉ、すまん。つい、な。
ではいよいよ!スーパーヒーロータブレットが我が唇に!
強き身体に産んでくれた母よ!ありがとう!
夢を与えてくれた父よ!ありがとう!
本日、歳三は人生の新たな章へと突入しま……」
俺、ムラマサ「虎南!」
虎南「ウム、すまん。」
ヤロー、やっと飲みやがった。
胸に手をあて、目を閉じ、天を仰ぐ筋肉男。
はぁ、何だか、馬鹿馬鹿しくなってきたな……。
ムラマサは三十秒ほど、固唾を飲んで静視していたが、待ちかねたように
「虎南、ど、どうだ?!」
虎南は、極太の親指を立て
「ウム、ミント味だ。」
俺は「いや、そこじゃねー!!」
思わずつっこんだ。
虎南は天井を眺めるように右上、左上を睨み
「特にヒーローになった実感、湧き上がるようなパワーは感じない、な。」
眼前で大きな両拳を握り、開く。
ムラマサはパシンッ!と掌で額を覆い
「アララ、俺がアリモノのタブレットケースを渡したのが不味かったかー。
きっと河村の中でのイメージが、既成のケースに全部持っていかれたな。
それか、始めっからその左手じゃー、アリモノしか無理だったか…。
ま、仕方ねぇ。
河村、お前のせいじゃねぇんだ。気ぃ落とすな。
中々のもんだぜその手……。」
ま、そんなもんかもな。
俺は、コイツ、慰めの言葉もタバコ臭ぇなぁ、と思いながらうなずいた。
ドンッ!
な、何の音だ?!
俺は反射的に、音がした方を振り向いた。
ん?
見れば、虎南が右手の人指し指を、冷蔵庫の扉に突き入れてるじゃあないか!
「うおーーい!!てててて、てめぇ!何すんだよ?!
あー!!俺の大事な冷蔵にーーー!!!」
俺は激昂した。
しかし虎南は振り向きもせず、続けざまに
ドン! ドドン!
最後は右手の、その親指を除く四本の指をを突っ込みやがった!!
俺はキッチンにダッシュした!!
「こらぁてめぇ!!俺の冷蔵庫に何か恨みでもあんのか?!あーあー……。」
少し前に、ムラマサが放ったデリンジャーの弾痕、そして今追加された、虎南の指で穿たれた、新たな穴達。
……俺は呆然とそれを眺めるしかなかった。
「んこらぁーー!何で北斗七星になってんだよ!!
あーあー!これ絶対、酒冷やせねーよ。
なぁに考えてんだよ!!」
俺は泣きそうになった、いや泣いた。
虎南「ウム。すまん、実験だ。
新しいの、買え。」
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