dreadnought/ドレッドノート 神と悪魔の手

有角 弾正

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最終話 dreadnought/ドレッドノート 1/4

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 ムラマサは2秒ほど固まり、拳銃をサッと、ズボンの後ろポケットに押し込むと、無言で再びドアに近付き、解錠した。


 「あっ!何で開けんだよ?!」
俺は叫んだが、既に遅かった。


 冷たい外気。


 少し屈んだ、背の高い、スーツ姿の外国人男性が入って来た。

 その後に続いて、サングラスが二人。

 やはり背の高い男達、三名とも揃いの黒いスーツだ。


 先頭で入って来た、高そうなコートにマフラー、オールバックの金髪紳士。
四十代半ば位かな?

 後ろの二人は若いな。


 三人ともスゲースタイル良い。
何か映画俳優みたいだ……。

 う~む、この狭い安アパートにはめちゃくちゃ場違いだ。


 リーダーっぽい先頭の金髪がムラマサの顔を見て、ニッと笑い
「ふむ、開けてくれた君、話が分かるようだな、助かるよ。

 さて、急な話で驚くかも知れんが、私はこの惑星から遠く離れた星の将軍だ。

 少し前、我が軍の兵器開発の最高責任者が、全宇宙史始まって以来の、最強の兵器と噂される物を独自に開発し、
それを持ってこの星に逃亡したので追い掛けて来たのだ。

 あぁこれ、君達宛の物かな?」

 革手袋の片手を拡げると、後ろの部下みたいなスキンヘッドのサングラスが平べったい箱を差し出す。

 オールバックの将軍は受け取り、そして俺に差し出した。


 「えっ?!あっ!はっ、はぁ……」


 他の星から?
将軍って何する人だっけ?!

 えっ?この人達エイリアン?!
普通にカッコいい外国人さん達なんだけど?

 最強の兵器?!
何だそれ?つか、なんつー不吉な言葉だよ!


 俺はいきなりの展開に頭が付いていかず、将軍と名乗る、渋いハンサム男の顔、
そして眼前に突き出されたピザの箱を代わる代わる見、オロオロするばかりだ。


 そんな取り乱した俺を、チラリと見たムラマサが、いつもの調子で
「へー、そりゃ遠いとこまで御苦労なこったな。
で、将軍様、ご用件は?」

 ポケットに両手を突っ込み、
華奢な両肩をすくめた。


 う~む、なんでこいつ落ち着いてられんのかなー。

 つーかそこは敬語にしといた方が良くねぇか?

 俺はいい加減、色々と驚くのに疲れた。

 手の上、美味そうな匂いのするピザの箱をぼんやりと眺める。

 やっぱり出来立てピザって熱いなー、とか思いながら、現実味のない感覚で将軍を見てた。


 ハリウッド俳優みたいな将軍は眉をひそめ、ちょっと不満そうな顔
「ああ。情けない話だが、我々軍はその最強にして最凶の兵器、それが一体どんなものなのか、全く解らんのだ。

 とてつもなく危険な物に間違いはないらしい。

 博士の助手達からは、漠然とした情報しか聞けなくてね。

 異口同音に「最近の博士は、恐ろしい物を造ってしまった、と狼狽し、取り乱していました。」

 これだけだ。

 で、我々軍は博士を追い詰め、1度は首尾よく拘束した。
が、博士は高性能な戒めを完全に破壊、しかる後、見事に脱走されてしまってね。

 勿論、我々は全軍をもって、更に追走したのだが、博士から兵器、その情報を奪う前に、誤って彼に深傷を負わせてしまったんだ。

 で、我々が次に博士を見付けた時には死亡していた、という訳だ。

 今朝の事だな。」

 将軍はここまで話すと、ソファーの背を撫で、優雅に腰掛けた。

 信じられない程、長い足を組み、俺の手元、紙のケースを見る。

 出来れば、靴は脱いで欲しかった……。

 「大まかな経緯はそんなところだ。

 それは食品だな?
不躾で悪いが、少し頂いても良いかね?

 我々の星の文明は、この星より遥かに先を行っていてね。
特にエネルギーの経口摂取は、完全に効率化されていて、我々が口にするものといえば、
生まれて、125歳で死ぬまで、味のないペーストだけなんだ。」

 革手袋を置き、勝手にピザのケースを開けた。

 「この星に来て、我々は驚いたよ。

 販売されている食品に含まれる、多種多様な生体に有害な添加物の豊富さ。

 また、それにも増して、輝くばかりの美しい味の数々にね。

 フム、こいつも美味いな!」

 ウインクし、ビヨーンとチーズの伸びる、ピザの二切れ目をムシャムシャとやりだした。


 ホントにエイリアンか?この人……。

 どう反応して良いものか、考え付かず、俺は呆然とし、将軍と、その背後で姿勢を正した、その部下らしき二人を見ていた。


 ムラマサ「ふーん。ところでグルメ将軍さんよー、ちょっと聞いていいか?

 ここに、それ持ってきた人間が居ただろ、そいつ、どした?」
床を指差しながら聞いた。


 そ、そーだ!ピザの配達員はどこに行ったんだ?

 金払わないと、ピザを渡すわけないし。


      ま、正か?……。


 将軍はピザのケースに貼り付けてあったウェットティッシュを剥ぎ取り、上品に口を拭い
「あぁ、ここだ。」

 コートのポケットから何か出し、テーブルに無造作に放る。


         ん?


 転がる様は、まるで大きなサイコロ……。

 俺達、地球の三人はそのキューブに近付き、食い入る様にソレを眺める。


 それは半透明のグリーンで、冷凍庫で作る四角い氷みたいな、ガラスのような、小さな立方体だった。


 その中央に小さな人間が居る?!


 その深海に沈んだような小人は、体育座りみたいに膝を抱えて動かない。

 被ったヘルメットと服装、手の辺りに漂う黒いケースからすると、どう見ても、ピザの配達員にしか見えない。


 「なっ?!なななな、何だよこれ?!」
勿論、ただのフィギュアなんかじゃないだろう。

 俺はこの物体の放つ、何とも言えない不気味さに、吐き気がするほど恐怖した。
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