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第17話 フードの男
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床スレスレのマントが、歩くたびにひらひらと揺れる。片手には茶色の四角い鞄かばんを持ち、目深まぶかに被ったフードで狭せばまった視界から見える外はすでに暗く、建物の上の方に設置されている窓からは、月の光がうっすらと差し込む。
カツカツと室内に反響する自分の足音が、この静かな空間に、自分のいる場所を他の者に知らしめているようで落ち着かない。人々も寝静まりシンとするその静寂は、まるで空間全体を圧迫するように感じられる。
(次の患者の部屋は、この廊下を真っ直ぐか)
歩みを遅くし、足下の床に目をやる。
一見綺麗に磨かれているようだが、目を凝らせば無数の細い傷と、ベトベトした黒い線の汚れが付着している。足を止め、その黒い線の汚れを自分の靴でこすり取れるか試してみるも、汚れは取れる気配がなくそのままそこにあった。
「まるで私のようだな」
そうつぶやくと、小さく自嘲じちょう気味に笑い、目の上にかかるフードの先をつまみ、顔を隠すために下に引っ張り歩き出す。
カツカツカツ
---タッタタッ
自分の足音を追うように、聞こえる微かな足音。
歩く速さを早め、顔は前を向いたまま目だけを後ろに動かし、あとを追う存在を確認するも、辺りが暗すぎてよく見えない。
目の前の曲がり角を素早く曲がり、背を壁にして息を止め追いかけてくる人物を確認する。
足音を立てずに気をつけているようだが、布が擦すれるような音が微かに聞こえ、一歩一歩こちらに近付いてきているのが分かる。
(誰だ・・)
あと少しでこの曲がり角までくる、というところで、ゴニョゴニョと話すような声がしたと同時に、足音がしなくなった。
(去ったか・・)
壁から少し顔を出し、もと来た道をのぞくも人がいる様子はなく、シンと静まり返っていた。
一息ひといきつき、前にある階段を上り指定された患者の部屋へと急ぐ。
階段を上りきり、左の廊下へと進んだそのときだった。
「アイフォール殿、そちらではないですよ」
突然、背後から声をかけられ、驚き勢いよく振り返る。
壁に取り付けてある灯りと、窓から差し込む月の光が溶け合い、ほどよく照らされたその廊下に立っていたのは、端正な顔立ちをした青年だった。
しかし、アイフォールはこのくらいの年齢で知っているのは、セントラル国王の王子だけで、他に知っている者はいない。ましてや、青年に自分の名前を呼ばれるような仲になど。
「どこかでお会いしましたかな」
近寄ってくるその青年に、いつでも攻撃できるようマントの下で身構えながら問いかける。
「突然お名前をお呼びし、大変失礼しました。私の名はルイ・フォン・ファーストといいます。私の父はセントラル国王と懇意こんいにさせていただいておりまして。その関係で、アイフォール殿の名前を知っておりまして」
笑顔で手を差し出し数歩近寄ってくるルイに訝いぶかしむアイフォールは、ルイから2、3歩後退あとずさり握手を拒こばむ。
「さようでしたか。それで私になんのご用事で?」
そのとき、ルイの服からなにか布のようなものが落ちた。
「なにか落ちましたぞ」
アイフォールは特に拾う様子も見せず、落ちたものに目をやるとルイに声をかける。
「これは、失礼しました」
ルイが笑顔で拾おうと手を伸ばしたものにアイフォールは再び目をやると、そこに落ちていたものはハンカチで、セントラル王の紋章が入っていた。
この世界で、セントラル王族の紋章が入ったものを持つ者は少ない。国王と親しいだけではなく、国王が気に入った者にだけ渡される希少なことで、紋章入りのものを何かしら持っているだけで、どこへ行っても優遇され、人々は皆へりくだる。
だが、アイフォールはこれが本物かどうかの確証がなく、またこの青年が本当にファースト家の者なのかすら疑念を抱いているままだ。
「貴殿の胸元にも同じ紋章がついていますね」
ルイは笑顔でアイフォールのマントの胸元を指差すと、自分もハンカチの紋章を見せる。
「それで、なんのご用心で」
紋章を指摘され、なんとなく落ち着かない気持ちになったアイフォールは、先を急ぎたい気持ちもありぶっきらぼうに聞く。
「私の後方を進んだところにある部屋に、貴殿の治療を待っている者がおります。急病人でして、学園にも伝えたのですが、医療チーム全員出払っているとのことですぐに診られないと。ただ、セントラル国王専属の医師達が、今現在特別に学園内に派遣されているとのことで、手の空いている医師はいないかと探しているところに、偶然アイフォール殿が通りかかりまして」
「ほぅ・・この広い学園内で複数人派遣されている王族の医師がたまたま見つかり、そして、たまたま見つかった医師が貴殿が知っている私だったと・・そういうことですな」
ルイはほんの一瞬表情を崩しかけたが、すぐに先ほどの笑顔になり、言っていた奥の部屋の方へと手を伸ばし示す。
「はい。向こうに医師を待っている者がおります。ぜひお願いします」
ルイはアイフォールに向かって頭を下げると、アイフォールが行くことを了承していないのにも関わらず歩き出す。
(どうするか・・まぁいいだろう、青年の口車に乗ってやろう)
アイフォールはルイのことを信用したわけではないが、病人が本当にいるのならば放っておくわけにはいかないと、医師としての責任からルイのあとをついて行くことにした。
ルイから数メートルの距離をおきついて行くと、至ってごく普通の寮部屋の前へ着いた。
「なんだ、急病人というのに学園の医務室にすら入れてもらえなかったのか」
「はい、どこも人がいっぱいでして・・あの殺された例の医療チームの方の件で」
ルイがアイフォールの表情から目を逸らさず、ゆっくりと低い声で話す。
アイフォールはそんなルイの言葉にも表情ひとつ変えず、少し離れたところに立っている。
「今ドアを開けますので、少々お待ちを」
そういうとルイは、離れたところに立つアイフォールにも中の様子がよく見えるように、ドアを大きく開ける。
部屋の中は電気がついておらず、窓から差し込む月の光だけが部屋を照らしている。今は雲もなく月の光だけでも十分部屋が明るく、よく目を凝らしてみると、部屋の奥の2段ベッドの下部分に誰か寝ている。
「うーん・・うぅ・・」
女性のうめくような声が聞こえ、アイフォールは無言でルイの顔を見る。
「具合が悪く、ずっとあの調子で苦しそうに唸うなっているのです。どうか、お願いします」
ルイは心配そうな顔でアイフォールを見る。
「灯りはつかないかね?治療するには暗すぎる」
「彼女が明るいと眩しいと言いまして・・それで仕方なく消している次第です」
アイフォールはルイの言葉を訝いぶかしんだが、ここまで来てしまった手前、一眼でも患者の様子を見ようと辺りを警戒しながら部屋へ入る。
うめく女性の元へと、一歩一歩近づくアイフォール。
長い髪の女性が毛布にくるまり、背を向けて寝ていた。月明かりだけでも分かる髪の毛の美しさに、ふとどこかで見た錯覚を覚える。
「大丈夫ですかな?私はあなたの具合を見にきた医師の者です。こちらの方に向けますかな?」
アイフォールはいつもの患者を診るときの医師の口調で話しかけ、下のカーペットに茶色の四角い鞄を置き鍵を開ける。
女性はモゾモゾと動き上半身を起こすと、アイフォールの方へと顔と体を向ける。
「きみは・・!!」
「騙して申し訳ありません。どうしてもあなた様にお会いする必要が・・」
シャーランが話しかけている途中でアイフォールは鞄を急ぎ閉じ、部屋の外へと出ようと走り出す。
しかし、ルイがパタンと部屋のドアをゆっくり閉め、アイフォールは出られなくなり立ち止まる。
「どういうつもりだね」
言葉こそ落ち着いてはいるが、アイフォールは怒りに眉間にシワをよせ、ルイを見据える。
「申し訳ありません。これから事情をお伝えします。アイフォール殿、私たちはあなたにお聞きしたいことがあるのです」
そう言うと、ルイは部屋の灯りをつける。すると部屋の中のどこに隠れていたのか、青年が5人出てきた。
「なるほど・・君らまで・・そういうことか・・」
アイフォールは深くため息をつくと、手に持った茶色の四角い鞄を床に置く。
「オレらのことを覚えているのですか?」
アイフォールはマハラを見ると、静かに頷き、ジャン、タク、スカイ、ケイシのそれぞれの顔を見る。
「まったく、リハクは余計なことに巻き込んでくれたものだ」
アイフォールは床に置いた鞄に腰掛けると、フードを頭からおろす。くすんだ金髪が、シワの刻まれたその疲れ切った顔にかかる。
「それで、こんな計画立ててまで、君らは私に何を聞きたいのだね?それに、私の名前は本当はどこで知った」
ルイはドアから離れ、アイフォールの方へと歩みを進めると、1m手前で立ち止まり話し出す。
「私が父上に聞きました。あなたの胸元にセントラル王族の紋章があったことをシャーラン、今ベッドにいる彼女が覚えておりまして、それで父上に王族専属医師の中に紋章が入っている医師がいないか尋ねました。・・簡単でした、王族専属の医師の中でも紋章がついているのは貴方だけでしたので」
「国王は私に信頼をおいておるからな・・。それで聞きたいことというのは、リハクの死のことかね」
アイフォールは顔の前で手を組み、静かな瞳で皆を見る。
シャーランはベッドから降りると、アイフォールの前にひざまずく。
「あのときは助けていただきまして、ありがとうございました。お礼もできずに申し訳ありませんでした。リハク様も私を助けてくださった1人です。リハク様にあのような最後を仕向けた者を許せません。何か知っておられるのなら、教えていただけませんか」
リハクの死に方を思い出したのか、時折り込み上げてくるつばを呑み込み、涙で目をうるますシャーラン。
すると、シャーランが自分に跪ひざまずく様さまを見て、急に震え出したアイフォール。
「貴女あなたは私なんかに跪いていい存在ではない・・!やめなさい・・!」
怯えた様子のアイフォールは、突然シャーランの腕を掴み、その場に立たせる。シャーランを掴んだその腕は小刻みに震えており、目は血走り、こめかみからは汗がしたたっている。
「やめてくれ・・神は私にどうしろと言うのだ・・」
アイフォールがその場でうずくまる姿を、シャーラン、ルイ、マハラ、ジャン、スカイ、ケイシ、タクはただただ不安な顔で見ていた。
カツカツと室内に反響する自分の足音が、この静かな空間に、自分のいる場所を他の者に知らしめているようで落ち着かない。人々も寝静まりシンとするその静寂は、まるで空間全体を圧迫するように感じられる。
(次の患者の部屋は、この廊下を真っ直ぐか)
歩みを遅くし、足下の床に目をやる。
一見綺麗に磨かれているようだが、目を凝らせば無数の細い傷と、ベトベトした黒い線の汚れが付着している。足を止め、その黒い線の汚れを自分の靴でこすり取れるか試してみるも、汚れは取れる気配がなくそのままそこにあった。
「まるで私のようだな」
そうつぶやくと、小さく自嘲じちょう気味に笑い、目の上にかかるフードの先をつまみ、顔を隠すために下に引っ張り歩き出す。
カツカツカツ
---タッタタッ
自分の足音を追うように、聞こえる微かな足音。
歩く速さを早め、顔は前を向いたまま目だけを後ろに動かし、あとを追う存在を確認するも、辺りが暗すぎてよく見えない。
目の前の曲がり角を素早く曲がり、背を壁にして息を止め追いかけてくる人物を確認する。
足音を立てずに気をつけているようだが、布が擦すれるような音が微かに聞こえ、一歩一歩こちらに近付いてきているのが分かる。
(誰だ・・)
あと少しでこの曲がり角までくる、というところで、ゴニョゴニョと話すような声がしたと同時に、足音がしなくなった。
(去ったか・・)
壁から少し顔を出し、もと来た道をのぞくも人がいる様子はなく、シンと静まり返っていた。
一息ひといきつき、前にある階段を上り指定された患者の部屋へと急ぐ。
階段を上りきり、左の廊下へと進んだそのときだった。
「アイフォール殿、そちらではないですよ」
突然、背後から声をかけられ、驚き勢いよく振り返る。
壁に取り付けてある灯りと、窓から差し込む月の光が溶け合い、ほどよく照らされたその廊下に立っていたのは、端正な顔立ちをした青年だった。
しかし、アイフォールはこのくらいの年齢で知っているのは、セントラル国王の王子だけで、他に知っている者はいない。ましてや、青年に自分の名前を呼ばれるような仲になど。
「どこかでお会いしましたかな」
近寄ってくるその青年に、いつでも攻撃できるようマントの下で身構えながら問いかける。
「突然お名前をお呼びし、大変失礼しました。私の名はルイ・フォン・ファーストといいます。私の父はセントラル国王と懇意こんいにさせていただいておりまして。その関係で、アイフォール殿の名前を知っておりまして」
笑顔で手を差し出し数歩近寄ってくるルイに訝いぶかしむアイフォールは、ルイから2、3歩後退あとずさり握手を拒こばむ。
「さようでしたか。それで私になんのご用事で?」
そのとき、ルイの服からなにか布のようなものが落ちた。
「なにか落ちましたぞ」
アイフォールは特に拾う様子も見せず、落ちたものに目をやるとルイに声をかける。
「これは、失礼しました」
ルイが笑顔で拾おうと手を伸ばしたものにアイフォールは再び目をやると、そこに落ちていたものはハンカチで、セントラル王の紋章が入っていた。
この世界で、セントラル王族の紋章が入ったものを持つ者は少ない。国王と親しいだけではなく、国王が気に入った者にだけ渡される希少なことで、紋章入りのものを何かしら持っているだけで、どこへ行っても優遇され、人々は皆へりくだる。
だが、アイフォールはこれが本物かどうかの確証がなく、またこの青年が本当にファースト家の者なのかすら疑念を抱いているままだ。
「貴殿の胸元にも同じ紋章がついていますね」
ルイは笑顔でアイフォールのマントの胸元を指差すと、自分もハンカチの紋章を見せる。
「それで、なんのご用心で」
紋章を指摘され、なんとなく落ち着かない気持ちになったアイフォールは、先を急ぎたい気持ちもありぶっきらぼうに聞く。
「私の後方を進んだところにある部屋に、貴殿の治療を待っている者がおります。急病人でして、学園にも伝えたのですが、医療チーム全員出払っているとのことですぐに診られないと。ただ、セントラル国王専属の医師達が、今現在特別に学園内に派遣されているとのことで、手の空いている医師はいないかと探しているところに、偶然アイフォール殿が通りかかりまして」
「ほぅ・・この広い学園内で複数人派遣されている王族の医師がたまたま見つかり、そして、たまたま見つかった医師が貴殿が知っている私だったと・・そういうことですな」
ルイはほんの一瞬表情を崩しかけたが、すぐに先ほどの笑顔になり、言っていた奥の部屋の方へと手を伸ばし示す。
「はい。向こうに医師を待っている者がおります。ぜひお願いします」
ルイはアイフォールに向かって頭を下げると、アイフォールが行くことを了承していないのにも関わらず歩き出す。
(どうするか・・まぁいいだろう、青年の口車に乗ってやろう)
アイフォールはルイのことを信用したわけではないが、病人が本当にいるのならば放っておくわけにはいかないと、医師としての責任からルイのあとをついて行くことにした。
ルイから数メートルの距離をおきついて行くと、至ってごく普通の寮部屋の前へ着いた。
「なんだ、急病人というのに学園の医務室にすら入れてもらえなかったのか」
「はい、どこも人がいっぱいでして・・あの殺された例の医療チームの方の件で」
ルイがアイフォールの表情から目を逸らさず、ゆっくりと低い声で話す。
アイフォールはそんなルイの言葉にも表情ひとつ変えず、少し離れたところに立っている。
「今ドアを開けますので、少々お待ちを」
そういうとルイは、離れたところに立つアイフォールにも中の様子がよく見えるように、ドアを大きく開ける。
部屋の中は電気がついておらず、窓から差し込む月の光だけが部屋を照らしている。今は雲もなく月の光だけでも十分部屋が明るく、よく目を凝らしてみると、部屋の奥の2段ベッドの下部分に誰か寝ている。
「うーん・・うぅ・・」
女性のうめくような声が聞こえ、アイフォールは無言でルイの顔を見る。
「具合が悪く、ずっとあの調子で苦しそうに唸うなっているのです。どうか、お願いします」
ルイは心配そうな顔でアイフォールを見る。
「灯りはつかないかね?治療するには暗すぎる」
「彼女が明るいと眩しいと言いまして・・それで仕方なく消している次第です」
アイフォールはルイの言葉を訝いぶかしんだが、ここまで来てしまった手前、一眼でも患者の様子を見ようと辺りを警戒しながら部屋へ入る。
うめく女性の元へと、一歩一歩近づくアイフォール。
長い髪の女性が毛布にくるまり、背を向けて寝ていた。月明かりだけでも分かる髪の毛の美しさに、ふとどこかで見た錯覚を覚える。
「大丈夫ですかな?私はあなたの具合を見にきた医師の者です。こちらの方に向けますかな?」
アイフォールはいつもの患者を診るときの医師の口調で話しかけ、下のカーペットに茶色の四角い鞄を置き鍵を開ける。
女性はモゾモゾと動き上半身を起こすと、アイフォールの方へと顔と体を向ける。
「きみは・・!!」
「騙して申し訳ありません。どうしてもあなた様にお会いする必要が・・」
シャーランが話しかけている途中でアイフォールは鞄を急ぎ閉じ、部屋の外へと出ようと走り出す。
しかし、ルイがパタンと部屋のドアをゆっくり閉め、アイフォールは出られなくなり立ち止まる。
「どういうつもりだね」
言葉こそ落ち着いてはいるが、アイフォールは怒りに眉間にシワをよせ、ルイを見据える。
「申し訳ありません。これから事情をお伝えします。アイフォール殿、私たちはあなたにお聞きしたいことがあるのです」
そう言うと、ルイは部屋の灯りをつける。すると部屋の中のどこに隠れていたのか、青年が5人出てきた。
「なるほど・・君らまで・・そういうことか・・」
アイフォールは深くため息をつくと、手に持った茶色の四角い鞄を床に置く。
「オレらのことを覚えているのですか?」
アイフォールはマハラを見ると、静かに頷き、ジャン、タク、スカイ、ケイシのそれぞれの顔を見る。
「まったく、リハクは余計なことに巻き込んでくれたものだ」
アイフォールは床に置いた鞄に腰掛けると、フードを頭からおろす。くすんだ金髪が、シワの刻まれたその疲れ切った顔にかかる。
「それで、こんな計画立ててまで、君らは私に何を聞きたいのだね?それに、私の名前は本当はどこで知った」
ルイはドアから離れ、アイフォールの方へと歩みを進めると、1m手前で立ち止まり話し出す。
「私が父上に聞きました。あなたの胸元にセントラル王族の紋章があったことをシャーラン、今ベッドにいる彼女が覚えておりまして、それで父上に王族専属医師の中に紋章が入っている医師がいないか尋ねました。・・簡単でした、王族専属の医師の中でも紋章がついているのは貴方だけでしたので」
「国王は私に信頼をおいておるからな・・。それで聞きたいことというのは、リハクの死のことかね」
アイフォールは顔の前で手を組み、静かな瞳で皆を見る。
シャーランはベッドから降りると、アイフォールの前にひざまずく。
「あのときは助けていただきまして、ありがとうございました。お礼もできずに申し訳ありませんでした。リハク様も私を助けてくださった1人です。リハク様にあのような最後を仕向けた者を許せません。何か知っておられるのなら、教えていただけませんか」
リハクの死に方を思い出したのか、時折り込み上げてくるつばを呑み込み、涙で目をうるますシャーラン。
すると、シャーランが自分に跪ひざまずく様さまを見て、急に震え出したアイフォール。
「貴女あなたは私なんかに跪いていい存在ではない・・!やめなさい・・!」
怯えた様子のアイフォールは、突然シャーランの腕を掴み、その場に立たせる。シャーランを掴んだその腕は小刻みに震えており、目は血走り、こめかみからは汗がしたたっている。
「やめてくれ・・神は私にどうしろと言うのだ・・」
アイフォールがその場でうずくまる姿を、シャーラン、ルイ、マハラ、ジャン、スカイ、ケイシ、タクはただただ不安な顔で見ていた。
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