楽器王子〜楽器の中に宿るは王子様!?〜

めんだCoda

文字の大きさ
20 / 21
ピアノの王子の過去

第20話 落としたのは私…?

しおりを挟む
 ホテルに入ると、またもマネージャーの白谷が立って出迎えてくれたが、花蓮は白谷を睨みつける。
 だが、白谷はそんな花蓮の表情にも動じず、そして淡々とエレベーターへと促す。

 花蓮は無言でエレベーターに乗り込むと、白谷がまた鍵をエレベーターへ差し込み、スムーズにエレベーターが上昇していく。
 花蓮がエレベーター上部の階数表示を見つめていた、そのときだった。
 急にガコッとエレベーターが急停止し、花蓮はよろめく。

「きゃっ…何が…」

 ——ドン!!——

 慌ててエレベーターの壁に体を寄せる花蓮のすぐ横の壁に、勢いよく大きな手がついた。
 花蓮は怯えた顔で見上げると、無表情の白谷がこちらを見下ろしていた。そして、白谷は花蓮の太ももに手をなぞらせる。

「え——!?やだ…!!何をするんですか!!?やめてください!!」

 花蓮は白谷の手を掴んで体から離すも、白谷はまた無言で花蓮に手を伸ばす。今度は両手を花蓮の腰に手を回し、そのまま手は下へと下がっていく。

「…はっ…!いやぁああっ!本当にやめて——!!」

 花蓮は白谷を力一杯押すと、その場でうずくまり、両腕に顔を埋める。

「…なんでこんなことを…するんですか……」

「…特に理由はありません」

 白谷の答えに呆然とした花蓮は、腕から顔を上げ白谷を見る。止めどなく溢れる涙が、いく筋にもなって頬を伝っていく。すると、白谷の手が、花蓮の顔の前に伸びてくる。

(いやだ!!怖い——!スタイン!!助けて——!)

 花蓮は頭の上で両腕をクロスさせ俯くと、エレベーター内が眩いほどの閃光で埋め尽くされる。

 すると、次の瞬間、花蓮は優しく誰かに抱きしめられた。バリウスだ。
 バリウスは花蓮を抱きしめながら、鋭い目つきで白谷を見ていた。花蓮は顔を上げバリウスを見つめると、バリウスは白谷へ向けた目つきとは打って変わって、優しい瞳で花蓮を見つめる。

「大丈夫ですか、花蓮様。お怪我はありませんか…?私が出るのが遅かったですね…怖い思いをさせてすみません」

 花蓮の涙を優しくハンカチで拭くバリウスに、花蓮は安堵の気持ちが込み上げてきてまた涙が溢れる。

 すると、エレベーターの中央で立ち尽くす白谷が、2人を見て急に笑い出す。

「——はははっ…!あの閃光でまさかとは思いましたが…こんな偶然もあるのですね…!そこのあなたも、もしや楽器の王子ですか。……主は誰ですか?まさか、花蓮様が2人の王子を呼ばれたと?」

「…私の主は花蓮様ではありません。ですが、だからといって主の名を明かすつもりもありません」

「…なるほど…そうですか。まぁ、いいでしょう」

 白谷はエレベーターの階層ボタンへ近付くと、差し込んであった鍵を捻る。するとまたエレベーターが動き上り出す。

「バリウス…ごめんなさい…私のせいで、関係ないあなたまで正体がバレてしまったの…」

「いいんです。気にしないでください。それより、花蓮様に付いてきて良かったと、心の底から思いました…」

 切ない表情で微笑んだバリウスに、花蓮はまたも抱きしめられる。

「バリウス……」

 花蓮は驚いたが、今は何よりもバリウスがいてくれることに安心できた。

「着きました。降りてください」

 冷たく2人を見下ろす白谷に、2人はエレベーターをおりると、白谷についていき東堂麗香の待つ部屋へと入る。

「白谷ご苦労さま」

 ベッドの上にバスローブ姿で座る東堂麗香が、ニッコリ微笑んでこちらを見ていた。

「こんばんは、花蓮さん。こんなにすぐお会いするとは、取材のときには思いませんでしたわ、ねぇ…そうでしょう?……あら…。そちらの素敵な男性は誰かしら」

 東堂麗香は指を唇に当て、うっとりした顔で花蓮の隣に立つバリウスを見つめる。

「お嬢様。こちらの男性は、おそらく楽器の国の王子の1人です。先ほど、エレベーター内で昔スタイン様がいらしたときと同様の閃光を見ました」

「まぁ…そう…。彼も王子…でも、花蓮さんの…ってわけでは、なさそうねえ…。まぁいいわ。花蓮さん、あなただけ私のそばに来ていただけるかしら」

 東堂麗香に人差し指で来なさいとジェスチャーされ、花蓮が近づいて行くと、東堂麗香がベッドから降りて花蓮に近付き耳元で囁く。

「ねえ、白谷はどうだった?彼、触れ方も紳士的でしょう?」

 薄ら笑いを浮かべる東堂麗香に、花蓮はカッと顔を真っ赤にしてのけぞる。
 東堂麗香は踵を返すと、ベッドにまたのぼり、何かを手に掴む。

「ふふっ、そうそう、あなたがお探しの人形って、これでしょ?」

 東堂麗香がニッコリ笑って見せたのは、

「スタインの人形…!!」

 花蓮が近付いて手を伸ばすと、東堂麗香は上に手をあげ人形を触れないようにする。

「だめよ、急に人の手から取るなんて、マナーのなっていない方ね」

 東堂麗香はニコリと笑い、スタインの人形を自分の頬に押し付ける。

「早く返してください!スタインのエネルギーがもう…」

「分かってるわよ。だからそんなに騒がないで。いい?私は、この人形が落ちていたのを拾ったの。それなのに、まるで盗んだかのような言い方をされて、深く傷ついたわ…。白谷、あれを見せてあげてちょうだい」

 東堂麗香に指示され、白谷がホテル内のテレビを付けると、部屋の映像がうつりだされる。

「これはね、この部屋の防犯カメラの映像なのだけれど、ホテルにお願いして借りてきましたの。ほら、見てくださる?」

 映し出されたのは、花蓮が今日取材後に部屋から出るところだった。そしてエレベーターに乗り込む手前で、スタインの人形を床に落としている。

「え…うそ…」

(私のカバン、帰ったときも穴なんて空いていなかったのに、なぜ…?!)

「ほらね、あなたが落としたんじゃない。きちんと映像に残っておりますのよ?」

「………」

「まぁ、素直に謝らないんですのね。いいですわ。それでも、疑われて私は気分は良くないですわねえ…」

 東堂麗香は、スタインの人形を人差し指でなぞりながら微笑む。

「あまりにも悲しいから、懇意にしている記者の方に、全音企画さんの担当者が私を盗人呼ばりしたって、泣きつこうかしら…?」

「やめてください——!!」

「それなら、1つお願いがありますの。海生島…ってご存知かしら?」

「海生島ですか?はい、あの有名な離島ですよね…」

「私、海生島の料理が好物ですの。そこの料理を持ってきてくださったら、今回のことも許して差し上げますわ」

「料理…その、何の料理か教えていただけますか…?」

「あそこに出店されているお店の、全ての料理が好きなの。何を買ってこられるかは、お任せするわ」

「…分かりました。それでは、明日お待ちするようにします…」

「はぁい。お願いしま~す」

「あの…それで、スタインの人形を…!」

「あ、そうだったわね。はい」

 スタインの人形を掴んだ手を伸ばした東堂麗香は、花蓮の前に人形を突き出す。

「スタイン……!!」

 花蓮はスタインの人形を掴み取ると、胸で強く抱きしめる。そして、そっと人形の頬に口付けをすると、眩い閃光と共に元の姿に戻ったスタインが現れた。

「スタイン…!大丈夫!?」

 花蓮がスタインの頬に手をやると、その手をスタインが強く掴みギュッと目を閉じる。

「…心配かけてごめん……」

「大丈夫だよ、私の方こそ、落としちゃってごめんね……」

 花蓮が涙ぐむと、スタインが力任せに花蓮を抱き寄せる。

「スタイン…そんなに強くだと痛いよ…それに、皆んな見てるから…」

 花蓮は恥ずかしくなり、スタインから離れようとする。しかし、スタインはその場から動かず、抱きしめた腕も緩む気配もない。

「スタイン…!」

 花蓮は離してもらおうとスタインの背中を強めにさすると、スタインが花蓮の横を前のめりに倒れていく。

「スタイン——!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる

若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ! 数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。 跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。 両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。 ――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう! エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。 彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。 ――結婚の約束、しただろう? 昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。 (わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?) 記憶がない。記憶にない。 姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない! 都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。 若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。 後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。 (そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?) ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。 エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。 だから。 この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し? 弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに? ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...