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第三話
「友達(自称)と私(他称)が打ち解けた日」(2)
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「ねむ……」
昨晩はベルトで遊びすぎた。ついテンションが上がってしまって「対決!!怪人豚マスク」という脚本を作ったのは流石にやり過ぎたか。おかげでペダルを漕ぐ足が筋肉痛でズキズキする。
「そんなに眠いならさぼっちゃえば?」
「そうしたいけどボーズのベルトも欲しいし」
「大丈夫さ、ほら、あそこにお金を貸してくれるお店があるじゃないか」
「え~、でも私なんか相手にしてくれないよ」
「大丈夫、君は若いんだしさ……それにもっと効率よく稼げる場所があるよ」
「ねえ、ちょっと……」
「例えばあそこの薄暗い通りとかさ、履歴書無しで働かせてくれんだぜ?」
「ねえ……」
「あ~、いいかも」
「ちょっと、聞いてるの!!」
誰だ、私達の会話に混ざってくるのは。突然大声なんて出すとびっくりするじゃないか。
「そんなところで立ち止まられたら……て、あなた、何それ?」
後ろを振り返ると何処かで見たことがあるような女性が、険しい目つきで睨んでいた。どちらさまですっけ?それにどうして人の右肩を指差しているんだろう。
「私のベストフレンドが何か?」
自然と頭に浮かんだ言葉が口に出た。そうだ、今朝出会った私のたった一人の友達。今から一緒にお出かけをするんだった。
「……ホント、しょうがないわね」
頭がぼーっとする。寝不足の影響かな。友達の姿ははっきりと見えるのに、目の前の人が何をしているのかわからない。両手でかえるさんでも作ってるの?だったら私はブルドッグを……あれ?
「……ここはどこ?私は一体何を?」
「目が覚めた?」
いつの間にかビルの前にいた。確か通勤中にいきなり意識がぼんやりし始めて、そこからの記憶があやふやになっている。
「あなた、取り憑かれていたのよ」
目の前の綺麗な女の人が小馬鹿にした表情で言った。だが、そのおかげで私に何が起きていたのかすぐに理解できた。
「はあ……」
通りで肩の辺りがすっきりしているわけだ。頭にはまだ靄がかかった感じがするけど。
「……別に恩着せがましく言うつもりは無いけどさあ、私あなたを助けたの、これで二回目なんだけど。何か言う事があるんじゃないの?」
二回目?確かに今しがた助けてもらったばかりだけど、前にもあったっけ、私の交友範囲は事務所と電力関係の人だけだし……あ!!
「もしかして事務所まで運んでくれた人?」
多分そうだ。あの時は色んな事が重なって、すっかり忘れていたけど間違いない。声に聞き覚えがある。
「ようやく思い出してくれたようね」
というより何回かビルの正面で顔合わせていましたよね……私はその間、ずっと無視していたということか、ちょっと申し訳が立たない。
「あー、えっと、あの時はありがとうございました。本当に助かりました」
私は深々と頭を下げた。この人、私より若く見えるけど態度や雰囲気からして、どこかお姉さまと同じ匂いがする。出来る女性というか、人を見る目が厳しいというか。まがりなりにも命の恩人であるわけだし、ここは大げさでも下手に出ておいた方がいいだろう。
「ま、私にとってはたいしたことじゃないけど」
出来る女性というのは腕を組んで首を傾ける姿も、様になりますね。うだつの上がらない私にとっては羨ましい限りです。これで気分が良くなるんでしたら、幾らでもひれ伏して差し上げますことですよ。
「ごもっともです」
さてと、そろそろ出勤時間も近づいているわけだしこの場から離れるか。
「良ければ、今度私が直々に術を教えてあげても……てちょっと待ちなさいよ!!」
「そういうのは間に合ってますので」
私はエレベータを待たず、階段で事務所のある階まで上がっていった。今日はあまり依頼が入ってないといいんだけどなあ。
「へいほ、よっしょと」
今日の作業予定は午前が一件、午後が二件。忙しくも無ければ暇でもない、まあ普通の日。最初の一件目は私と九縁さんが二人でかかれば一時間程度で終わるものだった。とは言っても季節は少しずつ夏に近づいているので油断は出来ない。昼前という時間のせいか、いつもより気温が高く感じた。仕事に慣れてきたはずなのに、体力がどんどん吸い取られていく。念のために肩の周りを確認したが、何かに取り憑かれている様子は無い。ああ、やっぱり単純に暑さでやられているだけってことね。
「ほいじゃあ、ここらで休憩しようか」
「はーい」
この現場の清掃も終わったところなので、丁度いいタイミングだ。次の現場に行く前に、私と九縁さんは車内で昼食を取った。
「次はそれぞれの現場が離れとるなあ」
「なら、こっちは私一人でやりますよ」
九縁さん手作りのおにぎりを頬張りながら、午後からの作業手順を組み立てる。規模的にどちらもそんなに広くは無いし、住宅街と商業施設の近くだ。なら、前のようなトラブルも起きることは無いはず。
「まどかちゃんが大丈夫いうならそうしようか、わしも今日は見たいドラマがあるしの」
「面白いものでもあるんですか?」
「ああ、象牙の巨塔ちゅうて昔やってたドラマのリメイクなんよ」
九縁さんの言う昔ってどの時代のことを言うんだろうか?確かこのドラマ、何回もリメイクされているし、最初に放映されたのは戦後間も無い頃だったはず……想像するだけ無駄か。私にとってマスカレイダーノワールが自分の生まれる前から放送されていたものでも、九縁さんにとっては少し前って感覚だろう。つくづく種族が違うんだなと思い知らされる。
「そういえばまどかちゃんは術を覚える気はないんか」
「あ、いやあ、私にはまだ早いかなって」
私が術に対して乗り気じゃないのもそれが原因の一つだった。というよりこんな仕事なんて今すぐにでも辞めたいとさえ思っている。もちろん、九縁さんはいい人だしこの仕事自体は必要なものだと思う。
「素質はあると思うんじゃけどなあ」
だから、だった。自分と他を隔てる線が日に日にあやふやになっていく。その感覚がたまらなく気持ち悪い。ふと、目にした人やモノが実は偽者で、それを当たり前と捉える世界。少なくとも、私には無理だ。
「そのうち考えてみます」
ほら、いつの間にかこんなに作り笑いと噓が上手くなっているし、これが当たり前になっている。もっと今口にしているおにぎりみたいに見えているものを捉えたい。とっても美味しいという感覚だけで十分。
「それより、これから私もどんどん仕事こなしていきますよ」
だからとっとと私を縛り付ける借金から解放されよう、労働は健康にとって害悪なのだから国は早く対処するべきだ。労働は敵、労働は苦役。真の楽園とは何もしないで過ごす場所の事なんだ!!
昨晩はベルトで遊びすぎた。ついテンションが上がってしまって「対決!!怪人豚マスク」という脚本を作ったのは流石にやり過ぎたか。おかげでペダルを漕ぐ足が筋肉痛でズキズキする。
「そんなに眠いならさぼっちゃえば?」
「そうしたいけどボーズのベルトも欲しいし」
「大丈夫さ、ほら、あそこにお金を貸してくれるお店があるじゃないか」
「え~、でも私なんか相手にしてくれないよ」
「大丈夫、君は若いんだしさ……それにもっと効率よく稼げる場所があるよ」
「ねえ、ちょっと……」
「例えばあそこの薄暗い通りとかさ、履歴書無しで働かせてくれんだぜ?」
「ねえ……」
「あ~、いいかも」
「ちょっと、聞いてるの!!」
誰だ、私達の会話に混ざってくるのは。突然大声なんて出すとびっくりするじゃないか。
「そんなところで立ち止まられたら……て、あなた、何それ?」
後ろを振り返ると何処かで見たことがあるような女性が、険しい目つきで睨んでいた。どちらさまですっけ?それにどうして人の右肩を指差しているんだろう。
「私のベストフレンドが何か?」
自然と頭に浮かんだ言葉が口に出た。そうだ、今朝出会った私のたった一人の友達。今から一緒にお出かけをするんだった。
「……ホント、しょうがないわね」
頭がぼーっとする。寝不足の影響かな。友達の姿ははっきりと見えるのに、目の前の人が何をしているのかわからない。両手でかえるさんでも作ってるの?だったら私はブルドッグを……あれ?
「……ここはどこ?私は一体何を?」
「目が覚めた?」
いつの間にかビルの前にいた。確か通勤中にいきなり意識がぼんやりし始めて、そこからの記憶があやふやになっている。
「あなた、取り憑かれていたのよ」
目の前の綺麗な女の人が小馬鹿にした表情で言った。だが、そのおかげで私に何が起きていたのかすぐに理解できた。
「はあ……」
通りで肩の辺りがすっきりしているわけだ。頭にはまだ靄がかかった感じがするけど。
「……別に恩着せがましく言うつもりは無いけどさあ、私あなたを助けたの、これで二回目なんだけど。何か言う事があるんじゃないの?」
二回目?確かに今しがた助けてもらったばかりだけど、前にもあったっけ、私の交友範囲は事務所と電力関係の人だけだし……あ!!
「もしかして事務所まで運んでくれた人?」
多分そうだ。あの時は色んな事が重なって、すっかり忘れていたけど間違いない。声に聞き覚えがある。
「ようやく思い出してくれたようね」
というより何回かビルの正面で顔合わせていましたよね……私はその間、ずっと無視していたということか、ちょっと申し訳が立たない。
「あー、えっと、あの時はありがとうございました。本当に助かりました」
私は深々と頭を下げた。この人、私より若く見えるけど態度や雰囲気からして、どこかお姉さまと同じ匂いがする。出来る女性というか、人を見る目が厳しいというか。まがりなりにも命の恩人であるわけだし、ここは大げさでも下手に出ておいた方がいいだろう。
「ま、私にとってはたいしたことじゃないけど」
出来る女性というのは腕を組んで首を傾ける姿も、様になりますね。うだつの上がらない私にとっては羨ましい限りです。これで気分が良くなるんでしたら、幾らでもひれ伏して差し上げますことですよ。
「ごもっともです」
さてと、そろそろ出勤時間も近づいているわけだしこの場から離れるか。
「良ければ、今度私が直々に術を教えてあげても……てちょっと待ちなさいよ!!」
「そういうのは間に合ってますので」
私はエレベータを待たず、階段で事務所のある階まで上がっていった。今日はあまり依頼が入ってないといいんだけどなあ。
「へいほ、よっしょと」
今日の作業予定は午前が一件、午後が二件。忙しくも無ければ暇でもない、まあ普通の日。最初の一件目は私と九縁さんが二人でかかれば一時間程度で終わるものだった。とは言っても季節は少しずつ夏に近づいているので油断は出来ない。昼前という時間のせいか、いつもより気温が高く感じた。仕事に慣れてきたはずなのに、体力がどんどん吸い取られていく。念のために肩の周りを確認したが、何かに取り憑かれている様子は無い。ああ、やっぱり単純に暑さでやられているだけってことね。
「ほいじゃあ、ここらで休憩しようか」
「はーい」
この現場の清掃も終わったところなので、丁度いいタイミングだ。次の現場に行く前に、私と九縁さんは車内で昼食を取った。
「次はそれぞれの現場が離れとるなあ」
「なら、こっちは私一人でやりますよ」
九縁さん手作りのおにぎりを頬張りながら、午後からの作業手順を組み立てる。規模的にどちらもそんなに広くは無いし、住宅街と商業施設の近くだ。なら、前のようなトラブルも起きることは無いはず。
「まどかちゃんが大丈夫いうならそうしようか、わしも今日は見たいドラマがあるしの」
「面白いものでもあるんですか?」
「ああ、象牙の巨塔ちゅうて昔やってたドラマのリメイクなんよ」
九縁さんの言う昔ってどの時代のことを言うんだろうか?確かこのドラマ、何回もリメイクされているし、最初に放映されたのは戦後間も無い頃だったはず……想像するだけ無駄か。私にとってマスカレイダーノワールが自分の生まれる前から放送されていたものでも、九縁さんにとっては少し前って感覚だろう。つくづく種族が違うんだなと思い知らされる。
「そういえばまどかちゃんは術を覚える気はないんか」
「あ、いやあ、私にはまだ早いかなって」
私が術に対して乗り気じゃないのもそれが原因の一つだった。というよりこんな仕事なんて今すぐにでも辞めたいとさえ思っている。もちろん、九縁さんはいい人だしこの仕事自体は必要なものだと思う。
「素質はあると思うんじゃけどなあ」
だから、だった。自分と他を隔てる線が日に日にあやふやになっていく。その感覚がたまらなく気持ち悪い。ふと、目にした人やモノが実は偽者で、それを当たり前と捉える世界。少なくとも、私には無理だ。
「そのうち考えてみます」
ほら、いつの間にかこんなに作り笑いと噓が上手くなっているし、これが当たり前になっている。もっと今口にしているおにぎりみたいに見えているものを捉えたい。とっても美味しいという感覚だけで十分。
「それより、これから私もどんどん仕事こなしていきますよ」
だからとっとと私を縛り付ける借金から解放されよう、労働は健康にとって害悪なのだから国は早く対処するべきだ。労働は敵、労働は苦役。真の楽園とは何もしないで過ごす場所の事なんだ!!
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