ただ、隣にいたいだけ~隣人はどうやら微妙にネジが外れているようです~

Ayari(橋本彩里)

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3惑甘ネジ

接点①

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 小野寺と食事をした週の休日。
 薄い灰色の雲が空全体に広がり、どこか湿った空気が肌にまとわりつく微妙に怠さをともなう暑さのなか、千幸は足早に歩いていた。
 まさしく自分の気持ちと一緒だと思うから、怠さを蹴散らすように歩く足も速くなる。

 今朝も今朝とて小野寺に出待ちされ、さらに近い距離とやり取りにぐったりしながら家を出てきた。
 考えると言った言葉を今さら撤回する気もないが、考えても観察してもやっぱりよくわからない気持ちに、この先どうなるのだろうかと若干不安になる。

 何より隣人だ。これからの関係性を思うと、ずるずると返事を保留にし中途半端なままはよくないのはわかっている。
 だけど、簡単に自分の気持ちが明確になるわけでもない。

 とろりと甘い眼差しはグレードアップして、たまに肉食動物みたいな眼光で千幸を捉えては、これは遊びじゃない、本気なんだと告げてくる。
 視線で、態度で、言葉で容赦なく攻めてくる。

 それを受け止めきれず、受け流しきれず、千幸はしれっと返してはいても結構いっぱいいっぱいだった。
 少ないが恋愛経験はあって、それなりに男女というものをわかっているつもりであったが、小野寺に対してそれなりの経験では役に立たない。

 ────規格外すぎるんだよね。

 容姿もステータスも、何よりどうしてそこまで千幸に執着するのかもだ。 
 あと、何か変だ。
 小野寺だけでなく、彼の周囲も何かが自分の感覚と違うと感じてしまう。

 今日もそうだが、一緒に食事をした次の日の朝のやり取りも、彼の友人兼仕事仲間らしい轟が途中で会話に入ってきたが、千幸が思う方向とちょっぴり違った。
 あのまま話を聞いていても、千幸にとって何も変わらないどころかどん詰まりな気がして逃げたくなった。

 初めて会った時から、轟に対してすごく真面目な人だと印象を持っていた。
 だけど実際は、ずいぶん落ち着き払った人ではあるが……

 ──なんか、違うんだよね。

 そう思い、千幸は苦笑した。
 悪くはない、悪いくはないの、と誰に向かって言っているのか、何度もその言葉を繰り返し虚しくなった。

 よくよく会話を思い返してみると、ある程度小野寺のストッパーとしての役割をになってくれてはいるが、暴走は止めてくれない。
 そのことに気づいてしまった。

 助け舟がきたかと期待したが、全くもって千幸が思うものではない。
 轟のそれらは、暴走ありきのストッパーなのだ。

 小野寺が暴走するのは当たり前としているので、例えそれに千幸が巻き込まれアクセル踏みっぱなしでも事故らなければ、つまり、社会人として一脱しなければいいという感じなのだ。
 なんて現実的かつ合理的な無駄のない考えなのか。

 轟にとって大事なのは、仕事の上に立つ立場の小野寺であり、友人としての小野寺であり、その彼が誰にどうしようがそこがうまく回っていたら関係ないようだった。
 確かに彼はたまに小野寺の暴走を止めてはくれるが、社会に適合する範囲で千幸に同調しているだけで、小野寺の行動を止めようとはしていないことを今さらながらに気づいた。

 類は友を呼ぶ。
 全く違ったタイプに見えるのに類友なのだと、深い部分でじわじわと実感した千幸はまた違った意味でも追い込まれていた。

 轟ともほぼ毎日顔を合わせるが、結局小野寺の相手をするのは自分のみ。
 自分への暴走は、自分で止めなければ誰も助けてくれない。

 そこにたまに迫力美人の桜田さくらだ弥生やよいも加わるが、彼女は楽しそうに自分たちのやり取りを眺めているだけ。
 むしろあおってくる。

 小野寺だけでも精一杯なのに、観客がいるなか、あの彼の相手をしているのだ。
 それに気づいたその晩、千幸は枕に顔を埋めて言葉にならない言葉を発して悶えた。隣だから小野寺本人に声が聞こえては困るし、吸収する何かにわだかまりを吸ってほかった。

 ────えっ、これって逃げ道なかったりする?

 恋愛ってこういうもんだっけ?
 もしかしなくても、小野寺とその友人たちに囲まれている?
 当然、彼らは小野寺が千幸を好きだということは知っているのだろうし……。

 一度、その思考に陥ったら、考えれば考えるほどそう思えてならない。

 住居も紹介され、仕事先も知られ、元彼との別れ話と引越しも付き合ってもらっている。
 その過程で小野寺の周囲に関わり、今さらふらっと身軽に出ていける立場ではない。
 嫌いではないが、好きになるまで状況的に逃れられない気がして、嫌だとも思えない現実がまたなんだかなぁっと千幸を甘く苦しめる。

 ────どんな苦行なのか!?

 好きになるのが一番だよとばかりの道筋に、それが本気で嫌だとも思えない現実に、うわぁぁっと身悶えてしまう。
 じわじわじわじわ絡め取られてる感じが本当に苦行のようだ。
 また変に甘さを残すものだからタチが悪い。

 変、だけど捨て置けない。どうしても気になってしまう。
 それに、造形に関しては見飽きることなく眼福ものだ。できれば、第三者的な感じで素敵だなぁっと眺めていたかった。

 何より、『思い出して』と言われたからか、その辺がスッキリするまではこちらに負い目があるような気になってもいて。
 やっぱり、千幸的にはそこがネックというか、思い出した上で小野寺のことを考えたい。

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