ただ、隣にいたいだけ~隣人はどうやら微妙にネジが外れているようです~

Ayari(橋本彩里)

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4変甘ネジ

お気の毒に side翔①

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 令嬢を乗せたタクシーが見えなくなると、翔は気持ち足早に待たせていた車へと乗り込む。
 車が走り出しふうっと息をつくと、髪を掻き上げてぐったりと背もたれにもたれた。

「やっと終わった……」
「長かったな」

 運転席の轟がミラー越しに翔を見る。
 長かったと言いながら、こんなもんだろうと言わんばかりの視線に肩を竦めた。

「思ったよりも頑張られた」
「それはそれは。だが、それも仕事だ」
「わかってるが、疲れるものは疲れる」
「お気の毒に」

 フラットな返答に、翔はじろりと轟を睨んだ。

「全く思ってないだろう?」
「いや、思ってる。こうして俺を運転手にしてまで不測の事態に備えている時点で、今日に勝負をかけているのだろうと思ってな」
「そうだ」
「だから、お気の毒に」
「ああ。早く千幸に会いたい。今夜が楽しみだ。……だから?」

 ふと、轟の言い回しが気になり友人の頭を見つめる。
 左にハンドルをきり直線道路に入ると、轟は肩を竦めた。

「…………」
「…………」

 無言の間が広がる。

「何?」
「……先に言っておく。他意はないからな」
「わかったから、何?」
「……さっきお前が兼光令嬢と出てきて一度ホテルに戻った際、藤宮さんが道路の向こう側にいた」
「………………はっ?」

 翔はたっぷり間を持って轟の言葉を頭に入れ、意味を理解すると目を見開いた。
 疲れも吹っ飛ぶ。いや、それ以上に楽しみだったこの先へのふわふわした気持ちが焦りに変わる。
 今までにない妙な焦りが心拍数を上げていくなか、淡々と語られる出来事。

「で、ばっちりお前達の姿を確認した。ここからでは表情はわからなかったが、前回の時も目撃していたし勘違いしているかもなと思って」
「はぁ?」
「ってことで、お気の毒に、だ」
「…………」

 夜の車のライトが照らされ通りすぎていくなか、それと同じように翔の思考は無駄にフル回転していた。
 だが、理解できないワードにその思考も止まる。

「轟、前回って何だ?」
「前の兼光令嬢と食事の時、藤宮さんと友達、主にその友達がお前を見てワァワァ騒いでたからな」
「聞いてない」

 どくん、と心臓が嫌な音を立てる。血が逆流するかのようにどっと血の気が引いていった。

「言ってないからな」
「そういう問題じゃないだろう」

 ──は? 何しれっと言ってくれているのか。

 どこまで冷静で動じない友人の言葉に、翔のこめかみはひくひくなってぴきぴきと痛くなった。

「確かあの日は藤宮さん大学の友人と会うと言っていたから、その辺の話題も出てるかもな。そして、ばっちり小野寺が令嬢と腕を組んでいたのは見られてた」

 ──だから、ここ最近の千幸の気になる視線かぁ……、ってなるか!

 本当、それはすぐさま伝えておいてほしかった情報だ。

「…………頭が痛い」
「お気の毒に」

 ────はぁぁ??????

 さらっとお悔やみ言わないでもらいたい。

「なぜ前の時に言わなかった?」
「協力はある程度するが、余計な口出しはしないでおこうと判断したまでだ」

 頭は痛いが、轟らしい。
 人の恋路に首を突っ込みたくないというのもわかるし、逆なら翔も同じことをしていただろう。というか、そもそも人の恋路に興味はない。

 協力してもらっているだけありがたいと思わなければならないことはわかっているが、タイミングの悪さにほぞを噛む。
 一度、気持ちを落ち着かせるためはぁっと一息ついて、足を組み直す。やはり納得がいかないと、轟を後ろからめつけた。

「なら今回は?」
「さすがに二度目だし、小野寺が何も知らないまま彼女と会うのはちょっとまずいかと思った」
「……結局口出しするなら前のも言っとけよ」

 本当に最悪だ。
 手がわずかに震え、翔はぎゅっと握って押さえ込んだ。

「仕事に支障きたすなら多少は助言するし、手伝うと言ってあるだろ? 前回は支障がないと判断した。藤宮さんは冷静だったし、その後も気にしてはいるようだったがそれはそれでありなんだろうと判断していた。だが、二度目となると放置はリスクが高い。お前が知らないまま、このままのペースで押せ押せだと変なことになりかねないからな」
「……ちっ」

 どこまでも冷静な男だ。だからこそ彼に協力してもらっているのだが、臨機応変というのを知れよと思う。いや、これが臨機応変か。
 有能すぎるというのも問題だと、自分のことを棚に上げて文句を垂れる。
 
 平静に見えてぶっすぅっと眉間にしわを寄せて、翔の美貌が無駄に磨きがかかる。
 どんな顔をしても、どんな言葉を吐いても、顔立ち、所作が綺麗な翔は男としての色気を振りまくだけだ。

 だが、ここは友人の轟しかおらず、そんなものどうでもいい相手にはただの拗ねた一人の男にしか見えない。
 轟は小さく嘆息すると、不憫には思ってくれているのか声を和らげた。

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