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5甘重ネジ
俺の彼女 side翔②
しおりを挟む大きく息を吐き出しスマホを戻す。
手首にある時計に視線を落とした直後、トントン、とドアがノックされ秘書の白峰が追加の書類を手に入ってきた。
「先ほど、受付に来られたそうです」
「わかった。それはそこに置いておいて」
「かしこまりました。……社長、現在の状況についてお訊ねしたいことがあるのですが、今回社長自らお会いになるには何か理由がおありになるのでしょうか?」
「なぜ、そう思う?」
「不自然すぎるからです」
一刀両断され翔はちらりと秘書を見た。
白峰はにこやかに笑みを浮かべているが、その瞳は何かあると確信した眼差しをしている。
「へえ」
翔は目を細め、今日も長い髪をきゅっと後ろでくくり背筋がぴんと張った女性らしいが清々しい佇まいの秘書を見る。
秘書課の室長である轟は、同じビル内にある会社のIT部門の副社長も兼任してもらっている。
理由はシステムに強いことと、マネジメントに長けているからだ。
情報ツールは今の時代とても大事で、戦略の要といってもいい。
翔の補佐とそちらの目となり窓口となる役割が轟にはあった。なので多忙を極め、その轟が不在のときには白峰が主に社長業務の補佐をしていた。
S.RICグループは翔を中心とした太いパイプで繋がれた直属、所属の会社と、独立したいくつかの会社と提携し成り立っている。
S.RICグループを総括する役目と、S.RIC社の経営責任者として翔がいる。
千幸が勤めるgezeはもちろん所属会社である。
千幸にも説明したが、起業したのが自分であること、株の保有数も大半を占め赤城という信頼する男が舵をきっているが、翔も経営に関する権限は持っている。
普段なら関わらない人事に社長自らが口を出した上、大事ではあるがこちらが出るまでもない案件に関わり、出向前の直属の社ではない社員を呼び出すのが不思議でならないのだろう。
社長である自分の反応をじっと待つ白峰の態度から好奇心だけではないことは見てとれる。
社長秘書として理由があるなら知っておきたいと思うのは無理ないことだと、翔は口を開いた。
「全く新しいことをするわけではないが、地方やその土地で需要も変わるだろう。今までと同じアプローチではいかない点では新事業といってもいい。新たなプロジェクトとして成功することが必至であり、関わる者を見ておきたいと思った」
もっともな理由を真面目な顔で告げてみたが、そこで白峰はにっこりと笑顔で受け流した。
さすがに轟が推すだけの秘書である。
「社長。騙されませんよ。その理屈なら全員顔を合わせなければなりません。何か個人的な理由があるならばそれはそれでいいんです。会社に不利益な行動でなければ何も文句はありません。社長がそのような行動をするとは思ってもいませんので。だからこそ、たとえ個人的な思惑があったとして、社のことでしたらサポートするのが私たちの役目だと思っていますので」
「……それは個人的なことだろうと言っているも同然だが?」
「違いましたか?」
どこまでも確信を持って告げる秘書が小気味よく、翔は肘をつき手を顎の上に乗せてにやりと笑う。
「いや、違わないな。それで何を言えばいい?」
この際だから、巻き込むのもいいかと翔は含むような笑みを浮かべると、若干顔を引きつらせながらも意思の宿った強い眼差しで秘書が言い切った。
「関わらせる気があるならば、変に隠さず教えていただけると業務もスムーズになるかと思います」
「わかった。彼との話し合いが終わったら話そう。とりあえず、通してくれていい」
なかなか興味深い秘書だと頷き、話は後だと社長室の横にある応接室へと向かった。
数分後。秘書に案内されて入ってきたのは、gezeの遊川智史と営業の宮下だ。
「「失礼します」」
翔は宮下に小さく頷き、ちらりと千幸の元カレである遊川に視線をやると外向けの笑顔を向けた。
遊川は目を見張った後かすかに苦笑すると、頭を下げた。
「座ってくれ」
「「はい」」
翔は二人が座るのを見て、「さっそくだが」と話を始めた。
「今回は都会と地方のニーズの違いを踏まえた上での新プロジェクトだ。概要は社長の赤城からも聞いていると思うが、S.RICグループとしてもそれを成功させることでこの先の仕事の幅が変わると認識している。宮下さんは社の繋がりやシステムを把握し、私とも面識があり以前話す機会があったが」
そこで言葉を区切った翔は相手の反応を確認し、ゆったりと話を続ける。
「遊川さんにも、面識を持ち理解することが増え先々のことを多角的に考える、また意見を聞くいい機会になると判断して来てもらった」
「……それは期待していると受け取ってもいいということでしょうか?」
「もちろんだ。とくに遊川さんには急な話であったと思うが、二人には期待している。この後、宮下さんは別で話しがあるので退席するが、その間遊川さんにはここに残ってもらおうと思っているがいいかな?」
「はい。私もいろいろこの機会に聞けることは聞いておきたいのでありがたいです」
それを聞いた宮下は、何も知らずにこれから同じ戦場に行く同僚の意欲に納得してうんうんと頷いた。
「では、私は先に失礼します。遊川、また後で」
席を立つ宮下に合わせ、遊川も仲は良いが先輩にあたるため一度席を立ち「はい」と返事をすると、宮下は軽やかに部屋を出ていった。
再度、遊川が座り直したのを見とめ、翔は表情を改めた。
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