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5甘重ネジ
朝ワンコ②
しおりを挟むそれよりも、目下の心配は小野寺の状態である。
毎夜の逢瀬は甘ったるいことばかりではない。普通の会話だってする。ただ、小野寺が離したがらないので拘束時間はものすごく長い。
四年分を埋めようとスキンシップと会話と時間を小野寺は大事にしているのは伝わってくる。
だから、会えば長くなる。
日によっては、かなり遅い時間から会うこともある。
そうすると必然的に寝る時間が減っていく。それが連日続いているのだから、寝不足状態というわけだ。
その状態を知っているからうっすらと目の下に隈があるようにも見え、それさえもまた男前度をアップさせる顔立ちに千幸ははぁっと息を吐いた。
──本当、造形はいいんだよねぇ。
しみじみと恋人の顔を眺め、また息を吐く。
もともと立場も仕事量も違う。千幸も小野寺の都合に合わせてはいるが、どちらが時間的に無理をしているかと言えばやはり恋人のほうだ。
やっぱり素直に言うべきか。
その後の反応を考えるとまた心配ではあるが、伝えないと考えてもらえないなら伝えるべきだろう。
「忙しいのに会うと寝不足になるので、今夜は本当に寝てほしいんですけど」
「なら、添い寝してくれる?」
すぐさま嬉々として返ってくる言葉。
反射的に身体を引こうとしたが、優しく絡め取られている腕からは逃れられずさらに距離を詰められた。
この距離何? と思うほどの近さで、んっ、と軽く首を傾げられ、千幸は負けてられるかと口を開く。
「……っ、それで寝れるなら」
すると、目を見開いた小野寺は手を伸ばしするりと千幸の頬を撫で、次いで親指で唇を撫でてくる。
どきっとして目に力を入ると、さらに榛色の瞳を覗くように見つめ合うことになった。
「…………ああ、無理。確実に襲う」
手を出す宣言され、するすると親指で唇の下辺りを撫でられる。
思わせぶりな仕草に、開けた口から出る吐息が熱くなるのを感じた。
「……なら、今日は中止というのは?」
「それも無理。会えるのに会えないとか精神的に苦痛だ」
「だから、会うのが嫌だと言っているわけではなくて、翔さんの帰宅後にほんのちょっと会って、今日は終わりにするのもありだと。ちょうど明日は休日で一日一緒にいるわけですし」
「俺の今日の糧がなくなる」
めげない隣人が認められないと言い募ってくるが、千幸も話し出したらそうすべきだと感じて譲れなくなった。
しかも、毎度毎度無駄に放出されるフェロモンに打ち勝つためには、ここで流されてはいけない。
この人は大型犬。
朝は大型犬なんだと自分に暗示をかけるように言い聞かせ、相手の熱もくすぶりかける自分の熱も気づかぬように明るく告げる。
「では、明日の楽しみを今日の糧としてください。明日は一日ですよ? だから今夜は寝てください。絶対そのほうが明日も楽しめます」
「……明日は明日。今日は今日だ」
「そうだけど、我慢するともっと楽しい気がしません?」
「しない。我慢なら十分した」
えっへんとばかりに告げる小野寺に、千幸は疲れた声を隠せない。
「感情をコントロールできない子供ですか」
「千幸に対してだけだ」
「でも、私は心配してるんですけど」
「わかってる。舞い上がるほど嬉しいが、現在急速に千幸不足発令中だ。そんな中、会えるのに会えなくなるともっと求めてしまいそうだ」
──なんてことを素直に語ってくるのか。
小野寺は複雑そうに眉根を寄せて屁理屈をこねる。
だけど、千幸も負けじと呆れた眼差しを向けて、口元だけにっこりと笑みをかたどり黙り込んだ。
無言の抗議に小野寺は徐々に落ち込みだした。ちらちらと千幸を見て様子を窺ってくる。
その落ち込む様子を眺めながら、千幸は小さく諦めの溜め息をつく。この溜め息は小野寺に対しても含まれるが、結局負けてしまう自分に対してだ。
「しっかり寝たら、明日はもう一歩進むというのはどうですか?」
「それはご褒美?」
「そう思ってくれてもいいです。流されてるわけではなくて、翔さんの思いと誠実さに私が応えたいと思っての一歩というか。具体的にどうとかはないけど、そうしたいと思ったというか」
窺うように覗き込んでくる相手にそう告げると、パッと花が舞い散っているのではと思うほど小野寺は嬉しそうに笑い、今度はにっと口の端を引き上げた。
「そんな可愛いことを言われて、俺が今夜我慢できると思う?」
──落差っ!!
たった数分の間で、ジェットコースターのような落ち込みと喜び具合を目の前で見せられる。
甘えられているようなそれらに、千幸は胸が熱くなるようだった。
間違っても可愛いとは思いたくない。
そう思ったすぐ後悔しそうだし、何より今は朝バージョン。夜は圧倒的な色気に押し負けることが多いので、朝はきっちりと意思表示をしないと後が大変だ。
「はい。翔さんならできます」
「ずるいな」
「ずるくないです。長い付き合いになると思っているのは私だけですか?」
千幸はわざとらしく溜め息をついた。
「なぜ、そうなる?」
「だって、これからたくさんの時間を過ごすのに、体調崩すようなことをして付き合うのはおかしいです」
「ずっと付き合ってくれるの?」
「付き合うからにはそうあればと思うのは普通だと思いますが?」
「ああ~、千幸が愛おしい」
どんな時でもアピールしてくる相手をちらりと眺め、わざとゆっくりと繰り返す。
「翔さんは私と長く付き合いたくないのですか?」
「当たり前のことを聞くな」
「なら、その当たり前のための行動してください」
「くっ」
くっ、のあとくぅぅぅとものすごく葛藤する相手に、千幸は背に腕を回した。
とんとんと叩くように手を動かしながら、言い聞かせるように見つめる。
「くっ、じゃなくて」
すると、「本当、やばい。可愛い。押し倒したい。俺の彼女が可愛すぎる」とブツブツ言っていたが、小野寺が口をへの字にして言い放つ。
「わかった。覚えてろよ、千幸」
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